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『女神転職 』
スノーフィア・スターフィルド8909
“私”は知っていて当然なわけだが。
 スノーフィア・スターフィルドは、男性向け恋愛シミュレーションSRPG『英雄幻想戦記』の隠しヒロインである。
 とはいえ第一作めから最終作に至るまで、他のキャラのように交換されることもなくずっと「隠れ」続けてきただけに、知名度は歴代の正ヒロインより高いだろう。事実、いかに早く彼女を見つけるかを競い合うプレイヤーも少なくなかった。
 そのあたりは発売元も煽っているところがあって、各タイトルで大きく世界観を変えつつ、人によっては引くくらい無理矢理な設定でスノーフィアを突っ込んできたものだ。
 まあ、おかげで“彼”はゲームを続けることができたし、ずっと彼女と共に過ごし続けることができたわけで。
 ……それはとてもありがたいことでしたけどね。剣と魔法のファンタジーものとしてリリースされたはずなのに、ナンバリングを重ねるごとに、学園異能バトルへ行ったりSFに飛んだり、ファンタジーはファンタジーでも世界観が全部変わってしまったり。なかなかシュールなシリーズでした。
 今や“彼”ならぬスノーフィアとなった“彼女”は息をつき、ベッドの上から自室を見渡した。
 クイーン・アン様式なる、白い壁に鎧われた貴婦人仕様の部屋。普通のアパートに住んでいたはずが、今や小洒落たマンションの住人に成り果ててしまった。いや、不満があるわけではないのだ。スノーフィアが暮らすには、元の部屋はあまりにおっさん臭すぎる。
「でもこの部屋って、ファンタジー路線に戻った最新作の仕様なんですよね……」
 最終作と言わないのは、いつか制作会社の気が変わって新作が作られるかも、というファン心からの配慮なのだが、さておき。
 スノーフィアの部屋は各タイトルの舞台設定でその都度大きく姿を変えている。ファンタジーなら中世っぽく、学園ものなら現代風に、SFならメーター満載の……まあ、非ビッグタイトルにありがちな、「それっぽい」形にだ。
 その中でスノーフィアは、“言霊”の力により多種多様な職業への転職が可能だった。
 ファンタジーなら普通の剣士や魔法使いばかりでなく、白竜の化身やら闇堕ちヤンデレ死術使いやら、正ヒロイン――脇キャラフリークの強い要望で職業化された職業。もっともこの職業になったとしても肩書き以上の効果はない。完全にプレイヤーの自己満足である――なんてものもあった。
 ともあれそういうことで、スノーフィアは思ってみたのだ。
 今の私が“女神”でこの部屋にいる理由は、最新作の最終セーブデータのせいなのではないでしょうか?
 微量ではあったが、“言霊”の絶対的な力の片鱗は思い知っている。だから。
 この、万象に働きかける“言霊”をもってすれば、呼び出せるのではないだろうか? 『英雄幻想戦記』旧作のセーブデータ――それぞれの作品におけるスノーフィアの姿と職業を。
 ようするに転職しようというわけだ。女神ならぬスノーフィアへ――過ぎる力を持たない、普通寄りの存在へ。
 スノーフィアはかすれた記憶を慎重に発掘し、いくつものスノーフィアを思い出す。
 世界の変革者は強すぎるからだめですね。白き竜もサイズ的に問題がありますので、これもだめ。学園陰陽師なら……って、だめですね。彼女の使役する複数の妖怪が常に彼女の首を狙っている設定、物騒過ぎますし!
 あれもだめ、これもだめ、それもだめ。
 女神に関連しない職業には、どれも一定数困った要素が混入していて、とても転職したいものではなかった。ゲームキャラとはゲームの必然の内に在ってこそのものなのだ。
「んー。これがいちばん、能力と設定だけで言えば害はなさそう、なんですけど」
 それは性別を超えるよりも遙かに心理的ハードルの高い職業というか、有り様というもので、できうることなら試してもみたくない転職ではあったのだが。
“言霊”のスペックをもう一段階深く知る機会ではありますし、私がいる場所の法則を探る手段もほかに思いつきませんし、なにより“女神”は畏れ多すぎますし。
 スノーフィアは消極的に覚悟を決めて、唱える。
「英雄幻想戦記4、セーブデータを呼び出します」
“言霊”が世界に刻まれたアカシックレコードに届き、検索を開始、終了した。呼び出されたささやかなデータが開示され、スノーフィアはためらいつつもそれを実行する。
「……転職終了、ですね」
 チィ。関節部のアクチュエーターが高い駆動音を漏らし、スノーフィアのマルチブルアームを曲げさせた。
 今の彼女はガイノイド――女性型アンドロイドだ。SFものであった“4”の職業に含まれたそれを選んだ理由は、このキャラがお気に入りだったというだけではない。強化を外づけ装備に依存するがゆえに素体では一般人並の能力しか持たない設定だからだ。ちなみに、転職で生身に戻る謎仕様である。
「なるほど」
 機体のボディラインへぴたりと貼りつく金属繊維スーツの体をくるりと巡らせれば、姿同様に一変した室内の様子がカメラアイへ飛び込んできた。
 古いSFアニメさながら、大小の謎メーターが四方に並び、謎機動音をあげる。
 前面がクリアガラスになっているのは、ここがスノーフィアの私室であると同時に宇宙を行く“星船”の艦橋でもあるためで、しかしながら星の海ならぬのどかな東京が見えているせいでなんとも締まらない感じではあった。
「外気温23度、湿度47パーセント、紫外線量・安全域、杉花粉濃度・安全域……」
 ガイド用端末である彼女に星船が伝えてくるのは、なんでもない春のお昼時のデータである。
「そろそろお昼ご飯の時間ですね」
 鳴るはずのないお腹をさすり、彼女は冷蔵庫改め保管庫の中からガイノイド用合成蛋白燃料のパックを取り出した。人である主人公とのコミュニケーション推進のため、食事を摸した補給を行う決まりになっているのだ。
「意外とおいしいです。それに必要な栄養素が必要分入ってくる感じで、合理的というか機能的というか――」
 と。
 艦橋に耳障りな警告音が鳴り響き、スノーフィアへ直接接続を要求してきた。
「いったいなにが!?」
 先ほどまで猫足テーブルだった接続端末へ、腕の端子を繋いだ彼女はカメラアイを見開いた。
「敵宇宙戦艦接近中!? え、だってこの世界に宇宙戦艦なんて」
 いや、おかしいことはない。この世界に在るはずのないガイノイドがここにいるのだ。“4”の世界観が投影されたことで、そこに含まれた設定までもが上書きされたのだとすれば……
 と、考えるのは後だ。レーダーに映った敵機械生命の駆る戦艦をマーキングし、スノーフィアは星船に命じた。
「武装を起動してください! フレアキャノン、充填開始!」
 まわり中のメーターが激しく点滅し、端末に埋め込まれたゲージが徐々にMAXへと迫り上がっていく。ゲームの通りなら、MAXに到達した瞬間!
「発射!」
 タイミング過たず、反応炉の内に押し詰められ、圧縮された“力”に路を開く。出口を得た“力”は音も色もない奔流と化し、空を突き破って宇宙へ至り。
 敵戦艦を蒸発させた。
「さすが課金兵器。戦艦を一撃ですか」
 一瞬脱力しかけたスノーフィアは、あわてて“言霊”を繰る。
 世界観の上書きがあるとすれば、不用意な転職は凶だ。それぞれの世界に設定されたものがこの世界を侵してしまう。
 どうやら覚悟を決めて“女神”を務めるよりないようですね……。
 かくてスノーフィアは重いため息をつき、“女神”へと戻ったのだった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【スノーフィア・スターフィルド(8909) / 女性 / 24歳 / 無職。】
東京怪談ノベル(シングル) -
電気石八生 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年05月28日

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