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『野郎共のこどもの日 』
夜城 黒塚aa4625)&ガルー・A・Aaa0076hero001

 五月五日。そう、こどもの日。
 こどもの日がどういう日なのかは今更説明する必要もなかろう。
 住宅街にはちらほらとこいのぼり。町の店でもそれにあやかった菓子が並ぶ。

 そんな、何気ない日常の片隅――ガルー・A・A(aa0076hero001)はとある扉のインターホンを鳴らした。響くのはありきたりなチャイム音だ。間もなくして、部屋の主はカメラでガルーの姿を確認したのか、扉が薄らとだけ開く。
「……約束通り一人だろうな」
 声の主は夜城 黒塚(aa4625)だ。警戒した様子で、周囲を見渡す。
「例のブツは持って来たかよ? ……尾けられていねぇだろうな?」
「もちろん」
 全ての問いにガルーはその一言で答えてみせる。
「今日は特に良いのが入ってな。苦労はしたが連中はしっかり撒いてきた。ヘマはしねぇよ」
 そう言うガルーが片手に持っていたのは厳重なジュラルミンケースだ。それをちょいともたげて黒塚に見せれば、男は眉根を寄せたままふんと鼻を鳴らした。
「入れ」
 扉が開かれ、ガルーは招き入れられる。部屋の中は、昼間であるがカーテンは閉め切られていた。
「それで――」
 ソファーにどかっと腰を下ろしつつ、黒塚は品定めの目をガルーに向ける。「ああ」とガルーはニタリと口角を吊った。テーブルの上に件のジュラルミンケースを置き、開き、黒塚に中身を見せる。
「ほう……」
 黒塚は目を細めつつ、おもむろに一つの袋を手に取った。開けば、中に入っていたのは真っ白な粉だ。
「良い肌理だ……こいつは上質だな。国産、か?」
「当然。シンプルな奴ほど素材が大事だからな」
 手に入れるのに苦労したんだぜ、とガルーは向かいのソファーにて足を組む。
「流石だな。イイ仕事するじゃねえか」
 黒塚は薄く口角を持ち上げた。
「それで?」
 そんな彼にガルーが言葉を投げかける。
「――始めるんだろう?」
「ああ、ガルー。……必要なブツは揃えてある。こっちだ」
「了解」

 二人の男が向かった先は……キッチンである。
 神経質なまでに掃除が行き届き、モデルハウスもかくやな清潔さだ。
 そして男達は銘々に、今から行うことに相応しい装備をしていた。

 ガルーは、クマさんアップリケが付いたエプロンに、花柄の三角巾。おそらく女児向けと思われるファンシーなヘアピンで前髪を留めている。
 黒塚は、第二英雄のものを勝手に借用したフリフリにラブリーなフリルエプロンに、縁にレースをあしらった三角巾。トレードマークであるサングラスも、今は外している。

 そんな男達の視線の先には、黒塚があらかじめ揃えておいた調理器具。それから、ガルーが持ってきた例のブツ――すなわち、先程黒塚が確かめていた白い粉(国産の薄力粉)を始め、産みたてを譲って貰った卵、牧場直送生クリーム、こだわりの砂糖。

 さて……。
 ここまで言えばもう言うまでもないが。
 二人は、ヤバいブツの裏取引やらそういうアレでは一切なく、今から健全にお菓子作りを行うのである。マジで。こどもの日の為のサプライズパーティーとして、ロールケーキを作るのである。マジで。

「んじゃやるか。しっかりついてこいよ」
 袖をまくって、切り出したのはガルーだ。「これがレシピだ」とメモを卓上に置く。作るものは、こどもの日らしく、こいのぼりに見立てたロールケーキだ。大きいものを一つ、お互いの小さな相棒達をイメージした小さめのものを一つずつ、という予定である。
「先ずは分量を量るところからか……」
 お菓子作りにおいては、黒塚よりガルーの方が圧倒的にスキルが上だ。ガルーが用意してきてくれたレシピを参考に、黒塚は丁寧に丁寧に、それこそミリ単位の目盛り誤差も見逃さずに、秤でキッチリ分量を量った。
「黒塚ちゃん、薄力粉ふるっておいてくれ。こっちはメレンゲ作るから」
「分かった」
 ハンドミキサーの音が響き始める。砂糖を加えつつ、泡立てられていく卵白はみるみる白くなり、クリームのように変わっていく。角が立つまで泡立てるのがコツだ。
 一方で、薄力粉をふるいおえた黒塚は、別のボールにて卵黄と砂糖とをハンドミキサーで混ぜ始める。もったりするまで、というメモをしかと脳に刻み、忘れないよう脳内で繰り返す。
 そして黒塚が混ぜたものに、メレンゲが数回に分けられて加えられ、混ぜ合わされた。やさしい薄黄色のクリーム状の生地。この時点でも美味しそうだが、味見は駄目だ。それに薄力粉をふるいつつ、ゴムベラで優しく丁寧に混ぜ合わせていく。泡を潰さないことが柔らか生地のコツだ。

 ちなみにここまで無言である。
 そしてここからも無言である。

 強面の男二人が、眉間に力を入れて、鬼気迫る真剣さと研ぎ澄まされた集中力を以て、ロールケーキを作っていく。余念はない。手は抜かない。爆弾解体してるんかくらいの慎重さ繊細さと丁寧さである。
 現場(台所)はシンと静まり返っていた。無骨な男の手によって優しく優しく混ぜられていく生地の音だけが微かに響く。

(こいつ……なかなかできるじゃねぇか)
 ガルーは密かにニヤリとした。横目に見やる黒塚は真剣そのもので、瞬きをまれに良く忘れては、時折思い出したように目をぎゅっと瞑っている。目が乾いてチリチリするのだ。あるよね。ゲームに集中してる時とかに。
 これだけ真剣ならば、自分も相応の想いを以て事に当たらねば失礼であろう。ガルーも表情を引き締めた。たぶんそのへんの戦闘任務でもこんなマジ顔しない。集中している顔が怖いのはご愛嬌だ。

 らぶりー(はぁと)なエプロン姿を除けば、怖い顔の男が言葉を発することなく台所に向かっているのは、なんか証拠隠滅用にアレとかコレとかをバラバラにしてるんじゃないの……感が否めないが、ロールケーキ作りである。繰り返すが、ロールケーキ作りである。

 さて、男達は驚異の集中力を以て、天板に流し込んだ生地をオーブンへ入れた。
 だがこれで終わりではない。そう、ロールケーキのもう一人の主役、クリーム作りが待っている。甘さ控えめに作り、量を食べてもしつこくないアッサリ感がガルー流だ。ハンドミキサーで生クリームを泡立てて……小分けにしたのを二つ分、それぞれが受け持つ。
 ガルーは、クリームにブルーベリージャムを混ぜ込んで美しい紫色に。
 黒塚は、抹茶粉末を混ぜて淡い抹茶色に。

 そうこうしている間に、焼き上がった生地も良い感じに冷めた。
 さあ、完成まであと一息。

「巻くのが結構、難しいからな。繊細かつテンポ良く」
 まずはお手本。ガルーが、紫色のクリームを小さい生地に塗り、イチゴやブルーベリーを添えてから、ささっと手際よく巻き上げて見せた。
「ふむ……」
 黒塚にとって、一度見れば再現は難しいことではない。大きいロールケーキ生地を、ガルーの手本通りに巻いていく。
「うまいじゃないの」
「まあ、一度見たからな」
 しれっと答えつつ、英雄用の小さな生地も丁寧に巻いた。巻きが終われば、平たかった生地は見慣れたロールケーキの形になる。

 最後はデコレーションタイムだ。主に、それぞれの小さな相棒用の。
 ここからはレシピというよりはセンスの問題である。男達はかつてない慎重さを指先にのせた。再び無言タイムが続く……。

 ――そして。
 可愛くできました☆

 ガルーの相棒用ロールケーキは、紫のブルーベリークリームを表面にも塗り、銀色のアラザンを星屑のように散らして、オシャレにカットイチゴやブルーベリーを添え、飾りのミントで色を添えて美しく。
 黒塚の相棒用のロールケーキは、カットバナナを鱗に見立てて飾りたて、ホイップクリームをレースのように可愛らしく飾り、チョコレートチップをちりばめた。

「……」
「……」

 完成しても無言タイム続行。今はスマホによる撮影時間である。静かすぎる台所に、ぴろり〜ん☆という愛らしいシャッター音が何回も響く。ぶっちゃけビジュアルが不穏の極みである。本人達は真剣である。

「さて……と」
 洗い物など後片付けも終えて。黒塚はエプロンを外しつつ、ガルーを見やった。
「協力、ありがとな」
 ぶっきらぼうな物言いなれど、そこには生真面目なほどの敬意があった。二人は互いにスイーツ好き、シンパシーと親近感がそこにある。
「いいってことさ、楽しかったし。また何か作ろうや」
 ガルーは洗った手をタオルで拭きつつ、ニカッと笑った。「……だな」と、黒塚もかすかな笑みを彼に返した。ありがたいことに、この日本、イベント事には事欠かない。
「六月はアジサイゼリーとかいいかもな。ネットでたまたま見てな、綺麗なもんだと」
「ほう……?」
「ミルクプリンの上にな、かき氷シロップで青く色づけしたダイスカットのゼリーを……」
「ほう……」
 あごを擦りつつのガルーの言葉に、簡易な言葉であるが黒塚は熱心に聞き入っている。こういったスイーツ談義も彼等にとっては楽しいのだ。和菓子を作るのもイイネ……なんて話もしつつ、気が付けばスマホのレシピサイトを二人で覗き込んであれやこれや話に花も咲く。

「っと、話し込んじまった」
 そんな談義もそこそこに、ガルーが顔を上げて時計を見る。
「ああ……そろそろ、準備も進めねえと」
 黒塚も頷いた。お菓子を作るだけで終わりじゃない。そう、サプライズパーティーがこれから始まるのだ。“チビども”が喜ぶように、カラフルな折り紙やらなんやらでこどもの日らしくささやかに飾り付けをしたり、なんやかんやが待っている。定番はこいのぼり、それから兜も。相棒達の笑顔を想えば、細かい作業も楽しいもので。

 ――さあ、飾りつけも終われば、ちびっこ達を呼んでパーティーの始まりだ!
 よいこのみんな、あつまれ〜!



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ガルー・A・A(aa0076hero001)/男/32歳/バトルメディック
夜城 黒塚(aa4625)/男/26歳/攻撃適性
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2018年05月28日

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