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『【任説】飛岡豪の場合 』
飛岡 豪aa4056

「ボキュと契約して魔法少女になってほしいっぴ!!」

 などと言いながら突然謎の小動物っぽい未確認生命体が現れたときの対処法を述べよ。

「…………」

 飛岡豪は混乱していた。
 仕事からの帰り道、突如目の前になんか小鳥みたいな姿をした流暢に喋る未確認生命体が現れたのだ。常識ある大人である豪は「俺そんなに疲れてたのか……今日はちょっと贅沢に差し入れで貰った高級梅ジュース飲んで寝よう」などと考えながら目頭を押さえ、頭を左右に軽く振ってつまみを買いにスーパーマーケットに行くべくきびすを返したのだが。

「ピギュィー?! 無言できびすを返さないでほしいっぴ!!」

 必死な形相のコトリモドキに回り込まれてしまった。

「………………現実か?」
「現実っぴよ?!」

 古典漫画の表現で宙空に汗を飛ばす流暢に喋る小鳥。非現実が過ぎる。
 自分の疲れが天元突破している説を未だ諦めていない豪は、「現実であれば触感があるだろう」と、わめく小鳥に手を伸ばしてみた。

 むんずり。

「ピョッ?!」

 突然片手で捕まれてテンパる小鳥のようなもの。
 片手の中に突然もふもふの感触が生じて思考停止する豪。
 そんな一人と一匹の横を無関心で通り過ぎていく車。

「…………ふわふわだ」
「毛並みには気をつかってるっぴ」

 なぜか胸を張る小鳥に、豪はとりあえず現在己の身に起こった非現実な事象が現実であることを認めるのであった。



「そもそも、俺は男だ。魔法少女にはなれない」

 流暢に喋る小鳥を現実に存在していると認識した豪は、道ばたで話すのも何だから、と己の自宅兼事務所に帰っていた。もちろん、小鳥も連れている。
 現在、小鳥は豪のおやつに取り置いていたカステラを食べてご機嫌である。翼で器用にカステラを持ち上げる様はかわいいと言えなくもない。

「それは心配ないっぴ。最近は男の子が魔法少女する例もいっぱいあるし、豪の『魔法少女指数』は他に類を見ないくらい高いっぴ」
「なんだその頭悪そうな指数は」

 もっくもっくと口いっぱいにカステラを頬張っている小鳥。あまつさえ「お茶はないっぴ?」などと図々しく聞いてくる始末。昨今のマスコットキャラはここまで図々しかっただろうか。

 魔法少女指数、という聞くだに適当に名前付けました的な名称を聞き、本格的に頭痛がしてくる豪。こめかみを軽くもみほぐして、幻痛を和らげる努力をしてみる。

「魔法少女指数とは、言葉通り『対象人物がどれだけ魔法少女に適しているか』を数値化したものっぴ。平均的な十代前半の少女の数値を10とすると、豪の数値は34っぴね」

 豪から紅茶をせしめた小鳥は、カステラでもそもそしている口の中を潤しながら答えた。

 ふざけている。
 豪のこめかみに青筋が浮かんだ。

「…………なぜ30目前の男の数値がそんなに高いんだ」
「んんー、魔法少女指数は『女子力』と『正義感』と『絶望値』を掛け合わせて出してるっぴ。豪はそのどれもが高いっぴよ」
「……魔法少女らしからぬ判定基準が含まれている気がするんだが?」
「昨今の魔法少女は絶望を背負ってないと務まらないんぴ」

 スン、と凪いだ目をする小鳥に、業界の闇を垣間見る豪。
 だからといって己に対する評価を許せるわけではない。

「……百歩譲って正義感と絶望値はわかるが、女子力とはなんだ? 俺はそんなもの皆無だぞ」
「でも豪、甘いもの好きっぴね?」
「……」

 甘いものが好き=女子力が高い、という方程式が成り立ってしまえば世の生物の殆どが女子力が高い。菌類も女子力が高いことになってしまう。脊椎動物か、せめて多細胞生物になってから参戦してほしい。
 むっつりと黙り込んだ豪にかまわず小鳥が続けて曰く。

「家事も得意だし、料理の腕も上々、この事務所もちょっとした小物とか飾ってて居心地がいい。小さいものや子供も好きで、愛を信じるロマンチスト。ね? 女子力高いっぴ」
「……」

 多方面に全力で喧嘩を売っている言い分である。が、所詮小鳥なので豪は何も言わずに両手を組んだ。気を抜くと小鳥を鷲掴んで窓からぶん投げてしまいそうだったので。

「んもう、強情っぴねぇ」

 カステラを食べ尽くして、事務所のテーブルに常備していたお茶請けの個包装チョコレートに手を出している小鳥。あきれ顔で「やれやれ」的な動作をしているが、それをしたいのは豪のほうである。

「魔法少女になれば、素敵パゥワーで正義の味方になって悪の手先をちぎっては投げちぎっては投げできるっぴ」

 ふぅ、とため息を吐き出した小鳥。
 豪は「正義の味方」というワードに反応を見せている。

「…………悪の手先、とはなんだ」
「んん?? 気になるっぴ? 気になるっぴ??」

 小鳥がウザい。
 豪が興味を持ったとわかった瞬間、ゲスい笑顔でにじり寄ってきた。とても胡散臭い。

「しかたないなぁ、ほんとは契約してからじゃないと教えらんないっぴけど、トクベツに教えてあげるっぴ」

 感謝するっぴよ、とどや顔をかます小鳥を軽くキュッと絞めたくなる衝動と戦っている豪。小動物は好きだがこいつは別だ。なに殺しはしない、かるーく教育的指導を施すだけだ。合法合法。

「悪の手先、名を『ワルーイヤーツ』」

 若干イラッとしている豪に気付かず――いや気付いていて無視しているのかも知れない――語り始める小鳥。
 もうこの時点で胡散臭さしかない。ちょっと興味を持っていた豪の瞳から一瞬でハイライトが消えた。

「奴らはこことは違う別世界から、豊富なマナを狙って侵攻してきてるっぴ。この世界の人が別世界の存在に干渉するためには特殊な道具が必要で、ボキュは道具を扱える人を探す選定者なんだっぴ」

 むっふ、と胸を張る小鳥。
 話を聞いていた豪はため息しか出ない。

「……その話が本当だとして、なぜ魔法少女なんだ」
「特殊道具に適応できる一般的な人間が十代前半の少女っぴ。悪と戦う少女といえば魔法少女だからっぴ」
「……」

 想像以上にくだらない理由だった。
 だが、まぁ、いいだろう。

「で? 契約方法は?」
「えっ」

 豪がそう言えば、小鳥はなぜかぽかんとした顔で固まった。

「どうした? 俺と契約してほしいんだろう?」
「そ、そうっぴけど……」

 もじもじと下を向く小鳥のふわふわ頭を、苦笑しつつ指先で撫でてやる。

「悪が居て、それと戦う能力があって、先に戦っているのは幼気な少女たち。なら、自他共に認めるお人好しである俺に断る道理はないな」
「で、でも嘘かも――」
「お前は俺を選んだ。俺はお前を信じた。それが全てだ」

 ぽてんと座り込んだ小鳥を両手ですくい上げるようにして持ち上げ、視線を合わせる豪。

「で? 契約方法は?」
「……!!」

 つぶらな瞳をきらめかせて話し始めた小鳥に、豪は「仕方ないな」と笑うのだった。



 この後、レースたっぷりの服を着てファンシーな素敵ステッキをぶん回す羽目になることを、豪はまだ知らない。

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【aa4056/飛岡 豪/男/28歳/命中適正】
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2018年05月29日

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