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『【任説】アリア・ジェラーティの場合 』
アリア・ジェラーティ8537

 ぱりん しゃりん するりん
 ぱりん しゃりん するりん

 アリアちゃんは雪ん子ちゃん。
 今日も元気に緑のでてきた雪の丘をスキップします。

 ぱりん しゃりん するりん

 アリアちゃんがスキップすると、キラキラひかる氷の結晶が道になるのです。

 ぱりん しゃりん するりん

「おやおや、アリアちゃん。そんなにはしゃいでどこへ行くんだい」

 アリアちゃんがスキップしていると、緑の草が生えてきた土の下から、パジャマ姿のかえるさんが顔をみせました。

「こんにちはかえるさん」

 アリアちゃんはいい子です。かえるさんにご挨拶するために立ち止まって、ぺこりと頭を下げました。
 かえるさんもニコニコ笑顔で頭を下げてくれました。
 それがうれしくて、アリアちゃんもにこにこ笑顔になりました。
 アリアちゃんのまわりもキラキラひかっています。アリアちゃんがうれしくなると、小さな小さな氷のつぶができるのです。

「冬の母さまがおやすみになるから、春の姉さまをお迎えにいくんです」
「おお! なるほど、それで元気に飛び跳ねていたんだね」
「はい!」

 うんうん、とうなずくかえるさん。
 アリアちゃんもぺかぺかの笑顔でうなずきます。

 なんてったって、アリアちゃんは冬の母さまも春の姉さまも大好きなのです。
 アリアちゃんは、もうすこししたら、冬の母さまといっしょに眠るのです。その前に、大好きな春の姉さまにご挨拶をしなければいけません。

「なので急いでいるのです」
「それはそれは、おじゃまいたしました。どうぞ先を急ぎなさい」
「かえるさんも、いっしょに行きますか?」
「いやいや、ワタシはもうひとねむり……」

 そう言って、かえるさんはむにゃむにゃすやぁと夢の中。

「おやすみなさい」

 アリアちゃんはかえるさんが寒くないように、緑のはっぱをおふとんにしてあげました。

 ぱりん しゃりん するりん
 ぱりん しゃりん するりん

 アリアちゃんは緑の丘をスキップします。
 この丘をこえれば、春のお姉さんのおうちはすぐそこです。

 ぱりん しゃりん するりん
 ぱりん しゃりん するりん

「あらあら、まあまあ、アリアちゃん! そんなに急いでどこへいくの?」

 ぱっかりとお顔を見せたフキノトウさんが、アリアちゃんに手を振ります。

「冬の母さまがおやすみになるから、春の姉さまをお迎えにいくんです」
「あらあら、まあまあ! それはすてきね!」

 アリアちゃんが答えると、フキノトウさんはぱっと笑顔になって両手のはっぱで口を覆いました。

「それなら、このさきにある花畑で、花束を作っていくといいわ。春の母さまは、お花が大好きだもの」

 たのしそうに身体を揺らすフキノトウさんに、アリアちゃんは困り顔。

「でも、お花さんがイタいイタいになりませんか?」
「あらあら、まあまあ。大丈夫よアリアちゃん、お花の姉妹も春の母さまに会いたがっているから」
「そうなのですか?」
「ええ、もちろん!」

 胸を張るフキノトウさんに、アリアちゃんは安心してうなずきました。

「それなら、花を摘んでいきます。教えてくれてありがとうございました」
「いえいえ、ぜんぜん! 春の母さまによろしくね」

 パチンとウィンクするフキノトウさんに手を振って、アリアちゃんはぽってぽってと丘を登っていきました。

「わぁ……!」

 丘の上には、春の姉さまをお迎えするため、お花の姉妹が勢揃い。

「「「「「あれあれ、アリアちゃん。どうしたの?」」」」」

 菜の花姉妹がさわさわとアリアちゃんを手招きします。

「冬の母さまがおやすみになるから、春の姉さまをお迎えにいくんです」
「「「「「それはすてきね!」」」」」

 菜の花姉妹の合唱に、アリアはにこにこ笑顔で頷きました。

「それで、フキノトウさんが春の姉さまに花束を持っていけばいいって言ってくれたんです」
「「「「「それはとってもいい考え!」」」」」

 菜の花姉妹が身を寄せ合ってきゃあきゃあうれしそうにささやきます。

「どうする?」
「どうする?」
「春の母さまに早く会いたいわ」
「そうね」
「そうね」

 くすくす、さわさわ、相談こしていた菜の花姉妹。
 お話し合いが終わったら、アリアちゃんを手招きしました。

「菜の花さんたち、どうしたんですか?」
「「「「「あのねあのね、アリアちゃん。わたしたちを春の母さまのところへ連れてって!」」」」」

 てこてことアリアちゃんが近付くと、菜の花姉妹は一斉にアリアちゃんに向かって手を伸ばします。
 満開の菜の花姉妹に抱きつかれて、アリアちゃんはくすぐったそう。

「もちろんです!」

 そうして、アリアちゃんは菜の花姉妹を両手に抱えて春の姉さまのおうちへ向かいます。

 ぱりん しゃりん するりん
 ぱりん しゃりん するりん

 緑の丘をこえて、雪解け水の小川を渡れば、春の姉さまのおうちです。

 春の姉さまのおうちは、白い壁に赤いお屋根のかわいいおうち。
 おうちの周りには春の花々がきもちよさそうに揺れています。

 アリアちゃんは菜の花姉妹を腕に抱え直して、木でできたドアを「とん、とん、とん」と3回叩きました。

「春の姉さま、春の姉さま! お迎えにきました!」
「はぁい。どちらさまかしら」

 アリアちゃんがおりこうさんで待っていると、 春色のドレスを身にまとった「春の女神」がドアを開けてくれました。

「まぁまぁまぁ、アリアちゃん! いらっしゃい、よくきたわね。もうそんな季節になったのね」

 花色の髪をふわふわと揺らしながら、春の姉さまがアリアちゃんの頭を撫でてくれます。
 うれしくってくすぐったくて、アリアちゃんはくすくすと笑います。

「あのね、春の姉さまに、花束を持ってきたの」
「「「「「春の母さま、ごきげんうるわしゅう!」」」」」
「まぁまぁまぁ! 菜の花姉妹、よくきてくれたわね。アリアちゃんもありがとう!」

 菜の花の花束を渡された春の姉さまは、とってもうれしそうにアリアちゃんと菜の花姉妹を抱きしめました。
 春の姉さまのふわふわな髪の毛がくすぐったくて、アリアちゃんはきゃらきゃら笑います。

「さあ、かわいいアリアちゃんがお迎えに来てくれたんだもの。さっそく冬の姉さまのところへ行きましょうか」

 そう言って、春の姉さまはアリアちゃんを抱きあげました。
 菜の花姉妹とはここでお別れ。春の姉さまのおうちのお庭に座って、にこにこと手を振ってくれました。

「そーぉれ!」

 春の姉さまは、春風に乗って冬の母さまのところへとひとっ飛びなのです。
 お花畑を通り過ぎ、雪の残る丘をこえ、かえるさんの頭の上を飛びこして、冬の母さまのおうちへ帰るのです。

「さあ、ついたわよ」
「ありがとう、春の姉さま!」

 あたたかい春の姉さまの腕からおりて、アリアちゃんは冬の母さまのおうちにはしりこみました。

「ただいま、冬の母さま!」
「おかえりなさい、かわいいアリア」

 雪ん子アリアは冬の女王の胸に飛び込んで、これから次の冬が来るまでねむるのです。

 おやすみ、アリアちゃん。

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【8537/アリア・ジェラーティ/女/13歳/アイス屋さん】
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東京怪談
2018年05月29日

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