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『エステと男の関係 』
松本・太一8504

●探検
 松本・太一は職場で話題だった立ち飲み居酒屋に寄った。居酒屋でも、洋風のタイプ。
 おっかなびっくり入ったが、おしゃれでも気さくで軽くお酒を楽しめた。

 その店を出て、気分がいい。そのため、会社周りの知らない道を行ってみる。
「まさか、シャッター街?」
 それでも進んでみる。そして、細い路地に入ってみた。

「あ、ごめんなさい」

 目も覚める美少女と出合い頭にぶつかる。
「いえ、こちらこそ」
 太一は答えて、彼女を見る。彼女に見覚えがある気がした。
「では、失礼しますっ!」
 美少女は頭を下げて慌てて立ち去る。
 彼女の背中を見送った後、彼女が来た方向を見たが、街灯が少ない薄暗い道が続くのみである。
「……よく、こんなところを通れ……あっ! 今年、彗星のごとく現れたグラビアアイドルの――! ……清楚な顔立ち、服で見えない……素晴らしきプロポーション……」
 再び見たところで暗い道が続くのみ。
「もう、仕方がない、この先何があるんだろう?」
 太一は進んでみることにした。

●迷い込んだ先
 細い路地を進むと半ばくらいで灯のついた看板と階段の昇り口がある。
 看板には「ヴェスティビュール」とアルファベットと小さいカタカナの記載があった。
「店……なんとなく、おしゃれな気がする……」
 太一は見上げた。階段から玄関まで、センスある寄せ植えの植木鉢がところどころ置いてある。
 太一は、勇気を振り絞り入ってみることにした。人見知りもあるはずの彼が用心しないのは、立ち飲み屋の影響か、この場にある不思議な雰囲気が原因か。

「いらっしゃいませ、ヴェスティビュールへ、んん?」

 女性の言葉は疑問符につながっていく。
 太一は目を見開き、硬直する。場違いさと女性があまりにも美しいからだ。なお、ここに漂う穏やかな甘い香りは心地よい。
「ご予約のお客様ではないですわ、ね?」
「は、はひっ!? 申し訳ありません」
 女性は上から下、下から上と何度か太一を観察する。
「この店に紹介もなく、それも『男』の方が来られるのは何かの縁ですわね」
 女性はにっこりとほほ笑む。妖艶という言葉この人のためにあると太一は思う一方で、人の世話も好きそうでどこか気さくなお姉さんにも見える。
「そ、そうですか? 出て行きます」
「いえ、説明くらい聞いていらっしゃって?」
 太一は勧められた椅子に座った。

「ここは女性専用エステサロンですの。当店は特殊なので男性は基本いらっしゃいませんわ」
「ひょっとして先ほどであった……」
「あら? 彼女がここに通っているというのはご内密に」
「え、はい」
 太一は想像して納得する。
「予約のみですが、ふらりと呼ばれた方もいらっしゃいますわ」
 太一は場に飲まれていた。彼女の言い方がおかしいと気づいていない。
「あなたも、新しい姿を得て、新しい人生を歩み始めるというのはいかがですか?」
「新しい姿? エステですよね? ……その、マッサージ効果みたいなところがあるということですよね?」
 デスクワークが続いているため、太一は体がガチガチになっている。
「体験いたしますか? それとも、このまま立ち去りますか?」
「……予約は」
「予約なのですが呼ばれた方が来る時はおおむね、いないのです。偶然空いているのですわ」
「へえ……」
 女性の説明を受け、太一は了承したのだった。
「これで、あなたも新しい人生が待っておりますわ。モデルや女優をやるもよし、新しい可能性を探すのもよし……」
 女性が歌うように告げる。
 太一は更衣室に案内され、すべて脱ぎ、シャワーで体を洗い、ローブをまとう。そして、指定されたベッドに横たわる。
「ローブは外しますね、バスタオルで隠しますから」
 太一は顔を真っ赤にしつつ言うとおりにした。
 まずはうつぶせ。背骨に沿って手が走る。
「ぐっ……」
「かなり血流が悪いですわね……まず、体のほぐしをしてしまいましょう」
 彼女の手が足の裏に添えられた。拳で土踏まずをぎゅゅぎゅっと押される。
「う、痛いいいい」
「美の一歩はここからですわ。店名の由来はフランス語で『玄関』という意味もありますの。お客様の始まりなのですわ」
 足の裏をある程度ほぐすと、ふくらはぎに指を走らせる。肉と骨の間をぎゅーと走る指に、太一は思わず「ロープ」と叫ぶ。
 相当痛い。
 しかし、ある程度ほぐされると全身が温まる。首から上の頭が異様に気持ちよく眠気が襲う。
 もみもみ、ぎゅぎゅ。
 ウエストの当たりの肉を左右にもまれる。尻の肉もぐぐっと上にあげられる。付け根に触れられたとき一瞬どきりとした。老廃物を流すためか、からな痛みが走ったため、無駄なことは考えられなくなる。

「次はあおむけでお願いしますね」

 太一は眠たげな眼のまま仰向けになった。
 今度はエステ的な動きが大きくなる。腹の当たりをグルグルさすったり、ウエストが細くなるように左右に交差させるように手が動く。何度も何度もされていくと、くびれができるようだった。
 それから、肋骨の当たりに指が動く。骨と骨の間に詰まった何かを動かすような動きに痛みを覚える。
「うっ」
「もう少しですわ……あと、脇の当たりもかなり老廃物もたまりますし、そこがメーンですのよ」
 脇の当たりは、筋肉が入り乱れているため、女性の指が走るたびに痛みを覚える。
 うめきつつ耐えた。

 たゆん。

 胸元で魔女としてはあるとしても、男にあるまじき反応があった。
 太一の中で疑問がわいたが、顔のマッサージが気持ちよくうっとりしてしまった。違和感までも、もみほぐされる。
 胸元が揺れたのは気のせいと現実逃避しながら太一は処置終了を迎えたのだった。

●本当に!?
「終わりましたわ。確認をお願いいたしますわ」
「あ、はい……え? は?」
 声が妙に甲高い。甲高いとはいえ、元々の太一の声を、高めにしつつも低さを残し、美しくした感じだ。いや、言葉で書くともう何かわからない。自分の声だと感じるが、異様に美しい女性の声と認識したのだ。
「声も変わって!」
 ベッドの脇にある大きな鏡を見るまでもなく、ベッドの縁に座った瞬間、一糸まとわぬ自分の体を見ることになる。
「お、女になっている……?」
 恐る恐る胸のふくらみに手を伸ばす。触ると弾力が手に伝わる。
 鏡を見ると完全に女性だ。

「戸籍も変わりました」
 女性がにこやかに答える。
 太一は呆然とするのみ。
「服はいかがいたしますか? 職業はいかがしますか? せっかくなら新しい職にしましょう! お名前はいかがいたしますか?」
 困惑する太一をよそに、女性がてきぱきと手続きをしていく。

 太一は女性の声に応えるうちに意識がはっきりする。
「……どうしたらいいのでしょうか」
「お好きにしてくださいませ。お代はいりませんわ。ええ、また、いらっしゃって下されば」
 にっこりと女性が笑う。女性の唇は口紅をしっかり塗ったかのように赤く輝いていた。

 途方に暮れた太一は用意された服を着て逃げるように帰るが、人の視線が気になって仕方がない。
 しかし、徐々に、その視線が嬉しく思えた。「美しい私をみんなが見てくれている」という優越感他ならない。
 帰宅後、すぐに疲労のため眠った。

 電話の音で目が覚める。
「初めまして、ヴェスティビュールさんから紹介いただいた芸能プロダクションの――」
 鏡に、新しい美しい女性の太一が写っていた。

 夢、なのだろうか?


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
8504/松本・太一/男→女/48/会社員・魔女
???/エステの店主らしい女性/女/秘密/エステシャン

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 発注ありがとうございました。
 エステ……それは、女性の園。とはいえ、最近は女性専用だったところがメンズも出していることありますね。
 現実はさておき、美女への変身はいかがでしたでしょうか。
 今後ともよろしくお願いします。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年05月31日

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