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『 獄炎の死神 』
煤原 燃衣aa2271)&世良 杏奈aa3447)&アイリスaa0124hero001)&エミル・ハイドレンジアaa0425)&藤咲 仁菜aa3237)&一ノ瀬 春翔aa3715)&無明 威月aa3532)&阪須賀 槇aa4862)&偽極姫Pygmalionaa4349hero002)&楪 アルトaa4349


「そうか、そう言う事か……御主ら、すべて」
『初老の男(NPC)』が口を開く前に熱波があたりを焼きつくす。
 小さな家も、庭に咲いた桜の木も。その熱波と衝撃に吹き飛ばされ。
 あまりの温度に森の木々、その葉に火がついた。
 舐めるように炎が世界を覆っていく。
 それだけの暴虐、それだけの憤怒。それだけの脅威を前に、立つことができていたのは。僅か数名。『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』『エミル・ハイドレンジア(aa0425@WTZERO)』『月奏 鎖繰(NPC)』『一ノ瀬 春翔 (aa3715@WTZERO)』そして『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』だった。
「そんな、アタシを庇って!」
 背後で『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』が声をあげる。ネイが振り返ればアルトのダメージも肩代わりしたのだろう。熱で陰炎を立ち上らせる盾を握り『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』が息を荒げて座り込んでいた。
 その仁菜が守った一帯を除いて他は茶色い土がむき出しのクレーターと化している。
 その隣では子供たちを守るために背中を焼かれた『無明 威月(aa3532@WTZERO)』が子供たちを腕に抱いて転がっている。
 初激にて半壊、後衛組の損耗率を考えると事実上の壊滅である。
 不意を突かれたとはいえ『朱雀(NPC)』の強さにエミルの本能が警鐘を鳴らす。。
 レベルが違う、玄武や白虎。青龍とはその戦いの次元が全く違う。
「アレはやばいよ」
 エミルが繭をしかめて告げる。
「だとしても」
「やるしかねぇ」
 春翔と燃衣は同時に体勢を立て直し朱雀へと走った、鎖繰がその後に続く。
 左右を挟み込むようなコンビネーション。しかし。
「だめです、その人と戦っては!」
 威月が柄にもなく鋭く告げた、しかし駆けだしてしまった足は止まらない。
 春翔の斧を上半身をそらして回避。瞬時に白にモードを変え。斧を複製。三枚の斧を同時に振り上げる攻撃にしたいして朱雀は春翔の方向にスライド。
 燃衣の拳を間一髪でよけると春翔の手首。特に親指の付け根あたりに手を添えて。
 爆破。
「がぁっ!!」
 骨がむき出しになるほどの衝撃をもってしても春翔は斧を放さない。
 だがその一瞬のすきをついて、春翔の斧の刃を地面につけさせた。
 その柄に片手で体重をかけて回し蹴り。
 長い足が燃衣の頬にヒットして燃衣の体は宙に浮く。
 そのまま朱雀は着地。
 背後を全く見ないまま後ろに下がり、姿勢を低くして春翔へひじ打ち。
 その後前に勢いよく奪取して両手花のように開く構えで掌底。
 燃衣を吹き飛ばした。
「やろおおおおおおお!」
 後続の鎖繰もいいように遊ばれ蹴り飛ばされている。
 その三人が攻撃の余波で吹き飛ばされたことを確認しアルトが突っ込む。しかし。
(……ん、突っ込むだけ無駄。たぶん)
 エミルは感じていた。彼女は人工的に作られた怪物だと。
(自分も同じ。だから)
 本当の機能が解放される前に逃げなくては。
 アルトのドリルを大きく飛んで回避する朱雀。その背後めがけエミルは大剣を投げた。
 それを朱雀は飛んで回避するが、投げられた大剣はアルトの搭乗した
『偽極姫Pygmalion(aa4349hero002@WTZEROHERO)』でキャッチ。
 そのままエミルの大剣で切りかかると左側から銃弾の雨が降り注いだ。
 復活した『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』および、銃を借りた『三船 春香(NPC)』による支援射撃であるが。
 銃弾はなぜか朱雀に”当たらない”
「なんでだお!」 
 槇に向かおうとした朱雀の行く手をサンダーランスで遮ると。
 朱雀の回避ポイントに手りゅう弾が降り注ぐ。
 杏奈の父による支援だが。
 その火器も通じていない。槇お手製の霊力を含んだ武装であるのにも関わらずである。
「どういう事なの?」
「わかったッス!!」
 帽子が焼けてしまったために長い髪を隠せなくなった『ヴァレリア・ヴァーミリオン(NPC)』がPCを操作しながら二人に告げた。
「単純な熱量っす」
 槇の表情が歪んだ。
「なんだお、化け物かお」
「どういうことなの?」
 杏奈が首をかしげる。
「白虎とか青龍とかみたいに霊力をエネルギーに変えてるとしたら。朱雀って言うくらいだから炎、熱だお。そして物体には融解する温度と蒸発する温度がそれぞれ存在するお」
「朱雀は飛んできた銃弾に対して即座にその熱量を配当して銃弾を溶かしてるっす。つまり阪須賀さんはマグマの海に銃弾をばらまいてたことになるっすね」
「ええ! じゃあまさか」
 春香の声で全員が青ざめる。理解が追い付いた。
「あいつ、発してる霊力だけで遠距離攻撃を無効、もしくはダメージ軽減できるお。しかも何かの能力でそうなってるわけじゃなくて、あいつのスペックが高すぎるからそうなってるだけだお。いわゆる、副産物ってやつだお」
 であれば。そう槇は今も接近戦を仕掛けるメンバーたちへと視線を戻す。
 彼らは銃弾さえも溶かす熱量を受けながらも戦っているという事か。
「……すまんだお、みんな、隊長」
 そう槇は銃を撃つことをやめPCを叩くことに集中した。銃で撃つよりも分析の方が貢献できると判断したためである。
「この!」
 杏奈はその手の魔本から触手を召喚してついげき、それも朱雀の体制を崩すには至らない。ダメージは通っているようだが。圧倒的に硬すぎる。
「そいつ、一対一でやっててもらちが明かないよ?」
 アルトが大剣を朱雀に投げつけると、それを朱雀がはじく。
 はじいた大剣を空中で回収してエミルが上空から振り下ろした。
 アルトがそれに合わせてNAGATOで切り上げる。
 挟み撃ちだがその大剣の側面を撫でるように素通りさせ。腹の中心、重心位置を捕えると上下に爆破。攻撃をそらして。アルトに拳を叩きつけた。
「ああああああ!」
「……ん、反射神経、すごい」
 エミルは体制を立て直すとアルトと朱雀の間に入って追撃を牽制する。
「けど、思った通り、攻撃は不得意?」
 その時、朱雀が口を開いた。無感情な表情に、無感情な声を乗せ。赤い瞳がギラリと光る。
「なめるなよ、クズが」
 次の瞬間。
「殺す」
 膨大な霊力が拳に集中。それをエミル狙ってではなく、地面に叩きつけると。
 灼熱の熱波と半分溶けた土砂。そして爆風がエミルの体を叩いた。
 常人であれば骨まで溶ける一撃に、その小さな体はやすやすと吹き飛んだ。
「エミルさん!!」
 仁菜が叫ぶ。
 仲間が、友達が苦しんでる。
 けど。
 仁菜は足を見た。震えている。
 それは恐怖から? それとも失った血のせい?
 焼けただれた両手で盾を握ると刺すような痛みが全身を駆け巡る。水ぶくれが割れて血を拭いた。
 ぬるぬると盾がすべり、満足に持つこともできない。 
 恐怖? 
 自分が、自分がそれを感じるはずはない。だって。だってあの時。
「……さん」
 だってあの時強くなるって決めたんだ。
 あの時もう何も失わないって。決めたんだ。
「わたしは、わたしは……」
 相棒の声が遠くなっていく。いつもそばにいた感覚が薄らいでいく。
 仁菜は思ってしまった。なんで自分はこんなところに。
「きみはすぐに働きすぎる」
 そんな仁菜の肩を叩いたのはアイリス。
「少しは自分を大切にしたまえ」
 告げるとアイリスは仁菜に微笑みかけ。そして弾丸のように駆けた。
「遅かったですね」
 燃衣がその動きに合わせる。
 アルトが爆撃の雨を降らせ視界をふさぎ行動を止める。
「近接特化か? だったら我慢比べだな、アタシの弾薬が尽きるのが先か。あんたが諦めるが先かだ!!」
 アルトは謳いだす。その歌に呼応するかのように偽極姫に格納された弾薬が次々と発射されていく。
 春翔が左腕で斧を構え複製。斉射。
 その斧も爆炎の中の朱雀にはじかれているが。まぁそれも良い。
「ここから押しかえす」
「槇さん! 撤退の準備を、早く」
 アイリスが盾で突っ込んだ。
 その盾を受け止めるしかない朱雀。地面にレールの様な跡を刻みながら後退する朱雀に対して側面から燃衣が攻める。
 まるで遊ばれているようにその拳も蹴りもすんでで止められるが、攻めに転じることができないのはアイリスの動きのせい。
「さぁ、妖精のダンスの始まりだ」
 告げるとアイリスは足を薙ぐように盾を振るう。それを飛んで回避した朱雀にアルトのミサイルが突き刺さる。
 地面に足がついていなければ踏ん張ることはできないし、ミサイルをすぐに溶かすのは無理。空中で爆破に巻き込まれる朱雀は両手足から爆炎を舞い散らせ。すぐに復帰。
 その動きが一瞬止まった。
 見れば木々の音が朱雀の眼下から生え。絡みとっていた。
 その蔦は朱雀の肌を這い養分を吸うと共に毒素を体に送り込む。
「森で妖精に喧嘩を売るとは、随分と命知らずじゃないか」
 それだけではない。森はアイリスの命じる物に祝福を与える。毒を反転させた癒しの力。確実に朱雀の力を削ぎ、仲間を癒していく。この力があれば朱雀とも対等に渡り合えるかもしれない。
「この森を殺してやる方が先か??」
 爆破し拘束を逃れてもアイリスがロケットのように飛翔している。盾のふちで腹部を殴る。
 初めて攻撃が通った瞬間である。
 しかしそれにとどまらない。
 アイリスは落下の最中に盾を構え。燃衣はそれを足掛かりに飛んだ。空中で体を回転させ頭を下に、朱雀の背後をとると、そのまま両足を爆破。
「これで!」
 渾身の貫通連拳。
 吹き飛んだ朱雀は地面をバウンドしながらも四つん這いで着地。
 その両手足を森が絡め捕り。アルトのドリルが朱雀を捕えた。
「おいおい、うそだろ?」
 しかし朱雀の肌に触れるとドリルが溶け始める。
 ダメージは与えている、しかしそれも微々たるもの。
「みなさん、行けそうですか?」
 問いかける燃衣。
 しかしその声は、槇の耳に入ってなかった。
「うそだおね?」
 槇は少年を見下ろしていた。
「ごめんなさい」
 身を起こした威月が泣いている。
「護りきれませんでした」
 少年の一人がお腹を押さえて呻いていた。
 その腹を石が食い破っており、だくだくと血が流れている。
「見捨てるべきだ」
 そう初老の男が言う。その言葉に血が上った槇は男の首を掴み上げた。
「あんたのとこの子だおね? 見捨てんのかお」
 そう顔をあげさせると男は泣いていた。
「ちがう、しかし私の子らは17名。姿があたりに全く見えない。我々は庇われたが他の子はもう。無事な子らまで失いたくない。わかってくれ」
「待ってほしいっす」
 告げたのはVV。
「傷口をあらって、いったんふさいで、あとは回復スキルで持たせればまだ分からんっす。縫合はヤレルっす」
「……けど、時間が」
 威月はつぶやく。
「隊長!! 子供が」
 その言葉だけですべてを察した燃衣は言葉を返す。
「了解しました!! 早く済ませてくださいね」
 VVは幻想蝶から糸を取り出す。
 春香と威月が、そして仁菜が盾になるようにたった。
「ああ、君たちは守ると言い、私たちにお任せだ」
 告げるとアイリスは翼を煌かせる。
「さぁ、来るがいい。全身全霊で受けよう」
 しかし、他のものは誰も気が付いていないがアイリスの翼の光量は確実に減っている。
 連戦は想定した。どうなるか分からない旅路で余力を残しているのは当然の事。しかし。
 これほどの敵が現れるとはだれが予想するだろう。
(残量は……そうか。その程度か)
 アイリスの盾に対して朱雀は有効打を出せないでいる。
 それは朱雀の苦手な相手だから、というのは大きいが、朱雀のスピードについていけているという前提のもとで成り立っている話。
 朱雀のスピードについていけなければ簡単に背後をとられて攻め殺されるだろう。
 まずい。そう感じながらアイリスはいったん距離をとる。
 代わりに燃衣が前に出た。燃衣は残念ながら朱雀のスピードについていけていない。
 容易く腕をとられ。投げ飛ばされていた。
 それを助けるために春翔が斧を振るう。
「くそ……これは」
 施術が完了するまで持たない。そんな予感が春翔にはあった。
「ほう、オレ以外に意識を向けてる暇があるのか」
 その言葉に槇が顔をあげた。
「や、やめるお! やめろぉーーッ!」
「怨念を吸い、燃えたぎれ」
 次の瞬間。膨大な熱量が地面から噴出した。
 それは炎の槍となって朱雀の目の前にある物すべてを串刺しにしていく。
 それに威月が肩口から切り裂かれた。
 それを仁菜は見ているしかなかった。
「この!」
 春香が音で防ごうとするもそれはたやすく食い破られ体が宙に巻き上げられる。
「はああああ!」
 最後に残された仁菜、その盾が槍に触れる前に。
 温かく生ぬるい血が仁菜の表情を覆うことになる。
 目の前に少女が立っていた。輝くような金糸と穏やかな笑みを浮かべていた妖精の彼女。しかし。
「そんな顔をするものではないよ」
 その誰も、今まで誰も破れなかった護りを突破して。
 槍が深々とアイリスの腹部を貫いていた。
「いやああああああ!」
 エミルは走る。限界を超え、槍より早く走る、地面から伸びる槍を切り飛ばす。
 しかしいつの間にか手から刃が奪われていた。
 いつの間にか腕の筋肉が切断され。槍はアキレス腱を串刺しにし。
 そしてその小さな体を縫いとめる。
「にげて」
 しかしエミルはそれで止まることはなかった。
「お前は……」
 男がエミルをまっすぐ見据える。
 その痛みを感じず、人体の構造を無視しても、槍をその身で受け子供たちを守ろうとする姿は、血にまみれすぎていて。化物のように映った。
「俺を殺す気にさせられた奴は久しぶりだ」
 春翔が迫る、体勢を立て直したアルトも偽極姫のエンジンをフル稼働させ追撃を。
 偽極姫はすでに全身からスパークしているあともって攻撃数回分の耐久値。
 対して春翔はその身を左右から赤と白で染め上げていく。二重共鳴それをみせる時が来たそう思った。しかし。
 胸の中で何か衝動が湧きあがり動きを止める。
「なんだ?」
 ……セ。
 誰かが囁く、それは見知った彼女の声? 穏やかに笑う彼女の声?
 コ……セ。
 違う、それは、自分の胸から湧き上がるそれは。
「なんだ、これ……」
 この破壊を望んでるのは『誰』だ?
「コワセ」
 それは自分の口から発せられていた。
「何をおびえてる?」
 次の瞬間、炎の槍が檻のように春翔を縫いとめた。
「ぐっ」
 その隙にアルトが迫る。その武装した腕で抱きしめるように攻撃を。
 しかしそれは愚策だった。
「いいのか、近づいて」
 次の瞬間、むしろ偽極姫に抱きしめられるように背後に飛んだ朱雀はその背から炎の翼を生み出し、偽極姫の両腕を溶解させた。
「ああああああ! ピグ!!」
「終わりだ。無様に死ねよ」
 朱雀は空へと舞いあがるその背に炎の翼を湛えて。そして。
「まだ……だああああああ!」
 そう追いすがるアルト、虎の子のアンチマテリアルミサイルに乗って朱雀を追いかける。
「こうなりゃ道連れにしてやる」
 そう自爆スイッチに手をかける。
 ただそれを推す前に。朱雀の放った火焔がアルトを貫いた。空中で大爆発を起こす。
 さらに行われるのは暴虐の嵐。
 その翼から羽が舞い散り、落ちるように炎があたりに投下された。
 その火焔は地面に落ちると火柱をあげる。そんな災害の様な攻撃の前に、全員が絶望した。勝てるわけが無い。
 森も焼き払われる。
「アイリスさん! アイリスさん」
 仁菜がその小さな体を揺さぶる。
「突然大変残念なお知らせだが……私の祝福モードは後10秒も持たないのだよ」 
 そう悔しそうに告げた瞬間。アイリスは祝福を解除する、森は落ち着き代わりにアイリスの耳には悲鳴が聞こえてきた。
 焼き払われる草花の悲鳴。そして。
「なんで! こんなこと! 誰も望んでなかったっす」
 必死に子どもを助けようとするVVの声。
 そんな中アイリスはその羽をつぼみのように閉じ、仁菜の膝で丸くなる。
 見れば燃衣が一人で戦っていた。
 朱雀に腕を弾かれ鎖骨を折られ。関節を決められ、肩を外しながらも脱出し。
 右手で朱雀の腕をとって引き。足をかけると朱雀は飛んで燃衣に蹴りをくわえた。燃衣は素早く体制を立て直し。
 そんな攻防を無限にも等しい時間つづけたかのように見えた。
 しかし。
 徐々に燃衣の速度が朱雀に追いつきつつある。
「隊長?」
 仁菜が首をかしげる。強くなったのか。土壇場で。みんなを助けるために? 
 違う、燃衣の半身を黒い何かが覆っていく。
 それが増すごとに膨大な霊力波熱となり。朱雀の熱を食らうようにくらい合うように大きくなり。そして。
「殺せ殺せ殺せ殺せ!!」
 燃衣の表情が変わっていった。
 拳を撃ちつけること数合。
 朱雀を押し込むほどに増していくしかしその姿黒い獣のように。
「おおおおおおおおおおおお!!」
 叫ぶ燃衣、そして朱雀と拳をぶつけ合わせたとき。一際強い熱波が全員を襲った。
 神は焦げ肌は焼ける、VVはついに針を持っていられなくなり、それをおとした。
「こんな状況じゃ、施術なんてできないっす」
「燃衣さん、戦いをやめて! 御願い」
 春香が叫ぶ。しかしその声は届かない。
「頼む。この子の命だけは、私の命は差し出す、研究も、それに伴う資料もすべて渡す、だから、この子の命だけは」
 そう焼けた砂の上で頭をこすりつける初老の男。しかし朱雀はそれを見もしない、やがて二人の蹴りが空中でぶつかった衝撃によって男は吹き飛ばされた。
「おしまいだね」
 そう仁菜はぽろぽろと涙をこぼす。
 隊長は黒く、魔獣と姿を変え。
 仲間はぼろぼろ。
 自分も誰かを守る力はもう、ない。
 声が遠ざかっていく、必死に呼びかけてくれる相棒の声が。
 どこかに消える。
 足音が聞えた。
 何かを引きずる音。
 仁菜は顔をあげる。
 そこには朱雀。朱雀の左手には首根っこを掴まれた燃衣が必死に暴れていた。
 朱雀は手をかざす。男に、子供たちに。その頬が吊り上り、微笑む。
 こんな奴に負けたんだと、仁菜は思った。
 その時だ。
 杏奈が急に起き上がり。そして空中から放られたペンダントを手に取る。
 それはリベリオン。受けたダメージを返す魔性の輝き。
「地獄に行くなら道連れよ」
 杏奈は叫ぶ。
「意外と死んでも生きてても変わらないわ。それは私が保証してあげる」
 全ての衝撃が、杏奈の体を貫き、同じダメージが朱雀を貫いた。
「てめぇ……」
 無表情が少し崩れた。見た目に違いはない。だが唾液交じりの血を吐いて朱雀は体をくねらせる。
「なんで……」
 仁菜は思う。なぜ、諦めずに立っていられるのか。
 その表情を見つめ杏奈は言った。
「今度うちでケーキをつくろう? それでみんなに振る舞うの、きっとたのしいわよ」
 仁菜は目を見開いた。
 次の瞬間、ビスビスっとガスの噴出音が聞こえ、体が急速に楽になっていく。
 この僅かな好機になけなしのヒールアンプル弾をみまう槇である。
 彼は光学迷彩装置で隠れていた。これが彼のできる精いっぱいだ。
「弟者ゆるせお! しばらく三食もやしだお!」
 弟はそれをかっこよく許してくれた。さすが弟である。そんな槇の袖をVVが引く。
「その時は自分が料理作るっす」
「お? VVたん」
「料理なんて科学実験とおなじっす」
「一気に食べる気が……でもありがとーだおぉぉぉぉぉお」
 次いで投げられたリモート型グレネードガン熱はだめだ。しかし音と光なら。
 それが朱雀が反応するより先にさく裂する。
「仁菜たん!!」
 滑り寄ってきた槇。
「ごめん、しんどいのはわかってるお。けど仁菜たんしかできないお」
「でも、私にはもう」
「仁菜たんがやれないと、全員死んじゃうお。女子に無理させるのは辛いお、けどけど!」
 槇の手は震えている。
「俺、何もできなかったお。みんながやられるの見てるしかなかったお。なさけねーお」
 涙を流す槇。そんな彼に強さを見た。
 彼も杏奈も、無力だとわかっても。最後まで自分の役割を見すえつづけた放棄しなかった。
 諦めなかった。
 それは彼も同じではないか。
 あの、業火の中に消えていった背中。
 もう二度と、同じ炎に仲間は奪わせない。
「お願い! リオン! もう一度力を貸して、愛想尽かしちゃったよね、怒ってるよね。でもお願い、まだ間に合うなら」
 リンクバースト。そして癒しの光を全員に。
 その光でエミルが目覚めた。
「……ん、人使い荒すぎ」
「隊長を誰か止めるお! このままじゃ隊長が、隊長の霊力で潰されるお」
 その声に走ったのは春翔。
(いいなぁ)
 そう春翔の中でつぶやいたのは誰だろうか。
 仁菜の涙しながら祈る姿。
 皆の身を挺して守る姿。
 それを見て。胸の中の誰か。誰でもない何かがそれをうらやましいと感じたのだ。
「うらやましいなんて思ったことねぇ。けどまぁ、それもいいんじゃねぇか?」
 そう春翔は穏やかに微笑むと、地面に斧を突き刺した。
 目をくらませた朱雀の体を斧が牢屋のように固定する。
 気休めでしかないが時間稼ぎには十分だろう。
 そう走った。目指すは暴走する燃衣。
 炎の槍が春翔を追う。
 しかし春翔は共鳴と解除を繰り返し、微妙な異相の変換によってこれを回避。
 それができるのは。全ての心が今一つになっているから。
「目……覚ませ。隊長だろ!」
 告げて春翔はそのまま頭を突き出して燃衣にぶつかった。
 ガッと耳をふさぎたくなるような痛い音がして燃衣の体は吹き飛ぶ。
 思わず燃衣は目をぱちくりとした。
「お前がしっかりしないで、どうすんだ」
 告げると春翔の姿変わっていく。赤と白、全ての力が一つになっていく。
 背後で斧の折が壊れる音がした。
 春翔は煙草を取り出すと、熱された斧を当てるだけで火がついた。
 春翔はスッと一口煙を吸い込んで。
 そして吐いた。
「だがまぁ、それは俺の役目じゃねぇな」
 次の瞬間斧がの束がまるで壁のようにせり上がり、それは竜のように立ち上った。
 まるで魔王の指のようにそれが五つ立ち上り。全てが朱雀に殺到する。
「隊長」
 威月がその手を取った。
「一緒に、一緒に戦いましょう」
 次の瞬間燃衣の黒い靄が顔の部分だけ晴れた。
「ええ。すみません、どうか、どうかしていました。そうですよね」
 みんな、尊いもののために戦っている。
「目が覚めました。僕はもう悪意には飲まれません」
 代わりに悪意を燃やして生きよう。
 そう思うと徐々に燃衣の体が元に戻って行った。しかし黒い影はそのまま残り炎となって紋章のように燃衣の肌をなめる。
「行きます!」
 燃衣は走る。
 斧の檻は道をあけ。血にまみれた朱雀へ拳を叩き込む。
 朱雀が拳をとろうとすれば、はじくように拳を回転させ払い。
 威月は反撃ではなった朱雀の拳を薙ぐことに専念した。
 三人の戦闘は相変わらず周囲の人間に深いダメージを与える。それをエミルが大剣をたてに防ぎ守っていた。
 力を利用した太極拳の様な動きで朱雀の攻撃をさばき。そして。
「つかえ!!」
 鎖繰が投げた刀を威月がとると。その力を解放する。
 それは悪意を焼く炎。蒼き浄化の一撃は悪意から力を生むものへ絶大な一撃となるだろう。
「浄化一閃」
 放たれた斬撃に朱雀は対応しきれず、その熱のフィールドを切り裂いて朱雀の肩口に深い傷を与えた。
「これでどうだ」
 威月が息も絶え絶えに告げると。
 朱雀はそれですらなんでもなさそうに告げる。
「あ? しにてぇみてぇだな」

「まだやれるのかお」

 槇が歯噛みする。だが現在切れるカードの全てが間違いなくこれだ。もう隠し札はない。その時。
「縫合完了っす、仁菜さんのおかげで処置が早まったッスよかった」
「撤収!!」
 槇が高らかに告げる。
「逃がすと思ってんのか」
 その時、ドロドロに溶けたはずの偽極姫が朱雀の前に立ちはだかり、その体に組みついた。
「アルトさん! 何を」
 燃衣が叫ぶもアルトはその後ろから姿を現した。
「ちげぇ、あたしじゃない、あれは、あれはピグだけで動いてる」
「ピグ?まさか偽極姫シリーズか?」
 初老の男が問いかけた時にはもう自体は進んでいた。
 偽極姫はミサイルを複製するとそれを自分に突き刺すように打ち込み、その噴出力で空へ。
「おい! ピグ! お前どうすんだよ!!」
 アルトが追おうとするが威月がその体を抱えて走った。
「おい! ピグ」
 その目の前に何か四角いものが落ちてきた。アルトならわかるそれは偽極姫のコアユニット、ブラックボックスだらけで解析できない、まごうこと無き心臓部。
 そして潤んだアルトのひとみには偽極姫がランプを五回点灯させたのが。
 直後。
 轟音と共に偽極姫は吹き飛んだ。  
「ピグ―――――!!」
 戦いは終わった。またも中に一人、致命的な犠牲が出るという形で。
 朱雀二度目の会合は幕を下ろした。 

 エピローグ

「なんだったんだ……あれ」
 そう全力で森を走った春翔は殿を務めつつも自分の共鳴について考えていた。
 胸に湧きあがる破壊衝動。
 そしてそれがスッと消えたあの時。違いとはいったい。
 そんな中先頭を走っていた槇が騒ぎ出す。
「隊長! なんで、あっち!」
 いきなり燃衣が音をたてて燃え始めたのだ。しかも霊力を伴う炎らしく誰にも触れない。
「くそ! なんで! 何で隊長まで、ピグに続いて失うのかよ。アタシはまた!!」
 泣き崩れるアルト。
 そんな燃衣に威月が覆いかぶさるように寄り添った。
「兄さま! いやです……! 兄さまッ!」
 その姿に兄を重ね、抱きかかえ心臓に手を重ねる。止まって動かなくなった心臓が再度鼓動を刻み始めた時、燃衣の炎は弱まりを見せた。
「威月さん、皆さん。すみません、少し休みます」
 告げると燃衣は眠りに落ちた。
「仕方ない。全員疲れている。ここで休むほかにないだろう」
 初老の男が告げると近くの洞窟を指さした。
「なぁ、あんた、どれだけの事を知ってるんだ?」
 鎖繰が問いかけると初老の男は話し始める。
「ふむ、知っていることだけと答えよう」
「あんまおふざけに乗ってやれる余裕はねぇぞ」
 告げるアルトの目はぎらついていた。偽極姫のユニットを抱きかかえたままじっと男を見ている。
「すまない、ただ、私にも話せることと話せないことがある」
 その言葉にアルトは間髪入れずにこう問いかける。
「偽極姫のこと、ピグの事、知ってんのか?」
「解析をしていないからな、わからんが。自律型戦闘用人形-ゴーレム‐「偽極姫」シリーズの中の一体だろう」
「ゴーレム……」
 耳慣れない単語にアルトは首をひねる。
「我々が開発したわけではない、とある天才が着想し、凡才たちが引き継いだ夢の結晶さ。一つは英雄としての機能がありながらシリーズ化。量産体制が確立している夢のユニットだ。人類が考えそうなことではないかね?」
 告げる初老の男の言葉を誰もが聞き入っている。
「もう一つは自身に自我が存在しないことだ。
 しかしに英雄としての特性は兼ね揃えてある。つまり過負荷なく共鳴状態に限りなく近い状態に『誰でも』なれる」
「それは。歴史がひっくり返るな」
 鎖繰が告げる。なぜなら誰であろうと簡単に力をつけることが出来る上に、負荷なく他の素体と混ざり合う事が簡単に出来る。
「誰でもリンカーになれる、誰でも戦える。ただし愚神も使える」
「じゃあ、その機能のせいでピグはあんなこと」
「いや、私が見た資料に、あのような挙動はなかった」
 アルトの言葉に男は首を振った。
「あの挙動は想定外だ。あちらとしても偽極姫の特にそのコアユニットは喉から手が出るほど欲しいところだろう」
「ラグ・ストーカーって何なんだお」
「そうだな、まずは明かそう。奴らの目的そして行動理念」
「なんで、そんなことを知ってるんだ? あんたが」
 鎖繰が問いかけると男は告げる。
「なぜ? 決まっている、私はメンバーだったからね、ラグ・ストーカーの」


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』
『無明 威月(aa3532@WTZERO)』
『偽極姫Pygmalion(aa4349hero002@WTZEROHERO)』
『エミル・ハイドレンジア(aa0425@WTZERO)』
『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』
『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』
『一ノ瀬 春翔 (aa3715@WTZERO)』
『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』
『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』
『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』
『三船 春香(NPC)』
『月奏 鎖繰(NPC)』
『ヴァレリア・ヴァーミリオン(NPC)』
『初老の男(NPC)』
『朱雀(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 皆さんいつもお世話になっております、鳴海です。
 この度はOMCご注文ありがとうございました。
 今回は久しぶりにガチ戦闘回で、朱雀の底しれなさを表現してみようと思いましたがいかがでしょうか。
 単純な能力って攻略法を確立するのが難しいですよね。
 しかも朱雀さんはまだ何か手を隠している? っぽく書いてみたので。何かあればお願いします。
 それでは次回は纏め回でしょうか。よろしくお願いします。
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2018年06月07日

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