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『冷える心、燃える欲 』
シルヴィア・エインズワースja4157)&天谷悠里ja0115

「女王様……」

 薔薇園から黒の女王の元へ戻ったシルヴィア・エインズワース(ja4157)の表情はどこか晴れない。
 彼女をよく知らない、いや、女王以外が見れば普段通りに見えるだろうが、何かが影を落としていることに女王は気が付いていた。

「完全に私だけの姫になる儀式をしてあげるわ」

 女王の言葉に首をかしげる姫の表情に不安がにじむ。

『完全……?今だって身も心も貴女のものなのに』

 そう思いながら女王の動きを見つめる。

「……それは……」

 どこからか取り出されたのは見覚えのある指輪とティアラ。
 それはかつての主、天谷悠里(ja0115)からもらった物だった。
 かつて、黒の女王に出会う前別の誰かの者であった証。
 忘れ去っていたのに急にどうしてこんなのものを。という気持ちが胸にこみあげてくる。

『邪魔な……』

 過去の自分に後悔はないが、その証が今の主の手にあることが煩わしい。そんな風に感じた。

「まだ気持ちがあるのかしら?“それ”も自分からだったの?」

「滅相もございません。紅の君がお戯れになっただけです」

 喉元についた赤い跡のことを言外に言われそっと目を伏せる。
 なぜそんなことを言うのだろう。いや、自分のものに他人の跡が付いていれば尋ねるのは当然か。

「そう……」

 女王への愛も忠誠も神聖な誓いをしたことも伝えてあったというのに、あのような淫らな口付けをする欲に染まりきった女。
 その認識が紅の女王が多くいる貴婦人の一人であるという感覚すら冷め冷えていく。
 憎むほどの関心はわかないが、もしこれが誘われたものでなければすぐにでも退席したい。そんな風に思う程度には彼女を嫌悪する気持ちが膨れ上がる。

「……これは好きにしていいわ」

 女王はティアラと指輪を見つめる視線が冷え切っていく様を見守っていた女王が、不意シルヴィアの手にそれらを乗せる。

「え?」

 てっきり女王の手によって処分されるものと、目の前でそれを消すことが儀式だと思っていた姫から驚きの声が漏れる。

「どうしたの?私は何か不思議なことを言ったかしら?」

「い、いえ」

 艶っぽく微笑む女王に首を振り、シルヴィアは手の中にある思いでの残骸に目を落とした。


 衣裳部屋で悠里は紅の姫にショールを纏わせてもらっていた。

「いかがでしたか?」

「そうね。とても素晴らしい姫になっていたわ。外見の美しさもそうだけれど、特に中身が……」

 その声は喜びにみち、瞳は今は他人のものである黒の姫にだけ向けられているように紅の姫には見えた。

「……」

 
「でも、一番は貴女。今は貴方が私の姫だもの」

 心配しないで。とそっと口付け艶やかな笑みを浮かべると、そっと目を伏せていた紅の姫の表情がぱっと華やぎ、喜びと心酔に彩られる。

『貴女が一番。でも……』

 甘えるようにそっと体を寄せる姫の髪を梳きながら悠里の口元が妖艶につり上がる。

 他者の姫を愛する背徳感もあるのだろうが、自らの手で真紅に染め上げ、何色も入ることはないと思っていたシルヴィアがあそこまで見事に漆黒に染められた様を愛でるのは甘美な蜜を独り占めしているような気分になる。
 それに、手元にいる姫はけして自分を裏切ることはないだろう。
 黒の女王のそばにいてなお染められるとこのなかった彼女が黒く染まることは考えにくい。
 二人の姫を同時に心に住まわせ愛するというこの状況もまた悠里を楽しませていた。

「そろそろ戻りましょう。あまり長い中座は黒の女王に失礼になるわ」


「おかえりなさいませ」

 ショールを纏い少しだけお色直しをして戻った紅の女王に恭しく礼をするとシルヴィアは彼女の美しさを称えた。
 その言葉も態度も気持ちが冷え切った事を微塵も感じさせず先ほどと何も変わらない。

「少しよろしいでしょうか」

 雑談の中で、そう口を開いたのは黒の姫、シルヴィアだった。
 その誘いを悠里が断る理由もない。
 どこかに移動しようかと悠里は提案するが、シルヴィアは首を横に振り、ここでいいと言う。
 それもまた一興とばかりに悠里は用意された椅子へ腰かけ姫を傍らに置いたまま次の言葉を待った。

「こちらをお返ししようと思いまして」

 シルヴィアの取り出した指輪とティアラは紅の女王の記憶にも新しいものだった。

「紅の君はもういない姫の姿を私に重なていらっしゃるように感じました。過去のことは忘れ、今後は黒の女王の姫として末長いお付き合いをお願い申し上げます」

 私の勘違いでしたら大変失礼いたしました。とスカートのすそをつまみ、礼をしながら告げるその言葉には強い拒絶の意思が見える。

「私の主は黒の女王ただ一人でございます。この身も心も何もかも、私の全ては女王にささげてございます。私が愛するのも愛されるのもこの方だけなのです。どうかご理解ください」

 首を垂れたまま続ける言葉には先ほどまでの言葉とは打って変わって熱がこもっているのをその場にいた誰もが感じた。
 悠里はその申し出を受け入れ優雅に微笑んだまま指輪とティアラを受け取る。
 すると、二人の思いでも愛もすべて幻であったかのようにすうっと消えてしまった。

『あぁ……』

 指輪とティアラが消えるのと同時に真紅の女王であった過去が自分の心からお元なく消えていったのを彼女は感じていた。
 目の前にいる真紅の女王の姫だったのは自分に似た赤の他人。
 私はずっと黒の女王のものだった。
 そんな気持ちが心に解放感と平穏、喜びを生み出し、人知れずシルヴィアは深い息を吐いた。
 
 そっと絡ませ合った両の指に黒の女王からの口付けを受け返そうと唇を指へ近づければ触れ合うのは小さな女王の唇。
 真紅の女王への思いがなくなった今、愛と忠誠が深まっていくのを感じ、自分の思いに応えてくれる女王の愛と悦びに包まれ、シルヴィアの世界には漆黒の女王だけが残った。


『面白い』

 一方、悠里の心の中に動揺はなくただただ喜びと悦びがあふれていた。

 部屋に戻ってきた時シルヴィアから感じていた冷たいものの正体はきっとこれだったのだろう。
 口付けに興じるあの顔は紅の姫が自分に向けるそれと同じ種類のもので、姫として完成しているのだろうと思うと笑みがこぼれてくる。
 
 薔薇園で流されなかった忠誠心の厚さ、人前でも堂々と愛を述べる姿に感動すら覚える。

「おいで」

 そっと白の姫の腰を抱き唇を重ねながらも視線はずっと黒の姫から外さない。

『このままの姿を愛で続けるのか、自らの姫に戻するのか……全く贅沢な悩みだ』



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja4157 / シルヴィア・エインズワース / 女性 / 23歳 / ただ1つの黒を求む 】

【 ja0115 / 天谷 悠里 / 女性 / 18歳 / 黒と紅を欲す 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは。 お久しぶりです。
 今回もご依頼頂き本当にありがとうございます。

 前回もこの欄で書かせて頂きましたが、毎回発注文を拝見する度、続きを教えていただいたような気持ちになり、書き上げるとこの後どうなるのかドキドキしてしております。
 悠里様が最後で思っていらっしゃる通り、このままの関係が続くのか再びお二人が結ばれるのか。
 この続きもご縁があることを心待ちにしております。

 今回もお気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

 今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
WTアナザーストーリーノベル(特別編) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年06月11日

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