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『春のオヤジ会 花見スペシャル』
天狼心羽紗音流aa3140hero001)&榊 守aa0045hero001)&ゼム ロバートaa0342hero002)&鵜鬱鷹 武之aa3506)&ラドヴァン・ルェヴィトaa3239hero001)&ユエリャン・李aa0076hero002


 麗らかな春の一日。
 岸辺に花開く桜の影を映した穏やかな水面を、一艘の屋形船がゆっくりと滑るように進んで行く。
 耳に聞こえるのは鳴き交わす鳥の声と、舳先が波を切る微かな囁きばかりーー

 ではなかった。

 屋形船から響くのは、オッサン達のダミ声と手拍子に、調子外れの歌と遠慮のない笑い声、たまに怒声。
 それはまるで、風流かつ雅で粋な日本画の展示会場にBGMとして大音量の祭り囃子が響き、客が手に手に鳴り物を持って踊り出したようなミスマッチぶりだった。

 しかし問題はない。
「日本の花見ってそういうものでしょ?」
 舟を手配した首謀者、いや主催者の天狼心羽紗音流(aa3140hero001)が胸を張る。
「桜の木の下で飲んだり食べたりどんちゃん騒ぎとか、風情も情緒も尻を捲って逃げ出すよね?」
 つまり、そもそも花見に風情は無縁。
 しかも舟なら木の根を踏み荒らして桜を傷める心配もない。
「これぞ温故知新、古くて新しい時代の最先端! これからの花見スタイルはこれで決まりっしょ!」

 さあ行こう、誰も見たことのない素晴らしい景色を探しに、屋形船に乗って……!

 辿るコースも見える景色も決まってるとか、何百年も前から続いてきた日本の伝統であるという事実はひとまず置いといて、紗音流はそんなノリでいつものオッサン仲間に声をかけたのだった。


 ・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥


「花見……はわかるが、ヤカタブネとは?」
 紗音流の誘いにラドヴァン・ルェヴィト(aa3239hero001)はピクリと片眉を動かした。
 ジャパンカルチャーに絶賛ハマり中のラドヴァンだが、そんな彼にとっても初めて耳にする単語だったようだ。
 船と言えば思い出されるのが、かつての世界で所持していた軍艦のこと。
 幾重にも張られた帆で風を切って進み、沿岸の国々を襲撃し、或いは国土を守っていた時代もあった……気がする。
 今となっては夢のようだが。
(「しかしヤカタとは何だ。あれか、屋敷のことか。船の上に屋敷が乗っているのか」)
 はっ、まさか河川や海を自在に移動する水上要塞!?

 そんな妄想を漲らせつつテンション高めに当日を迎えたラドヴァンは、目の前の船着き場に浮かぶこぢんまりとした船を見て、しばし言葉を詰まらせた。
「ほぉう……随分と小さい船なのだな」
 ヨットよりは遙かに大きいが、軍艦に比べれば豆粒ほどの大きさだ。
 いやいや落胆したわけではない、確かに想像とは違っていたが、これはこれで何と言うか趣がある。
(「そもそも俺様の持っていた船とは用途が違うようだ」)
 武装の類は一切見当たらない。
 船体の大部分は屋根に覆われ、その下には畳敷きの座敷が広がっている。
 柱の間にある窓や障子は開け放たれ、軒下にはずらりと提灯がぶら下がっていた。
 戦のための仕様であるはずもないーーどんでん返しで武装が現れたりでもしない限りは。
 乗組員の姿が見えないが、この舟はオートパイロットで自動的に目的地まで運んでくれるらしい。
 この世界には便利なものがあるものだ。
「なるほど、大体わかった」
 一通り観察を終えたラドヴァンは満足げに頷いた。
 しかしまだひとつ、わからないことがある。

「紗音流よ、あそこのアレは何だ?」
 一行から少し離れ、眉間に深いシワを寄せている男。
 まるで部外者のように佇んではいるが、先程からじっとこちらに注意を向けているところを見ると、無関係というわけでもなさそうだ。
「あれ、ラドちゃん知らない? え、なに誰も知らないの?」
 紗音流の視線を受け、ラドヴァンは首を横に振る。
 残る面子も横には振らないが、かといってはっきり縦に振れるほどでもない、といったところだ。
「確かうちのお嬢とは何度か会ってるはずだが、違うか?」
 榊 守(aa0045hero001)に言われ、男は眉間にシワを寄せたまま黙って頷いた。
 ということは、その執事たる守とも面識があるはずだが、生憎と綺麗なお姉さん以外は記憶に残らない仕様になっているようだ。
「我輩もちらりと見かけた程度であるな。名は何というのであったか……」
 ユエリャン・李(aa0076hero002)も記憶の片隅を探ってみるが、目当てのものは出て来なかった。
「俺の友達……の、英雄だっけ。一緒にいるの、見たことあるかも……」
 鵜鬱鷹 武之(aa3506)が友の名を告げると、男はやはり眉間にシワを寄せたまま頷く。
「あの人、優しいよね。その英雄なら養ってくれそう」
「養うとは、何だ……」
「あ、そこは気にしなくていいから!」
「気にしてよ紗音流くん」
 武之の抗議を聞き流し、紗音流は親しげに男の肩を叩いた。
「んじゃ紹介するわ!」
 しかし、そこで言葉に詰まる。
「えーと名前なんだっけ、つーか誰だっけ?」
 自分で連れて来ておきながら、なんということか。
 赤の他人を名前も知らずに引っ張り込んだのかという無言の圧力が、皆の視線から放たれる。
 しかし紗音流はそんなことを気にするキャラではなかった。
「さっき聞いたよな、ドム! じゃなくてゴムでもなくて、ほれ、あのなんかクリップっぽい……」
「ゼムだ……」
「そうそれ! ゼム!」
 その男、ゼム ロバート(aa0342hero002)は眉間のシワをますます深くして、やれやれといったふうに小さく息を吐き出した。
 そもそも自分は何故ここにいるのか。
「や、なんかこっち見てたから知り合いだと思ってさ!」

 そう、あれはつい先程の出来事だった。
 酒を買いに出たゼムは、川辺の道で何やらやたらと派手な男と行きあった。
(「目立つな……」)
 そう思って、つい見てしまったのがいけなかった。
 そこでうっかり目が合ってしまった。
 ガン飛ばしてると思われてもつまらないから、さりげなく視線を外そうとしたのだが……そいつは何故かこっちに来やがる。
(「何だ? 喧嘩でもしようってのか……」)
 上等だ、受けて立つ。
 そう思って腕組みをしつつ、ガンを飛ばしながら待ち構えていたのだが。
 戦闘態勢を整えたゼムの目の前まで迫ったそいつは、満面の笑みを浮かべながらその腕をがっしと掴んだのだ。
 抵抗の余地も与えず圧倒的な力(恐らくは非物理的な)で引きずり込まれ、今に至る。

「久しぶり〜って連れて来たけど全然知らん奴だったわ! ゴメンチョ!」
 しかし誰でも初めは初対面、こうして出会えばもうトモダチ。
「まあ飲んでけよ!」
「あぁ……」
 酒は好きだし、誘いを断るのも義理に欠ける。
 飲んで行けと言われれば、飲まないわけにはいかないだろう。
 しかし。
(「なんだこの集まりは……」)
 オッサン四人に、場違いな紅一点。
 彼等の間にどんな接点があるというのか、想像も付かない。
 更に深まるシワに今にも真っ二つに割れてしまいそうなゼムの額を見て、紗音流が言った。
「んじゃ改めて紹介ね! このマッチョがラド」
「雑だな、おい」
「寝てるのが武之」
「寝てないよぉ……寝そうだけど」
「そこの色男が守ッチ」
「ま、楽しく飲もうぜ?」
「こっちの美魔女がリャンリャンな!」
「何度か見かけたことはあったが、こうして話すのは初めてであったかな。宜しく」
 はい紹介オワリ!
「で、お前は誰だ……」
 ゼムの問いに、紗音流は憂いを秘めた仕草で真っ赤な髪を払いのけた。
「ワシは通りすがりのしがない英雄さ」
 キマッタ……。
「ハイみんなヨロシクネ!」

 わかったようなわからないような、適当な紹介であることだけはわかった気がする一連の会話を終えて、一行はぞろぞろと舟に乗り込んでいく。
 ユエリャンは今日も化粧バッチリ、タイトなチャイナ風ワンピースに足下はヒールがっつり。
 その格好では舟に乗り移る時にさぞかし大変……ではなかった。
「ま、そうだよな」
 手助けが必要かと伸ばしかけた手を所在なげに引っ込めるラドヴァン。
 案ずるべきはむしろ、そのヒールでガツンとやられたら穴が開きそうな舟の方かもしれない……なんてことは思ってません、はい。
「ほう、悪く無いではないか。でかしたであるぞ」
 ヒールを脱いで座敷に上がったユエリャンが窓から顔を出す。
「それにしても、サネルはよくこんな舟を借りられたものよな。この季節どこも予約で塞がっているであろうに」
「そこはホレ、ワシの人徳と言うかちょっとした伝手でね?」
「でも紗音流くん、お膳の数がすごく多いよ? ほんとはもっと集まる予定だったの?」
「あ、そこ気付いた武之? 気付いちゃった?」
 そう、確かにお膳の数が多い。
 座敷にはざっと二十人分ほどが、整然と並べられている。
「やっぱりさ、派手に気前よくドーンと行くのが粋な大人の遊び方だと思うわけよワシは、うん」
 ほんとはどこも空きがなくて門前払いされちゃったんだけどさー、いやー粘ってみるもんだよねー。
 団体さんの予約がドタキャン喰らって、まあキャンセル料は入ったから損はしないんだけど料理とか用意しちゃったし、勿体ないから丸ごと好きにして良いよっていうタナボタ的なアレなんだけど。
 そんなことは、わざわざ言う必要もないから黙っておこうね。
「ほら、みんなアレでしょ? 人前じゃもうオッサンだし昔ほどは〜なんてしおらしいこと言ってるけど、ほんとはまだまだ行けるんでしょ? もっとガッツリ食べたいんでしょ?」
 それでもやっぱり胃もたれが心配?
「だいじょーぶい、ワシらには胃薬という強い味方がある!」
 一人一瓶ずつサービスしておきました!
 あ、これは自腹ね!
「その気遣いには感謝する、しかし俺には必要ないな」
「なんでよ守ッチ、そりゃこの面子じゃ若い方だけど? そうやって油断してると後が怖いよ?」
「心配するな、ただのオヤジとは鍛え方が違う」
 ということで油分の補充に鶏の唐揚げを作ってきました、どーん!
「ちょ、それ軽く十人前くらいあるよね!?」
「五人だと思って一人二人前で、と思ったのだが……人数が増えてるな。足りなかったか? 舟の設備を借りられるなら、この場で追加するが」
「いやいや、逆でしょ普通! そんなに食べきれないから!」
「食べる? 唐揚げは飲み物だろう?」
 守は珍獣か何かを見るような目で紗音流を見る。
 そんな風に堂々と言われると、もしかして間違っていたのは自分のほうだったかと、つい己の常識を疑ってしまうのが人の常。
 そうだったのか、知らなかった。
 カレーは飲み物とは昔から聞くが、そう言えば最近ではトンカツも飲み物になったらしい。
 若いって良いな!
「それより綺麗どころはどうした? 舟遊びには綺麗なお姉さんが付き物だろう?」
「ああ、それね!」
 芸者のお姉さん達は人気者だからね、ドタキャンされてもキャンセル待ちがいっぱいなんだよ。
 つまり今回は「ドキッ、オッサンだらけの舟遊び!」ということで。
「花見の主役は花、この今が盛りと咲き乱れる桜の花だよ! ここは敢えて華を添えずに花を楽しもうじゃない!」
 それにほら、華なら紅一点がいるじゃない。
 男だけど。
「紗音流くんは羽振りが良いんだね……かっこいいなぁ」
 苦し紛れの屁理屈を、武之は信じた。
 そんなかっこいい紗音流くんなら、きっと扶養能力も高いに違いないと期待の眼差しを向ける。
「屋台舟で酒盛りなんて、これはもう紗音流くんが養ってくれるしかないよね」
「おう、養う養う、養っちゃうぜー!」
「ほんと?」
「ほんとほんと、ほらこの料理なんか食べ放題よ!?」
「……それはただのオゴリだよね?」
 武之が望むのはそんな刹那的な関係ではなく、生涯をかけた持続的かつ徹底的なヒモ生活なのである。
「じゃあ守くん養ってよ」
「酒奢ってくれたらな」
「無理」
「だよな」
 そんな気概があったら養ってもらう必要ないしね。
「惜しいことよな、我輩が居候の身でなければ養えるものを」
 いつもの挨拶をつつがなく終えた武之を、隅の座布団に膝を揃えたユエリャンが「オイデオイデ」と手招きする。
「家の者がやれ勝手に動物を連れ込むなだの、元いたところに返して来なさいだのと、やかましいのでな」
 今はこうして膝枕でケモ耳をモフり倒すのが精一杯。
「養ってくれないならモフらせないよ……って言いたいけど、ユエリャンくんは将来性に期待できそうだから、ツケにしてあげる」
 モフモフ一回につき一日の扶養義務が生じますので、そのつもりでどうぞ。
 更に扶養開始が一日遅れるごとに三日の利息も付きますので、ご理解ご協力のほどを。

(「……あのタヌキはセクハラではないのか……」)
 周囲をじっと観察していたゼムは、眉間のシワを深くする。
 だが本人が同意し、むしろ積極的に誘っているように見えるからには、問題はないのだろう。
「どうしたゼム、居心地が悪いのか?」
 その様子を気にして、守が声をかけてくる。
「いや、そうではない……」
「ま、慣れるまでには時間かかるか、なにしろ濃い面子だからな」
 なお自分のことは棚に上げている模様。
「まずは飲め、酒は最高の潤滑油だぞ。そして飲め」
 酒ドボドボの、唐揚げドーン。
「あぁ……」
 さすがにしっかりした人だなー気配りの出来る大人だなーと思いつつ、ゼムは素直に酌を受ける。
 唐揚げを飲めと言われたのは初めてだが、それでもマトモな常識人に見えるのは周囲との対比による底上げ効果だろう。
(「……酌をしてもらった以上、同等の対価を払わなきゃならねぇ……」)
 律儀なゼムは持っていた一升瓶を差し出した。
 そう、今日はこれを買いに出て、今頃は家でひとり静かにちびちびとやっていたはずなのに、どうしてこうなった。
 まあ正直なところ悪い気はしないが。
「おっ、差し入れか? 若いのに気が利くねぇ」
「ほう、辛口の大吟醸であるか。しかもなかなか良い銘柄であるな」
 武之の頭を膝に乗せたまま、ユエリャンが嬉しそうに話に入ってくる。
「これを選ぶとは、相当にいけるクチであろう?」
「嫌いでは、ない……」
「ならば遠慮は要らぬよ、ここの酒はどれでも好きなだけ楽しむと良い」
「そうそう、この面子を相手に遠慮してたら一滴も飲まないうちにお開きだ」
 そこに、もうすっかり出来上がったラドヴァンが一升瓶を片手に割り込んできた。
「なに、酒が進んでおらん奴がおるだと?」
 耳に入った言葉の断片から斜め上の結論を導き出して我が道を行くのは酔っ払いの特権である。
「花見で飲まずにいつ飲むのだ、飲め飲め!」
 まだ残っているゼムの杯に、手にした酒をドボドボと注ぐ。
「おい、まだ残って……」
「細かいことは気にするな! 混ぜて飲むのも楽しみのひとつよ!」
「確かに、近ごろでは日本酒のカクテルも人気であるな」
 ユエリャンはウィスキーの日本酒割りをぐいぐい煽りながら、顔色ひとつ変えずに言った。
「と言っても日本酒同士を混ぜ合わせるものではなかった気がするが……」
 まあ良いか!

「ちょっとちょっと、なんだかんだで良い感じに盛り上がってきたんじゃなーい?」
 好き勝手に飲み食いする面子を見て、紗音流が何かを閃いた。
「そうだ、野球拳しよ!」
 何の脈絡もない突然の宣言。
 いや、脈絡はある。宴会芸と言ったら野球拳からの裸踊りが鉄板でしょ!
「野球拳? いいねぇ……っと、ゼムは知らないか」
 ゼムの眉間に宿る影が「?」マークになったのを見て、守が解説する。
「野球拳ってのは、じゃんけんで負けた奴が一枚ずつ服を脱いでくって遊びだ」
「服を脱ぐことに、どんな意味が……」
「意味はない」
 だが、何故か楽しい。
 たとえ脱がせる相手がオッサンであっても。
「ただ、まあ野郎の服脱がしても嬉しくないから、負けたら酒飲めばいいんじゃね?」
「綺麗どころもおらんのに、何が哀しくてオッサンの裸を拝まねばならんのだ」
「サネル、貴様本当にデリカシーが無いであるな」
「養ってくれるならやるよー」
 最後の一人はともかく、メンバーから総スカンを喰らっても紗音流は動じない。
 動じるはずもない。
「オッサンだらけで何が面白えってバカ! オッサンが裸になっても面白くねえのにやるから面白いんだろ!」
「わからん……」
 己の理解を超える超展開に、ゼムの眉間にますます深い谷間が出来る。
「さあゼム、おぬしもその暑苦しい装束を脱いで開放感に満たされるが良い!」
「こうなったら腹を括るしかない、か」
 守も諦め顔で……と言うより明らかにノリノリな様子で頷いている。
「やらねぇ……」
 良識のあるマトモな常識人だと思っていた守も、やはり同じ穴のムジナだった。
(「……さすがはこの面子に難なく溶け込んでいるだけのことはある、ということか……」)
 迂闊だった。
 しかし、ならば自分は最後の砦としてあの紅一点を守らねばならぬ。
 ならぬというのに……
「はい決定ー!」
 眉間の谷間も、主催者様のご意向の前には無力だった。

「プレイボール!」
 大人の事情でここからは一部音声カットでお届けします。
「アウト! セーフ! よよいの……」
 そして始まる阿鼻叫喚。
「我輩、じゃんけんには些か自信があったのであるが」
 ユエリャンは首のストールをするりと解いた。
 ついでのノリで、解いたストールを指先でつまんでヒラヒラさせながら、パチンとウィンクなどを飛ばしてみる。
 途端、周りのオッサンどもから一斉に茶色い歓声が上がった。
「いいぞー! もっと脱げー!」
 この際事実はどうでもいい、そして最後にその厳然たる事実を前に奈落の底に落ちるが良い!
 しかし、無情にも投げられたタオルならぬ漆黒のマント!
(「気心の知れた者同士、しかも酒の席とは言え……女に肌を晒させるわけにはいかねぇ……」)
 勘違いゼムの余計な世話、いや気配りによって、無慈悲な真実は闇の中に葬られた。
 めでたしめでたし?
「ならば俺は男の色気で魅せる!」
 シャツの第三ボタンまで外した守は、その長い指で女性の髪を絡め取るように、さらりとネクタイを外した。
 この場に女性がいれば、たちまちピンクの歓声が上がるに違いない。
 しかし哀しいことに、ここはオッサンだけの暑苦しいパラダイス。
「なんの、色気より筋肉! 見よ、この鍛え上げた肉体美!」
 ラドヴァンはいつもの「食いだおれ」と書かれた変Tシャツを引きちぎらんばかりの勢いで脱ぎ捨てる。
「どうだっ!」
「ふーんだ、筋肉ならワシだって負けてないもんねー!」
 ばーん!
 紗音流も勢いよく諸肌脱いだ。
「ほれ見ぃ、この鉄壁の大胸筋!」
 既にじゃんけんはどうでもよくなっていた。
 これはただの筋肉自慢大会。
「ならば俺様は背中で勝負だ! 見よ、この見事な僧帽筋と広背筋、それを支える脊柱起立筋のゴールデントライアングル!」
「いやいや、女性にアピールするなら腹筋だろ! 細マッチョのシックスパックこそモテ男の鉄板!」
 真っ白なシャツを左手で肩に掛け、右手を腰に当ててセクシーポーズを決める守。
「……、…………、………………」
 その光景に、ゼムは言葉を失っていた。
 あまりのアホらしさに呆れてのことではない。
(「なんだ、こいつらは……」)
 世の中に、こんな見事な筋肉があったとは。
(「筋力なら誰にも負けねぇ……そう、思っていたのに……!」)
 それは井の中の蛙が大海を知った瞬間。
 そう、周囲に筋肉メンズが少なかったために、我こそが頂点と思い上がっていたのだ!
 そのことに気付かされただけでも、この集まりには意味があった……多分……。
 有意義な時を過ごせた……と、思う……。

「それそれ、もっと飲めぇ!」
 すっかり正体をなくした男どもは、それでも杯を煽る手を休めない。
「花見は盛大に、飲み会は大賑わいに。この国の文化の好ましいところだ、余暇を楽しむすべを心得ている」
 ラドヴァンがしみじみと呟いた。
 ただし、皆の耳には「はらみはふぇーらいに、のみふぁいはふにゃららほにゃー」としか聞こえなかったけれど。
「花は良いよな。この世界はとても美しい」
 筋肉祭の会場からそっと抜け出したユエリャンは、窓の桟に腰をかけてひとり花見酒を楽しんでいた。
 花見と言いつつ、誰も花など見てはいないーー自分以外には。
「賑やかなのも、それはそれで良いものよ」
 花を見ない花見も良い、武之のように食べるだけ食べたら尻尾に顔を埋めて寝てしまうのも良いだろう。
 けれど今のユエリャンは、静かに花を愛でたい気分だった。

 水面にはらはらと花びらが舞い降りる中、屋形船は静かに川を下って行く。
 岸辺の桜を透かして、船着き場が遠くに見えた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa3140hero001/天狼心羽紗音流/男性/外見年齢45歳/迸る大胸筋】
【aa0045hero001/榊 守/男性/外見年齢37歳/冴え渡る腹筋】
【aa0076hero002/ユエリャン・李/?/外見年齢28歳/唯一の花見客】
【aa0342hero002/ゼム ロバート/男性/外見年齢26歳/筋肉道の奥深さを知った】
【aa3239hero001/ラドヴァン・ルェヴィト/男性/外見年齢46歳/漲る僧帽筋】
【aa3506/鵜鬱鷹 武之/男性/外見年齢36歳/初志貫徹】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました、お楽しみいただければ幸いです。

誤字脱字、口調や設定等の齟齬がありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。
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2018年06月11日

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