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『エステから花魁物語? 』
松本・太一8504

●美女
 松本・太一は実年齢よりも若く見られる男性で、会社員。色々あって女悪魔と名乗るモノに乗っ取られかけ、魔女になった。
 そこから、また色々あって、昨晩は疲労とともに寝、今朝は電話とともに起きた。
 起きた時は女である自分も、魔女としての呼称で呼ばれても、受け入れる自分もいた。芸能プロダクションと会う約束をした。
 そのあと、違和感から状況を思い出す。
「魔女の姿ではないですし、あのヒトの声も聞こえない?」
 女悪魔は太一の中にいるが、エステ前後から声を聞いていない。
「夢? 彼女に干渉されないことはいいですが、これは確実に悪夢ですよね」
 一方で、現実であるという思いも強い。そのため、会社にメールで休む旨の連絡を入れることにした。
 しかし、どこを見ても会社の連絡先がなかった。
 個人の荷物ですら、情報が書き換えられている。
「知り合いに連絡を取るとそこからまた変化が進むこともあり得ます。最善はあのエステで戻してもらうこと……」
 どう影響が出るかわからないと動きようがない。昨晩、どうやって家まで帰ったかは鮮明に覚えている。
「服は、昨晩着ていた……き、着てい……っ」
 マキシ丈のスカートは問題ない。その上着は肌の色に近い色合いのトップレスに、ゆったり袖でざっくりと編まれた黒のカットソーを重ねるもの。
 普段のワイシャツはあるが、胸回りの影響で着ることができず、服に選択肢はなかった。

●懇願
 商店街は見つかった。
 しかし、記憶にあるようなシャッター街ではなく、適度ににぎわう場所だ。
 記憶通り進むと、工事中の鉄板に囲まれた空き地についた。
 商店街の範囲をくまなく歩いたが、あのエステは発見できない。
 昼食をはさんだ後、聞き込みをした。
「すみません、ヴェスティビュールというエステ知りませんか?」
 しかし、知っているといって教えてくれた場所は微妙に違う。試しに行くがやはりどこか違う。
「おかしい……あ、プロダクション」
 連絡は取れ、場所を聞くのは不自然だったので何とかエステの連絡先を聞きだした。
 そして、エステに電話すると昨晩の女性とは違う声で応対がある。特徴的な言葉遣いの女性とやり取りの結果、目印も教えてくれた。
 教わった通り進むと、最初に行った場所であった。建設中ではなく、植木鉢の寄せ植えで飾られた階段と通路がある建物だ。
「非常に嫌な予感しかありません」
 意を決し中に入った。
「いらっしゃいませ……先ほどの電話のお客様ですのん?」
 首をかしげる美しい若い女性は小麦色の肌であり、露出の多い服装の上に白衣をまとっている。くりくりとしたアーモンド形の目が太一をじっと見ている。
「はい。あの、昨晩いた女性は?」
 太一は質問をした。
「店長ですわん」
 なぜか語尾に小さな「ん」が入るらしい。
「店長さんはいますか」
「あいにく、今日はお休みですのん」
「いつ来ます?」
「予約は別に今でもできますのん」
 予約を直接取りに来たと思ったらしい。
「実は……戻してください!」
 太一の今日来た要件だ。
 女性はきょとんとする。太一を上から下、下から上と何度か見て、首を傾げた後、ポンと手をたたいた。
「ああ、お客様は呼ばれてきた方ですねっ! そういえば引継ぎにありました! そもそも、戻るてどうやってですう?」
「え?」
「日本のことわざに、覆水盆に返らずっていうのがありますのん」
 太一は冷や汗がどっと出るのを感じた。
「テーブルのミルクは戻らないというのもありましたっけ?」
 女性の表情がにんまりとなった気がした。
「そそそそんな……これは、夢で」
「夢? 素晴らしい夢ですわん!」
 女性は両手を広げた。

●なぜ衣装?
 個室というか処置室というかに話し合いということで入る。
「あなたはなんという名前ですのん? 夜宵ですのねん。ふふ、どいう格好が一番よいでしょうかねん」
 女性は鼻歌交じりに、スキップするように、クローゼットに消えていく。
「ちょ、待ってください。元に戻るという話を!」
「あたしはできないですのん」
「なら、店長を!」
「えええ。まず、あなたの能力を開発しましょう? さ、こちらを着てください」
 イブニングドレス、小袖、どこかの企業の制服。
「このラインナップは」
「あなたの能力の開発ですのん」
「能力? 能力ではなく、似合う似合わないではないのですか」
「ささ、着替えるのん」
「うわあああ」
 太一の服に手をかけ、問答無用で脱がし始める。
「やめて」
 太一が上着を抑えた為、彼女は問答無用で、スカートに手をかける。
「う、うわああ」
 それを太一が抑える。今度は上着を脱がそうとする。
 結果から言うと、着衣が乱れていく。
「あはん! これはこれでいいのん」
 頬を上気させ、妙に息粗く、店員が太一を熱っぽく見つめる。
「……ぐっ」
「さあ、脱がせてあ・げ・る、のん!」
「自分で着替えます!」
「ええー、手取り足取りしてあげるのにん!」
 店員は不満そうに頬を膨らませる。
 太一はクローゼットに行って脱ごうとしたが、ここで着替えろと指示された。女同士だとあきらめた。
 視線が恥ずかしい。
「それで……店長さんの予約を取れば、戻れるんですか」
「覆水盆に返らず、ミルクは戻らない」
 店員は繰り返す。
 店長に合わせてもらうために大人しく太一は三種類をそれぞれ着た。あつらえたかのように、ぴったりで恐ろしい。
「あはー、どれもいいのねん! あー、でも、これがいいかなん」
「今日は帰り……」
「さあ、次はこちらを」
「あ、服は!」
「さあ、こちらを着てくださいん」
 店員が用意したのは、幅広い立派な帯、錦のころも、どれをとっても美しく重い着物。髪の毛の問題でかつら。
 かつらは確実に人間の頭四つ分はありそうな大きさ。かんざしもいくつも刺されているし、かんざし自体がきらびやかだ。
「……花魁?」
「ぴんぽーん! さあ、着ましょうねん。これは独りでは無理ですのん」
 太一は肌着部分を着た後、店員は喜々として着つけていく。
「あたしがこの店で見る中でいっちばーん、似合っているのん」
 椅子に座る太一は動けない。
(重い、この衣装重すぎる……)
 十二単も重いという。衣類を重ねれば重ねるほど重くなるのは道理。この着物の場合は、生地がもっと厚いし、かつらも重い。
「素敵」
 店員は化粧を太一に施した後、彼の首に両手を巻き付けるようにしがみつき、熱っぽく見つめる。
 化粧自体に何か【呪】が紛れ込んでいたが、太一は気付けなかった。いや、彼の知識になければ気づけないのは致し方ない。
「これでおしまい」
 パンと女性は手を打った。
 太一は衣装の重さとともに、意識がストンと落ちた。男に戻るか否かよりも、この格好でやるべきことがある、やらないといけないという決意が固まっていた。
 意識が飛ぶ。

 しゃなりしゃんなり。

 気付けは撮影現場にいる。
 待ち合わせはどうしたのか、どうやって行ったのか。
 タクシーで行ったに違いない。

「夜宵さんの花魁道中からの……夜の始まり……もっと、こちらに視線を! 男を落とすどころか、寄せ付けないような、それでいてはかなげな……ああ、素晴らしいです」

 カメラマンが興奮した声をかける。それに合わせるように太一は動く。
 なぜ動くか?
 これが仕事だから。
 撮影現場でため息が漏れる。
 美しさそして呪いが満ち――。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
8504/松本・太一/男/48/会社員・魔女
???/エステの店員/女/20代/エステの店員


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 どこから夢で夢でないのか?
 現実で夢ではないのかもしれません。
 発注ありがとうございました。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年06月18日

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