▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『マシュマロの翼は天獄への標 』
天城 初春aa5268
 5月の徒桜。
 5月にH.O.P.E.が誇るテレサ“ジーニアスヒロイン”バートレットによって開催された重体いっぱい、海老反りいっぱいな花見事件の呼称である。
 そこで発覚した事実は「テレサの手料理を複数回食すことで“酔人”化する危険性あり」、「酔人は元々、テレサのメシ毒(すでにマズイの域は遙か彼方である)隠蔽班である互助会のメンバーだった」。
 このふたつが意味するところはなにか?
 天城 初春にとっては実に簡単な問いだ。
「互助会はもう、わらわの敵ってことじゃ」
 徳利に詰めた甘酒をぐいー、ぷはー。
 甘酒はうまい。テ料理は酷い。どちらも等しくノンアルコールでありながら、初春の心を甘く酔わせてしまうのだ。
 と、そのとき。彼女のライヴス通信機がささやかなコール音を鳴らし。郵便受けにことり、なにかが差し込まれて落ちた。
「なんじゃ?」
 拾い上げてみれば、それは古式ゆかしい封蝋でとめられた封筒で、内には一枚のメッセージカードが。
 ロンドンの某企業ビルにてテ料理の会が催される。来られたし。
「送り主は酔会――酔人の方々の会』
 ああ、行かなければ。あの天獄へ逝くために。
「ふははー! 滾ってきたのじゃああああああ!」


 ロンドン行の航空機は定刻どおりに飛び立った。
 オレンジジュース――国際線の規定で甘酒は持ち込めない――をすすり、初春は景色を覆い隠す雲海に目をやった。
 機内食は断った。これから死ぬほど食らう(意味深)のに、どうでもいいもので腹を満たすものか。
 あとはただ、一秒でも早くロンドンへ着いてくれと祈るばかり……
「この機は我々がジャックした!! 全員シートベルトを着用し、両手を首の後ろに組んで顔を伏せろ!!」
 唐突にハイジャックどもが登場!
「わらわの邪魔してくれてんじゃねぇんじゃああああああ!!」
 唐突に初春ドロップキック!
 しかしバラクラバを装備したハイジャック犯は容易くその脚を掴み止め。
「天城 初春。酔人化が進む前に適切なテ抜きが必要だ」。
「おぬしら互助会か!?」
 互助会がテ料理の会についての情報を掴んでいるかは知れないが、なんの縁もないロンドンへ六歳児がいきなり単身旅行など、普通にありえまい。いや、これは単純に、酔人候補者の初春をマークしていたと見るべきか。
 とにかくバラクラバの腕へしがみついて抵抗する初春に、彼は痛ましい目を向け、かぶりを振った。
「君は矯正施設に送られ、外界からシャットアウトされる。なに、苦しいのは最初の2年くらいだ。無意味に穴を掘って埋める毎日を過ごしていれば、そのうちに落ち着くさ」
「それただの拷問じゃよね!?」
 歯がみする初春だが、バラクラバの一団はすでに機内の制圧を完了しつつある。このままでは一生日の目を見ることなく自分の掘った穴の中で朽ち果てることになる!
「わらわが逝くのは地獄ではない、天獄じゃっ!」
 ぶふっ! 口に含んでいたオレンジジュースをバラクラバの目に吹きつける。果汁の酸で目を痛めたバラクラバがひるみ、初春の脚を放した。
「天城サーン! ナイスきっかけデース!」
 客席のあちこちから立ち上がり、互助会へ襲いかかったのは、5月のあの日に肩を並べて海老反った酔人たちだ。
「ミーの称号を知りませんか? “風紙”デスよ!」
 互助会の麻酔弾幕を、まさに風に巻かれた薄紙のごとく華麗にかわし、その口へ砂糖をイン! どうやらテが加わっているらしい砂糖は、互助会員をその激マズで悶絶させ、崩落させた。
「ここはワタシたちが抑えるわ! その間に操縦席を!」
 テに侵されしマシュマロをぼこぼこ互助会員の口へ撃ち込むジャックポットは唇で刻む。ワタシたちの新しい妹よ、と。
「酔人ども、いったいどこから潜り込んだ!? ちっ、全員まとめて矯正施設送りにしてやれ!!」
 かくて狭い機内で激戦が展開される――と、航空機が大きく傾いて、不幸にも巻き込まれた一般客たちが悲鳴をあげた。
 コントロールを奪った互助会が、この機を引き返させようとしているのだ。
「急ぎますのじゃ!」
 初春はオーマイオーマイと騒がしい小太りのおっさんがシートベルトを着用していることを確認、斜め前に位置する非常口を開放した。
 勢いよく吐き出される脱出スライド。互助会の見開かれた目が殺到するが……初春の姿はなかった。まさか外へ!?
 結論から言えば誤りである。
 初春は外へ飛び出したと見せかけ、頭を低くして機の前部へ駆けていた。非常口を開けたのは互助会員の目を逸らすための策だったのだ。
 さすがに共鳴しておらんわらわが外に出るのは無謀じゃからの。
 ここまではなんとかうまくいったが、問題はこの後だ。敵である互助会員は酔人に劣らぬハイレベルリンカー。操縦席にいる互助会員を、果たしてこの六歳児の体ひとつでやり込められるか……。
 それでもやるしかないんじゃ!
 幸い、操縦席へ続くドアは強力な火器で鍵を壊されており、出入りフリーの状態にある。
 初春は息を整え、一、二の、三! 内へ転がり込んだ。
「あなたが天城 初春ね。共鳴はしてないみたいだけど、酔人である以上は処理するだけよ」
 滑るように初春の眼前へ踏み込む女。
 初春は横に転がろうとして、つんのめった。黒袴の裾を踏まれている!
「今日から互助会の一員になったメアリー・スーよ。エージェントとしてもまだルーキーだけどね」
 体勢を崩した初春の延髄にハンドガンのグリップを振り下ろした。
 重心を下げることで自らの転倒を防ぎ、さらに初春へダメージを与えて必中を為すために。
 この女子、ずいぶんと荒事に慣れておる!
 初春は体を返してグリップを受け止め、銃にしがみつく。すぐに振り払われるが、その勢いをもって強引に前転、裾を引き抜いて立ち上がった。
 酔人たちが初春をここへ向かわせたのは、メアリーという女が互助会の内で最弱だからだ。共鳴していないとはいえ、修羅場の経験に勝る初春を信じて。
 ならばそれに応えるのが道ってもんじゃろ!?
 一瞬ジャックポットかと思ったが、それならエージェントになる前の経験を今に持ち込む必要はない。だとすれば、カオティックブレイド。
 なるほど、客席の掌握に連れて行かれなかったのは、万一の心配からじゃな。スキルを飛ばされて動揺すれば、反射的に範囲攻撃を返してしまうやもしれぬ。
 結局はその程度のルーキーなのだ。だからドレッドノートにしてシャドウルーカーである初春に、容易く間合を与えてしまう。さらには“こんなこと”までさせてしまうわけで。
「撃たぬほうがいいですじゃよ?」
 はったりと見たメアリーはためらわずに撃ち、その手の銃が爆ぜた。
「な!?」
 初春は先に銃へしがみついたとき、その銃口へマシュマロを詰めていた。新たなる姉がこぼした、あのテのひと粒を。
 驚愕に開かれたメアリーの口へマシュマロを突っ込んで悶絶させ、初春は機長に鋭く命じる。
「わしらはH.O.P.E.のエージェントですじゃ! ハイジャック犯はわしらが片づけますゆえ、機長殿はロンドンを目ざしてくだされ!」
 そしてマシュマロをぱくり。ちょっとだけ海老反って。
「テが薄いぃ! こんなんじゃダメダメなんじゃよおおおおお!!」


 かくて酔人によって非常口を応急処置された航空機は、30分遅れながら無事ロンドンへと降り立った。
 しかし、互助会がこんなことであきらめるはずがない。
「だからってわらわもあきらめたりしなんだがの」
 初春は酔人たちと共に踏み出し、踏み込んで行く。
 天獄へ続く茨の黄泉路へ――


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【天城 初春(aa5268) / 女性 / 6歳 / 鎮魂の巫女】
【メアリー・スー(NPC) / 女性 / 19歳 / 復讐者】
シングルノベル この商品を注文する
電気石八生 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2018年06月19日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.