▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『ないものねだり 』
ミコト=S=レグルスka3953)&ルドルフ・デネボラka3749

 間違ったことはしていない、頭ではわかっている。
 自分は最善な事を選択していて、彼女は破天荒だ。
 なのに彼女の煌めきは眩しくて、だから、どうしようもなく羨望を向けてしまう――。

 +

 幼いころから、ミコトは間違った事が許せなかった。
 理屈立てて説明する事は出来なかったけど、自分には自分の信じる正義があって、それに反する事をしてる人を見ると、どうしようもなく口を出さずにはいられなかった。

 完璧じゃない女の子をいじめるのは、悪い事。
 子供だからって大人の事情を押し付けるのも、悪い事。
 彼らは色んな理屈を振りかざしてたけど、その多くに自分は納得出来なくて、それに食ってかかっては誰かと衝突していた。
 ミコトは憤懣に満ちていた。
 慕われる事もそれなりにあったが、疎まれる事も多くて、多くの視線は自分を少し遠巻きにしていたけれど、控えめながらも変わらず傍にいてくれたのは、ルドという名の少年だった。

「女の影に隠れて、恥ずかしくないのかよ!」
 その日、聞き捨てならない事が聞こえてきて、足を止めた。
 囲まれてたのは、当のルドだ。囲んでいるのは以前似たような情況でミコトが追い払った連中か、ルドは何も言わず、投げつけられる言葉にじっと耐えている。
「片親だから憐れまれてるってわかるか、お前?」
 続きを聞く必要はなかった、飛び出したミコトは即座にそいつをぶん殴った。
「お前、この前の……!」
 幼児に紳士さなんて求めるべくもない、暴力を振るわれた子供は、当然のように暴力で応じた。振り抜かれた拳がミコトの顔にめり込み、ミコトはそいつの服を掴んで、殴る蹴るひっかくの大乱闘に発展した。

「お前たち、何をしている!」
 大人が気づいたのは早い方だったか、いや、見れば大人を連れて来たのはルドだった。
「こいつがいきなり殴りかかってきたんだ!」
「違う、ミコトちゃんは僕を庇ってくれた」
 子供には中傷だの難しい説明は出来なかったけど、ルドはなんとかミコトが一方的に悪者にされる情況を避けた。
 公平な裁定は期待出来そうにもなかったけど、とりあえずはそれでよかった。
「行こう、ミコトちゃん」
「……うん」

 …………。

 二人は暫し無言で歩いていた、誰もいない場所を探して、足を止めると、ミコトはぽつりと呟いた。
「わたし、そんな理由で庇った訳じゃないよ」
「うん、知ってる」
 ミコトが手を出したのは彼女の正義感から来るもので、良く言えば純粋で、しかし言ってしまえば独りよがりな、ルドの事は「たまたま」に過ぎなかった。

「でも、ああいうのは良くないと思う」
 何を言ってるんだろうと自分で思わなかった訳じゃない。
 助けられたのはルドなのだ、それが助けてくれた少女に苦言を呈するとは。
「間違ったことはしていないもん」
 言いがかりで誰かをなじるのは、悪いこと。それを止めようとした事はミコトにとって正しくて、でもそれを認めてもらえないのかと思うと、無性に悲しかった。
 みんな正しい事も悪い事もわかってるのに、どうしてその通りに出来ないの?

「……うん、そうだね。ミコトちゃんは間違っていない」
 正しいとも言わなかったあたり、この時点でルドは大人びていた。もしくは、迫害によって物分りが良くならざるを得なかった。
「でも、それでミコトちゃんが殴られたのが、僕は嫌だった」
 間違ったことは口にしていない、だが正しさは彼女を守ってくれないのだ。
「ミコトちゃんはすごいと思う、皆が怖がって口に出来ない事を口にしている」
「そう、なの?」
 ルドは淡々と――ミコトにわかってもらうために割と必死だった――言葉を連ねるが、ミコトにとっては驚きの連続だった。
 ミコトの事を認めてくれたのは、ルドが初めてだった。否定をしなかった人はいるけど、曖昧なごまかしが多くて、ミコトとまともに向き合って言葉をくれた人はルドが最初だった。
 ルドは皆が怖がってると言った、正しい事をいうと矛先が自分に向くから。ルドがそう言うと、今まで抱いていた憤懣が和らぐ気がした、怖がる事は、責められないから。

「俺はミコが傷つくと、悲しい。だから、ミコの安全も考えた方法で、やって欲しいって思ってる」
「……うん!」
 だからだろう、ミコの信頼を勝ち取ったルドの言葉を、ミコは聞く気になれた。
 ルドが良くないというなら、きっとそれだけの理由があると。

 ……これはあくまで、きっかけのお話。
 二人は性格と行動をすり合わせるのに、それなりに苦労する事になる。
 ミコの「いける」はルドにとってダメな事が多くて、でもそれを止める前に、ミコが実行に移してしまうからだ。

 …………。

 そしてやってくる正座、お説教である。
 やらかす度にこれを受けるのは今でも相変わらず、ルドは理不尽な事は言わない、思慮を重ねた言葉が彼のいいところだ。

「お菓子の食べ過ぎで夕飯を食べられないのはどうかと思うんだ、ミコ」
「あはは……」
 弁明なんて出てくるはずもない、全面的にミコが悪い。
 反省はしている、割と真面目に悪いと思っている。でもルドのまっすぐな言葉が心地よくて、ミコはそれに対する好意を禁じ得なかった。
 ルドの言葉は、あの時からずっとまっすぐに自分に向けられている、それが大切で仕方がない。

 ちなみに今回の経緯はこうだ。
 親友のバレンタイン作りに付き合った、失敗した、失敗品を責任持って自分で食べた、夕食が入らなくなった。
 ――二日連続で。

「ご飯を残すのは悪い事だし――」
 作った人も悲しいよね? と問いかけられると、ミコトもしゅんとして頷かざるを得ない。

「あのね、ご飯を残したのは、本当にごめんなさいって思ってるんだけど……」
 タイミングが悪い、しかし言うのは今でなくてはならない。
「今日作ったのちゃんと成功したから、皆の分もあるんだ……!」
「それは――うん」
 ご飯を残すのは悪い事だが、だからと言って心尽くしをなしにしていい訳もない。この世界の冷蔵庫は希少だから、食事の冷蔵は効かないのだ。
 どう着地点を探したものかとルドは少し思案して。
「……次からは試作は小さめにね?」
 ミコが頷いたので、ルドはお説教をそれで引き上げる事にした。
 受け取ってくれる気になったのが伝わったのか、ミコトは走って部屋を往復し、簡単な箱を被せた皿を持って戻ってくる。
「これはね、ルゥ君の分!」
 六等分されたザッハトルテの一切れに、ホワイトチョコでルドルフの名前が書かれていた。
 仲間は皆大切だ、でも個人もそれぞれちゃんと大切にしてるから、全員分細いチョコペンで頑張った。

「――。ありがとう、ミコ」
「うん、あのね、いつも怒ってくれて有難う」
 怒られて感謝を伝えるなんて変だろうか、変じゃないとミコトは思っている、だってルドは自分のために怒っているってちゃんとわかるのだ。
「俺は――」
 どう伝えたものかとルゥ君が言葉を探す素振りを見せる。
 奥底に感じるのは遠慮だ、自分はミコが思ってるような素晴らしい人間じゃない、真っ直ぐな言葉を貰うのに値しないと言いたいのが伝わってくる。
「ルゥ君はいつも私の事を想って言葉をくれるよ」
 ルゥ君が言えないのなら先手必勝だ。いや、きっとルドは正しい、ミコのような純粋さをルドは持ち合わせてなくて、そんな自分を引け目に感じている。
 それでもミコはルドを素晴らしいと感じてたし、それを伝えるのに躊躇はしなかった。
 ルドにどんな打算があろうと、その一点だけでルドを信じる事が出来た。
「……うん、有難う」
 こんな自分を信じてくれて。
 言葉にはまだ少しの自嘲があったけど、響きは少しだけ前向きだったから、ミコも今はそれで良しとした。

「バレンタインおめでとう、ルゥ君」
 世界を見失いかけてた自分の手をとってくれた人に、感謝と好意を。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka3749/ルドルフ・デネボラ/男性/18/機導師(アルケミスト)】
【ka3953/ミコト=S=レグルス/女性/16/霊闘士(ベルセルク)】
WTアナザーストーリーノベル(特別編) -
音無奏 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年06月22日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.