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『『黒髪』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 カーテンの隙間から、明るい光が射し込んでいる。
 外からは行き交う車の音が聞こえてくる。
 それから、学校に向う子供たちの声も。
 今日はとくにイベントのない普通の平日だ。
 とはいえアレスディア・ヴォルフリートにとっては、連勤後の休日の朝だった。
 普段より少し遅く起きたアレスディアは、顔を洗い、部屋着に着替え鏡の前に座っていた。
 彼女の髪はとても長く、手入れに時間がかかる。
 櫛をとり、時間をかけて丁寧に、アレスディアは自らの銀色の髪を、梳いていく。
 鏡を頼らずとも、毛の半ばから下は、髪も櫛も視線を落とせば直接見ることができる。それほどに長い。
 毛先の絡まった髪は指でほぐし、また櫛を通していく。

 こうして髪を梳いていると、思い出す……。
「私の髪は、黒かった」
 そう、彼女の髪は、生まれた時は黒かったのだ。
 あの日が訪れるまで。
「母と同じ、黒髪だった……」
 母と同じ色の黒髪を、母に梳いてもらうことが好きだった。

 アレスディアは子供のころから、女性らしいことには縁がなかった。
 父に稽古をつけてもらうか、男の子たちに混ざって、負けじと野山を駆けまわるばかりだった。
 だけれど家に帰ると、彼女は何よりも真っ先に母の元に向かった。
 手や体を洗うことやおやつを食べること、着替えることよりもまず、母のところに駆けて行ったのだ。
 アレスディアの母は病気がちで、1日の大半をベッドで過ごすことが多かった。
 泥汚れもそのままに駆け込むアレスディアを、怒ることも叱ることもなく、母は彼女を迎え入れてくれた。
 アレスディアは毎日勢いよく、野山で見たもの、男友達との競争の結果などの1日の成果を目を輝かせて母に話した。
 母は、彼女をベッドの端に座らせて、話を聴き、相槌を打ちながらアレスディアの乱れた髪を梳いてくれたのだ。
 その母の細い指。
 母の櫛。
 ベッドに広がる、同じ髪の色――。

 アレスディアの脳裏に母の姿、そして胸に母への想いが溢れてくる。
「……母が亡くなったとき」
 アレスディアは櫛を持つ自分の手を開いて、視線を向けた。
「私の手を握り、手渡されたものは見慣れた、母の櫛だった」
 今、手の中にあるシンプルな白い櫛とは違う。
 あの時渡された、母が大切にしていた櫛。自分の髪を梳いてくれた櫛は、今は彼女の手の中にない。
 母が亡くなってからも女性らしいことに縁なく過ごしてきたアレスディアだったが、渡された櫛で、髪を梳くことは欠かさなかった。
 だが、その櫛は……大切な唯一の形見も、紛争の最中に失ってしまった。

「嘆くつもりはない。ただ」
 鏡の中の自分を見つめる。
 手の中に、母の櫛はなく。
 鏡にも、母と同じ黒い髪は写っていない。
「母との繋がりさえも失われたような……そんな気が、しているだけで」
 鏡の中の自分に語るかのように、呟いていた。
 鏡の中に、手に持つ櫛の感触の中に、母の面影を探す。
 似ている部分はあるにしろ、華奢な体で病弱な母と、健康で鍛え抜かれた体のアレスディアでは、随分と違う。
 母が生きていて、自分の隣にいたとしても。母娘だと気付く者はいるだろうか。一見してわかる繋がりは――あるだろうか。
 再び、髪を梳き始める。
 母が梳いてくれた感触を思い出すため。
 アレスディアに向けた、優しい目を思い出すために、そっと目を閉じた。

 目を開けば、映るのは銀色の髪。
 母も、過去の自分も、いない。現実の今の姿。
 ふっと軽く切なげな笑みを浮かべ、アレスディアは立ち上がる。
「今日はディラ殿と下見の約束がある。遅れるわけにはいかぬな」
 ディラ・ビラジスとは昼前に、現地で合流する予定だった。
 手早く朝食を用意して食べると、準備をしてアレスディアは外へと歩き出す。

 街に夏が訪れようとしている。
 強い太陽の光が、なびく彼女の銀色の髪を、美しく煌めかせていた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、ライターの川岸満里亜です。
まずは、先日のノミネート操作ミス、大変申しわけありませんでした。
今後は十分気を付けます。
引き続きのご依頼、本当にありがとうございました。

刻まれた傷跡は消えることはないでしょうが、アレスディアさんの髪は、元のお母さまと同じ色の髪に戻ることがあるのでしょうか。
過去のお話しも、今後の展開も楽しみにしております。
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年06月25日

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