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『人の夢、花の現実』
花邑 咲aa2346

 甘いのだろうか?
 愚神から、共存の手を差し伸ばされた時は嬉しかった。
 争わず、誰の命も失わず済む世界を見ていた。

 自分の“夢”の中で

 嘲笑うかの様に、愚神達は信頼という言葉を踏み潰した。
 それでも、信じる仲間は“モノ”の様に己を差し出し“信念”を貫いた。
 揺れる心に、トドメを刺すかの様に現実を叩きつけられた。

 花の名を冠する女王は、実際に頬を叩いたかの様に“現実”を見せた。

 そんな現状を目の当たりにし、燃えて灰と化した花畑を呆然と見つめながら、英雄に手を引かれながら家路についた。
 それから気丈に振る舞っている花邑 咲(aa2346)は、自身の精神が弱っているのにも気付かないまま、おぼつかない足取りで町を歩く。
「えっと、確かこの道を……」
 以前行った喫茶店への道を思い出しながら、咲が歩いているとショーウィンドウに飾られた垂れた耳が愛らしいロップイヤーのぬいぐるみが目に映る。
(ふかふかしててやわらかそう)
 丸い瞳と視線を合わせると、咲は自然と口角が上がりお店の中に入ると、店員にショーウィンドウのぬいぐるみが欲しいと伝えた。
「良かったわね。ほら、お嬢さんの手でリボンを結んであげなさい。今日がこの子の誕生日になるわ」
 店員が赤いリボンを咲に差し出す。
「ふふ、そうですねー」
 咲は、ロップイヤーのぬいぐるみに赤いリボンを結んだ。
 お店を出て、再び喫茶店への道を歩きながら少し湿った風が頬を撫でると、羊雲の合間から顔を出す太陽を見上げた。
 眩しさのあまりに、目を細めつつも目的の喫茶店へ入る。
 淹れたてのカモミールティーのりんごの様な香りが、優しく咲を包み込み膝に乗せたぬいぐるみの頭に顔を埋める。
 激動の数ヵ月、上海の海で2体の愚神が戦う……正確には『古龍幇』に行方不明だった愚神を案内して、従魔に襲われたから守った。
 その時から、目まぐるしい早さでH.O.P.E.本部に受け入れられ、お茶会したり遊びに出掛けたり等の交流があった。
 それまでは良かった。
 良かったのだが、人々の異変に伴い調査をしていく内に“黒”と伝えられた時は、胸が締め付けられる様な感覚が咲を襲った。
 あの時の交流は、何が意味をしているのだろうか?
 元々、こうなるのを知っていたからやった事なのだろうか?

 いや、彼の反応が正しかったのかもしれない。

 目の前に現れた愚神に対して、敵意を剥き出しにしていた。
 ほっといたら、戦闘が起きる事態にただ手を伸ばして触れる事しか出来なかった。
 皆、言葉を掛ける中で。
 それから花畑の事があって、これからきっと『花を統べる女王』と戦わざるえない状態になるだろう。
 咲自身は、大切にしたいと思う愛しいものを守る為に、対立し戦ってきたその選択に後悔はないと思う。

 悩む必要も無いのかもしれない。

 目を閉じると、優しい未来が描かれていた。
「そんな所で居眠りかな?」
 遠慮なく咲の反対側に座る圓 冥人(az0039)が、何時もの様に笑みを浮かべたまま言った。
『すこーん二人分、ちーずけーき三人分、飲み物は、りんご』
 猫の様にマイペースな弩 静華(az0039hero001)が淡々と注文する。
「いえ、ちょっと最近の事を考えてていましてねー」
 ぬいぐるみの垂れた耳を両手でパタパタと動かしながら、咲は笑みを向けた。
「ふーん? でも、何時もより遠いね」
 冥人が咲の気持ちを見透かした様に言った。
「遠い? 何時ものわたしですよー」
「ほら、距離が空いた」
 咲が笑いなが言うと、冥人は間髪入れずに答えた。
『咲くんは、分かりやすい方』
 リスの様に頬にチーズケーキを詰め込んだ静華が、小さく首を傾げながら言う。
「咲。君自身が思ってるより、君の心は傷が付いてるよ。大切な誰かを守る前に、自分をどうにか出来ないと……それは強さや優しさじゃなくてーー」
『しーっ、お節介、為にならない。自分で、乗り越えてこそ、大事』
 冥人の口にスコーンを突っ込んで黙らせると、静華は壊れた電気家具を直すかの様に叩いた。
「相変わらず仲が良いですねー」
 と、言いながら咲は、静華の頭を撫でる。
『むぅ、咲は、じゃむみたい』
 静華が咲の前に、いちごジャムが乗ったスコーンを差し出す。
「ありがとうー静華さんもジャムみたいですよー」
 嬉しそうに咲が言うと、カモミールティーに口を付けた。
 冥人は冥人なりに気を使っているし、静華は場の空気を読んで行動しているのが分かる。
『名前、付けて、もらえ、よー』
 咲の膝に鎮座しているぬいぐるみに、静華は頭をぽふぽふと軽く叩きながら言う。
「そうですねー」
 咲は改めてロップイヤーのぬいぐるみを自分の方に向け、見つめ合いながら首を傾げた。
「何でも良いんじゃないの? 覚えやすければね」
『名前、大切』
「そうですよ。名前は大切ですよー」
 適当に言う冥人に対し、静華と咲は真面目に言う。
「おやおや、まるで姉妹の様だね」
 と、言って冥人が静華と咲の頭を撫でる。
『こんな、妹、知りません』
「ええ〜お姉さんというより、妹みたいですよー?」
 ぷいっと反対側に顔を向ける静華に、咲はくすくすと笑いながら答えた。
「名前を決めるなら早くしてよ。日が暮れるよ」
 冥人のコーヒーを啜りながら、咲に視線を向けた。
「それならーー」
 ぬいぐるみの名前を決め終えてた咲は、冥人と静華の二人と別れて自宅に向かって歩き出した。
 これからの想いを胸にして、オレンジ色に染まる空を背にし、明日を迎える為の闇夜に染まる方角に向かって。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa2346/花邑 咲/女/20/ 花の言葉は弟切草の様に】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもシナリオの参加ありがとうございます。
実は色々と脚色をしておりますが、元ネタとなった喫茶店は実在しています。
気に入っていただけた様なので嬉しいです。
大変な選択の中で、咲さん自身の想いを大切に書かせていただきました。
また、NPCと仲良くしていただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
この度ノミネート発注をしていただき、ありがとうございました!
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2018年06月25日

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