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『共に祝う今日こそ、なにより楽しく 』
笹山平介aa0342)&ウィンター ニックスaa1482hero002)&スノー ヴェイツaa1482hero001)&齶田 米衛門aa1482)&柳京香aa0342hero001)&ゼム ロバートaa0342hero002


 新春初売り、大売り出し。
 事の発端はウィンター ニックスがご近所の『お姉さまたち』から引き受けた頼まれごと。福袋の奪取。
 それはゼム ロバートを巻き込み、彼の契約相手である笹山平介や同じく英雄である柳京香をも巻き込み、最終的にウィンター自身の契約者や共通の英雄である齶田 米衛門、スノー ヴェイツもグルグルっと巻き込んで、賑やか楽しいハリケーンなひと時を過ごすことになったのだ。

「お正月料理は私たちの家で作りましょう♪ キッチンは広めですから、動きやすいと思いますよ」
「マンションか。洋間なら広めのテーブルはあるか?」
 平介の提案を聞き、スノーがやや考え込んでから問いかけた。
「ええ、もちろん♪」
「決まりだ。おせちの横で菓子作りとかゼッテェやだし、テーブル1つあれば充分だ」
「テーブルだけで大丈夫なの……?」
「おう、任せておけって」
 彼女がそういうのなら……。スノーとクッキー作りをする約束をした京香は不安を見せるも、力強い返答を受けて肩の力を抜いた。
 それに平介が米衛門とゆっくり語らう時間を作れるのなら、安心もある。
「スノーを頼れ。あいつなら大丈夫だろ……」
「言われなくたって、そうするわよ」
 ゼムが京香へボソリと呟く。京香は視線を逸らしつつも否定はしない。
 料理チームの話がまとまったところで、ウィンターが戦利品を持ち上げる。
「それでは某とゼム殿は、お姉さまたちへ戦利品を振舞ってくるぞ!」
「そうだな……。帰ってくる頃にはメシが出来てるか?」
 今日という日の発端である『福袋の代理購入』。これはウィンターたちの近所巡りとなる。
「そっちも重労働ね。いってらっしゃい」
「美味しい雑煮、作って待ってるッス!」
「ま、怪我しないようにな」
 京香、米衛門、スノーが彼らに手を振る。
「……ケガ?」
 最後の一言にゼムは目を見開くも、ウィンターに引きずられるように駅方面へ。
「ゼムが仲良くしてもらえてよかった」
 にこにこと、平介もまた見送るのみ。
(何が待っているんだ……)
 頭の中を疑問符で埋め尽くしながら、ゼムは体勢を整えてウィンターの隣を歩き始める。
 頭であれこれ考えても仕方がない、実行段階になればわかることだ。
「袋を1つよこせ。お前が2つとも持つのは不公平だ」
「む、ゼム殿は気が利くな!」




「齶田さん、エプロンはお持ちですか?」
「普段は専用のツナギがあるんスけど、持ち歩き用にエプロンは用意してるんスよ」
 今日、こうして料理する流れになるとは思わなかったけれど。
 人好きのする笑顔で、米衛門はマイエプロンを取り出す。
「こんな時でさえ、ゼムのエプロンは使われることが無いのね」
 貸し出そうかと平介が考えていたのは、ゼムの真っ赤なエプロン。本人に一度も使われていない新品だ。
 京香の声が飛んできて、平介は「まったくです」と肩を揺らした。
 平介も京香も、ゼムへ料理を強要するつもりはない。そんな気分になった時に、赤いエプロンの出番が来ればいい。
「齶田さんは何を作りたいですか?」
「んー。雑煮と、ハタハタ寿司にしようかと思って。あと、納豆は『料理』では無いッスけど、秋田じゃこんな感じでしたねェ」
 『おせち』を食べる家庭自体が少なく、米衛門の家もしかり。
「飯寿司なんで、しばらく漬けとくのが本来の作り方なんスけど。今日は簡略で麹混ぜご飯で作ッかなーと」
 ハタハタの塩漬け自体は地元から取り寄せてあったものがある。
「楽しみです♪ それでしたら伊達巻はお任せください♪」
 伊達巻のフワフワは、ハンペンがポイントであることを食材コーナーで知った。
 出汁巻き卵であれば平介も作ることがあるし、焦らなければ大丈夫そう。

 お雑煮、伊達巻、飯寿司……なかなかお正月っぽい。

「そういえば、ゼムから福袋を1つもらっていましたね♪ これを使って何か作れるでしょうか?」
「食料品の詰め合わせッスか。…………」
 輸入品の高価な材料を見て、米衛門の思考は停止する。浮かばない。
「洋食になってしまいますけど、ピザ生地を作って乗せるのはどうでしょう。賑やかで、お祝いっぽいと思います♪」
「おおッ! 良いッスね!!」
 ピザ生地に必要な粉類は、女性陣が調達している。
「さて♪ 作っていきましょうか♪」
「やるッスか!」
 ハタハタの塩抜きと伊達巻に使う出汁を取っている合間に、雑煮用の野菜を刻む。
(齶田さんの手つき、さすがです♪)
「問題は、これからなんスよねー。鍋以外は、どうしてもレシピを見ながらじゃないと不安で」
 ここで可愛らしい問題発覚。
「ゆっくりで大丈夫だと思いますよ♪」
 料理を失敗する要因の一つに『作り方を確認しないで独自アレンジ』がある。
 豪快なようで繊細な米衛門を、平介は好ましく感じた。
「……小さな頃にお別れしたということでしたが、御両親とは……仲が良かったんですか?」
 ふとできた隙間の時間に、平介はポツンと訊ねた。
 口にしてから、死別した相手になんてことを、とも後悔したが、出た言葉を引っ込めることはできない。
 『普通』と言われる家族像、『本当の家族』の姿とは。
 得られなかったものへ、平介は憧れとも知的欲求ともつかない感情を抱いている。
「んー、覚えてないってのが正直な所ッスね」
 平介の内心を知る由もなく、軽く頭を掻きつつ米衛門は答えた。
 米衛門が忘れてしまった思い出が、あるのかもしれない。
 けれど今は祖父母と過ごした時間が色濃く、大切なものだ。
「すみません、こんな話ばかりで……」
 相手の深いところへ入り込むような。平介は申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
「良いんスよ! なっても答えになって無くてすみませんスよ」
(……笹山さんは)
 給水時間を経て、白米を炊き始めながら米衛門は笹山平介という人について考える。
(きっと、色々あったんだなァ……)
 いつも笑顔で、穏やかな人。気遣いの人。部隊の後ろで戦況を見渡し、的確なサポートをしてくれる。
 その広い視野を持つまでに、きっと『色々』あったのだろう。
「おッ。それが伊達巻になるんスか?」
 米を炊く鍋の隣で、厚焼き玉子用のフライパンに生地が流し込まれていた。
 フードプロセッサで滑らかになったハンペンや出汁を混ぜこんだ卵液は、火が通り始めると食欲をそそる香りを漂わせる。
(自分から、深くは聞がないけど)
 楽し気に料理をする平介の横顔は、心からのものだと思うから。
「こうやって、賑やかに作るってのも楽しいッスね!」
「ええ♪」
「別に失敗なんてしてないわよっ」
「あああ、京香さん。粉は吸い込んだら喉を傷付けるんで気を付けてッスよ〜」
「打ち粉が多くなると、味も変わっちまうからなー」
「うっ……」
 クッキー製作チームの声も飛び込んできて、米衛門と平介は改めて顔を見合わせて笑った。




 京香が買った割烹着は、いつか本番で使うためのモノ。
(いつか一人で作れるようになったら……着たいな……)
 憧れであり、目標であり。年の始めに、決表明の品を買えたのはいいことだと思う。
 だから今日は、使い慣れた普段のエプロンで。
「バターは常温に戻りやすいように、薄くスライスしてボウルに貼りつけるといいぞ」
「常温に?」
「指がスッと入るくらいの固さかな。出しっぱなしのマーガリン、解かるか?」
「ああ! それなら」
「ドライヤーで暖めるって技もあるんだけどよ、無理が掛かっちまうからな」
 スノーは京香がイメージしやすいように、色々と喩えを出して教えてくれる。
「常温のバターとすり合わせるから、卵も常温な。あったかくて気が緩んだところに、冷水かけられたら心臓が止まるだろ」
「バターの気持ちになるのね……」
 どうして、その状態にするのか。その状態を維持するために大切なことは。
 お菓子作りの本に書いていない知識を、スノーはたくさん持っている。

 バターと卵を常温に戻している間に、道具や他の材料を整える。
 粉のふるい方にも、コツがあるそうな。
「手首のスナップを効かせると、散らばんねぇし早くふるえるぜ」
「あ、本当だわ。面白い」
 この辺りで粉まみれになってしまうイメージがあったのだが。
「準備も終わったし、始めるか。最初に粉砂糖とバターをしっかり馴染ませるのが大事なんだ」
 砂糖を吸い込むことで、バターは卵を抱え込みやすくなる。
 卵とバターが完全に一体化することで、歯触りの良さが生まれる。
「クッキーって小麦粉のイメージが強かったけど、ポイントはもっと先にあったのね」
 グラニュー糖よりずっと目の細かい粉砂糖は、クリーム状のバターへすんなり馴染んでいく。
 混ぜながら、手ごたえが変わっていく感触は京香にもわかった。
「もちろん、小麦粉も重要だぜ。コネすぎても良くないしな!」
「コネ……ないの?」
「ある程度は混ぜ込むけど、サクサクっとしたけりゃ必要最低限だな。手の熱でバターが融けちまう」
 常温に戻したバターは、あくまで『常温』でキープというわけだ。
 卵を加え、最後に薄力粉を投入。
 生地へ馴染む程度に混ぜたら一度、冷蔵庫へ。
「ところで、スノーは何を作っているの??」
 京香へ指南しながら、スノー自身は違う工程で何かを作っている様子。
「おお。スノーボールクッキーだ。これも、一緒に冷蔵庫で休ませっから」
 ほろほろっと口の中でほどけるような、まっしろなクッキーボール。
 もちろん食べたことはあるけれど、作り方は京香も知らない。
(今日のクッキーが美味しくできたら、教わりたいな)
 
「ここからが正念場だ。均一の厚さで伸ばすんだぜ」
 休ませ終わったクッキー生地が、打ち粉を振ったテーブルに置かれる。
「ある程度、麺棒で上から押して均して……力を入れ過ぎると生地が薄くなりすぎるから気を付けてな」
「こうやって、賑やかに作るってのも楽しいッスね!」
「ええ♪」
「別に失敗なんてしてないわよっ」
 男性チームから声が飛んできて、緊張していた京香が反射的に声を上げる。
「あああ、京香さん。粉は吸い込んだら喉を傷付けるんで気を付けてッスよ〜」
 時間が経つと、生地がベタついてしまって自然と打ち粉が増えてしまう。増えると味が変わってしまうとスノーが言った。
「室温もあるからなー。こういう時は、生地を休ませながら進めようぜ」
 なんとここに、丸めるだけのスノーボールクッキーの生地がある。
 ニッと笑って、スノーはもう一つの生地を取り出した。
 コロコロまるい形は、多少いびつでも構わない。
 天板にのせて、少し低めの温度で、じっくりと焼く。
「生地を休ませて、形を作って、焼いて……。菓子ってさ、待ち時間があるし料理と違って味見ができるチャンスも少ないんだけどよ」
「その分、出来上がりが楽しみでワクワクするわね」
「お。わかるか、京香」
 焼き上がりが近づくにつれ、美味しい香りが漂う。
 コーヒー、紅茶、ホットミルク。どれと一緒に味わおうか。
 大人も子供も笑顔になれる魔法の甘さが、待っている。
「ウィンターさんも、いつもスノーの手作りを食べてるの?」
 他意のない質問だった。
 こんなに手際よく菓子を作るスノーなのだから、頻繁に作っているのだろうと思って。
「……アイツは……悪だ」
 しかし。スッと彼女が真顔になるのを見て、京香は背筋を伸ばした。
「オレの買い置きおやつを食いやがって! 名前を書いてようが『見落としたテヘペロ☆』で許されると思いやがって!」
 制裁の後、買ってくるよう走らせるか、自分で作ってしまうか。
 そんな日常らしい。
(どういう関係なのかしら……仲は良さそうだけど)
 きょうだいのような距離感の様であり、その割に辛辣な部分(物理)もあり、しかしてウィンターは全てを笑顔で受け止めている。
 彼だから、スノーも遠慮なくぶつかっている(物理)のようにも見える。
「ふふ。素敵ね」
「おやつを巡る争いがか……?」
 



「きゃー! 待ってたのよぉ! さすが頼れる男は違うわぁ〜〜」
「こちらはお友達? 可愛らしいわね〜。2人ともお肌の張りが違うんだもの、妬けちゃう!!」
(……お姉さま方だと聞いていたが……)
 ウィンターの帰りを待っていたお姉さまたちを前に、しばしゼムは硬直していた。
「おい、色男……」 
 歳が……想像していたのと……
 言いかけて、ゼムは思いとどまる。……言ってはいけない気がすると、察した。
「中は開けてのお楽しみですからね。『福』を逃さないよう、大切にしてください」
 女性を前にすると、ウィンターの態度はガラリと変わる。
 己を偽っているわけではなく、それもまた彼の『素』なのであろう。
(こいつの社交性は、今後の役に立つだろう……)
 観察して、自分も身につけ……られるかどうかは微妙だが、学べる部分は取り入れたいとゼムは考えた。
「福袋は確かに渡した……報酬をいただこうか……」
 そして、空気を読み切れないのがゼム。
「もちろん用意しているわ。はい、我が家秘伝の煮物よ。この味を出すのに30年かかったわ」
「私からはお漬物ね。ご飯が止まらなくなるわよぉ〜」
(なんかちがう)
 福袋と交換に紙袋をドサドサと受け取りながら、予想と違うだけであって報酬に変わりはないのか? とゼムは自問自答を繰り返す。
「けど……寒いところを交通費を掛けて人混みの中へ行ってくれたんだもの、さすがにこれだけというのもね」
 ひとりのお姉さまが、頬に手を当てて微苦笑する。
「本当にありがとう。これは私の連絡先よ」
「うむ?」
「うん?」
「お2人の連絡先も教えて下さる? 良い御礼が用意できたら連絡したいの」
「……それは」
「そういうことなら」
 珍しくウィンターが戸惑いを見せるも、ギブ&テイクの成立と判断したゼムはさらっと教えてしまう。
「何かあったらここへ連絡をくれ。色男にも俺から伝えれば問題ないだろ」
「まぁ〜〜〜、頼もしい!」
 お姉さまの瞳に、乙女の輝きを宿った。
「何かあればまたお申し付けください!」
 連絡先を教えたのはゼムであるが、我がことのようにウィンターがバチッとウィンクを放った。
 

 楽しみだなあ。
 平介たちの家へ向かう中、ウィンターはニコニコとゼムへ言った。
「ああ。飯も菓子も、出来上がってる頃合いか。腹が減ったな」
 報酬でもらった煮物たちが加われば、食卓も賑わう。
 素直なゼムの反応に、ウィンターは嬉しさが止まらない。
(お姉さん方ネットワークに組み込まれるゼム殿の今後が楽しみだが……今は黙っておこう)
 正月の次に、お姉さまたちの心をくすぐるイベントはなんだろう?
 きっと今度は、最初からゼムと一緒に楽しめることだろう。
 女性の喜ぶ顔を見るのはウィンターにとっても幸せだし、ゼムが行動を共にしてくれることも楽しい。
 『付き合ってもらう』『巻き込んでいる』ゼムに対して、そういった認識はウィンターから既にスッポ抜けていた。




「どうしよう平介、これ、楽しいんだけど」
「あっはっは、おいおい弟、それはセンスなさすぎだろぉ」
「姉さん!? これのどこが悪いッスか!?」
「私は好きですよ、齶田さんのトッピング♪」
 クッキーを焼き終え、冷ましている間に4人でピザ祭り。
 思い思いのトッピングに対して、アレコレお喋りするのも楽しい。
「帰ったぞー。様子はどうだ?」
「お帰りなさい、ゼム。ウィンターさん。寒かったでしょう」
「おー、クッキーの匂いだ! 美味そうだ!」
「言ってる傍からつまみ食いしてんじゃねぇ!」
「ぐは!」
 熱々の型抜きクッキーを頬張った顎へ、スノーがアッパーカットを喰らわせる。
「バターの風味も生きているし、サックリしていて非常に美味い!」
 うずくまりながらも感想を欠かさないのがウィンターという男だ。
「ほ……本当? 美味しかった?」
 一緒にしゃがんで視線を合わせ、不安そうに京香が問う。
「某は嘘をつかない。京香殿のクッキー、実に美味かった」
「ありがとう♪ これもスノーの教え方が上手いからね♪」
「京香の飲みこみも早かったからな」
「フライパンで焼くクッキーも気になるのよね。また今度、教えてくれるかしら」
 もしも家にオーブンが無かったら、ということまでスノーは考えてくれていた。
 それが京香には嬉しかった。
「買ってくるおやつも良いが、手作りは嫌いじゃねーしな」
「当面はスノー殿の手作り菓子を味わえるのか! 幸せだ!!」
「お前に食わせる前提じゃねぇよ!」
 今度は肘が、ウィンターの腹へ入る。容赦ない。
「本当に仲が良いのね♪」
(あれ、仲が良いのか……)
 微笑ましく見守る京香の様子を見て、ゼムはウィンターとスノーの関係性を納得したやらしないやら。
 鉄拳制裁は以前も目の当たりにしていて、ウィンター自身も苦にしていないようではあったが……
(てっきり仲が悪いと思っていたが、仲がいいからこそなのか……)
 身近な例で考えると、平介と京香の仲は悪くないと思う。しかし、ああいうコミュニケーションは取らない。
 大切なものを乱雑に扱う心情はゼムにはわからないが、互いに是としているのなら良いのか。

「で、正月料理じゃなかったのか」
「福袋の食材を使って、ピザを作っていたんですよ♪」
「なるほど! それでハタハタが並べられていたのだな。寿司にしては妙だと思っていたのだ」
「ハタハタのピザ……?」
「イワシがアリなら、ハタハタだっていいと思うッスよ!!」
 京香がオイルサーディンとモッツァレラチーズをトッピングしているのを見て、米衛門が思いついたらしい。
 怪訝な顔をしたゼムだが、ハタハタの経緯を聞いて納得した。
 米衛門の故郷の食材で、それで飯寿司アレンジの混ぜご飯を作ってくれたのだそうだ。
「美味けりゃ、良いと思う」
 食材への冒涜でないのなら。




 角切りの焼き餅と鶏肉。それから大根、ゴボウ、こんにゃくを入れたのが齶田流の雑煮。
 ハタハタ寿司は、ハタハタの塩漬けと麹混ぜご飯にアレンジ。

 伊達巻は綺麗な焼き目で、ふんわり仕上がった。

 個性豊かなピザ、お姉さまたちから頂戴した煮物や秘伝の漬物も並ぶ。

「たはー。大家族の食卓ッスねー!!」
 誰より嬉しそうなのが米衛門だった。
 大人数で、家庭の味。
 飲食店での打上とは違う、安心感のようなものがある。
「手作りの伊達巻は感動の味だな!」
 リクエストした品が形になったことに、ウィンターは感謝しつつ箸をのばす。
「納豆があると、正月って気が薄れるんだよな……日常的っつーか」
「正月もまた、日常ッスから」
「まあな」
「米衛門たちは、毎日納豆なの?」
「ソウルフードッスね!」
 京香が訊ねると、米衛門は白い歯を見せた。
「確かに、健康には良いのよね」
「そうはいうけど、あんまり長続きしねーよな。……む。これがハタハタか」
 ゼムは混ぜご飯を一口。麹の香り、刻まれた野菜の食感。そして魚の存在感。
「美味いな……」
 どんな材料が、どうやって?? まじまじと見つめつつ口へ運ぶ様子に、米衛門はホッコリする。
(荒っぽい話し方をするけど、心根は優しい人なんだろうな)
 ウィンターに振り回されながらも、そのこと自体へ怒る様子はない。
 京香を見ていても感じたことだが、この2人が平介の強い支えになっているだろうことが理解できた気がする。

 同じ小隊に所属して。生死を共にする場面もたくさんあって。
 だけど、ゆっくり話したのは今日が初めてかもしれない。
 話せてよかったと、思う。

 まだまだ米衛門の知らない『平介』の表情が、感情が、あるのだろう。
 急いで入り込まなくても、こうして食卓を囲んで、笑って、楽しさを分かち合って、
 時間を掛けながら気づくことがあれば良い。


「焼いたお餅が入ると香ばしくていいですね♪」
 具だくさんの雑煮が、平介は気に入ったらしい。
「今日の料理、もし余ったら貰ってもいいですかね?」
 米衛門の隣に座る平介が、そっと訊ねた。
「齶田さんが作ったモノと私が作ったモノ、それぞれおすそ分けがしたいんです」
「もちろん、構わないッスよ。……余るッスかね……」
「たしかに」
「チーズとトマトと餅のピザも美味いぞー!」
 2人の会話に気づかず、スノーがピザを切り分けてそれぞれの取り皿へ乗せる。
(畑の男……平介と少しでも打ち解けたのか?)
 買い出しの頃とは、また少し雰囲気が違うような。ゼムは、米衛門と平介の様子を視界の端で追う。
 ゼム自身が米衛門とゆっくり話していないこともあり、彼の内側はまだ解からない。
 ウィンターたちと接する姿から、裏表はなさそうに見えるが……それを判断するのは、ゼムだ。




 買い出しに行って、料理をして、皆で食べて……
 動き回った反動で疲れが出る頃合いに、甘いもので〆。
 テーブルには、本日焼いたクッキーが並ぶ。
 白猫、黒猫。生地で色分けされたり、チョコペンでデコレーションされたハート形。
 ジャムをサンドしてボリュームがあったりと、同じ生地でも色々な楽しみが用意されている。
 それから、紅茶やミルクと相性が抜群のスノーボールクッキー。

「京香、腕を上げましたね♪ スノーさん、ありがとうございます♪」
 どんなにアレンジしても、もとのクッキー生地が美味しいことが重要で。
 伝わりやすい教え方だから、京香もテーブルを粉砕することなく作れたに違いない。
「京香殿の戦乙女の如き姿、見たかったなー」
「平介、ウィンター、ありがとう。2人が私をどう思っているのかわかって嬉しいわ?」
「さぞ神々しかったであろうと! なあ、ゼム殿!!」
「俺にはちょっと甘すぎるが、あいつにはちょうどいいんじゃねぇか?」
「あいつ、とは?」
「ゼムったら何を言ってるのよー!」
 京香が、照れ隠しにティーカップを乗せていたトレイを投げつけた。加減はしているので、ゼムも難なく受け止める。
「何って、率直な感想だ」
「それでは、クッキーは持ち帰り用に包みましょうか♪」
 空気を読んだ平介が、すっと立ち上がった。




『また今度』
 交わされた約束は、3組それぞれに。
 月明かりに照らされ、米衛門たちは平介たちのマンションを後にする。

「スノー殿、俺は今度、ロールケーキが食べたい!」
「お前の為に作るわけじゃないからな?」
「あーあー、大声は近所迷惑になるッスっよ!」
 最後まで、3人は愉快でにぎやか。見送る京香がくすくすと笑う。
「私たちも戻りましょうか♪」
「平介」
 その背へ、ゼムが呼びかけた。
「お前の悩みは、まず俺に言え」
「悩み、ですか?」
 ゼム。その言い方では米衛門へ妬いているみたいだわ。
 京香は思ったが、口にはしない。
「素敵なお正月だったわね」
 その代わりに、全てをひっくるめた感想を。


 大好きなひとたちと過ごした時間が『今年』の始まり。
 良い一年に、なりますように。




【共に祝う今日こそ、なにより楽しく 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【aa1482hero002/ウィンター ニックス/ 男 / 27歳 / 福袋配布  】
【aa0342hero002/  ゼム ロバート  / 男 / 26歳 / 福袋配布  】
【aa1482hero001/ スノー ヴェイツ / 女 / 20歳 / 女子力発揮 】
【aa0342hero001/    柳京香   / 女 / 24歳 / 女子力発揮 】
【aa1482    /   齶田 米衛門  / 男 / 21歳 / 正月料理係 】
【aa0342    /   笹山平介    / 男 / 25歳 / 正月料理係 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お待ちいただき、ありがとうございました!
楽しく賑やかなお正月・後編をお届けいたします。
お楽しみいただけましたら幸いです。
良い一年となりますように。
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2018年06月28日

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