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『背を追いて、肩ならべ 』
笹山平介aa0342)&佐倉 樹aa0340)&ゼム ロバートaa0342hero002)&シセベルaa0340hero002


 合鍵で扉を開ければ、活けられた季節の花が出迎える。
 そこは【鴉】たちの、羽休みの場所。
 有事には緊迫感のある会議を開かれることもあるが、普段は各々に好きな時間を過ごす場であった。


(コードレス掃除機……急を要するわけではないけど……あった方が便利だよね……)
 この日、佐倉 樹はちょっとした悩みを抱えて拠点を訪れていた。
 平日・休日関係なく、ここは常に誰かがいる。
 深刻というレベルでもないから、雑談混じりに話せたら。そう思ってのこと。
「良い天気だねー。まさに買い物日和じゃない?」
「……そう。買い物日和。せっかくだから、このまま買い出しに行けたらな……」
 死角を守るように彼女の右隣を歩くのは、第二英雄であるシセベルだ。
 買い出しの同行に指名され、上機嫌である。

「おや、佐倉さんにシセベルさん♪ こんにちは、偶然ですね♪」
「……………」
「笹山さん……そうだ、笹山さん……」
「ごきげんよう、ゼム君。それがヒトへ向ける表情かい?」

 ちょうど2人が部屋の1つへ入ろうとしたところへ、笹山平介と彼の第二英雄であるゼム ロバートがやってきた。
 誰にでも柔らかな物腰の平介は、いつもと変わらぬ笑顔で女性2人へ挨拶を。
 ゼムは、見てはならぬものを見てしまったとばかりにシセベルを相手に微かに硬直している。
 樹は渡りに船とばかりに、ふらりと平介へ歩み寄り、
 シセベルはニヤニヤしてゼムを見上げる。
 相談したいことがある、と樹は平介たちへ話を持ち掛け、平介は二つ返事で請け負った。


 とある一件で、樹と彼女の第一英雄はそれぞれに片目を喪った。
 そのこと自体は悲観していないし、むしろ誇らしく思っている。
 生活にも少しずつ慣れてきた。
 慣れてきたから、不便にも気づくようになったのだ。
 右の眼帯に触れながら、樹が言葉を落とす。
「片目事情的に、掃除機はコードレスの方が便利じゃないかと……思っているのですが」
「ああ、なるほど」
 まだ使用できる掃除機があるから、新調には少しだけ勇気が要る。
 お勧めの種類だったり、良い家電量販店だったり、彼ならば知っていそうだ。
 普通。常識。なにそれおいしいの? 
 そんなものにとらわれず『愛すべき箱庭』を最優先に生きてきた樹にとって、平介の温和な姿勢は少し戸惑うものがあるけれど、信頼の裏返しでもある。
「よろしければご一緒しても良いでしょうか?」
「……え」
「今は種類も豊富ですから、考えるお手伝いが出来れば♪」
「い、いいんですか、そこまで付き合わせてしまって……」
 樹は時折、なんとも表現できない幼さを見せる。どこか世間慣れしていないからだろうか。
 年長者の平介へ相応の敬いを見せながらも、『頼り方がわからない』とでも表現すべきだろうか?
「桜の女。怪我は大丈夫なのか」
「あっ。それは。もう、すっかり」
 そこへ、ふいっとゼムが会話に入る。ぶっきらぼうな物言いに、不慣れな樹は少しだけ驚いてから答えた。
 樹の負ったケガについてゼムはシセベルから聞いていたが、本人にも確認をしておきたかった。平気なふりをしていることだって、あるだろうから。
 少なくとも嘘はついていないようだ。ならば、他に案じることはない。
 ゼムや平介にとっての『当たり前』を提示すればいい。頼っていいのだと。
「俺たちは何か情報が転がってないか確認に来ただけだ。家電製品の買い物なら男手があった方が良いだろう」
「…………」
 樹が、灯火色の瞳をフッと曇らせた。
「とても……助かります……お願いしても良いでしょうか。ゼムさんにも頼みたいことが……」




 ちょっと前の話ですが、聞いてくれますか?

 最寄りの家電量販店に到着し、シセベル・ゼムとは別行動を開始した樹が平介へ語り掛ける。
 英雄たちの前では話せない事だろうか。
 平介は神妙に頷いた。
「スマホケースを新調した時のことです……。シセベルは手先が器用で、作ったり改造したりが得意なんですが」
「スマホケース、ですか」
 話の先が見えない。平介は単語を繰り返すだけ。
「ある日、……ぎぃぎぃ音をたてながら、……歩く? 歩くんですか、スマホケースって。スチームパンクの雰囲気を漂わせた多足ロボットのような外見になっていて……いや、あれ、なんだったんだろう……」
 ボディを見るに、樹のスマホケースだとは思う。が、認めたくない要素しかなかった。
 最後は自問自答になりながら、樹は話を続ける。
「死角から来られると危ないので、今はソレ、シセベルの部屋へ引っ込めさせているんですが……」
「……危ない……ですね……たしかに」
 と、言うよりない。
「今日はコードレス掃除機ですから、配送サービスを使うまでもないとは思うんですが、全く重くないわけではなくて。ですから、シセベルに手伝ってもらおうと思って……出て来たんですけど……」
 平介にも、なんとなく理解できてきた。
 シセベルを生活家電売り場から離し、ゼムへお目付け役を依頼した理由まで。
「家へ帰りつくまでに、変な改造をされかねない……という漠然とした不安を、拭いきれなくて……」
「お察しします……」
 同じ小隊へ所属しながらも、これまで樹と平介は深く関わることが無かった。互いに深い人間関係を構築するタイプではなかったから。
 ゼムとシセベルは、それなりに親しいようだけれど。

 ……貴方にとって……仲間は【誰】ですか?
 鴉の……皆です

 それは、とある温泉旅館で交わされた会話。
 樹が片目を喪ってから話すのは、初めてだったろうか?
 樹を案じた平介。
 小隊の仲間を信じる樹。
 それぞれに偽りはなく、互いに互いについて知らないことの多さを知った。そんな一件だった。

「それでは、今日のゼムは大役ですね♪」
「被害者筆頭になっているようで、少しばかり申し訳ないです……」
 『少しだけ』。
 そう言う樹へ、平介は楽し気に笑うのだった。




 掃除機の購入が終わるまで、別行動。
 ゼムは、シセベルが生活家電へ近寄らないよう見張っていて。
(なんてこった、行動を先読みされてしまったわ)
 外出へ誘われた時は、どんなアレンジをしようかとわっくわくだったシセベルは、ここで諦めるシセベルではない。
(せっかくだし、工具コーナーを見て回ろうかな。良いものがあれば嬉しいんだけど)
「おい、ハロウィンの。どこへ行くつもりだ」
「工具コーナー。知ってるかい『DIY』。ホームセンターとは違うラインナップがあるかなーってさ」
「……わかった」
(欲しいものでもあるのか……)
 樹が、なぜ生活家電へ近寄らないよう指定したのかゼムにはわからないが、指定外の場所であれば問題ないだろう。
(このくらいなら報酬はいらねぇな……)
 つかづ離れずの距離を保ち、ゼムはシセベルの後姿から目を離さない。
 その一方で、別行動中の平介を考えた。
(桜の女と話が出来てるだろうか)
 平介から直接なにかを言われたわけではないが、樹も平介も、他者との距離感は何処となく似ていた。
 それが今日、平介から歩み寄るような姿を見せている。
 意外だと思ったし、彼に考えがあるのなら、上手く行けばいいとも思った。
(……片目、か)
 もし、あの場に居たのが樹ではなく平介だったのなら。
 きっと彼も同じことをしたのではないか?
 己を安く売ったわけではないだろう。その行動を、誰が責めることができるだろう。
(しっかりと、桜の女を理解してこい)
 心の中で言葉を送り、ゼムは棚の何かに夢中になっているシセベルに気づく。
「おい、なにを――」
「見て見てゼム君、一家に一台欲しいと思わない!?」
「思うか! ヒトに向けるな!!」
 ガーデニング向けとはいえ威力は保証付きのチェーンソーを向けられて、ゼムは歩み寄りかけた足を止めた。
「庭づくりも良いし、大きなアイテムの切断にも使える。アノ子たち、何を造ったら喜んでくれるかな」
 悪ふざけなのか本気なのか読み切ることは難しい。楽し気なシセベルの横顔を見遣り、ゼムは深々と嘆息する。
「これは何に使うんだ?」
 できるだけ物騒ではないものを。
 ただ見張るのも退屈だから、シセベルからは離れないようにしつつゼムも売り場を見回す。
 ドライヤーにしてはドッシリしている。カッターという名称だが、刃物には見えない。
「それはヒートカッターだね。その部分が500度まで上昇して、ロープの類を綺麗に切断するんだ」
 ゼムは、手にしたものをそっと棚に戻した。
「切断とひとくちにいっても、素材に合わせた道具を使用することが大切だね」
 ヒートカッターの切り口がどれだけ綺麗でも、チェーンソーでなければ敵わないものがあり、逆も然り。
「……こんなに種類は要らないだろと思っていたが、必要性があって並んでいるのか」
(素直)
 どれだけ悪戯を仕掛けられようとも、ゼムはシセベルの発言を疑うことはない。
 それが彼の美徳であり、自分には持ち合わせない要素だと思う。
「掃除機選び、思ったより時間がかかっているな」
「そうだね。きっと、種類がたくさんあるからさ」
「……平介なら、馬鹿丁寧に選んでいそうだ」
 慎重に、冷静に、確実に。それもまた、平介の美徳なのであろう。
「笹山サンが付き添ってくれてよかったよ。アノ子も助かるんじゃないかな」
 ハンダゴテを見比べながら、シセベルは鼻歌交じりに。
「…………」
「うん? もしかして、私がアノ子達の名前をあまり呼ばないの気になる?」
「別に、そういうわけじゃ」
「ふふふ……今はまだナイショ」
「だから聞いてないっつの」
 にんまりと、悪戯っ子の笑みを浮かべるシセベル。ゼムは『やれやれ』と首を振った。
「直接関係ないけど関係あることを教えてあげよう。そのモノの成り立ちを識るというのは、大事なことだよ」
「モノの成り立ち?」
 ゼムの価値観にある『名前』と、彼女たちのそれとは、違うのだろうか。
「物であれば素材、製造過程。者であれば生まれ、育ち。もちろんソレだけじゃあないけどね」
(しっているから、名前を呼ばない?)
 歌うように語るシセベルの本意を、ゼムはなかなか汲み取れない。
「今度、いま掃除機を選んでる方のアノ子にでも尋ねてみると良いって彼に教えてあげなよ」
 不思議な言い回しだ。
 シセベルにとって、樹と第一英雄は同じ『アノ子』なのだろうか。
「自分の分を開示する必要はないさ。ただ『アタリマエ』の違いを識るだけでもびっくりかもよ」
「アタリマエ、か……。俺とお前のアタリマエも、たぶんかなり違うな……」
「あははははは」




 店員の、立て板に水の如き説明を1つ1つ聞きながら質問を挟む平介に対し、樹はフリーダムに売り場を歩く。
「かわいい、けど……重いなー。あっちはどうだろう?」
「その系統の色合いでしたら、向こうの列に軽量タイプがあるそうです♪ 行ってみましょうか♪」
 ぴょんぴょんと巡る樹の頭上から、ヒョイと優しい声が振ってきた。
「わ……ありがとうございます……」
 フィーリングで出会いがあればいいかなー程度に考えていたら、彼は真剣に取り組んでくれていた。
「佐倉さんとシセベルさんの、瞳の色ですね」
 白いボディに黄昏色の刺し色。
「それから『半身』の色、です」
 境界を、薄紅色が走る。
 気に入ったらしい色合いの商品を手にして、樹はフフフと笑う。
(こうやって向き合うことは)
 滅多にないことではなかっただろうか。平介はこれまでを振り返る。
 後方支援型として戦う彼は、仲間の背を見守ることは多い。しかし、正面から向き合うことは……どうだったろう。
 外出するのなら肩を並べて歩くだろうし、その時ですら半歩後ろかもしれない。
 食事や、話し合いの場なら、ある程度は。
 そんな機会すら、今まで樹と持ったことはなかったように思う。だから、彼女の事を知ることが出来たら……
 それが買い物の同伴を申し出た理由だった。
 これからも共に戦う仲間だから。守りたい仲間だから。
 機械的な距離だけじゃ、ひとの行動は読めない。

 ――あの日、樹と会話を交わした日。平介は、それを思い知った。

「この辺りはサイクロン式ですから、吸引力はお墨つきですね♪ 佐倉さんが持ちやすいサイズであれば、充分にオススメですよ♪」
「……アドバイスをもらうどころじゃなくて……あの、ありがとうございます……」
 自分の代わりにしっかり説明を聞いて、検討して、案内してくれて。
 下げた頭が上がらない。
「もし……これからの予定が無ければ……家で夕飯を召し上がっていきませんか?」
「え? 急に迷惑ではありませんか?」
「食事当番が留守番をしているので……今から連絡すれば間に合います、ので……」
 会計の済んだ大きな箱を抱え、平介はしばし考え込む。
 樹の家を訪ねることに変わりはない。
 食事をご馳走になるのは気が引けるものの、支度や後片付けなど、自分の出来る範囲で手伝えばいいだろうか。
「……では、お言葉に甘えて♪」
「笹山さんの……好きな食べ物ってなんですか?」
「好き嫌いは特にありませんが、今の季節でしたら……」
「……あ、わかります。そうか……今が旬なんですね……」
「スーパーにいつでも並んでいますから、季節感が無くなっちゃうんですけどね♪」
 樹は自宅に居る第一英雄へ夕飯人数追加の連絡を入れ、シセベル達にも買い物が済んだことを伝える。
(そういえば)
 スマホをしまってから、樹は思い至った。
(夕飯へ親戚以外の他人を招くのって……)
 同じ小隊の2名以外では、初めて。
 好意へ報いたいという気持ちはあったけれど、それは違う形でも良かったわけで。
 平介が親身になってくれたからかもしれない。
(けれども少しは近寄ろうかな……うん、少しずつ)
 身長の違う2人は、同じ歩調で、ゆっくり歩く。
 エスカレーターを降りてくるシセベルとゼムの姿が、その先に見えた。




 黄昏の空を、鴉の群れが飛んでゆく。
 整然とした隊列に、リーダーはいないのだという。
 個々が集い、同じ方角を目指し、速さを合わせ、距離を計って。
 群れへ害なすものは、一羽が気付けば一斉に情報が共有される。
 集団であり、個であり。
 仲間であり、家族であり。同じねぐらへと、帰ってゆく。


「話はできたか?」
「お陰様で♪ ゼムはシセベルさんと仲良くできましたか?」
「ガキ扱いかよ。仲良く……仲良く、なぁ……」
 平介に問われ、ゼムは眉間にしわを寄せる。
「おい平介。『当たり前』ってなんだ?」
 出掛ける前は、ゼムは自分たちにとっての『当たり前』で樹たちへ接しようと考えていた。
 が、シセベルの話を聞いて、よくわからなくなった。
 価値観は個々によって違う。それで良い。
 『当たり前』という認識を押し付け合ってはいけない。
 じゃあ、自分はどうしたらいいのだろう。
 気がついたら、すっかり彼女のペースに巻き込まれて今に至ってしまった。
(ほんと、羨ましいくらいに真っ直ぐだわ)
 そんな2人の姿を見て、シセベルは、やはり悪戯っ子のように笑うのだ。
「何を言ったんだい?」
「なんてことないコトさ」
 シセベルは『もう1人の自分』へ、片目を瞑った。
「それにしても、驚いたな。もちろん、私は歓迎だけど」
 平介たちを夕食に招いたことを指し、どういう心境の変化かと問う。
「……うん。ニンゲン、変わるものだなぁ……」
「そうだね。ニンゲンとニンゲン、他者であれば別物だ。別物だからこそ交わる。『ワタシ』には私がいるからさ」
「魔女とニンゲンも別物じゃない?」
「だから、だよ」
 同一であり、別物であり。
 同じ種であったとしても、わかりあうには互いの歩み寄りが必要。

(近づいて、大丈夫?)

 樹は己の胸に問う。
 今のところ、平介やゼムに対して否定材料は思い浮かばない。

(ニンゲンの生命は儚い。けれども)

 焦らず、ゆっくり、歩いて行けばいいのだろうか。
 自分の歩幅に合わせてくれる、青年を信じて。
 共に戦場を駆ける仲間なのだから。


「あっ。ところでねえ、工具コーナーで面白いものを買ったんだ。ゼム君で試しに」
「ゼムさん……会計後、シセベルを1人にした時間はありました?」
「うん? ああ、化粧直しして来るって。こればかりは仕方ないだろ」
「ゼム、逃げた方が良いと思います♪」
「何か知ってるのか平介。おい、目を合わせろ。待て、ハロウィンの。それ買った時と大きさ違わないか?」


 黄昏の空に、青年の叫び声が一つ。
 鴉の群れが、大きな鳴き声を残して遠く遠くへ飛んで行った。




【背を追いて、肩ならべ 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0342    /   笹山平介    / 男 / 25歳 / 人間 】
【aa0342hero002/  ゼム ロバート  / 男 / 26歳 /カオティックブレイド】
【aa0340 /   佐倉 樹   / 女 / 19歳 / 人間 】
【aa0340hero002/   シセベル   / 女 / 20歳 /カオティックブレイド】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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少しずつ、少しずつ。歩み寄りのエピソード、お届けいたします。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
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2018年06月29日

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