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『友達以上恋人未満―― 』
葛城 巴aa4976)&九字原 昂aa0919

 梅雨の時期に入り、じめじめとした、あまり気持ちの良いとは言えぬ気温がここ最近続いていた。依頼から帰る間の空もなんだかすっきりしない、灰色の雲に覆われていた。
「あのさ……」
 唐突に暗い表情の葛城巴が、九字原昂が話を切り出した。
 突然の話に昂は驚いた顔をしつつ、彼女の話に耳を傾ける。
「昂くんの気持ちが分からないよ。依頼で忙しいのは分かるけど……いつもイベントに誘うのは私のほうばかりで」
 ああ、まずい、視界が潤んできそうだ。
「私が依頼で他の男の人に抱きしめられて『好きだ』って言われても、何のコメントもないし……」
 こんなに言ったら嫌われてしまうかもなんて思ったけど、気持ちを伝えずにはいられない。
 彼は何も言わずに、なんて言ったらいいのか分からないといった表情のまま、ただただ聞いていた。
「だいたい、私がブチ切れた時くらいしか相手にしないとか、そんな態度じゃ……――」
 彼が何と言おうと、「好きです」って言われたって、信じられない。
 自分の気持ちを全部吐き出し、彼の言葉を待つ。彼はいったいどんな反応をするのだろう。視線を少しあげ彼の様子を窺うと申し訳なさそうにこちらを見ていた。
 そして、暫しの沈黙が二人の間を流れる。

 ***

 その沈黙を破ったのは昴だった。
 依頼が忙しくてなんて理由を言ってしまうと駄目な男みたいですが、色々と受け身気味だったことは否定できないので、最後まで彼女の言葉を受け入れ謝罪する。
「その……本当すみませんでした」
 その言葉に彼女は反応しない。
「巴さんの気持ちを考えきれずに……」
 また沈黙が流れたかと思えば、震えた声で彼女が話し出す。
「私が欲しいのは、謝罪じゃないよ。そんなことも分からないの? 前から言ってるよね?私が何を望んでいるのか」
 どう返すのが正解なのか、答えを探す間にも彼女は話を続ける。
「分かってて何もしないんだったら、昂くんって相当ひどいひとだよね」
 キッと睨むようにこちらに視線を向ける彼女の瞳は少しうるんでいたようにも感じた。
 気持ちが伝わっていないのだろうか、「僕はちゃんと好きですよ」と伝えても、彼女は僕の方を見ずに「そんな適当な好きとか要らないから」と瞳を逸らすのだった。
「もう知らない。昂くんの心配なんかしない。昂くんなんか、大嫌い!」
 先ほどまでの声より一層大きな声で告げる彼女は、その場から走り去っていこうとする。
「あ、巴さん……」
 引き留めようと腕を伸ばしますが、彼女はその腕をするりと抜けその場から走っていく。そんな彼女に昴は声を掛けられぬまま見送ってしまう。
 彼女の走り去っていった後にぽつりぽつりと濡れた後が見えたかと思えば、二人の気持ちを表すようにぽつりぽつりと雨が降り始めるのであった。

 それからというもの、彼女と言葉を交わすこともなく何日も経ってしまう。依頼の遂行中でも些細なミスを繰り返したり、溜息や呆けることが増えたり、欠けた日々が過ぎていくのだった。

 ***

 何気なく立ち寄ったファーストフード店で、巴は一人でご飯を食べていた。
(独りで食べに行くと、美味しい物を食べても味気ない……)
 一人で食事をしたときに思い浮かぶのは昴との楽しい時間だった。そう言えば、前に一緒に来たっけなんておもうと、胸の奥がツンと痛くなる。
 最近はそれを忘れる様に、早口で食べ終えお店を後にすることが多くなった。

 逢わない日が続いたある日、公園のベンチに腰かけ、道すがら渡されたポケットティッシュに同封された広告をボーっと見ている。
「これって……」
 広告には、格好いい男性の写真と『貴方に癒しを』と言う文字が載っている。ホストクラブの広告である。
(私、寂しそうな女に見えたのかなぁ?)
 そう思うと、なんだか虚しさが一層濃くなったような気がした。

 ***

 昴もまた、一人でふらふらと街中を歩いていた。
 なにをやるにもやる気が起きず、気晴らしに近くの公園に立ち寄ると、会いたいと思っていた彼女がそこにいた。
 巴の彼女を見つけ、居ても立っても居られずに、脇目も振らず駆け寄り腕を取って強引にその場から連れ出す。
 怒られるかと思いきや、彼女は何も言わずに黙って僕に腕を取られるままだった。
「決めました。これからは我慢しないで、洗いざらい僕の気持ちを伝えます」
 歩いている間、ずっと言いたかった言葉を彼女に伝える。
「巴さんに近づく男が妬ましいとか、出来ればやってほしくないとか……」
 嫌われるかもしれない、言わなくてもわかってくれるかもしれない、そんなことは考えずに、彼女に全部伝えようと。

 人気のないところまできて、彼女の腕を離す。そして、正面から彼女の瞳を見つめながら、また両手を掴むのだった。
「これが僕の約束です、巴さん。だからこれからの僕を、ずっと見ていてください」
 昴の言葉に彼女はゆっくりと頷く。そして彼女も口を開いた。
「約束してくれる? 思っている事はちゃんと私に話して伝える、って」
 その言葉に、しっかり「はい」と言葉にして返事をする。
「どうしたらいいか分からないなら『困ってる』って言ってくれないと、私分からないから」
 彼女の言葉ひとつひとつに言葉を返す。
 そして、彼女の顔に昴の顔が近づいていく。

「巴さん――」

 そんな二人の上に広がる空は、久しぶりの晴天が広がっていた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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aa4976@WTZERO/葛城 巴/女/25/エージェント
aa0919@WTZERO/九字原 昂/男/20/エージェント

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
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2018年06月29日

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