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『誰かさんと話す為の儀式が成功した、と思しき後の話。 』
黒・冥月2778

「ノイン、だな」

 逸る様子の零やエヴァを抑えつつ、黒冥月はまずそう確かめている。

 関係者総出で秘密裏に御膳立てした儀式の場こと、冥月が影で構築した亜空間の中。待ち人である元霊鬼兵の魂を、唯一「何となく」程度でも感じ取れていた湖藍灰からの――来たよ、との一声。
 その報告を受けた時点で、冥月は今居るこの空間を外界と完全に遮断。
 程無く、憑坐役を務める湖藍灰の弟子に、この場に留めたその魂が降りた事が判明する。…つまりはその弟子がどう見ても本来の彼とは別人の気配を纏って、意識を失っていたところから目を覚ました訳だ。
 …それも、この場に居る皆それぞれ、覚えのある気配を。

 つまり、ノインの。

 そして、状況がそこまで来た段階で――私は本当に「彼」がノイン本人かどうかをまず確かめようと試みた訳だ。無論ここまで来ればさすがに信頼はしているが、それでも何か別の悪霊だったり――本人だとしても魂が変質して「宜しくないもの」になっていたりはしなかろうか、と万一の事を考えてしまうのは仕方無かろう。
 こちらがそんな事を考えているのに気付いているのかいないのか、「彼」は暫し己の発声を確かめるようにして何度か声を上げた後、少し困ったように笑って――こちらを見返して来る。

『…そう、視えてくれますか?』

 何処か頼りない言い方。それでいて――己自身に強く言い聞かせているようでもある、芯のある声音。…その時点で間違いは無いと見た。霊魂の扱いなど知らんが、悪意や敵意の有無を見極める事なら――私は裏社会の世渡りで充分過ぎる程に慣れている。
 と言うか、その第一声があまりにも「奴」らしかったので、疑う余地が無かったとも言うが。

「湖藍灰」
「ん?」
「時間はどのくらい保つ」

 ノインが憑いていられる猶予は。…回答次第で、話の優先順位が変わってくる。長いなら零やエヴァと話す事を優先させてやれるが、そうでなければ情報交換や「今後」についての話の方が先だ。

「んー…上手く転がれば長く保てるとは思う。ただこういうのって言い切れる話じゃないからねぇ。まぁ、一度降ろせた以上はそれなりの時間大丈夫だと思うけど…保証は出来ないよ?」
「そういうものか。具体的な時限が聞ければと思ったのだが…まぁどうであれ、これだけはまず聞いておかねばなるまい」
「?」
 何かあったっけ、と頭上に疑問符浮かべる湖藍灰を余所に、私は抑えていた零とエヴァを呼び付ける。何ですか? 何よ? と湖藍灰同様頭上に疑問符浮かべつつも素直に近付いて来た二人のその肩を――ぐい、とそれぞれ両手で抱くようにして引き寄せた。
 そして、訊く。

「どちらが本妻だ」

「…」
「…」

 ぶち。
 …何かが切れた音がした、気がした。

「〜〜〜っ! 真剣な貌で何言い出すかと思えばふざけるのも大概にしなさいよっ…!!!」
「え、ちょ、冥月さん何言って…っ!???」

 一拍置いて後、引き寄せられた二人とも俄かに焦り騒ぐ――と言うか、特にエヴァの方は顔を真っ赤にして、きー、とばかりに冥月に食ってかかっている。何だ何だとノインの方も目を丸くしてこちらを見ているようで――それに気付いたらエヴァの暴れっぷりが更に悪化した。…とは言えこの場合原因が原因なので、幾ら最新型霊鬼兵のする事と言えどあまり迫力は無い。

「ほ、ほほほんっ、さい、とか、そういうんじゃ…!」
「ってユーも真面目に反応しようとしてるんじゃないわよっ!」
 ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー。
「…あー、はいはい、悪かった。取り消す」
「当たり前でしょっ」
「それよりな。…久し振りなんだ、二人ともまずは挨拶してこい」
「――っ、そう、ね」
「…はい」
「但し五分だ。「今後」についての話が終わったらまた時間やるから」

 改めてそう釘を刺し、二人をノインの方へと送り出す。



 が、こちらは呑気にその様子を眺めている場合でも無い。
「今後」について――即ち、転生なり何なり「戻って来れる」手段と「本人」の考えとの擦り合わせが、一番の目的である。
 間接的に聞いているのが「生前」の量産型霊鬼兵の肉体のような、多数の柵と犠牲の上に成り立つ手段は忌避するだろうと言う事。…ならどんな手段なら許容範囲なのか、もしくは自分で何か方法を考えているのか――その辺りの直接確認がまず必要である。
 他にもこちらで手伝える事、こちらで準備出来る事があるのか等々、ぱっと考えただけでも相談し決めておくべき事はそれなりにたくさん思い付く。
 二人の挨拶を待っている間に、それら、湖藍灰と軽く打ち合わせをしておいた。…殆どこれまでの経緯で挙がった話の再確認ではあるが、要点ははっきりさせておいた方がいい。

 いや、待てよ?

「…以前、ノインと話すのはチューニングの問題と言っていたな」
「そうそう。だからつまり今はうちの子が憑坐って言うアンテナになって受信してる状態ね」
「なら…今互いの周波数を決めれば、今後の会話が楽になったりしないか?」
「…あ」
「出来るんだな?」



 きっかり五分の後、こちらで呼ぶまでも無くノインの方から呼び付けられる。…零とエヴァの方から聞いたとの事で、確りとその言い付けを守って来る辺り――やっぱりこいつはこいつである。

『色々と御面倒をお掛けしてしまっているようですね』
「ああ。…二人から聞いたか」
『はい。彼女たちの許に戻る為の手段を、貴方が考えてくれていると』
「で、どうする」
 お前は、どうしたい。
『…僕、は』

 戻れるならば戻りたいと、方法を探してはいたのだけれど。
 次第に己の魂がこの世界から縁遠くなって行くのを感じ、自我・自意識を留めておくので精一杯になっていた…らしい。

「あー…それ輪廻の海に呼ばれてる感じだな」
『…それも手段の一つとは聞いています』
「…魂の質の関係で、輪廻に任せたら人類が存在している内に転生出来るかすら怪しいとも聞いてるが」
『…それも聞いてます。ただ、いよいよとなったらその選択肢しかないのかな、とも思っていますが』
「可能ならもっと早い転生を望むか?」
『それはもう。…長く待たせてしまっているんですから』
「お前の側の条件は」

 何の柵も無く誰も犠牲にしない肉体、くらいか?

『そう望みたいですが、それを望むと輪廻に乗る事くらいしか思い付きません』
「んー…じゃあ例えば魂が離れた後の完全に空っぽの死体とか、生体じゃない生き人形みたいなのに宿るんだったら可?」
『…本来の持ち主さんの御迷惑にならないならそういう死体でも構いませんし、人形でも構いませんが…』
「その辺は拘り無しね。じゃあ、ちょっと物は相談なんだけど」
『?』



 そして湖藍灰が提案したのは――先程私が指摘した、「互いの周波数」を決めて合わせておかないかと言う話。曰く、そうすれば今後共に意思の疎通が楽に図れるし、ノインの側でも自我や自意識を繋ぎ止めておく役にも立つと言う。また、単純に本人込みで話の詳細を詰めて行けるし――何より、結構気軽に待ち人と話も出来る。

 聞いた時点で、どうしたら合わせられますか、とノインもすぐに返している。それはね、と湖藍灰の側もすぐに受け――私では理解出来ないオカルトな類の、具体的なやり方についての相談が始まった。

 …ひとまずこれで、最低限の話は付いたと見ていいだろう。
 転生自体をどうするかの方は、これから話を詰める事、でいい。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■PC
【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)/女/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】

■NPC
【NPC5488(旧登録NPC)/ノイン/男/?/虚無の境界構成員(元)】

【NPCA016/草間・零/女/-歳/草間興信所の探偵見習い】
【NPCA017/エヴァ・ペルマネント/女/不明/虚無の境界製・最新型霊鬼兵】

【NPC0479、480(旧登録NPC)/鬼・湖藍灰/男/576歳/仙人、虚無の境界構成員】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。
 そして今回もまた結局期間いっぱいまで使ってしまってお待たせしております。

 内容ですが…今回はノインとの相談まで、になりました。
 残りの「必要な相談後」のプレイング部分は、出来ましたら次回以降に反映させて頂きたいと思います…何だか少しずつ内容が先送りになっておりますが、該当部分のどたばた(?)は駆け足で流すよりそれなりに文字数割いた方が良さそうな気がしましたので(今回ノベル最後部分の「提案」の詳細及び関係者周知も兼ねる形で)

 また、プレイングの「どちらが本妻だ」部分ですが、二人だけにこっそり聞いてる感じかと判断してこうしたのですが…宜しかったでしょうか? いや二人を示してノインに直接迫ってる風にも受け取れそうな気がして来て…でもそれだと直後のプレイングが少し変な感じになるかなと思った結果なのですが。

 と、今回はこんなところになりますが、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次はおまけノベルで。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年07月02日

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