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『ないしょのないしょの女子会 』
雁屋 和aa0035)&時鳥 蛍aa1371)&紫 征四郎aa0076

 ホームに到着し電車のドアが開くと同時に紫色の髪を揺らし、タイル目地に走る水のように人と人の隙間を通り抜けていく紫 征四郎。

 それだけ激しくなめらかに動いても、右手に下げたバスケット大きく揺れることはないし、それどころか上下にすら揺れていない。見る人によっては一定の高さで水平に浮遊しているバスケットが見えたかもしれないほどだ。

 ほんの一瞬だけ時刻表の時計に目を向け、エスカレーターを駆け上がる人を後目に、階段を駆け上がる。

(待ち合わせの時間より早いですね。これならホタルを待たせることもないでしょう)

 押し寄せ荒れ狂う人の海で、内向的な時鳥 蛍がひとり、困り顔で漂流している姿を思い浮かべると、時間からすればまだ来ているはずはないのだが、急ぐ足がさらに速くなってしまう。

 階段を駆け上がると徐々に待ち合わせの目印である謎のモニュメントが見え始め、埋め込まれている時計へと目を向けた――その瞬間、さしかかった十字路から飛び出てくるような勢いで、身長がほぼ同じくらいの人影が。

 だが、さすがの反応を見せる征四郎。

 バスケットから手を離すと両手で人影の肩をつかみ、腕を曲げお互いの勢いをできるだけ殺すと、胸と胸がぶつかる前に左手を離して半身になりながらも横へと滑りこみつつ、落下中のバスケットを左手でキャッチする。

 征四郎が回避行動をとるのを察知してか、人影は下手に動こうとせず箱をぶら下げたまま身を任せていたので、そんな芸当がうまくいったのだった。

「すみま――ホタルでしたか」

 目の前の少女、蛍はぶつかりそうになった相手が征四郎だとわかると、『征四郎』とタブレットに名前を打ち込み、あうあうと口を何度か開け閉めしてから「ごめんな……さい」と、か細い声を絞り出す。

「こちらこそすみませんでした。まだ時間には早いですが、どうかしましたか。ホタル」

 征四郎の問いに蛍は目を泳がせ、しばらく口を小さく開けたままでいたが、うまく言葉がまとまらなかったのか結局タブレットに打ち込み、征四郎に見せた。

『征四郎なら早く来るだろうと思い、待たせてはいけないと早めに来てみました』

 それを読み、どちらからともなくはにかむと、征四郎が「少し早くなりますが、では行きましょう。ノドカのところへ」と、促すのだった。

 2人は電車へと乗り込み、ちょうどよく空いている席の隙間に肩をくっつけあって座る。

 最初は座りながら征四郎が英雄達の様子など近況を話し、蛍はそれに頷き、自分の近況もタブレットで伝えていたのだが、ほんのつい最近、それも依頼の話ともなってくると、だんだん口数も減り、蛍の目を見ていたはずの征四郎もいつのまにか目線を落として伏し目がちになっていた。

 依頼の事を考えると、どうしても心に憑いた迷いを考えてしまう。

 絶えず悩まされ、歩みを止めようとすれば変わらない想いをも蝕んできそうな迷い――間違いなく、心がずいぶんと疲弊していた。

(考えてみれば、これくらいの距離なら立ったままだった気がします……)

 それが今日ときたら、自然と空席を探し座っていた――考えすぎかもしれないけど、心の疲弊が普段の行動にも影響を及ぼしているのは、気のせいではない。

 僅かながらもショックを受けながらも、ふと蛍の横顔を見ると、少し背を丸めて下を向き、小さくだが下唇を噛みしめていた。

 きっと今の自分も同じような表情をしているのだと思うと、征四郎は上から引っ張られるように背筋を伸ばし、顔を両手で挟むように叩いた。

(――征四郎が少しでも早く元気になるようにと、せっかくノドカが気を使ってくれたんです。このままじゃいけませんねっ)

 征四郎の突然の行動に蛍が驚き顔を向けると、征四郎は努めて笑みを作り、「今日はいっぱい楽しみましょうねっ」と声をかけるのだった。




「そろそろ来る頃合いかしら」

 体幹を鍛えるため、腿上げして走っていた雁屋 和はランニングマシンを停止させると、少し大きいテレビの森を歩く映像を止め、テレビの前を著しく陣取っているごついランニングマシンをひょいと持ち上げて自室へと片づける。

「今日はこれも必要ないわね」

 2人掛けのソファーも持ち上げ、それは同居している英雄の部屋へ。今日は内向的な蛍が来るならと気を利かせてくれたのと、新しいもの発見の旅で、2人の英雄は夕方までは返ってこない。

 ランニングマシンの代わりにローテーブルを広くなったテレビ前に置いて、適当に見繕ったお菓子を並べ、冷蔵庫からジュースのボトルを2本抱えた辺りでインターホンが鳴った。

 リビングへと戻り、モニターに移る征四郎と蛍へ向け「開いてるから入って」と促し、ボトルをテーブルの上に置く。

 これで準備はいいかとテーブルの上を確認して、コップが出ていないのに気づいてキッチンへ戻ろうとした辺りでやっと、玄関の扉が静かに開けられる気配と、征四郎の「いい、んですよ、ね?」と、おそらく蛍に確認している声が聞こえた。

 和は立ち止まり、廊下のドアを見つめる。

 おずおずと開かれ征四郎が顔をのぞかせると、「いらっしゃい」と和はややぎこちない笑みを浮かべて歓迎した。

「テーブルの前に座って待ってて」

 そう声をかけ、キッチンへと引っ込んでいく和だった。

 征四郎と蛍が足音を立てないような歩き方でリビングに入ると、言われたとおりにローテーブルの隅っこ、わざわざテレビを横に見なければいけない幅の狭いほうで、2人そろって正座する。

 戻ってきた和が「そんな端っこでなくて、正面に座っていいのよ」と促し、紙コップを置いて正面の隅に座ると、征四郎が和の隣へと移動し蛍も少し体をずらして、ようやく3人がテレビの正面を向く形となった。

「食べ切らなくてもいいから、お菓子は適当に好きなのを開けて。今日はともかく難しいこと考えず、好き過ごすことだけを考えるといいわ」

「お菓子と言えばですね――英雄に習って、征四郎がシュークリームつくってきたのです」

 征四郎がバスケットをテーブルの上に置き、開封する。

 中はキツネ色で埋まっているが、所々に小さな黒が見え隠れしているのを和にも蛍にも気づかれた事を察知して、いまさらながら手で隠したりする征四郎。

「あまりまじまじと見ないでほしいです。味に支障はないと思うのですが……そういえばホタルも何か用意していませんでしたか?」

 征四郎に振られ、『ケーキを用意してきました。征四郎と違い、こちらは今朝、買ったものですが』と、タブレットではあるが言葉を発する機会を得られた蛍が続ける。

『せっかくですから、先に征四郎のシュークリームからいただきましょう。こちらを冷蔵庫に入れて貰ってよろしいでしょうか』

 両手で箱を掲げる蛍へ、「いいわ」と和が立ち上がり受け取り冷蔵庫へとしまってから、改めてシュークリームを3人で頂く。

 和ががぶりとかじりつくと、ザクリとした食感と同時にふわふわの食感が広がり、とろとろのカスタードクリームから漂う芳醇なバニラビーンズの甘い香りが鼻孔を抜けていく。多少ある焦げの苦みがそれらをさらに引き立てるため、最初から計算されていたのではないだろうかと思ってしまうほどである。

(それにしても……)

 横を見やると、征四郎も蛍もシュークリームを手でちぎって口に入れている。それに比べ、和は直でかぶりついた。

 座り方にしても、2人は正座からのいわゆる『女の子座り』しているが、和は片膝を立てたあぐらのような座り方である。

 それにパステルな青いパーカーに白のブラウスで濃い青のマキシスカートな征四郎と、小さな飛び花柄の白いフレンチスリープ(胸が突き出ている)にベージュのウエストから始まるロングフレアスカートの蛍。2人とも年相応以上に可愛い――だがしかし、和は上下スウェット。それも上下色もメーカーもバラバラ。

 少し目を閉じて考えてしまいそうになったが、考える事を止めた。今日は映画を持ち寄って見る日なのだからと。

「誰のから見る?」

 その問いかけに、手を挙げて力一杯の主張をしたのは意外な事に蛍だった。

 リュックから取り出したのはあぜ道にのぼりを持った少女が立っているパッケージのアニメーション映画で、心なし、蛍の鼻息も荒くなっている気がする。

『地上波で見て以来、お気に入りです。このおもしろさを征四郎と雁屋さんにも是非知っていただきたく思います』




 蛍おすすめ映画を見終わり、「ギリギリの魅せ方がおもしろかった」「手に力が入ってしまいました」と、自分の好きをわかってもらえて満足な蛍。征四郎へタブレットを使わずに、「どこ、よかったか……な」とがんばって話しを広げようとしているのを、和は温かく見守る。

 話を聞きつつ、最後の恋愛模様に誰も触れないのをまだ2人にはわからない事だからかとか思っていたりもしたが、実の所、和以上に響いているなどとは知る由もない。

 余韻を残しつつも次を征四郎が名乗り出た時、インターホンが鳴った。

 和は「再生してていいわ」と言いつつ玄関へと向かい、ほんの少し誰かとやりとりして戻ってきたその手には、ピザの箱が。

 タブレットで『ピザ?』と打ち込もうとした蛍が、タブレットの時刻を見て今がお昼である事に気づき、『お昼がピザなんて初めてかもしれません』と打ち直して見せた。

「せっかくの女子会、こんなのもいいかもしれないとね」

 映画に夢中なのかあまり減っていないお菓子を腕で寄せ、スペースにピザを置いて「で、この映画が征四郎のおすすめ?」と話しを振ると、征四郎がパッケージを持ち出す。

 江戸を連想させる建物の上に将軍ぽい特撮ヒーローが刀を構え、『悪を裁き世を正す――それが将軍の役目ってもんよ』と大きく書かれていた。一目で特撮と時代劇が混ざり合っていて、勧善懲悪のわかりやすそうな作品だと、見たことのない蛍や和にもわかる。

「どっちもファンなので嬉しかったです! 怒りん坊将軍が大変渋くてかっこいいのです!」

 興奮する征四郎にピザを勧めつつ、視聴開始。内容としては大方の予想通りばばーんとやっつけてどどんと解決と、とてもわかりやすいもので、シリーズものの劇場版だったが、関係図とか色々知らない2人でも十分に楽しめた。

 さらに蛍が「特撮……ヒーロー……わたしも、好き……です」と征四郎に話しかけていたからには、言葉で伝えたくなるほど好きだったのだろう。断片的な言葉から、英雄の影響で毎週見ているほどなのだなと、聞いていた和はそう推測しながら、キッチンへと向かう。

 冷蔵庫から取り出した蛍のケーキをテーブルの上で広げたのだが、ふとフォークが入っていない事に気づいた。

 和が気づいたと同時に蛍も気づいたらしく、どうしようという顔をしてキョドりだしたのだが、「こんなこともあろうかとね」と言ってテーブルに置いたのは――割り箸だった。

「ケーキ用のフォークなんてなかったの。箸で大丈夫よね?」

「さすがノドカ、応用力がありますね」

 征四郎は素直に感銘を受けている中、蛍はおばあちゃんが同じ事を言ったとか思い出したりもしたが、そこは口にしなかった。

 ケーキを箸でつつきながら、順番が回ってきた和が「私のは2人の趣味に合うかわからないけど」と前置きして、再生する。

 小さな島に突如として現れた、怪獣。何もせずただじっと海を見つめるだけにもかかわらず、人類が何とか退治しようと試みている最中、海から現れた新たな怪獣が暴れ出した。それに合わせて島の怪獣がとうとう動き出す――というところで、誰かの腹の音が響いた。

 お腹を押さえ俯く蛍に2人の視線が集まると、征四郎からも同じ音が鳴り響く。

「ピザとお菓子だけだものね。少し待ってて」

 一時停止をして和はキッチンへと向かい、その間に征四郎が「ホタル、楽しめてますか?」と尋ねてみる。

「大……丈夫。楽し……め、てるか……ら」

 蛍の回答に満足しつつそんなやりとりを何回か繰り返していると、和が戻ってきた。ほかほかな湯気を漏らすカップ麺を、3つ持って。

「夕飯前に食べるものじゃないかもしれないけど、今日くらいはね」

 再生して、カップ麺をすすりながら映画を見る――征四郎が小さく笑った。

「悪いことではないはずなのに、なんだか悪いことをしているような気分になりますね」

 背徳の味に笑う征四郎へ、「……うん」と蛍もまた、小さく笑って返すのだった――



 海の怪獣を退治した島の怪獣が一部の人に感謝されるもやはり退治するべきだという世論が巻きおこる中、自分という存在が人類にとってあってはならないとわかっているのか、人類へ害を及ぼすことなく火山へと登り、悲しげにひと鳴きしてマグマの中へと沈んでいく――そんなエンディングに、征四郎はずびずびと泣いていた。

「少し後味悪かったかしらね。特撮と勧善懲悪が混ぜ合わさっているから、2人にもいいかとは思うのだけれども」

「いえ、いえ、とてもいい話だと思うのでず……」

 征四郎ほど感銘を受けなかった蛍も、ティッシュの箱を持ちながらコクコクと頷いて和相手でも賢明に口を開こうとする。

「良い怪獣……は、報われ……ない……それで、も……満足、だった……と思いま……す」

「そうね……正義が常に感謝されるわけじゃないし、感謝されるための正義でもない――自己満足でも、いいのかもしれないわね」

 征四郎の涙と鼻水が落ち着いた辺りで、「征四郎……そろそろ」と蛍が袖を引く。カップ麺は頂いてしまったが、さすがに夕飯まで頂くわけにはいかない。

 征四郎が「そうですね」と立ち上がり、蛍も立ち上がったので、帰るのだなと察した和も立ち上がった。

 余ったお菓子を適当に袋に詰めて、玄関まで見送りつつそれを渡す。

「今日は楽しかった。映画のチョイスからしても、気づかいがノドカらしいです……またわたしとホタルを誘ってください」

『ご飯前にカップ麺とか、大人のずるいところ、もっと教えてほしいです』

 タブレットに映し出される大人のずるいところに唇の端を持ち上げ、「いいわ。大人の階段を見せてあげるわね」と返すのだった。

「それでは、お邪魔しました」

「――……しました」

 パタンと、来た時よりは少し大きい音だが静かにドアは閉められ、2人が帰っていった。

 2人の足音が聞こえなくなるまでその場に留まり続けていた和――ドアへと向かいポツリと。

「……早く、吹っ切れるといいわね。2人とも――」





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0035@WTZERO/雁屋 和/女/21歳/スープにライスぶっこむのは自重した】
【aa1371@WTZERO/時鳥 蛍/女/12歳/女子力よりも強烈な武器を胸に秘め】
【aa0076@WTZERO/紫 征四郎/9歳?/元気はがんばるものじゃないと、気づけるか】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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毎度のことながら期限ぎりぎりまで使わせてもらい、申し訳ありません。今回のご発注もありがとうございました。
いくつかのリプレイも見させていただき、事情を把握しているかはちょっと定かではありませんでしたが、
元気になろうとするところをちょっと強めに書かせていただきましたので、少しバランス配分が悪いかもしれません。
またのご発注、お待ちしております。
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2018年07月02日

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