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『水入らず! 』
古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001)&古賀 佐助aa2087
「ごゆっくりおくつろぎくださいませ」
 おじぎを残して若女将が襖を閉めれば、“菖蒲の間”は古賀 菖蒲(旧姓:サキモリと古賀 佐助、そして菖蒲に抱っこされた愛の結晶、翼佐――古賀家だけのものとなる。
 今日は親子三人水入らず、某県の温泉にやってきた。有名ではない、それでいて山海の幸に恵まれた露天風呂完備の宿、しかも離れである。なにせ翼佐の初旅行記念、奮発もしようというものだった。
「なんかキンチョーすんなー、こういうの」
 佐助はやれやれと苦笑し、卓上のポットで茶を淹れ始めた。
 もともと責任感が強いこともあるが、我が子を抱く妻の手の代わりを務めるうち、大抵のことはこなせるまでになっていた。
「たまにはいいですよ。いつもとちがう今日も」
 と。菖蒲の腕の内、翼佐が「まあまあ」、声をあげた。
「はーい、ママじゃよー」
 とろけた笑顔で返事をする菖蒲に佐助が「いやいやいやいや!」。
「ママはまだ早すぎだって! えっと、ハンプクナンゴっしょ!」
 スマホを突きつけてふんすふんす。正直大人気ないとはわかっているが、パパにだって守りたいメンツってものがあるのだ。ようはママより先にパパって言われたい!
「あらあら翼佐がびっくりしますよー。ほんと、困ったパパじゃねー。後でママが翼佐の代わりに甘えとくからのー」
「え!?」
 突然の痒甘展開に硬直する佐助。今って我が子の愛とか取り合いしてたとこだし、そういうのってマジ反則じゃね!?
「なにか問題でも?」
「……ないっす」
 菖蒲は目を逸らす佐助の耳元へ唇を寄せて。
「私の甘えっぷりは伝説級ですよ?」
「はいっすうぃっす、覚悟決めてお待ちしてまっす」
 尻に敷かれてるような気もするが、まあ、これはこれでいいだろう。

「鑑賞式」と呼ばれる日本庭園の景観を楽しめる広縁。
 池からは紅に縁取られた蓮の白花が伸び出し、侘びた庭を鮮やかに彩どっていた。
「“いつも”じゃない景色ってのも、いいもんだなー」
 うなずく佐助のパーカーの端っこを、菖蒲がくいっと引いて。
「お風呂からも見れるって女将さんが言ってましたよ?」
 頬にほんのり赤を差す菖蒲が、“いつも”とはまたちがう艶っぽさを醸し出していたりして……実感するのだ。オレ、アイリスちゃんにこんな顔してもらえる奴になれたんだなぁ。
「早速行っちゃう? アイリスちゃんの浴衣も見たいしね」
 自分で言っておきながら照れくさそうに笑む佐助の顔を見上げて菖蒲もまた思う。わらわ、佐助にこんな顔させられるヒロインになれたんじゃな。
 と。通じ合う両親の狭間で翼佐が「ぱあぱあ」。
「今パパって言ってね!?」
「ちがいますー! パパとか言ってないですー! 反復喃語ですー!」
「って、翼佐からいきなり酸っぱいにおいが――」
「あー、うんうんですね。お尻キレイにしないと」
「オレって翼佐的にうんこなんすかね……」
「んー、どうじゃ翼佐ー? パパはうんうんかの?」
「まあまあ」
「まさかわらわもうんうんの仲間入り!?」

 ともあれひと騒ぎ済ませて。
 離れ専用の露天風呂で、三人はまず体を洗うことに。
「いっつもアイリスちゃんに抱っこしてもらってっから、こうやって翼佐抱っこすんのお風呂のときくらいなんだけどさ。おっきくなってんだよね、ちゃーんとさ」
 あれこれ準備を整えるアイリスから翼佐を預かった佐助がしみじみ、つぶやいた。
 大きさもそうだが、生まれたばかりのころより2倍近く重くなっている。
「そろそろ離乳食も増やしていかないとですね」
 言いながら、我が子が自分から離れていくような物寂しさを感じたりする菖蒲である。いや、人と妖狐のハーフである彼女は10週ほどで乳離れしたから、それに比べればずいぶん遅いと言えるのだが。
 ぶるりと体を振って感慨を払い、菖蒲は佐助に呼びかけた。
「お背中流しますね。佐助は翼佐を洗ってあげてください」
 菖蒲はゆっくりていねいに佐助の背中へタオルをこすりつける。
「翼佐は8の字でやさしく……オレのほうはもうちょっと強くていいよ?」
「はい。このくらいですか?」
 佐助の要請に応え、力を入れてこする。
「すげーいい。アイリスちゃん、最高じゃん?」
 言った佐助も言われた菖蒲も思わず「くぅ〜」とうずくまった……。
「あ。アイリスちゃんの背中、オレが流すよ!」
「お。お願いします! じゃあ翼佐は私が」
 翼佐の体が冷えてしまっていないか確かめて、菖蒲はすべらかな背を佐助に向けた。
「毎日お疲れさま。アイリスちゃんがいてくれっから、オレも翼佐も元気に暮らせてんだぜ」
 菖蒲を傷つけてしまわないよう、でもその背中に負われている疲れをこすり落とせるよう、そっと力を込める。
 正直、うまい三助ではなかったけれど、菖蒲にはそんな佐助の心がなによりもうれしくて。
「ふたりが元気でいてくれるからがんばれるんですよ。今までも、これからも。もちろん、ふたりが3人になっても4人になっても5人6人7人8人――」
「んー、そしたらテレビ局に狙われそうじゃんね?」
 体を綺麗にし終えて、次はついに入浴だ。
「ここからが勝負ですね」
「あわてず急いで正確に、だよな」
 ふたりは顔を見合わせて、こくり。
 菖蒲が翼の首に秘密兵器の入浴用浮き輪をセット。その間に佐助は温泉の温度を体温計で確認。
「お湯の温度、ばっちり38度! 時間は――」
「4分ですよ! カウントダウン、スタートしてください!」
 そう。赤ちゃんの入浴時間は先人の積み重ねてきた経験により、「3〜4分」が最適とされているのだ。
 で、ざっぱん。
 愉快そうにちぴちぴお湯を掻く翼佐越しに庭園の眺めを楽しむ合間にタイマーをチラ見して乳白色のお湯の効能なんか語り合って翼佐がのぼせてないか確かめてタイマーをチラ見してそういえばアヤメもショウブも同じ菖蒲って漢字なんですよねーマジかよ来年はアヤメ見に行こっかー温泉地だと咲いてないのが残念ですけどー家族いっしょだったらどこ行ったって記念日っしょーなんて笑い合って翼佐の「ぱあまあ」発言にぎくっとしたりタイマーをチラ見したり。
「4分!」
「はい撤収します!」
 赤子の縫入浴はそう、戦場なのだ。

 夕食は山海の幸をふんだんに使った伝統料理が並ぶ。
「おー、日本海! って感じじゃん?」
 浴衣をゆるりと着崩した佐助が目を輝かせる。
 美しく盛りつけられたヒラメの刺身、きゅっと締められた鯖、甘辛いタレをしっかり吸い込んでとろとろと輝くイカの煮つけ、火をかけられてふつふつと磯の香を振りまくサザエ、そして島から直送された岩牡蠣!
「菊のおひたし……紫で綺麗ですねぇ」
 こちらはきちんと着つけた浴衣姿の菖蒲がほっこり笑んだ。
“かきのもと”と呼ばれるこの食用菊、通常の出荷時期は秋から冬にかけてなのだが、県外からの観光客をもてなすため、特別に栽培しているものだそう。
「翼佐もごはんじゃよー」
 菖蒲の膝の上、握り締めたスプーンを振り振りする翼佐。卓上の料理がおいしそうというより、いつにない特別感が心浮き立たせているようだ。
「パパとママのごはんとおそろいでヒラメ入ってるんだってよー。やったぜー」
「ママとパパのごはんとおそろいじゃよ?」
 微妙にプライドをぶつけあう両親の言葉に奮い立ったか、翼佐はもりもりとすり潰したヒラメを食べる。
「アイリスちゃん、あーん」
 手が離せない菖蒲の口へ刺身を運ぶ佐助。こんくらいしかできねーけど? オレ、がんばってアイリスちゃんの手の代わりするからさ。
「佐助も早く食べてください! 昆布締め! 昆布締めですよ!」
 淡いはずの白身が昆布の旨みをたっぷり吸い込んで、とにかくおいしいのだ。それにちょっと粗塩をつけたらもう! ねっとりコリコリの歯触りもたまらなくて! 早く佐助にも伝えたいじゃないですか! 私の驚き、お届けしたいんです!
「なにこれやべぇ」
 女将は締めた後の昆布の細切りを添えて茶漬けも……と言っていたが、そこまで残せる自信がない。宿側が海鮮のメインにあえて昆布締めを持ってきた理由を思い知らされた。
 それに。家族みんなで同じものを食べているというのがうれしい。
「今夜はヒラメですね!」
「うん、ヒラメだな!」
 けぷー。ヒラメの次は哺乳瓶に吸いついていた翼佐も背中をぽんぽんされて見事なげっぷを決めた。

 翼佐がまだ元気なこともあり、菖蒲と佐助は食後に本館のお土産コーナーへ。
「こういうとこってさ、なんか妙なもんなくね?」
 いつの時代から伝来してきたものか知れないおもちゃの中から、佐助は角を丸くしてある木のパズルを取り上げた。
「いあいあ」
 菖蒲の腕の中から、好奇心いっぱいな顔で翼佐が手を伸ばす。
「邪神召喚しそうじゃな……」
 母の心配はともあれ、翼佐はパズルを右手に、さらに要求して左手にも握って「あうあう」、上下に振ってみた。
「二刀流――天才じゃん? どっかに赤ちゃん用の二丁拳銃とかなかったっけ!?」
「それより杖と書! 左右同時魔法への道ーっ!!」
 などと盛り上がるジャックポットとソフィスビショップだったが、その視線がはたと止まる。
「卓球台、だよな?」
「どちらを先に試すか」
「勝負じゃん!?」
「負けたほうはバツゲームありですよ!」
 先に点を取ったほうが勝ちの1本勝負が幕を開ける。
「審判、ママとパパのどっちが勝ったかちゃーんと見てるんじゃよ?」
「まあまあ」
 審判席という名のただの椅子に抱っこひもで固定された翼佐が、応えるように手を挙げた。
「パパが超かっこいいオートマチック買ってやっから! そんでアイリスちゃんはちょーっとだけおしおき!」
 佐助のサーブが菖蒲の不意を突いて飛ぶ。ジャックポットのスキルのひとつ、ファストショットだ。
「おしおきされるのは佐助ですよっ!?」
 しかし菖蒲は読んでいた。なにせ1発勝負なのだ。どんな手を使おうと、勝者が笑って敗者は泣くだけ。
 あらかじめ発動していた拒絶の風で反応速度を高めていた菖蒲が思いきりラケットを振り抜く。
「甘いじゃん!?」
 あらかじめスキルを発動していたのは佐助も同じ。射手の矜持で高めた集中力でしっかり球を捕らえ、ブルズアイで菖蒲の逆を突いた。どうよ! これがオレのスマッシュだぜ!
 菖蒲は内心でほくそ笑む。ここはトリオを使ってくるべきでしたね?
 ゴーストウィンドの不浄なる風圧が軽い球を巻き上げ、ベストポジションに浮かせて――スマッシュ返し。
 そう来るかよ! でもさ、いつ球が来るかわかんなきゃ風も吹かねぇよね!?
「翼佐! オレの背中追っかけてこいよ! いつか越えてく日まで、パパがんばっちゃうからな!!」
 佐助がカットした球は放物線を描いて飛び、凄まじい光を爆ぜさせた。
 フラッシュバン!? 大技で決めたいはずのとこで搦め手とか、さすがマイダーリン佐助っ! 球が見えなきゃスキルも使えない……って、そりゃ思うのじゃよね?
「でもでも、32レベル越えは伊達じゃないですよ?」
 場の空気が轟、下へ向かって雪崩落ちていく。ソフィスビショップの高レベルスキル、重圧空間の魔力に引きずり込まれるがままに。
「やってくれんじゃんアイリスちゃん! って、球どこだよ!?」
 かくてフラッシュバンの余韻はかき消え。
「うあうあ」
 落ちてきた球を上手にキャッチした翼佐が、もう1回を要求してぽーい。
 球は佐助のコートに跳ねて、見事パパの手に収まったんだった。
「我が子という名の切り札で私が勝利!」
「えー! ちょまっ、コレ反則っしょ!?」
 騒ぐ佐助に詰め寄った菖蒲が、人差し指を夫の鼻先に押しつけて。
「なんでもありの1回勝負ですよ? 私の勝ち、です」

 いっぱい球キャッチ遊びをした翼佐が「ぷー」、かわいらしい寝息をたてる。
「翼佐の将来、オレらが勝手に決めちゃダメだよな」
 起こさないように小さな声で佐助が言えば。
「そのときまで私たちは休戦ですね」
 同じように菖蒲が返す。
「あ、でもバツゲームは実施ですからね」
「マジ? あー、おっけ。ばっちこい」
 でこぴんでもしっぺでもなんでも来い! 目をつぶって待ち受ける佐助に、菖蒲はそっと。
「翼佐の誕生日、またみんなでお出かけすること。動物園とか水族館とか?」
 佐助の浴衣の袂を探る菖蒲の指。
 ここは離れだけど他の人もいる旅館だし? なにより横には翼佐がぷーぷーしてるし? アイリスちゃんマジ色っぽいけどクールになれオレほんとマジで――
「そ・れ・と。次は、女の子がいいなぁ」
「はいっすうぃっす、マジでガチがんばりまっす!」

 かくて夜は更け、やがて明けていく。
 いつもとちがう、しかしいつもどおりに、古賀家の明日へ向けて。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ(aa2336hero001) / 女性 / 18歳 / 家を護る狐】
【古賀 佐助(aa2087) / 男性 / 17歳 / 厄払いヒーロー!】
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2018年07月03日

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