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『『小さな眼の想い』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 丘の上の雑草の上に小さな男の子が座っていた。
「こんなところにいたのか」
 アレスディア・ヴォルフリートはゆっくりと男の子に近づく。
 男の子はアレスディアの声に気付いたようだけれど、背を向けたまま膝を抱えていた。
「皆待っているぞ」
「待ってねーよ」
 すぐにそう返してきた男の子の隣に、アレスディアは同じように座り込んで彼の顔を覗き込む。
「喧嘩の原因は何だ?」
「……あいつが、話しかけてきたから」
 ただ、それだけだ。
 この子は、人との関わり方を知らない。
「君と仲良くなりたくて話しかけてきたんだろ? こんなところで1人でいるより、皆と一緒に遊んだ方が楽しいぞ」
「楽しくなんかない。俺は……お母さんだけでいい」
「お母さん?」
「そうだよ。お母さんだけでいいんだ。だから、お母さんも俺だけ見てほしい」
 真剣な目で男の子はアレスディアを見詰めていた。
 お母さん……そうだった。
(私は、この子の母親だ)
 アレスディアはそのことに気付き、男の子と目を合せながら、どう答えるべきか考える。
「私は君のことをとても大切に想っている。だけれど、君はいずれ母から離れて独り立ちするんだ。だから、他にも大切な人を作った方がいい。友達や……」
 何故か、胸に小さな痛みを感じながら、アレスディアはこう続けた。
「いつかは、母以上に愛せる人を」
 アレスディアの言葉に、嫌だというように、男の子は首を大きく左右に振って、アレスディアに飛びついてきた。
「お母さんと結婚するからいい」
「……困った子だ」
 言いながらアレスディアは男の子の頭を優しく撫でた。
 彼は心に傷を負っていて、母である自分にしか愛情を示さない。
 人が近づくことを拒み、乱暴に振る舞う彼を、周りの子達もどう扱っていいのか分からない状態だった。
(自分はどうしてこの子の母になったのだろう……?)
 何故かアレスディアは思い出せずにいた。
 アレスディアは独身で、パートナーもおらず、産んだ記憶もない。
 でも、そんなことはどうでも良い事だった。
(母として、私に何が出来るだろうか。この子の幸せを願うのなら、他の子と遊べるように育てなければならぬのだが……)
 自分だけ。自分が一番と愛情を向けてくるこの子を愛しく感じ、アレスディアは複雑な想いを抱きながら、じばらく彼を抱きしめてあげていた。
「それじゃ、お母さんと一緒に戻ろうか。お母さんは皆と一緒に遊びたいんだ。君も一緒に来てくれるだろ?」
 アレスティアが優しくそう言うと、しぶしぶというように男の子は頷いた。
「見るのは嫌だけど、見ないのはもっと嫌だから」
 そして顔を上げて身を起こし、大きな黒い瞳でアレスディアをじっと見る。
「ねえ、君じゃなくてちゃんと名前で呼んで」
「ん、ああ、そうだな。いこうか、ディラ……」
 言って、アレスディアは笑顔で男の子に手を差し出した。

「……ス、アレス」
 名前を呼ばれて、アレスディアは目を覚ました。
 ここは野花や雑草が生い茂る丘の上。アレスディアは弁当を食べた後、木陰で転寝をしていた。
「……殿」
 自分を呼んでいた相手……ディラ・ビラジスに気付いた途端、アレスディアの言葉から、その単語が飛び出した。
 ディラは怪訝そうな顔をする。
「ええと……少し、興味深い夢を見ていたようだ」
 軽く照れながら苦笑し、アレスディアは立ち上がる。
 2人は今日これから、孤児院に慰問に向う予定だった。
「疲れてんのか? やめるか! この仕事俺に向いてねーと思うし。正直行きたくない」
「いや、疲れてはいない。……では、いこうか」
 手を伸ばしかけて、アレスディアはまた苦笑しながらひっこめる。彼は夢の中の子供のような幼子ではない。
 手を引いてあげなくても、ついてきてくれる。アレスディアが向かうところに。
「アレスは今日、子供達の1日お母さんになるんだよな。なんか――妬ける」
 ディラのそんな小さな呟きが、アレスディアの耳に入った。
「ディラ殿は子供達の父親だな」
「無理。知ってるだろ、子供は苦手なんだ」
「大丈夫だ。ディラ殿は私の……相方として側にいるだけでいい。子供達を温かく見守ってあげてくれ」
 夫(役)として側にいるだけでいい、そう言いかけたが、飲み込んで言葉を変えた。
「ふーん」
 不機嫌そうな顔をして、ディラは歩き出す。
 彼の背を見るアレスディアの脳裏に、夢の中の男の子の顔が思い浮かぶ……。
『お母さんが他の子と楽しそうに遊んでるの見るの嫌なんだ』
 そんな声が聞こえた気がした。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、ライターの川岸満里亜です。
今回はディラの素直な気持ちを、表させていただくノベルにしてみました。
少々想定外な内容になっているのではないかと!
この夢の続編や、逆の(ディラ視点など)立場なストーリー、その他見てみたいIFのお話がありましたら、是非またご依頼くださいませ。
WTアナザーストーリーノベル(特別編) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年07月04日

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