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『破れる者は誰もいない 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

「いらっしゃいませ、シリューナさんにティレイラさん。今日はゆっくりしていってくださいね」
 館内に足を踏み入れたシリューナ・リュクテイアを迎えたのは、満面の笑みを浮かべた少女だった。彼女は待ちきれないとばかりに、忙しなくゲストルームへとシリューナ達を案内する。どうやら、同じ趣味を持つ同志の来訪をとても楽しみにしていたようだ。
 彼女はシリューナと同じ、オブジェ鑑賞を趣味にしている魔法使いだ。少女……といっても、実際の素性は明らかにはなっていない。恐らく、魔法によりその姿になっているだけだろう。
 少女の住む館の中には、彼女が集めた様々なコレクションが飾られていた。シリューナの弟子のファルス・ティレイラは、飾られた品の数々に「わぁ」と声をあげ興味深げに瞳を輝かせる。シリューナもまた、見覚えのないオブジェを目に留めると冷静に観察し始めた。
「それで、今日はどういった用件?」
「え? いや、その……久々にシリューナさん達とお話したくって」
 シリューナの問いかけに、はにかみながらも少女は答えた。突然呼び出すものだから何か事件でもあったのかと思ったが、少女はただオブジェについて話したかっただけらしい。
 少女の淹れたお茶を飲みながら、シリューナ達は楽しげに談笑をし始める。なにせ、共通の趣味を持つ者達だ。会話は尽きる事なく、彼女達の話は盛り上がる一方であった。

 ◆

 話の腰を不意に折ったのは、他でもない魔法使いの少女である。この館には今三人しかいないというのに、誰かに聞き耳をたてられていないか注意深く辺りを確認した後で、少女は意を決した様子でシリューナ達に告げた。
 ーー曰く、とっておきのコレクションがある、と。
 少女が部屋の奥から持ってきたのは、まるで盾のような形をした金属だった。ただのオブジェではない事をひと目で見抜いたシリューナは、凛とした声で呟く。
「魔法金属ね」
「さすが。シリューナさんにはお見通しですね」
 話を聞くところ、この金属は魔法で出来ており全ての魔法や攻撃を弾く保護の力が籠められているのだという。彼女がつい最近手に入れたばかりの、秘蔵の品らしい。
「本来なら誰にも見せたくなかったんですが、シリューナさん達は特別ですよ。このオブジェに魔力を籠めると、保護の魔法が発動して全ての攻撃から身を守ってくれるんです」
 美しいだけでなく、特別な力を持っているとは興味深い。常の落ち着いた様子を崩さないながらも、シリューナの赤の瞳は僅かに揺れた。その話が真実なら、少女がこの品を『とっておき』と評するのも当然の事だろう。
「ティレイラ、少し試してみなさい」
「わ、私ですか!?」
 突然話を振られ驚いた様子のティレイラだったが、シリューナに促されるままにオブジェへと魔力を籠め始める。だが、僅かに反応はあるものの、発動までには至らない。
「師匠、すみません! だめっぽいです〜!」
「……しょうがないわね」
「わ、わわっ!?」
 肩をすくめたシリューナが、魔力を少しだけ盾へと注ぎティレイラのサポートをしてやる。その瞬間、オブジェはまばゆい光を放ち始めた。
 そして、その姿を液体へと変えーー降り注ぐ。まだ盾に向かい手をかざしたままの、無防備なティレイラへと向かって。
「え!? な、なんでこっちに……!?」
 盾はどうやら、魔力を籠めたティレイラの事を保護の対象と判断したようだ。瞬く間に彼女の身体を覆い尽くした魔法金属は、ぎゅっと少女の肌を圧迫し始める。その息苦しさと肌を纏う不快さに、ティレイラの喉から甲高い悲鳴が絞り出された。
「や、やだ! これどうしたらいいの!?」
 あたふたと動き回るティレイラだが、その液体は少しも剥がれてはくれない。それどころか、彼女の肌へと張り付いた魔法金属は時間が経つにつれどんどん硬度を増していく始末だ。
「誰か、助けっ……!」
 ティレイラの悲鳴は、中途半端なところで途切れてしまった。ついに、彼女の身体は、魔法金属と完全に同化してしまったのだ。
 動きが止まったティレイラは、まるで眠るように意識を失う。すっかり全身を魔法金属に包まれてしまった彼女の姿は、先程までの元気に動き回っていたのが嘘のように、その場へと静かに佇んでいた。
「……確かに攻撃を弾くようね、保護の力は素晴らしい。けれど、これでは実用性には乏しいわ」
 オブジェと化したティレイラの肌へと触れ、その強度を確認したシリューナは冷静にそう分析し述べる。
「……それにしても、この出来栄え。目を見張るものがあるわ」
 だが、シリューナの瞳はいつになく高揚しておりうっとりとティレイラに見入っていた。魔法金属の塊となった弟子の姿は、今まで数々の美術品を見てきたシリューナの心をも捉えて致し方ない程に、美しいのだ。
(このまま持って帰って楽しむのもありだけれど……こんなにも美しいオブジェだもの、同じ趣味を持つ彼女も欲しがるかもしれないわね)
 そこで、不意にシリューナは違和感に気付く。何やら、室内の空気がおかしい。
 第一、あの魔法使いの少女が、シリューナですらつい感嘆の声をあげてしまったこのオブジェに対して何の感想も口にしない事にも違和感があった。
「まさか……? くっ……!」
 シリューナがその事に気付いた瞬間、彼女の身体にあるものが降り注いだ。それは、先程ティレイラを覆った液状の魔法金属と同じものだ。液状へと姿を変えた時に、半分程空気中に残っていたらしい。
 シリューナは、もがきながらも魔法金属へと対抗しありったけの魔法を叩き込む。だが、全ての攻撃を弾く魔法金属は、才知に溢れた彼女の魔法すらも通さない。
 そして、逃れようともがく彼女の艶かしい姿をそっくりそのまま保存するかのように、魔法金属はシリューナの身体を完全にコーティングし固まってしまった。

 ◆

「……やった! やったわ!」
 先程までの喧騒が嘘のように、静まり返った室内。二つのオブジェを前にして、魔法使いの少女は歓喜の声をあげた。待ちきれないとばかりに、少女は二人へと抱きつきその感触を全身で堪能する。
「成功したわ! 全てが私の思い通り! ああ、なんて素敵なの!」
 少女はずっと、この時を待っていたのだ。シリューナをひと目見た時から、彼女ならきっと美しいオブジェになるに違いないと確信していた魔法使いは、シリューナ達をいつか自分のコレクションに加えてやろうと企み今日ついに実行に移したのである。
「……ああ、でもこの美しさは、予想できなかったわ」
 唯一の誤算は、シリューナ達の姿が彼女が想像していたよりもずっと美しかった事だろう。無論、それは嬉しい誤算に他ならないが。
 数々のオブジェを見てきた少女ですら、思わず我を忘れ感嘆の溜息を吐いてしまう完璧な造形。その滑らかな曲線にまるで誘われるように、少女は物言わぬオブジェ達を撫でた。彼女達のボディラインを確かめるかのように、余す事なくその身体へと触れその心地良い感触を味わう。
「……素晴らしい。素晴らしいわ」
 高揚した気分のままに、少女の唇からは称賛の言葉が零れ落ちる。少女の視線は美しき像達に囚われて、離れる事が出来ない。瞬きする間すらも惜しく感じる程だ。
「こんなに美しい像が、一度に二体も手に入るなんて、私はなんて幸運なのかしら? 見た目ももちろんの事、手触りもほら、最高だと思いません? ねぇ、シリューナさんにティレイラさん?」
 まるで先程の談笑の続きのように、少女は楽しげにシリューナ達へと問いかける。無論、その問いに返答はない。返事をする術すらも、シリューナ達は失ってしまったのだから。
「二人共、今日はゆっくりしていってくださいね。ふふふっ」
 少女は怪しげな笑みを浮かべ、来訪時に言った言葉をなぞるように繰り返す。
 秘密裏に進めていた少女の計画を破れる者はおらず、シリューナ達を覆う保護の魔力を破れる者もまたいない。
 全ては魔法使いの掌の上。オブジェと化したシリューナとティレイラがいったいいつ解放されるのか、知っているのは彼女ただ一人だけであった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3785/シリューナ・リュクテイア/女/212/魔法薬屋】
【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございます。ライターのしまだです。
魔法金属とお二人のお話、このようになりましたがいかがでしたでしょうか。お楽しみいただければ幸いです。何か不備等御座いましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
このたびはご発注ありがとうございました。また機会がありましたら、よろしくお願いいたします!
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2018年07月09日

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