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『Back Stage 』
鞍馬 真ka5819)&大伴 鈴太郎ka6016

「それじゃ、大伴さん、始めていきますね?」
「は、ハイ。ヨロシク」
 声に、緊張気味に背筋を伸ばして大伴 鈴太郎は答える。
 舞台『放課後/七不思議/倶楽部』の稽古の一幕である。リアルブルーに出向いて今日行うのは、この脚本で初の「衣装付き通し」と呼ばれるもの。本番と同じ舞台衣装を着て、最初から最後まで脚本を通す。
 だから今日は化粧も髪型も、スタイリストにきちんと行ってもらう。あまりそういう事に馴染みのない鈴には、ちょっと落ち着かないひとときである。
 まあ、今回の物語は学園が舞台。彼女が演じるのも女子学生で、衣装は良くある冬服のセーラー服。スカーフの色が白だとか、細かい差異はあるが普段の鈴の格好とそう大差は無い──と、思っていたのだが。
「はい、OKですよ」
 言われて、何となく閉じていた眼を開く。
「──……え」
 思わず、声が出た。
 明るい女子高生という役に対し少し強すぎるところがあった鈴の目元が、シャドウによって柔らかな雰囲気になっていた。ほんのりと光沢が出てより明るい印象になった肌や、薄くピンクの引かれた口元。派手に化粧をしているようには見えないのに、より「元気で可愛い女の子」という顔立ちになっている。
 普段よりずっと丁寧に梳かれ、アイロンを当てて綺麗なストレートに整えられた髪は、高めの位置でポニーテール。それを纏めるのは、明のトレードマークと言える明るいオレンジのリボン。
(んな……でっけーリボンなんてオレに似合うもんかね、って心配だったけど……)
 促されて立ち上がると、全身を確認した。スカートは、膝がちょうど見えるくらいの長さ。横縞模様の長めの靴下には、猫のワンポイント。
 ……。
 普段と、そう変わらない装い、だった。
 だけど、だからこそ余計に、普段の自分との違いが際立つようで。
 ……傍からはどう思われるんだろうか。
 柄じゃない、って、苦笑されたり、戸惑われたりしたらやっぱりショックだなあ、とか。それとも、という気持ちがグルグルして。気持ち忍び足で、彼女は稽古場に向かう。
 鈴以外の共演者はもう揃っているようだった。友人の鞍馬 真と伊佐美 透も、勿論。
「えっ!?」
 そうして、真の姿を見るなり鈴はさっき以上の驚きの声を上げて……こそこそと登場した彼女の姿は、こうして二人に捉えられた。
「シン、髪、それ、」
「うん。どうなってるんだろうね。私も不思議だけど。切ってないよ、ウィッグ」
 緩く伸びたショートカットへと変貌していた真が、笑いながら答える。彼の本来の長い髪は、つまり綺麗に纏められて短髪のウィッグの下に収められているのだろう。だが、不自然にこんもりとした印象は無い。
 鈴は一度距離を取りなおして、改めて真と透、二人の姿を見た。当然、二人とも役柄に合わせて学ラン姿になっている。真のそれはゆったりめで、袖が少し掌にまでかかっている所謂「萌え袖」の状態。透は、サイズ含めてきっちりとした印象、彼は地毛のままのようだったが、眼鏡と前髪の整え方でシャープなイメージに雰囲気が変わっていた。
 思っていたより似合うもんだな、と不思議な心地で鈴は二人を見る。同い年に見えるかというと違くて、どちらかというと大人の男性が学ラン着てもそんなに違和感ないんだな、という感想だったが。
 ……と。
 鈴が二人を見ていると、二人も鈴を見返す形になる。鈴はその視線に思わず、不安げに視線を逸らした。
「──……うん。いいんじゃないかな」
 その様子を見て取って、穏やかな声で言ったのは透だった。鈴がガバ、と顔を上げる。
「良く似てるよ。大丈夫だ。自信もっていい」
 似──……てる?
 想定していたものとはニュアンスの違った褒め言葉に、一瞬きょとんとしてから。
 ああ、役に似てるって意味か、と気がついて鈴は苦笑する。肯定的意見ではあるが、鈴がこうした雰囲気の姿となることはどう思うか、とは、まったく別軸の話だ。
 真っ先に言う事がそれかよ、と思って……やっぱり、納得する。実際、それなんだろう。透にとって今の鈴の姿で一番大事なことは。
(……っンとに、芝居に向き合ってる時はその事しか頭にねえンだろうなあ……。そーゆーとこが……!)
 そういうところが。
 どうなんだろう。
 結局、それで今自分が感じていることは、落胆なのか、それとも──。
 彼女の内心など知らない風に、透は、鈴が来る前にしていたのだろう会話を真と再開していた。軽い動作を交えながら行われるそれはどうやら、実際に衣装を着ての細かな動きを確認し合ったりアドバイスしたりという話らしい。
 真剣な様子に、次第に、口元に笑みが浮かんでくるのを鈴は感じた。
 もういいやと、鈴も何かの参考になればと二人の会話に耳を傾けて。
「あれ? 二人ともいつの間にそんな……」
 ふと気がついて、鈴はつい口を挟む。二人が「何?」と言いたげな目を向けた。
「呼び方……」
「ああ」
 その一言で気がついて二人は微笑する。いつの間にか呼び方が名前呼び捨てになっている、そのこと。
「まあ、いい加減浅い付き合いでもないだろうと思って、先日俺から呼び変えていいか聞いて」
「そういう事なら私も、と思ってね」
 それはまあ……鈴にも分かるのだが。ただそうなると。
「……オレは?」
 自分は鈴君とか大伴さんのままなのに。ヤキモチを焼くようなむくれた態度で言う鈴に、二人は一瞬気まずげに視線を合わせてから、
「や、鈴君は何というかやっぱり、妹みたいっていうか……あ、ハンターとしては勿論、戦友として信頼してるよ?」
「……女の子にこっちからそういう事を言いだすのはちょっと問題じゃないか。やっぱり馴れ馴れしいというか」
 言い訳するように、それぞれそう言って。それから。
「……だから、君の方からそう呼んでほしいって言われるなら、そうするが」
 そうして実際、透がそんなことを言い出せば、鈴は「へ!?」と素っ頓狂な声を上げた。
「……ええと、だから……──鈴?」
 で、実際に呼ばれてみた結果。
「や、やっぱいい! 二人とも今までどおり呼ンでくれよ!」
 照れ臭いやら心地が悪いやらで落ち着かなかったのか、慌てて訂正する鈴なのだった。



 通し稽古は、今の段階としては中々うまくいったんじゃないか、と、真としては思う。
 不安そうにしていた鈴もなんだかんだ、最後まできちんと台詞を通すことは出来ていたし。
 だが。
「……やっぱり、オレの話し方もう少し何とかしねーと駄目だと思うンだ!」
 録画を見て振り返ると、鈴が叫ぶようにそう言った。
 東谷 明という役は言動自体は元気な女子のそれだ。鈴の素の口調からは結構遠い。そのためか……完全に棒読み、とかいう訳ではないのだが、やはり何となく、「作っている」のが分かってしまう。
(……ファンレターが、いい刺激になったのかな)
 今の自分に出せる以上を求め始めた鈴の様子を、真はそう分析する。先日の生放送がきっかけでもらった手紙を、彼女が稽古の合間にもこっそり読み返しては笑顔を浮かべていることを彼は知っていた。
「といって……私の役は、素の口調とそこまで変わらないからな。透は何かアドバイスとかある?」
「……手っ取り早いのは、今まで見たものを参考にすることかな。アニメでも映画でもいい。似たようなキャラから研究するんだ」
 勿論、劇には劇のやり方があるから、それが一番いいと思うけど、というと鈴は再び唸る。観劇の経験というのは流石にそれほど無い。
 そこで、真がふと時間を確かめながら言った。
「まだ強制帰還までは時間あるよね。事務所で何か見せてもらうことは出来ないかな」
 今からでも何か一本、参考にすることを意識して観てみたら何か違うんじゃないか。そう言うと透も頷いて、一行は事務所へと立ち寄ることにしたのだった。

 で。
「どれがいいのかな」
 資料室にずらりと並ぶDVDのタイトルを眺めながら、真が呟いた。劇だけにしてもそれなりの本数がある。この中から、どう絞り込めばいいか。
「あ、そンならトールが出てたやつとかねえの?」
 何気ない調子で、鈴が言う。
「……え」
「ああ。それがいいかもね。とっかかりがあった方が集中して観られそうだし。……見せられないとは言わないよね?」
「いや……舞台に観にきてくれたりするのは良いんだが、隣で一緒に鑑賞するとなるとやっぱりむず痒くはあるぞ?」
 そもそもあるかな、なんて言いながら、それでも透は一応ライブラリを見て回って。
「……あった。似たような性格の女の子も出てくる」
 複雑な声でそう言って、一つのDVDを取り出してくる。
 かくしてどれを見るかも決定し、鑑賞会が始まったのだった。
 系統としてはファンタジーになるのだろうか。集落に住む少女と、父と共に冒険家をしているという少年の出会い。透の役は、少女の兄役だった。この集落にある遺跡を調べたいという少年少女を宥めつつも最終的には手助けする、そんな役割。この三人を中心とした、スリリングながらどこか優しい雰囲気の冒険譚。
 ……が。
 後半、少年と少女が分かれて数年後。再び少年は集落を訪れる。「逃げて!」という警告と共に。少年が持ち帰った遺跡の真実。そこに隠されているのが帝国の歴史の暗部と集落の人々が咎人の末裔であるという事実により話の空気は一変。そして。
「ええええええ!?」
 観ていた鈴がほとんど悲鳴みたいな声を上げる。全てを無に帰そうと蹂躙を開始する帝国。その中で兄は少女を庇い……銃声と共に硬直する身体。二、三歩ふらつくと倒れ伏して。少女が取ろうとした手がするりと滑り落ちて、力なく落ちた。
 真から見ても、衝撃の展開だった。前半の探索シーンがあまりにも優しい空気で、この三人から死者が出るなんて予測できるはずもない。
 少女の慟哭に、鈴は参考にするために観始めたことなど忘れて号泣していて、真がハンカチを差し出してそれをフォローする。
 少年と少女はこの後何とか立ち上がり、再び真実を見つめるため遺跡を再調査、そこで発見したもので帝国軍を撤退させ、大団円、とまあそんな話だったのだが。
「ト〜オ〜ル〜」
 最終的には感動で泣いていた鈴だが、それでも観終わって最初に出てくるのは恨み節だった。
「あんな展開になるなら言えよ!? オメー死んでンじゃん!?」
「いやそれかなり重大なネタバレだしな? どいうか実は俺も昔の話だから細かいところは忘れてて……開始20分くらいでそういえば死ぬな、って思い出したけど、まあいいかって……」
「まあいいか、じゃねえよ!?」
 興奮する鈴を、真は暫く止めずに見ていた。正直なところ、真としても実は内心穏やかではない。『透が誰かを庇って死ぬシーン』なんてのを見せられたのは。
(……引き摺ってるなあ)
 苦笑したくなるが、二人がいるこの場では表には出さない。
「いやでも俺、結構よく死ぬぞ?」
「……よく死ぬのかよ」
「あーうん。なんか思い出してきた。この時期は特によく死んでたな。どっかで死にっぷりが評判にでもなったのかな」
「まあ確かに、堂に入った死に様ではあったよ……」
 見そうな悪夢がよりリアルになりそうなほど。愚痴りたいのは、やっぱり抑える。
「それでそんな中、この時はいい役もらえたなあって、その印象だけ残ってたんだよな。うん、いい役だったけどそう言えば結局これも死んでたな」
「朗らかに言う事かよそれは……」
 呆れる鈴の声。真も密かに苦笑すると……溜まっていたのだろう涙がホロリと零れた。
 ああ、自分も結構感動していたのだな、うん、良い舞台だったし、と意識して……先ほどまでのどんよりとした想いも含めて、随分自分も感情豊かになったな、と、改めて驚く。
 前に鎌倉で観たときよりもいい演技をされるようになりましたね、と中橋に言われたことを思いだした。──こういうところ、なのかもしれない。
 そうして、そのことで。
 真は、まだ何か言い合っている──程よくじゃれ合っているようにも見える──友人二人を、目を細めて見やる。
 頼られることが多いけど、そのことが自分には嬉しい妹のような存在と、悩むことも多いけど、そこが人間らしいと好感が持てる戦友。どちらも、自分には眩くて、尊い存在。
 そのそばに立って見ていることが出来る、今この位置、この日々。きっとこんなものが愛おしいんだ──と、真は、窓から空を仰いだ。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闘狩人(エンフォーサー)】
【ka6016/大伴 鈴太郎/女性/18/格闘士(マスターアームズ)】
【kz0243/伊佐美 透/男性/27/闘狩人(エンフォーサー)】(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注有難うございます。
フリーダムとのことにという事で……ええと、うちのぼんくらが何かすみません……。
ただ、異世界に転移してからというものの彼が渇望していたのは、
華やかな表舞台だけではなくこうした舞台裏の日々も含めてだったのだろうなと。
そんな日々を。このお二方と共に過ごせることが出来るようになって。
多分、自覚以上に浮かれてるだろう、透と凪池です。
改めまして、今回はご発注有難うございました。
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2018年07月12日

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