▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『毒に染まる 』
黒の貴婦人・アルテミシア8883)&紫の花嫁・アリサ(8884)

「アリサ、もう一度言えるわね」

 黒い夢から1日が経ち眠りについた紫の花嫁・アリサ(8884)は耳に馴染む声に目を開けた。

『また……』

 知りすぎている程に何度も見た夢の中でアリサは声の方へ顔を上げる。
 黒いウェディングドレスを見に纏った黒の貴婦人・アルテミシア(8883)が微笑んでいるのが見える。
 蠱惑的なその微笑みに言いようもない恐怖を感じたこともあった。
 だが今やその感情は消え、どこか喜びに似た感情を抱く自分がいることにアリサは一瞬戸惑った。

「はい。貴女様に私の全てを捧げこの身が朽ちるまで使徒として忠誠を誓います」

 一欠片も思っていない、耳を塞ぎたかったはずの言葉が今日はどこか心地いい。
 自分の唇が言葉を紡ぐ程に頭の芯がぼぅっとしてもっと彼女を讃えたくなる気すらした。

『どうして?』

 心に溜まった泥を吐き出したせいか、今朝の目覚めはとても晴れやかだった。だから、もうこの夢は見ないと思っていた。
 それなのに。

「それだけじゃないでしょう?」

「私は花嫁としていついかなるとかも絶対の愛を捧げ、貴女様に望まれる限りその愛に溺れることを誓います」

 昨日までよりも明らかに熱を持った言葉にも違和感がない。
 それどころか、どこかでそれを望んでいるような気がした。

「いいわ。愛してあげる」

 満足そうな声とともに薬指に通されるのは黒い薔薇の指輪。
 その指を絡め繋いだのはアリサだった。
 アルテミシアを抱き寄せドレスから見える肌に自分の肌を重ねようとする手、唇はねだるように何度も触れ合わせ、重ね合わせ、徐々に深みを増していく。
 どちらも拙い動きだがそこには儀式ではなくアリサの欲が見える。
 愛を許し施しながらアルテミシアは微笑みを深くした。

  ***

 豪奢な調度品が並ぶ部屋で2人は語り合っていた。

 目を開けた時は白かったアリサのドレスも今はアルテミシアのそれと同じく漆黒に染まっている。
 それは2人が同じものであることを証明しているようだった。

「思っていた通りだったでしょう?」

「はい」

 言われるままに昼間のことを思い出す。
 いつも通りの穏やかで温かい1日、以前のアリサならそう感じたはずの1日。
 だが、今は優しい言葉1つも裏があるように思えて仕方がない。

「ああやってずっと騙してきたのよ。アリサの幸せを邪魔して横取りして……」

「酷い人達です。同じ人間とは思えません」

 言葉を継ぐように言葉を吐き捨てたアリサの表情にははっきりとした憎悪が浮かんでいる。

「この先もずっとアリサの幸せを食いつぶして生きて行くつもりなんだわ」

「ええ。畜生にも劣る連中です」

「でも仕方のないことのなのよ。わかってあげて」

 急な言葉にアリサはきょとんとする。

「アリサの幸せを踏み躙って横取りしなければ幸せを感じられない可哀想な人間なのよ」

誰かの不幸の上でしか幸せを感じられない愚かで卑しい人間。それがあの人達。
アルテミシアがそう囁く。

「……それでも私は」

 アリサの言葉が止まる。

「言って良いのよ。ここには私と貴女しかいないわ」

「私は彼らが憎いです」

 昨夜からずっと渦巻いていた黒い感情に憎悪という名が付いた瞬間だった。

「そうよね。貴女の気持ちを考えれば当然ね。ごめんなさい」

 申し訳なさそうにそう言うアルテミシアにアリサは首を振った。

「悪いのは貴女ではありません。悪いのは全てあの者達です」

 自分の言葉に突き動かされたのか、アリサは心に浮かぶままに彼らを罵った。
 彼らの存在がなぜ悪なのか、彼らの行いがいかに非道なものなのか、どうして辛い思いを自分ばかりがしなくてはいけないのか、言葉はしばらく止まらなかった。

「でも、そうですね。貴女の言う通りかも知れません」

 卑しく愚劣な彼らは愛なんてそれどころか憎いと思う価値すらない可哀想な人間。そんな考えがアリサの中で固まり始めていた。
「そうよ。低劣な人間にこそ相応しいのは侮蔑と嘲笑。そしてその権利がアリサにはあるのよ」

 アルテミシアの言葉がストンとアリサの中に落ち、考えを一気に固め根付かせる。

「見なさい」

 指し示されたのは鏡。そこには美しい女性が2人映っている。

「あの者達はこんなに美しかったかしら?」

 耳をくすぐる言葉にアリサは首を振った。
 触れ合う肌は心地よく、女性特有の柔らかさに心が安らいでいく。

「こんなに心地いいのにどうして禁忌なんかにするのかしら」

 アリサは唇を触れあわせたまま鏡へ視線を送る。
 情欲にその身を火照らせる自分はいつもの自分とは別人に思える程美しい。
 こんなにも美しいことを禁忌などにするからあの者達は醜く卑しい存在なのだとアリサは悟った。
 快楽を追いかけることは悪などではない。善だ。それを戒めるなんて、

「本当に愚かしい事です」

 アリサの口元に笑みが浮かぶ。
 なんて馬鹿馬鹿しく愚かなものに縛られていたんだろう。
 その思いが心に染み込んで行けばいくほどアリサの心は軽くなった。
 もう何も我慢しなくて良いのだ。
 そう思った瞬間アリサの口が小さく動いた。

「――――。」

毒がもう少しで回りきる、そう感じアルテミシアは忍び笑いを漏らす。

「ええ、良いわ。欲しいだけ与えてあげる」



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見) / 毒を注いで 】

【 8884 / 紫の花嫁・アリサ / 女性 / 24歳(外見) / 毒に染められて 】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 アルテミシア様、アリサ様度重なるご依頼ありがとうございます。

 冒頭の儀式の部分は以前書かせて頂きましたノベルを対比になるように書かせて頂きました。
 内容だけでなくそこも楽しんでいただけたらと思います。

 お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

 今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
 またお会いできる事を心からお待ちしております。
東京怪談ノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年07月13日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.