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『いつわりの戦記 』
イーヴァンaa4591hero002)&アクレヴィアaa4696hero001

 爽やかな青空が顔をのぞかせた、ある日のこと。
 栗色の髪に鮮やかな黄緑の瞳をした美丈夫――イーヴァンは、散歩がてら街歩きを楽しもうと、あてどなくつま先を向けていた。
 風の吹くまま、気の向くまま。
 眼についた景色を眺め歩くも良し。
 気になっていた裏路地の先を見届けるも良し。
 小腹がすいたら、適当に店に入るのも良い。
「さて、どうやって一日をやり過ごそうか」
 風をきりながら意気揚々と歩いていると、正面から歩きくる、見知らぬ少女が眼に留まった。
 背中まで波打つ豊かな黒髪に、気の強そうな太い眉。
 モデルのように背筋を伸ばし歩く姿は、見目の幼さに反し、大人びて見えて。
(一般人……。いや、どこかの英雄か?)
 意図せず視線を送ると、すれ違いざまに、少女が気づいた。

 ――一瞬、刻が止まったような感覚がして。

 つんと、さくら色の唇をすぼませて。
 少女はふいに足を止めると、肩越しにイーヴァンを振り返った。
 デジャビュのように蘇ったのは、従兄弟の記憶。
「もしや貴方は……、兄様と親しかった……」
 はっきりとは思いだせないが、以前の世界で、共にいた方ではないかと問いかける。
 声をかけられたイーヴァンはというと、初対面の少女に見覚えなどありはしない。
「私を知っているのか? もっとも私には、きみのような子どもと一緒にいた記憶はないがな」
 足を止め、鼻で笑うイーヴァンを見やり、
「失礼。申し遅れました」
 少女は居ずまいを正し、一礼。
「わたしの名は『アクレヴィア』。かつて性別を偽り、『アルヴェイン』と名乗っていた騎士です」
 相対していたイーヴァンが、みるみる青ざめていく。
「あ……アル、アルヴェイン!?」
 急にすっとんきょうな声を出した青年の様子に小首を傾げつつも、アクレヴィアはそれを彼なりの喜びの表現ととって、歓迎した。
「そうです、想い出していただけましたか! 今はこのように幼子の姿になっておりますが、同郷の方に再びまみえることができ、望外の喜びです」
 親愛の意を向ける少女とは裏腹に、イーヴァンは内心、盛大に冷や汗をかいていた。


 ――忘れもしない、若き日のこと。

 かつての世界にて。
 イーヴァンはその傲慢な気質が原因で、年上の従兄弟である『アルヴェイン卿』に、手も足も出ないほどにボコボコにのされたことがあった。
 当時の彼女の怒りの原因が、何だったのか。
 イーヴァンはさっぱり覚えていない。
 だが、己にも他人にも厳しく、正義と規律を重んじるがゆえに融通の利かなかったアルヴェインのこと。
 おそらく、怒りの要因は己にあったのだろう。
 苛烈な卿は年下の従兄弟を律するべく、無言&真顔で、周囲が止めに入るまで殴り続けたのである――。


 想い出すだけで、あの日の恐怖と痛みが蘇るようだ。
 イーヴァンはぶるりと身震いし、不思議そうに見上げる少女――『アルヴェイン卿』を名乗る英雄を見やった。
(まずい……! これは、とてつもなくまずい……!)
 楽しい楽しい、異世界で生活。
 悠々自適の毎日を満喫していたところに、恐怖の大魔王が追いかけてきたようなものだ。
 しかし、しかしだ。
 眼前の少女の様子から察するに、『地雷踏み抜き事件』については記憶が定かではないらしい。
 なぜなら。
 あの件を覚えていようものなら、彼女は挨拶より先に、殴り掛かってきただろうから。
(ここでアルヴェイン様との人間関係を再構築することができれば、異世界での生活は安泰。以前のような怯え暮らす日々からは、おさらばできる)
 第一印象は、大事だ。

 ――ここは、どうにか好印象でいきたい。

(考えろ、考えるんだ……!)
 切実な想いを胸に、ごくりと唾を飲み干して。
 イーヴァンは少女の前にひざをつくなり、一礼。
「……あ、アクレヴィア様。まさか、遠い異世界でふたたびお目にかかることができるとは。光栄の至りです」
 精一杯の笑顔をうかべ顔を向けるも、どう頑張っても、視線は明後日の方角を向いてしまう。
 嘘を見抜かれたらと思うと、恐ろしくて正視などできない。
 握り締めた拳も、よく見ればぶるぶると震えている。
 なんなら腹も痛くなってきた。
 それでも。
 恐怖をおして、この賭けをつかみ取ることができたなら。
 この先、明るい未来が待っているのだ……!
「覚えておられるでしょうか。私は、従兄弟のイーヴァンです」
 少女は、「イーヴァン……」と、記憶を探るように聞いた名を繰りかえしている。
 それでも想い出せないのだろう。
「お許しください。わたしには、故郷での記憶がほとんどないのです」

 ――覚えているのは、かつて仕えていた王、親しかった兄弟達と、因縁浅からぬ者の事のみ。

 そういうことなら、むしろ好都合。
「いやあ、お懐かしい。かつて反乱鎮圧に向かった時、果敢に戦っていた姿を覚えています。私はあの時、あなたを助けに参上したのでしたね」
「……反乱の、鎮圧?」
「ああ、あれほどの戦いまでお忘れとは……!」
 少女が小首を傾げるのも、無理はない。
 当時のイーヴァンは、戦果報告を聞いたのみ。
 アルヴェインが鎮圧に行ったのは事実だが、当の戦場には行きもしていないのだから。
 じっと青年の視線をとらえようとするも、するりと逸らされる。
「ほ……、ほかにも! 四面楚歌の局面では、あなたと背中を預けあい、決死の覚悟で戦ったこともありました。次々と仲間が倒れ、生きて帰れるかというあの緊迫した戦場をともに駆けぬけたこと。私は一度たりとも忘れたことはありません」
「あなたと一緒に。戦場を……?」
「任務を終え帰還した後、あなたはこう言ってくださったではありませんか。『貴殿のように頼もしい従兄弟がいることは、わたしの自慢だ』と」
 バッサバッサと敵をなぎ倒すジェスチャーをして見せる青年は、その間、決して少女と目を合わせようとしなかった。
 それはそうであろう。
 今度の話は、すべて作り話なのだから。
「……」
 記憶のほとんどをうしなっているアクレヴィアがいくら考えようと、真偽のほどは定かではない。
 だが、しかし。
 人差し指で彼方の方角をさしながら、」と視線を逸らし続ける態度は、さすがに怪しい。
「……嘘は、ついていませんね?」
 確かめるように問いかけるも、イーヴァンは暑さを感じているのか、流れる汗をぬぐいながら笑みを張りつけて。
 やはり明後日の方角に目線を向けながら、言った。
「う、嘘じゃありませんよ」

 ――怪しい。

 アクレヴィアの直感は、彼が真実を言っていないことをすぐに見抜いた。
 しかし。
(しかし、従兄弟であるというその言葉は、事実なのでしょう)
 そこだけは、不思議なくらい、素直に受け止めることができる。
「わかりました。ひとまず、異世界でのことは、ここではおいておきましょう」
 少女の言葉に、青年がほっと胸を撫でおろしたのを察する。
 かつての関係が、気にならないわけではなかったが。
 アクレヴィアはひょいと右手をさしだし、言った。
「改めまして。この世界でもよろしくお願いします。イーヴァンさん」
 自分よりも体格の良い青年は、一瞬、びくりと身体を震わせて。
 それでも、手をとらないわけにはいかないと判じたのだろう。
 おそるおそる、少女の小さな手を握り返し、言った。
「……こ、こちらこそ。改めてよろしくお願いします……、アクレヴィア様」
 重ねた手をぎゅっと握り締めれば、イーヴァンはどこか及び腰になって。

 ――気になることは、あるものの。

 ひとまず。
 アクレヴィアは強気な瞳を細め、旧知との再会を、喜んだ。









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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【PCID/キャラクター名/外見性別/外見年齢/クラス】

【aa4591hero002/イーヴァン /男性/21/バトルメディック】
【aa4696hero001/アクレヴィア/女性/12/シャドウルーカー】


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2018年07月17日

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