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『公園、捨て石、先の先 』
石神・アリス7348

 …気のせい、では無いと思うのですが。

 石神アリスは内心で軽く自問する。いつも通りの下校の途中。仲の良い学友――と言う事になっている同級生――たちと別れたのを見計らったように、ふと何者かの視線を感じた。
 その時点で、さりげなく往く道を変更する。…通学路の途中、近くに人気の無い公園がある。そこに向かう。周辺の人目が無くなれば、この視線の主も何かしらのアクションを起こして来るかもしれない。



 アリスが公園に入った途端、背後に気配が現れた。視線の主。もう隠そうともしていない――少しずつ早足になる足音が近付き、背後に肉迫。そのまま、アリスの身柄を捕らえようとする。
 まるで咄嗟の判断、ぎりぎりで気付いたようにアリスは背後を振り返り、きゃっ、と「らしい」悲鳴を小さく上げつつ背後の気配の主から飛び退いて見せた。殆ど偶然で自分を襲う手からぎりぎり逃れられた――と思わせるくらいの動き方。実際、特に身体能力が高い訳でも無いので結構危ない橋でもあったが、まぁ成功。
 背後に居た気配の主――見覚えの無い大人の女である――のその顔を、アリスは、きっ、と睨み付ける。そして――いったい何のつもりですか、と鋭く問うだけ問うが、肝心の彼女は答えない。風体だけなら何処にでも居る会社勤めのOLか何かと言った風情だが、動き方や目を見る限り、恐らく中身は裏稼業の暴力装置。手の出され方からして、「ちょっと痛い目を見せてやろう」くらいの意趣返し目的で雇われた傭兵、と言ったところか。…そのくらいの事を考えそうな「仕事」の相手――今現在幾分トラブル含みになっている相手を一人一人頭に浮かべて考える――これだけの情報では、まだ、絞れない。



 …――何のつもりかと問われても何も答える必要を感じない。女は袖口から手の中に刃物を滑らせ握り直すと、石神アリスへと肉迫する。少しくらいは傷付けても問題は無いと聞かされている――ガキが裏の世界でいい気にならないよう「言い聞かせ、躾ける」為の薬がこの自分。往生際悪く学生鞄を盾に使ってすばしっこく逃げ回ってはいるが、果たしていつまで保つか。
 意外と粘る。鞄を何度も無駄に切り裂いてしまった。が、遊びは終わりだ――薄っぺらい盾を今度こそ弾き飛ばし、石神アリスの腕を掴んで身柄を捕らえ、最少手順でその首筋に刃物の切っ先を突き付ける。「手間をかけさせないで」――潜めた声で凄んでみせる。これでまず、チェックメイト――…



 の、筈だったのだが。



 不意に、パチン、と指を鳴らす音がしたかと思うと、見当識が混乱した。女は自分が身柄を確保していた筈の小娘――石神アリスが何事も無かったかのようにやや離れた位置に佇んでいるのを見て困惑する。否、それどころか――何故か、思ったように自分の身体が動かせない事に気が付いた。どういう訳か息苦しさすら感じる。何が起きているのかわからない。確認の為情報を得ようと唯一動きそうな首を巡らせる――巡らせようとした、そこで。
 ぴしり、ぱきりと異様な感覚が首筋を襲う。首が引き千切れるかと錯覚した。そのくらい絶望的な、何と言うか…固定感。慌てて動きを止める――異様な感覚が無くなるところまで慎重に首の位置を戻す。何、何、何なの、何が起こっている――!?

 殆ど恐慌状態になったところで、石神アリスがゆっくりと近付いて来る。

「目が覚めましたか」
「っ…な、何をしたのっ」
「そっくりそのままお返ししても宜しいですか? 貴方はわたくしに何をした…と思い込んでいたのでしょう」

 いえ、そもそも…貴方は何の目的があって、わたくしを狙ったのでしょうか?



 つまりアリスは初手の時点で――先程「いったい何のつもりですか」と睨み付けた時点で、女に対して『魔眼』を発動していた訳である。その時点で催眠は完了、以降はずっと首から下が完全に石化するまでの時間稼ぎに、女にとって都合がいいだろう成り行きの幻覚を視ていて貰った訳である。
 で、時間稼ぎが必要無くなったところで、催眠解除。
 今に至る訳である。

「聞かせては頂けませんかね」
 いったい、どなたに雇われたのか。
「…言うと思うの?」
「早く喋った方が楽になりますよ」
「っ…」
「そろそろ察しは付いていると思いますが、今の貴方は『わたくしの作品』になりかけているんですよ?」
「ひ…っ」
「助かりたくはないですか? それとも、雇い主さんにそれ程の義理でもあるんですか?」
 自分自身を捨ててもいい程の?
 だとしたらまぁ仕方ありませんが…そうでないのでしたら。

 …早く喋った方が、楽になりますよ?



 …本名か偽名かはわからないが、モトミヤと言う名の男らしい。
 直に会った訳では無くやりとりは電話のみ。他、連絡の取り方や報酬の受け渡し方法等々、女が持っている分の情報を、聞き出せるだけは聞き出した。
 後はもう、この女に用は無い。
 そう判断したアリスは――改めて、首だけ生身のままなその女を、ただ、じっと見つめる。

 途端。

 ぱきり、みしりと音がして、残る生身であった女の首が――頭部が、少しずつ石化し始める。苦鳴も碌に響かない――口の辺りは、まず初めに硬化した。そして頭頂に向かって――硬化と共に、首から下の石部分と同様の色彩へと変化する。
 全身が完全に石化するまで、然程時間は掛からない。
 そう。これで「楽になった」筈。

「…ふふ。中途半端は苦しいでしょ?」

 首から上だけ生身なんて中途半端。いっそ、全身丸ごと石化した方がまだマシでしょう?
 そう嘯いてから、アリスは軽やかに踵を返し、公園を出る。「石像」の後始末はいつも使っている裏の業者に頼めばいい――今の時点で他にしておくべき事は特に無い。
 思いつつ、携帯を取り出し裏の業者へと連絡――をしようとしたところで、逆に携帯がぴろぴろと鳴り始めた。着信――覚えの無い番号。誰だろうと思いつつ、出るだけ出る。

「もしもし?」
(贈り物、届いたかな?)
「…どなたでしょうか? 間違い電話では?」
(あれ、この番号って石神アリスさんじゃないっけ)
「…貴方は?」
(本宮、って言えば通じるかな?)
「…ああ、そういう事ですか」

 本宮――つまり、モトミヤ。今の女の雇い主。となると、「贈り物」――の示すところは何か。わたくしへの襲撃それ自体、もしくは襲撃者の彼女当人?

「届きましたよ。贈り物。で、貴方は――何を期待されているのでしょうね?」
(んー、君の伝手が知りたいと思ってね。ほら、君が裏で売り捌いてるやけにリアルな石像あるでしょ、アレを作ってるのって彫刻家とかじゃなくて飼い慣らしたメドゥーサとかじゃないかなってどうにも気になっちゃって、確認がてらあの子にちょっとしたお願いしてみた訳)

 キーである人物、裏の売人アリスへのちょっかいを。

(君にちょっかい出したら何処かの美術館に石像が増えるって噂、本当なのか知りたいよね?)
「…ただの都市伝説ですよ」
(どうだろうね? ま、あの子の石像が出回るの、待ってるから宜しくね?)

 切。

「…」

 一方的に通話を切られ、アリスは暫し携帯を見つめてしまう事になる。…思ったよりも面倒臭そうな流れになって来た。今のあの女の石像も、どう取り扱うべきか、少々考える必要がある。

 いったい何を考えているのかまではわからないけれど、言い切れる事が一つだけ。





 ………………こいつ、放っておけない。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■PC
【7348/石神・アリス(いしがみ・-)/女/15歳/学生(裏社会の商人)】

■NPC
【NPC3020(旧登録NPC)/本宮・秀隆/男/35歳/ハッカー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。
 OMCリニュ後は初になったかと思いますが、今回は発注有難う御座いました。…まさか本宮が指定されるとは思わなかったので少々驚いております…と言うか、この本宮で間違いない…ですよね?(恐る恐る)
 そしてお久し振りにも関わらず相も変わらずお渡しが遅くなっている訳なのですが…。
 大変お待たせ致しました。

 また、西の方で大変な雨災害がありましたが…もし被災されていたとしたならお見舞い申し上げます。
 近頃暑さが尋常ではないですから、熱中症等にもお気を付けてどうぞご自愛下さい(これは被災されていなくともですが)

 内容ですが…プレイングの意図が確り汲めていたかが少々気になっております。ガチバトルとの事でしたが能力的にどう考えてもバトるまでもなく決着は一瞬で付きそうですし、攻めさせている場面は催眠で見せている幻覚と言う事か? と判断したのでこんな描写になっているのですが。
 そしてラストで来る本宮からの電話が…何だか続きを振っているような終わり方になってしまってもいるのですが…如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、また機会が頂ける事がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年07月17日

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