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『放手 』
逢見仙也aa4472
 逢見仙也が在る場所、それすなわち戦場。
 いや、当然ながらそればかりではないのだ。英雄と立つ厨房があり、友と囲む食卓があり、酒瓶と差し向かうばかりの濡れ縁があり――日々の多くをさまざまな場でさまざまに過ごしているのだが、しかし。
 もっとも彼が彼なりと認められるはやはり、戦場なのである。

 しぃっ!
 引き絞った口の端から押し詰めた呼気を噴き、仙也は片手半剣を横殴りに薙ぎ払った。
 片手剣よりも剣身と柄を伸ばし、片手使いも両手使いも可能としたこの剣は、使い手の幅広い戦術を実現する代わり、バランスが取りにくく扱いが難しい得物だ。
 斬り飛ばされた同胞の隙間をこじ開けるように襲い来る従魔群。
 仙也の体勢はフルスイングした剣の長さと重さとに流れ、崩れている。
 だから。
 彼はスイングの勢いをそのままに横回転、強烈な後ろ回し蹴りを先頭の従魔へ叩きつけ、その反動を使って蹴り足を踏み下ろした。
 それと同時、片手半剣は鎖鎌へと形を変じる。これこそが六形態を成す白兵武器“アジアンウエポンズ”の妙だ。
 前へ投じられた分銅に眉間を割り砕かれた従魔が吹き飛び、後に続く従魔が左右に割れた――と、その体が唐突につんのめり、倒れ込んだ。同胞の骸で目隠しされている間に長く伸ばされ、いくつもの輪を描いて地へ這った鎖に足を絡め取られて。
 叩くだけが使い道じゃあないからな。
 鎖の半ばに指をかけ、送り出した鎌で従魔の首を刈りながら、その身をもう一回転。
 今度は忍者刀に姿を変えたアジアンウエポンズを引き抜き、残された鞘でまず従魔を手繰りつけておいてから、半拍ずらして振り込んだ刃で喉を裂いた。
「っと」
 繰り出されてくる槍の穂先を鍔と鞘で弾き、跳び退いて間合を取る。普通の刀とちがい、忍者刀は塀を越える足がかりや、紐をくくりつけてどこかへ引っかけ、手がかりとするためにも使う。それゆえ鍔は広く、鞘は厚くて頑丈。攻めるばかりでなく、回避の一助にもできるというわけだ。
 仙也は鞘で打ち据え、刃で斬り払い、足を繰って間合を取る。
 それでも従魔は同胞の骸を踏み越え、徐々に迫りつつあった。
 ついに仙也へ追いつき、乱杭歯を剥いて噛みつこうとした従魔が、ぶるりと震えて体をくの字に曲げる。
 アジアンウエポンズが変じた手甲脚甲で四肢を鎧った仙也の膝蹴りが、その腹に突き立ったのだ。
 仙也は従魔に倒れ込む時間を与えることなく、突き出したその顎へ、左のリードパンチからの右ストレートを突き込んだ。
 結果を見届けるような真似をすることもなく、彼はすぐに踏み出し、続く従魔との間合をすべるように詰めてはショートフックとショートアッパーで崩し、体をひねってスマッシュ(斜め下からの突き上げ)、チョッピング(突き下ろし)ストレートを決める。
 アジアンウエポンズは変型機能に特化しているがゆえに武器としての性能は低い。一手で勝負を決めることなどおよそ不可能だ。
 しかし。
 ある者が携えたなら、最強の“手”とも成り得る。
 たとえばそう、戦術に形を求めず、瞬間火力という華にこだわらず、瞬間のシチュエーションに即応しながらも次を詰められる――自らを戦場のバイプレイヤーと割り切れる戦士の手に収まったなら。
 一回で決められないなら、決まるまで何度でも攻めればいい。そうだろ?
 仙也は頬をかすめていく従魔の槍をレール代わり、手甲で鎧った左手を伸べて従魔の目を払う。そうして視力を奪ってしまえば、あとは間合を完全に失って突くことも引くこともできなくなった槍を無視して殴り続けるだけだ。
 人を摸すからつけ込まれるんだよ。
 仙也は崩れ落ちる従魔の首を踏み折り、拙い包囲陣を敷く従魔へすがめた視線を巡らせる。
 果たして彼の体に十重二十重と絡みつく鋼糸。先ほどのお返しということではないだろうが、多勢を生かした戦術だ。
 引き絞られる前に手斧へ変じたアジアンウエポンズで糸を断ち斬れば、彼のまわり二メートルを塞ぐものはなくなった。
「俺のいちばん痛い攻め、受けてもらうぜ?」
 待ち受けるなんて面倒なことはごめんだし、ついでにそろそろ仲間が従魔のボスに取り付いているはず。できる限り多くのザコを引きつけてやるのがバイプレイヤーの仕事というやつだろう。
 アジアンウエポンズに槍形態を取らせた仙也は従魔の穂先を自らの穂先で下から弾き、浮かせておいて突きを繰り出した。
「おらぁっ!」
 しなった柄が敵の槍を巻き取るように進み、その胸元へ深く突き立つ。
 と、従魔は仙也の槍を掴み、抱え込んだ。この従魔どもの核は頭部にある。たとえ人型を摸していても、胸の奥に脈打つ心臓は収められていないのだ。
 その隙に従魔どもが仙也へと殺到する。
 ……そこに核がないのを知ってるオレが、あえて槍を預けた理由までは思いつかないか。ま、楽でいい。
 すでに槍を放していた仙也の指が天を指す。
 もちろん、心を持たぬ従魔がそれに釣られることはない。だから。
 空を塞いだ槍の群れ――仙也のアジアンウエポンズが異界より呼び寄せた兄弟たちの存在に気づくこともなく、ただただ降りそそぐウエポンズレインの刃雨に裂かれ、穿たれ、縫いつけられたのだ。
 足りぬ頭でどれほど意識してくれたかは知らないが、先に言い置いた「いちばん」は従魔どもに槍を意識させるためのものだった。とっておきの得物だと思い込んでくれれば上々、そうでなくともわざわざ声まで出しての強攻撃が必殺ならぬことを知らせてやれば、当然嵩にかかって押し寄せてくれるだろう。すべてはより多くの敵をより少ない手数で倒すための策である。
 ここまで引っぱったからこその効率だったが、本音を言えばあと一手か二手減らして、もう少し楽したかったな。
 胸中でうそぶきながらも動きを止めることなく、仙也は残骸から引き抜いた槍を再び鎖鎌に戻し、仲間と対する愚神へ向かう。
 愚神は従魔と同じく人型。視覚効果で攻撃をためらわせたいのかもしれないが、目の形くらいは変えてくるべきだった。だって死角がそのまま死に繋がったら、泣くに泣けなくないか?

 仲間の攻撃に合わせて仙也が鎖分銅を上へ放れば――分銅は大きく弧を描いて落ち、愚神の脳天を痛撃した。
 大したダメージではない。だが、幾度となく死角を突かれて重ねられれば、さすがに鬱陶しくなるだろう。
 愚神の力任せな横薙ぎをブレイブナイトの盾がブロックした瞬間、仙也は分銅を愚神の腕に絡みつかせ、それを軸に横へと回り込む。
 苛立った愚神は腕を振り回し、仙也を引きずり倒そうとしたが。
 同じだよ、おまえの手下と。バイプレイヤーのオレを意識しすぎりゃ、こういう目に合う。
 あっさり鎖鎌を手放した仙也が換装したのはアラドヴァル。通常よりも長い穂先で風を切れば、鋼を伝う毒に炎が灯る。そしてなにより。
 こいつはほんとに痛いんだよ。
 愚神の腕を巻き取り、螺旋に裂いて毒を擦り込む。
 とどのつまり、これは奇策なのだ。鎖鎌の変則攻撃による奇策で惑わせ、本来は奇策に成り得ぬはずの槍を用いて“普通”という奇策を成す。アジアンウエポンズを槍に変じなかったのはとっさに対処をさせないためだし、他の武器に変じなかったのは警戒心を抱かせないためで、いずれも奇策を有効に打つためのもの。
「とどめは任せた」
 一歩離れた仙也の後を継ぎ、他のエージェントが猛攻をかける。
 沈みゆく愚神になにを思うこともなく、仙也は息をついて戦場を後にした。
 さて、今夜はなにを食おうかね?


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【逢見仙也(aa4472) / 男性 / 18歳 / 悪食?】
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2018年07月17日

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