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『 もうひとつの世界 』
松本・太一8504

 夜。
 魔女夜会に松本 ・太一(8504)はいた。
 暗い闇を綺麗な月明かりが照らす中で、周囲の魔女達は楽しそうに談笑をしていた。
 そしてそんな中太一も椅子に腰を掛け、テーブルに置かれた紅茶を飲みながら、先輩魔女達と楽しく話をしていた。
 最初は色々な話題が尽きなかったのだが、話をしているうちに話題が尽きた太一は以前先輩魔女から「テストプレイ」を頼まれたあの異世界の事をふと突然思い出した。
 (……そう言えばあの世界はどうなっているのでしょうか……)
 不思議にそう思い、太一は目の前にいる先輩魔女へと訊ねた。
「そう言えば……以前私が先輩に頼まれて『テストプレイ』をしたあの世界は今はどうなっているのでしょうか?」
 訊ねられた先輩魔女は一瞬「えっ?」とした表情をし、そしてすぐに思い出したかのようにポンッと手を打った。
「あの世界ね。ちょっと忘れちゃっていたわ。あの時貴方にテストプレイをやって貰って本当に助かったわ。有難う」
「いいえ。お役に立てたのなら良かったです」
「実はね……。あの後チャート、フラグとかギャルゲーらしい部分が面倒くさかったから全部投げちゃって、今はゲームシステムが残ったファンタジーな異世界として放置気味になっているのよ」
 先輩魔女は太一にそう答えた後に、すぐ何かを思いついたかのように太一の顔を見ながらニコッと笑みを浮かべた。
「もし気になるんだったらまたあの世界に行ってみる?」




 石畳の上を歩きながら、太一は正面にある大きな薔薇のアーチを潜った。
 左右に立ち並ぶ煉瓦作りの家から少し歩いた先に大きな時計台が聳え立っていた。
 太一は歩みを進めながら視線を時計台の方へと向けた。太一はそれを見て不思議と何処か懐かしさを感じた。
 太一は先輩魔女に頼まれて一度この世界を訪れた事があったのだ。
 あの時。魔女夜会で先輩魔女の言葉に太一は頷いてしまった。自分が訪れた世界がどう変わったのか、自分の目で見てみたいと言う好奇心が太一の中にあった。
 だから太一はもう一度この世界を訪れる事を決めたのだった。
 (確かこの先に行くと大きな街がありましたね……)
 そう思いながら太一は街へと向かう為にさらに歩を進めて行った。

 中央の広場の先にある町の中にたどり着いた太一は、幾つも連なっている小さな店を眺めながら歩いていた。
 先輩魔女の話では放置された世界になっているとはいえ、街の中には人通りが多く感じられた。
 おそらくだが街の中は初めからシステム的に設定されていたのかもしれない。
 そう思いながら歩く太一はふとある店の前で足を止めた。
 そこは果物を売っている店だった。
 店の中に並べられている果物はどれも美味しそうで、中には宝石のように一際美しいものまであった。その中で太一は一つの果物に目を止めた。
 それは苺に似た果物だが、色は綺麗なエメラルドの色をしていた。
 透き通るような美しさに思わず目を奪われていると、突然太一へと店番をしていた若い娘が話し掛けた。
「綺麗でしょう。"エメラルドストロベリー"って言って、この辺の子達には人気なんです。しかも普通の苺より甘くて美味しいし、見た目が宝石みたいに綺麗。だからそれが理由で人気なんですよ」
「確かにこんなに綺麗でしたら人気ですよね……」
 そう言葉を発すると共に太一は、店番をしていた若い娘を見ると同時に、思わず言葉を失った。
 それもそのはず。
 彼女の容姿は何処か太一とよく似ていたのだった。
 一瞬太一は自分の分身が現れたような錯覚を感じた。だがよく見ると彼女の頭の上にカーソル表示がされており、そこには"ヒロイン"と記入されていた。
 自分とよく似ているこのNPCは先輩魔女がこの世界で"ヒロイン"として作ったものなのだろう……。
 おそらくベースは太一だ。
 そう理解しながらも太一は内心小さな溜息をつく。
「あの……私の顔に何か付いていますか?」
 自分と同じ顔の"ヒロイン"にそう訊ねられ、太一は小さく頭を振った。
「いいえ、何も」
「そうですか。あっ!そうだこれを……」
 ヒロインは店の籠の中にあるエメラルドストロベリーを一つ手に取り、それを太一へと差し出した。
「今日沢山取れたんです。このお店に初めて来るお客さんだから、これ特別にあげます。試食用だと思って召し上がってください。美味しいですよ」
「有難うございます。頂きますね」
 太一はヒロインの手からエメラルドストロベリーを受け取ると、一粒口の中へと入れた。甘い香りと共に、口一杯に苺の甘さが広がった。
 ヒロインの言う通り普通の苺の甘さより、より強い甘みが増していた。
 太一がヒロインへと口を開き掛けた。その時、突然可愛らしい声が太一の耳へと届いた。

『お客さんエメラルド美味しい?』

 太一は声が聞こえた方へと視線を動かす。
 すると真っ白で、首には赤い宝石のネックレスをつけた可愛らしいウサギが太一の足元にいた。
「あの……この子は?」
 しゃべるウサギを見て驚く太一に、ヒロインは柔らかい表情を浮かべた。
「この子は今どき珍しく言葉を話すウサギなんです。しかもレアの動物で、この辺にはなかなかいない動物なんですよ」
 (しゃべるウサギなんって初めて見ますね……)
 ウサギの可愛さに魅了されながらも太一は、その場にしゃがみ、ウサギへと手を伸ばした。ウサギは太一の腕の中へと迷わずぴょんと飛び込んだ。
 太一の腕の中へと飛び込んだウサギを、太一は優しく抱きしめる。そんな太一を見て、ヒロインは優しく微笑むようにして言った。
「その子、背中を撫でてもらうのが好きなので撫でてあげると喜びますよ」
 ヒロインの言葉に従うように、太一はウサギの背を優しく撫でた。
 ウサギは気持ちよさそうに目を細め、それを見た太一も穏やかな表情を浮かべた。

 太一の中で不思議と温かな気持ちが満ちたのだった。








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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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松本・太一様

こんにちはせあらです。
この度はご指名の方本当に有り難うございました。
前回の「テスト・プレイ」「異世界の記録」に続いたもう一つの世界との事で書かせて頂きました。
「テスト・プレイ」「異世界の記録」になかったもう一つの世界を、少しでも楽しんで頂けましたら嬉しく思います。
今回書かせて頂きまして本当に有り難うございました。またの機会がありましたら宜しくお願いします。






東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2018年07月23日

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