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『亀裂 』
煤原 燃衣aa2271)&宮ヶ匁 蛍丸aa2951)&一ノ瀬 春翔aa3715)&無明 威月aa3532)&世良 杏奈aa3447)&阪須賀 槇aa4862)&アイリスaa0124hero001)&藤咲 仁菜aa3237)&楪 アルトaa4349)&エミル・ハイドレンジアaa0425

第一章
 怯えと絶望、喪失感と無力感。
 暗き森の脅威ですら今は遠く。暁の面々はわかりやすく言うと。敗走していた。
「私、何の役にも立たなかった」
『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』は『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』を抱えながら殿を務め走る。
 そのアイリスは短命の桜。その苗木を腕の中に抱えていた。
 儚げな桜田が、根っこから引き抜かれても枯れることなく、傷つくことなく、美しく咲き誇っている。
 むしろその桜はアイリスに力を与えているように見えた。アイリスの翼が輝きを取り戻しつつある。
 だとしても。
「ここは大人しく撤退しましょう」
 その『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』の言葉で仁菜はハッと我に返る。
「大丈夫です、次に出会ったら負けません。だって、僕らの頼れるエースが目を覚ますんですよ、大丈夫です」
 そう声をかける燃衣は口元にこびりついた血を払う。
 その眼前で初老の男。いや『ロゴス(NPC)』と名乗る男が草木をかき分け小さな洞窟の先を示す。
「灯りをつけることなく、右手を壁に沿えてひたすら歩け。曲がろうとも、右手が壁についている限り道を間違えることはない」
 その言葉に頷いて暁面々は洞窟内に入っていく。
「あなたは……何を知ってるんですか、何者なんですか」
 燃衣がそうロゴスの目を真正面から見据える。
「それは、落ちついてから話したほうが良いのではないかな」
 そうロゴスは唯一避難させることができた少年少女、僅か数名を裾の長いコートに隠し告げる。
「暁……か? そこにいったん避難させてもらおうと考えているが。よろしいか?」
 その言葉に黙って燃衣は頷いた。

  *  *

 洞窟を抜ければすぐに異世界を繋ぐゲートの真ん前に出た。一行は異界から帰るなりH.O.P.E.スタッフの手厚い介護を受けることになる。
「私より、この子をお願いできる?」
 そう『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』はロゴスが連れてきた少年少女を示した。
「私たちは大丈夫、それより子供たちを」
 そう杏奈が『エミル・ハイドレンジア(aa0425@WTZERO)』に視線を向ける。
 エミルはいつものあっけらかんとした調子でひたすらに、御うどんを求めていた。
「おなか……へった」
「はいはい、食堂で作ってあげるから、まずそっちに行きましょうね。子供たちにも何かつくるわ」
 杏奈がその場を後にすると。
「それより門を閉めるべきだ。朱雀が追ってくるかもしれん」
『月奏 鎖繰(NPC)』が告げる。
「軽傷な私はここで番をする。ラグ・ストーカーであれば強制的にH.O.P.E.に門を通じてアクセスしてくる可能性がある。何かあれば知らせる、君は」
 そう燃衣の瞳を見すえて鎖繰は言う。
「傷ついた仲間たちをたのむ」
 その言葉に燃衣は頷いた。
 そんな中『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』はH.O.P.E.に戻るなり床に座り込んだまま動かない『ヴァレリア・ヴァーミリオン(NPC)』の隣に座る。 
 ヴァレリアは震えていた。地面を見つめて。槇の存在に気が付かずに。
「な……なんで、なんでこんな」
「VVたん」
 槇がそっと肩に触れようとした瞬間。VVは誰にも聞こえないような小さな声でつぶやいた。
「なぜ、ヴィーまで。なんで、あれは本気で殺そうと……」
 その言葉に首をかしげる槇。
 言葉のそもそもの意味が解らなかった。
 だがそうしている槇の気配に気が付き飛び上がるVV。
「いいい、居たんっすか。気が付かなかったっす」
「VVたん、震えてるお? 大丈夫かお?」
「だだだだだ。大丈夫っす、というか安心したら震えてきただけっす、だいじょうぶっす」
 哀れに小さく震える少女? それがあまりに痛々しくて槇はどうにかしてあげたかったのだが、どうにもできない。
 もどかしさを抱えていると、廊下の向こうから激しい足音が響いてきた。
「みなさん! 来てください! アイリスさんが」
 その言葉に頷いて、鎖繰までもが飛び出した。廊下を走り抜けアイリスが寝かせられている病室にたどり着く。
 そのすりガラスの窓から怪しい紫色の光が漏れているではないか。
 その様子を見て、全員が突入を決意する。
 扉をあけ放ち、リンカーたちは死角をカバーしあいながら突入する。
 すると真っ先に目に入った光景は宙に浮くアイリスの姿。
「…………!!」
 そして。その周辺を旋回する桜の木。
 しかし問題はその光景というより、アイリスが身に纏っているものであり。
 アイリスはいつものドレスを脱ぎ捨ててTシャツ一枚になっていた。なぜか。
 かなりレアなラフい格好だが、裾から肌色がチラチラ見えている。
「ぬおおお、お巡りさん俺だお!」
「落ち着いてください」
 燃衣と槇はあわてて視線をそらし、背中を向けながら燃衣は全員に問いかける。
「いいい、いったい何が起こってるんですか?」
 混乱する燃衣。
 その目の前で、光は解け合い、花咲くようにアイリスの翼が広がった。
 同時、アイリスの翼一枚が紫色に染まる。
「おや?」
 そしてアイリスがゆったり着地すると、あくびを一つ、全員にあいさつした。
「おはよう。どうしたんだね、皆目を丸くして、ああこれかい?」
 告げるとアイリスは紫色に染まった自分の羽をプチッともいだ。
「短命の桜から力をわけてもらったのだよ。ひとかけらで大なべ一杯分。翼四枚分の備蓄となったが使うかな?」
「え? それは、どれくらいいるかはアイリスさんに、判断を……その」
 ちょっと挙動不審の燃衣だが、決して幼女の裸に興奮しているわけではない。
 むしろこの光景を女子に見られることによる更なる粛清を恐れているのだ。
 だがアイリスはそんなこと知らん顔である。
 蛍丸を回復させるのだろう? そう言わんばかりに堂々としている。
「私に調合は任せると……承知した。まぁまかせたまえ、久しぶりにぐっすり眠って体力満タンさ」
 その前にいったん家族が気になるので住居に帰ると言ってアイリスは病室を去った。
『黒金 蛍丸(aa2951@WTZERO)』復活の儀式まであともう少し。

第二章

『一ノ瀬 春翔 (aa3715@WTZERO)』はその光景を眺めていた。
『無明 威月(aa3532@WTZERO)』がバイタルを謀る、彼はまだ昏睡状態。
 そんな現状の報告を春翔は壁に背を預けて、暁メンバーが囲うベッドには彼が横たえられているはずだ。
 かつての戦いで皆を庇い大けがを負った彼。
 蛍丸。
 その復活の儀式が執り行われようとしていた。
 生成された霊薬はわずかな輝きをおび、蛍丸の口にひとしずくたらされると、辺りに霊力の風が吹き荒れた。
『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』は緊張に満ちた面持ちでその光景を見つめている。
 やがて光が収まった時。蛍丸の瞼が揺れた。
 仁菜が息をのむ。
「ここですよ、蛍丸さん」
 そう燃衣が手を握った。すると。
「……ふあ」
 そう、小さく息を吸い込んで、蛍丸が目を覚ました。
 蛍丸は自分を覗き込む無数の顔を眺めて、そして告げる。
「えーと、おはようございます?」
「ほ、蛍丸さん! 良かったぁぁ。」
 そう仁菜が泣きながら蛍丸に縋り付いた。
 お腹の上で泣きじゃくる仁菜を撫でながら
 蛍丸は燃衣に問いかける。
「ボクは眠っていたんですか?」
「ええ、長い間。いろいろありました」
 蛍丸が体を起こし、威月の診察を受けるとアイリスは胸を張って、自分の霊薬の力を信じろと言った。
 実際蛍丸の体は嘘のように回復している。
「蛍丸さんが眠ってから僕らは訓練したり、異界を探索したり、そして朱雀に出会ったりしました」
 燃衣はゆっくりとこれまでの事を放していく。蛍丸はそれに頷きながら話を聞いていた。
 これまでのこと、すべてきいて、そして蛍丸は皆にありがとうと一言告げる。
「そんなこと言われなくても、仲間だお!」
 そう槇が蛍丸の肩に腕をかける。
「今まで取りまとめをしていただいていた槇さん達にも感謝を。そして藤咲さんには苦労をかけました」
「本当だよ! 大変だったんだから!」
 しゃくりあげながらハンカチを濡らす仁菜。
 そんな一行の姿を眺めエミルは冷静な分析をしていた。
 蛍丸が戻ったなら朱雀に対抗できるだろうか。
 そんな風に考えてから気が付く。
 皆と感覚を共有できていないことに。
 ココロが全く動かないことにエミルは自嘲の笑みを浮かべる。
(もっと、強い感情がないと、だめ?)
 その時だ、妙な視線を感じてエミルは顔をあげることになる。
 その視線の先にはVVがいた。
 その表情を見てエミルは驚くことになる。
 なぜならVVは自分と同じ表情をしていたから。
(VV……も、ない?)
 その時、あらかた燃衣が蛍丸に状況を話し終ったようだった。
「朱雀に僕らは負けました。ただ七転び八起きです、僕は悪意の力を制御することができるようになりました」
 その発言に心配そうな視線を向ける威月。
「とりあえず、ここにいないメンバーもふくめてお祝いしましょう」
 そう仁菜が言いだすと、暁メンバーの頭の中には壁丼という文字が浮かんではきえる。
 続々と暁の施設へ移動を開始しようとする面々。
 そんな中蛍丸をアイリスが呼びとめた。
「どうしたんですか?」
 燃衣が告げると病室の扉を閉めて蛍丸が告げる。
「僕も一つ報告があります、僕も強くなったみたいです」
 首をひねる燃衣、アイリスが言葉を継ぐ。
「霊薬の効果か定かではないんだがね。ステータスが三割ほど伸びている」
 燃衣は顔をしかめた。
「それは大丈夫なんですか?」
「霊薬に副作用はない。なので、彼自身の問題だとは思うが、もしかすると。英雄に近づいているのではないか、英雄に近づいているため清の罪と罰が効かなかったのではないか、そう憶測をたてた」
 アイリスの言葉に燃衣は思い出す。
 彼の攻撃は三人のリンカーをその場に縫いとめるほどのダメージを与えたが蛍丸に対して発揮されることはなかった。
「もしかすると、もう一度、死ぬことがあり復活させれば英雄として覚醒するかもしれません」
 そう蛍丸は冷静に告げる。
「楽観視はできませんね」
 もう誰もこんな目に合わせない、そう燃衣は胸に誓うのだった。

   *   *

 一行は各々暁食堂を目指す。いったん用事を片付けに行くものや持参品を用意しに行くものなどばらけたが、エミルは特に用事もなかったのでH.O.P.E.を後にして暁隊舎へ直行しようとしていた。
 だがその折。耳に入ってしまったのだ。
 噂話。職員がこそこそと話していたその話の内容。
 エミルが化物だという内容。
 エミルはあわてて曲がり角にその身を隠す。
「H.O.P.E.で今日治療を受けた幼女、いただろ、あいつ化物なんじゃないか?」
「傷の塞がりようだろ。見たよ。あれはいったい。エミルって子だろ?」
「いや、彼女もだが」
 その言葉にエミルは耳を疑った。
「あの子も、実は足に木のえだが突き刺さってたんだが、抜いたら治ったんだ」
「へぇ、誰の話? ヴァレリア・ヴァーミリオン」
 エミルは言葉を失う。
「暁やべーな、化け物集団なんじゃねぇか?」
 そう笑いながら話して歩いていくリンカーたち。その足音が遠ざかってもエミルはその場から動けなかった。

第三章 

 宴もたけなわ。
 そう燃衣が切りだしたのはすでに時刻が零時を過ぎたころ。疲労と疲れがたまっている戦士たちには休息が必要なころあいである。
 燃衣自身もそれを自覚しており、隊舎に泊まる人は申し出てくださいとあらかじめ告げた。
 だが燃衣が音頭をとる前に……今日この会を締めてしまう前にきかなければならないことがある。
 そう燃衣は、初老の男改めロゴスという男に説明を求めた。
「僕達がこれから戦っていかなければならない。ラグ・ストーカー。どんな存在なんですか?」
「知らずに追っていたのか?」
 ロゴスはそう問いかける。
「あいつらを追っている組織、そのほとんどがあいつらを知らない組織さ」
 鎖繰がそう問いに答えた。
「世界的犯罪者集団だ。大きな事件の影には奴らがいる」
「すみません、言葉が広すぎましたね。僕らが聞きたいのは彼らという組織、その核心です」
 燃衣の言葉にロゴスは一瞬押し黙り、そして再び顔をあげる。
「どこから話せばいいやら……元は『力を求める』別名称の研究組織」
「あなたはそこにいた?」
 エミルが珍しく反応を見せる。
「ああ、その組織が何だったか、それは割愛しよう。ただ、ある日その男は現れた」
 その男とは。
「シン。彼はそう短く名乗ったが。君の幼馴染だったとはな」
 そのあたりの事情は全て、燃衣はロゴスに話している。
「彼はあっという間に研究所の中心的人物になった。彼の指示で展開された計画の多くはすんなり成功した。そして」
 研究所随一の科学者と手を組んで、ある研究を成功させた。
 それが。
「愚神融合技術」
「愚神融合技術?」
「正しくは愚神をその身に取り込む、共鳴とは似て非なる技術だ」
 ロゴスは語る。
「実態は愚神と人間と何かの融合研究だ。
 成功率は1割を切り失敗すれば怪物化。
 条件は強力な悪意の主である事。
 得られる力は愚神のそれを越える力。現在の幹部。四神以上は全て。ケントゥリオ級以上の愚神をその身に宿している」
「その、黒日向さんは、どれほどの愚神を身に宿してるんですか?」
 蛍丸が問いかける。その言葉にロゴスは臆することなく向き合う。
「トリブヌス……混沌の十三騎ほどではないが。上海の海上で戦った者よりは強大な力を有している」
「もう一つ気になるのが」
 春翔が声をかけた。煙草の火を消して、ロゴスに向き直る。
 思い出していたのは、白虎のあの雷撃。無尽蔵とも言えるエネルギー、愚神だけではない。
「愚神と何をまぜてるんだ?」 
「これは耳を疑うかもしれないが……」
 そうロゴスは言いよどんだあげく、自身のコートの中から一冊の本を取り出した。
「神話だ」
 その本のページがばらばらとほどかれ、空を舞い。そして宙に浮かんで輝きだした。
「概念の定着?」
 アイリスがそう声をあげる。
「少し違う。概念ではなく、過去の現象の定着。四神は都を守るために配置された獣たち。黄龍という上位存在に統括される守護の獣、その概念や術式、歴史丸ごと取り込むことで。いわばアンチ四聖獣となった、奴らの次の目的は都落とし。日本首都の陥落」
「ん……? よくわからないお」
 槇が頭をひねる。
「でも一つだけ解ったことが……このままだと日本が滅ぼされるってことだおね?」
 槇に全員の視線が集まる。あまりに実感のない言葉。だがそれは。
「ただ、日本を滅ぼしてどうするつもりかは知らない。単純に滅ぼしたいだけかもしれない。そしてそれすら通過点だ。目的は更なる力と欲望を満たす事、世界を闇に包むまで……」 
 場が騒然と静まり返る。アルコールなど等に抜け去っていた。
「だが。それが可能な戦力と術式を蓄えるために、私の研究所からすべてを奪い。私を追放した」
「……あの人は。何と融合しているんですか?」
 威月が問いかける。
「わからない。彼だけは施術を自分だけで行った。結果何が混ざったかはわからない、ただ、超ド級の神話や伝承。あるいはアイテム。何らかの因果。運命」
「もはや話がぶっ飛び過ぎててよくわからないな」
 鎖繰がため息をついた。
「一言言えることだが悪意を血肉に力に全ての源とする、という事」
 その敵の巨大さを知って、静まり返る場。
 その沈黙を壊すようにアルトが食堂の扉を開いた。
「どこにいくの?」
 仁菜が問いかける。
「湿気た話をきかされて、このままじゃねれねぇよ」
 告げると苦々しげな表情を廊下の暗がりにさらして誰にでもなくアルトは告げた。
「ただでさえイライラしてんだ」
 そのアルトの退出で皆我に返ったのか。今日聞いたことを整理するためにも今日は解散となった。

   *   *

「神話……しんわかお?」
 そうトレーニングルームで資料を眺めながら立ち尽くす槇。
 今日は白衣姿である。
 というのもVVやロゴスと共にメンバーの体調管理、および解析作業を行う手はずになっていたからだ。
 さっそく朝からやる気なアルトの砲撃音を聞きながら槇は二人と話す。
「ぶっちゃけ答えを先にききたいお。あの半端ない強さに対抗するにはどうしたらいいお?」
 その言葉にロゴスが答える。
「それについてはあの戦闘で答えが出ただろう?」
 そう手招きしたのは威月。
「へ?」
「確かに威月たんのボディーは秘密兵器級だお。けどラグ・ストーカーはだいたい女だお」
「男もいるぞ」
「いたとしてもホモだお」
「しんくん……」
 その話を偶然聞いてしまった燃衣は一人寂しくなるのであった。
「私はあの時、悪意を浄化する力を身に着けました。それが」
「ああ、それが力になる。こちらは霊力の特質を武器に込めて戦う路線をとろう」
 そう威月の力のデータをVVがとるのを眺めてロゴスは言った。
「奴らは悪意に支配されている、その悪意を切り裂くことができれば」
「大幅に弱体化する? そんな簡単にいくかお?」
「やれることは全部やったほうがいいっす」
 VVがそう背伸びをしながら告げた。
「ん〜 それなら」
 槇が唐突にポーズを取り、そして不敵な笑みを作って告げた。
「威月さん能力解析から悪意を血肉とする者に特攻効果を持つ対嘲笑う者専用兵器『アンチ・マリス・ウェポン(AMW)』の開発絶賛開始中、って感じでどうだお」
「おー」
 VVがそう槇に対して拍手を送った。
「というわけで威月たん、研究室で手取り足取り、威月ちゃんのデータをとるお、ぐへへ」
 そう手をわさわささせる槇、その様子を眺めてVVは引いている。威月は涙目。
 そんな光景を見て、たまたま通りがかった蛍丸がチクリと告げた。
「変なとこ触ったら吹っ飛ばしますからね」
 ギュッと拳を握った音が嫌に響き。槇はおもわず、はいっと告げた。
 そのまま研究室に移動する一行。
 ただ、たどり着いた研究所の寝台ではエミルが術衣のまま寝ていた。
「は! なぜエミルたんがここに」
「……ん? 検査してもらってた」
 そうエミルは目をこすりながら起き上がると更衣室に向かう。
「このことないしょ」
 そうエミルはロゴスに告げる。
「どうしたんだお?」
「いや、気になることがあるらしくね。私は専門家だから詳しく検査しただけなんだ」
「専門かってロリのかお?」
「きみは平時と緊急時では人格がかわるんだねぇ」
 そう呆れるロゴスである。
 実際エミルはロゴスと関係があった。
 エミルの体を調べただけでロゴスはすぐにピンと来たのだ。
 その上でロゴスはエミルへ話し合いの機会を要請し、エミルが答えた。
「彼女は人間を超越しているね」
 しかし、今はなすなと釘を刺されてしまった。これでは槇に話せない。
 槇は首をかしげる。
「時が来れば彼女が語るさ」
「そういえば、お子さんたちはどこに行ったんだお?」
「H.O.P.E.の施設に預けてある。もう私と一緒にいない方がいい」
「だいたいなんであんなにちびっこがいたんだお?」
「あの子たちは試験管ベイビーというやつだ。私が保護し、教育を施した。一応どこにでも出ていける子らに育てたつもりだ」
 そう告げるロゴスは心からの言葉を話しているように槇には見えた。


第四章 

 暁隊舎。午前十一時五十分。
 アルトはストレス発散、もとい。
 訓練を終えて研究室を目指していた。
 疲労と共に鬱屈した気持ちがやや収まっていたので、けだるさの中ご飯は何を食べようか。カロリーがなぁ、なんて。おひるごはんに思いをはせていたのだが。
 それも、そのアルトの耳に少女の悲鳴が聞こえてくるまでの話である。
「ひええええええ」
 研究室からだ、その悲鳴の気の抜け方は気になるがアルトは走った。
 そしてはじくように研究室の引き戸を開ける。
「なにがあった!」
 そしてアルトの目に飛び込んできたのは奇妙な光景。
 先ず威月が逆さづりにされている。巨大な円盤に磔にされ、大の字。
 腕一本は拘束されて、もう片方の手でスカートを抑えている。
「ふふふ、威月たんを遠心分離するお。大丈夫だお、恥ずかしいのはさいしょだけだお」
 威月のスカートは短く、前側だけ抑えていてもサイドの布が垂れ下がって太ももがチラチラと見える。
 その太ももにひもがかかっているのだが。あれは下着の意匠の一部なのだろうか、もう少し下がればみえ……。
「何やってんだこのHENTAI! がよぉ」
 アルトのガトリングが火を噴いた。
「ひいいいいいいいい」
 地面に伏せる槇、その間に威月を救出するアルト。
「ったく、遊んでんなら隊長に言いつけるぞ」
「違うお! 遊んでたんじゃないお」
「だったらこれなんなんだよ」
 そう威月を下ろしてやると、アルトは威月の背中を撫でる。
「本当に霊力を抽出していただけだお」
「お前、まだ顔にやけてるぞ」
 そう告げられて槇はあわててガラスで自分の表情を確認した。
 その折である、ロゴスがアルトの背後に立った。
「頼まれていた解析だがな、すんでいるぞ」
「あ、ああ」
 そうアルトは表情を緊張させつつ立ち上がる。別室にロゴスと共に向かった。
「あのブラックボックス……ピグの心臓部か。どうだった?」
 扉を閉めるなりそうアルトは切り出した。
「端的に言おう。あれは霊力炉だ。そしてその炉の材料に胎児が使われている」
「胎……児? ラグ・ストーカーの情報はなかったのかよ」
「なかった」
 アルトはこの情報をどう受け止めていいか分からず、ソファーに座る。
「胎児、まだ生きてるのか?」
「生きていると言えば、生きているが、変異してしまっている。人間として扱うのはどうかとおもうが」
 告げるとアルトへと、ロゴスは炉につてまとめた資料を手渡した。
「さらにその胎児は人為的に培養されて産み出され、偽極姫の体が一つの生命維持装置の役割を果たしている。
 そのために偽極姫との共鳴を可能にしていた」
「そうか……」
「さらに、炉にはお互いを感じ取る力があるらしい、解析をかけるとこの世界に存在する同系機種つまり、偽極姫の存在が感知できた、正確な位置は偽極姫を復元せねばわからんだろうが。それでも数はわかる、最低五十機。これを束ね運用できれば、膨大な戦力となるだろうな」
 そのロゴスの言葉に頷くと、アルトは立ち上がる。
「少し、考えさせてくれ」
 そう弱弱しく告げたアルトはその部屋を後にする。
 直後聞こえてきたのは爆発音とアルトの怒声。
 また槇が何かしでかしたようだ。
 その光景を鎖繰は研究室に入るなり、瞳を丸くして見守った。
 黒焦げの槇と、涙目の威月。そして武装展開するアルト。
「これは、暁は仲がいいんだな」
「どこがだよ!」
 アルトが反発する。
「いや、それだけ本気で怒ったり感情をぶつけたりできるのは信頼のあかしだ」
 そう鎖繰は告げると、資料をデスクの上におく。
「で? 何をやってるんだ?」
「……あ、あの、その」
 話しだそうとする威月に変わって入室した燃衣が言葉を継ぐ。
「威月さんの能力は浄化でした。本来は怒りや悪意や心の炎を消し、鎮め癒すだけの弱々しい能力だが、偶然、悪意を血肉そのものとする者にはアンチ性能を発揮するようなんです」
「ああ、だから霊力を抽出する方法を古今東西調べてほしいと」
 そう鎖繰は調べた結果をざっと並べる。槇はそれに食らいつくように手を伸ばした。
「ぐふふ、威月たん、じゃあ次は直接体から霊力を抽出する方法を……」
「いや……です」
 威月のパンチがさく裂する。
「そろそろお昼だ、研究もいったん中断したらどうかな?」
 そう一同のやり取りに小さく笑みを作ると鎖繰はそう提案した。
 その提案に全員が頷く。食堂へと足を向けた。
「なぁ、威月……さんは。隊長の事が好きなのか?」
 そう一団となって移動するメンツの中で威月の腕を取り、速度を落とさせる鎖繰。
 そんな鎖繰はどさくさに紛れて威月にそう問いかけた。
 顔を真っ赤にする威月。
「ち、ちが、ちが……」
「あいつはいい男だよ、背も高いし誠実で真面目だ、なにが不服なんだ?」
「……そ、それは。そうだと……思います。けど隊長は」
 そう威月は視線を伏せる、思い出すのは今まで見続けてきた彼の背中。
 そして彼の苦悩。
 血反吐をはいてここまで来た彼の背中に威月は何を思うのか。
「…………意外です」
 威月の言葉に鎖繰は何かを察したのかにやりと笑う。
「私がこんなことを話すのが意外か? そうだな、私もこんな話をするのは数年振りか」
「……数年?」
「私も昔は普通の女子だったってことだよ。剣術の名家の家に生まれ。武家だったからね、厳しくもあったがそれでも普通に女子高生をやっていたんだ。いろいろ変わってしまったが」
「なぜ……今になって?」
「人は、復讐を忘れることなんてできない。だって復讐は命をかけているからね」
 鎖繰の視線が冷えた。鋭くとがりまるで初めて会った時のように濁る。
「けれど、同時に、私たちはそれを他人に押し付けるべきではないと考えている。仮面が生まれる」
「……私たちに、偽りの面をみせているって……ことですか?」
「少し違う、その一面も私、そして復讐者の一面も私。だが、復讐がかなった時、叶わなかった時、その日常の仮面が無ければ私たちはその人格もろとも崩れ去る」
「……1年以上、背中を見て……きました」
 威月は語りだす。燃衣は間違いなく復讐者だと。その背中に声が届いてしまわないように。
「けれど、それだけでは無くて。だから……こそ。人が集まったんです。隊長は、その……」
 うまく言葉にできない。ただ魅力的な人だとは思っている。
 人の事に一生懸命になれる。本来は優しい人のはずだ。
 でも自分は仲間とは違うと勘違いしている。
「いつか、教えてあげて下さい」
 そう威月は鎖繰に向けて真っ直ぐ告げた。
「それは、私の役目ではないさ」
 その言葉に頷くと威月は鎖繰を追い抜いた。
(隊長、私は誇らしいです)
 そう燃衣の背中に追いついて隣に並び立つ。
(だって、あなたが自分を顧みなくても、こんなに沢山の人があなたを思っている)
 であれば、復讐の炎にその半生が焼かれるとしてもきっと。
 自分たちの元に戻ってきてくれる、そう威月は信じることができた。

   *    *

 昼飯時には暁メンバーは全員食堂に集まるのだが。
 そのメンバーの中に仁菜の姿が無かった。
「……ん? なんだお? 弟者」
 そう槇は脳内に響く声に驚きあたりを見渡す。
 すると確かに仁菜の姿が無いのである。
「おかしいお」
 そう槇は五目チャーハンを半分残して、廊下に出る、目指すのは訓練施設。
 すると入れ違いでアイリスと蛍丸が姿を現した。
「ちょっと訓練が長引きまして」
 二人とも防衛力に自身のあるリンカーだ、長引きもするだろう。
「それより、仁菜たんいるかお?」
 アイリスが頷き視線を向ける。
 槇が入室するとそこにはひたすらにサンドバックを叩く仁菜の姿がある。
 フットワーク軽く激しく動く仁菜。耳がパタパタ上下している。
 そんな仁菜の眼差しは真剣だった
「回復職は最後の砦。決して倒れてはならない。ってリオンに言われてるのにね」
 あの場で回復手は他に威月がいた。
 しかしそれでは回復の手が間に合わなかったのは事実。
 自分の甘い見積もりが招いた惨敗だった。
「朱雀戦私は全然役に立たなかった……」
 そう一際強く仁菜はサンドバックを叩く。
 あの森での戦闘、および朱雀戦の状況から、暴走はリバウンドが激しくリスクが大きいと判断。
「私が暴走したところで朱雀には敵わない」
 朱雀の炎熱防御の前には生半可な攻撃では通らない。
 であれば、回復力の向上と決して倒れぬ盾となる事が目標となる。
 朱雀を倒す力を持つ仲間の力を届ける事が自分の使命だ。
 そのための体力づくりが必要。 
 そう仁菜は上がりきった息のままに無茶苦茶なトレーニングを続けている。
 そんな仁菜の顔にタオルが投げかけられた。
「そこまでだお」
「あ、お兄ちゃん」
 そう仁菜は一瞬笑みを浮かべるが、すぐに真面目な顔に戻ってサンドバックを叩く。
「私はもう少し訓練してから行きます」
「あれは仁菜たんのせいじゃないお」
 その言葉に動きを止める仁菜。
「って、伝言だお。だけど俺もそう思うお」
 役に立たなかったと言えば自分もなのだ。戦闘力としてはまるっきりおいて行かれていた。
 だがそれは暁メンバー大部分だ。
 アイリス、春翔、燃衣あたり以外は翻弄されるばかりだった。
 その三人ですら束になっても歯が立たなかったのだ。
「俺達全員で強くなるんだお」
「自分たちのやり方で?」
「そうだお、わかってきたみたいだおね」
 そう槇は告げるとふところからクリスタルを取りだす。
「これ、最初は悪意が入っていたんだお。隊長が吸い取った上に、威月たんに触らせると全部消えたけどお。だからこそ、これを仁菜たんに託すお」
「私に?」
「これは無色の入れ物だお。なんでも入るし、いつでも出せるお。仁菜たんが一番悔しい思いをしてるのは知ってるお、だから託すお」
 使い道はわからない、けれどもし仁菜の癒しの力をこの中に封じることができたなら。これは切り札として使えるのではないか。
 そう思った。
「あとはAMWも完成間近だお、試作品が三日くらいでできるからこうご期待だお」
 そう親指を立てる槇。
「白虎のBBAの厚化粧落としてやるお!」
「励ましてくれたんですか?」
 仁菜がそう落ち着いた表情で問いかける。
「って伝言だお」
「もう、お兄ちゃんったら」
 そうくすくすと笑って見せる仁菜。
「頑張り過ぎは毒ですしね」
 その時、燃衣が入室した。
「お、隊長、きぐうだお」
「いえ、呼ばれたんですよ」
 槇は仁菜を振り返る。
「はい、試してみたいと思いまして」
 そう仁菜は盾を召喚、構える。
「では僕の悪意の力、お見せしましょう」
「はい!」
 暁隊舎の午後に一際大きい金属音が響く。
 戦いが終わってみればそこに全てのメンバーが集合していた。
「悪意の力、お見事でした」
 そう仁菜が手をさしだし、燃衣は起き上がる。
「けれど、これは化物の力です。僕はこの力を最大限に利用するけれど、きっとその後は僕はみんなの元には戻れない」
 その言葉に首を振る仁菜。
「大丈夫ですよ。隊長の手はこんなに暖かくて優しいです」
 そう仁菜が燃衣の傷を癒してくれる。

エピローグ

 春翔は屋外で煙草を吸っていた。
 周囲には誰もいない。考える時間にうってつけだ。
(あの……声。あの感覚)
 春翔はあの日以来、全てが混ざり合った日以来ずっと考えている。
 謎の声やあの衝動は何か。
 英雄二人はというと意識が混ざり合い、何方がどう感じていたかも曖昧だったといっていた。
 しかし自分はハッキリと自我を保っていたのだ。
 最も深い共鳴が全て一つに融け合うという事ならば、それは。
「俺の、問題。か」
 そう春翔が煙草を握りつぶす。
 隊舎に戻ると、エントランスに威月の姿が無かった。
 首をかしげる春翔の目に移ったのは一枚の紙、そして鍵。
 紙にはこう書かれている。
『仲間は預かった』
「おいおい、シャレになってねぇぞ」
 メンバーが全員エントランスに集合する。
 その書きおきをみてアルトはデスクを吹き飛ばした。
「おい、隊長。舐めた真似されたら報復しかありえねぇよな。乗り込もうぜ」
「…………。ええ。何をされるか分かったものではありません。決戦といきましょう」
 そう燃衣は拳を握りしめ唱える。
「全員支度をしてください。僕らはこれより、ラグ・ストーカーをぶっ潰します」

   *   *  

 暗がりに浮かぶ魔法陣。その中心には少女が浮かべられていた。
 少女の名前は威月。浄化の力を持つ乙女。
 その力はたいへんラグストーカーにとって都合が悪い。
「それに、朱雀を回復させるためにも協力してもらわないとね」
 そう小柄な少女が告げる。
 四神が魔方陣の周辺に集まった。
「……隊長は、絶対来ます。もう、あなた達は終わりです」
 その威月の言葉を嘲笑うような声が、暗闇に響き渡る。


追伸

 決戦前夜、装備を整えるために杏奈は自宅に戻っていた。
 実質の真ん中であれこれ悩む杏奈に『世良 銀志(NPC)』が言葉をかける。
「たしか、一人につき一度、大幅に戦力を増強できるんだったか?」
「それなのよね……」 
 杏奈は悩んだあげく顔をあげる。
「私、お父さんに体をあげたい! 自分の強化って思い付かなかったんだもん!」
「いやいや、折角強くなれるんなら自分に使えよ!?」
 そう唖然とする父である。
「えー、お父さんが実体化すれば一人戦力が増えるんだよ? 武器だってあるよ、魔導銃とか!」
「そんなことより話さなければならないことがある」
 ついで銀二が口を開く。
「あのVVという少女、奴はな……」




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』
『無明 威月(aa3532@WTZERO)』
『黒金 蛍丸(aa2951@WTZERO)』
『エミル・ハイドレンジア(aa0425@WTZERO)』
『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』
『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』
『一ノ瀬 春翔 (aa3715@WTZERO)』
『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』
『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』
『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』
『三船 春香(NPC)』
『月奏 鎖繰(NPC)』
『ヴァレリア・ヴァーミリオン(NPC)』
『ロゴス(NPC)』
『世良 銀志(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 皆さんいつもお世話になっております鳴海でございます。
 今回はいったんの締めくくりそして次のシーズンへの布石ということで、日常風景に力を入れて書かせていただきました。
 次回から四神戦でしょうか。
 フラグが回収される時がお話の盛り上がるところなので、楽しみにしております。
 それでは鳴海でした、ありがとうございました。
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2018年07月24日

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