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『その背に荷でなく、対の翼を 』
クィーロ・ヴェリルka4122)&神代 誠一ka2086

 忘れないで。
 僕が君の傍にいるのは……。

 ――それは、ある森に向かう依頼を終えた後のお話――


 届けられた手紙を手に、クィーロ・ヴェリルは小さく息を吐いた。
 緊張している?それとも……。
「……大丈夫さ。きっと」
 相棒から呼び出されたその場所は、もう3年近く付き合っている彼ですら入ることを許されなかった相棒の神域とも呼べる部屋。
 気づかれないよう深呼吸を一つ。
 小さく、それでも確かに響くノックの音の後。
「やぁ、誠一」
 クィーロの相棒である神代誠一が、扉から顔を覗かせた。


 始まりはいつだったのか。この想いの行先が見つからないまま。
 痛みの刃は少しずつ自分を斬り裂いて。
 痛いと声に出すことも許されないまま、そうして少しずつ、息が。


「よ、クィーロ」
(なんて顔をしてるんだろう)
 引き攣ったような笑みを浮かべる誠一を見て、クィーロは内心深い息を吐く。
 常日頃『温厚』を絵に描いたように穏やかな笑みを浮かべることの多い相棒が、酷く歪な笑みを浮かべているその時点で。
 これから聞くことになるだろう話が、誠一にとって触れられたくないであろう傷を抉るものなのだと想像が出来た。
 それでも相棒が語るのだと。聞かせるのだと。そう、決めてくれたのなら。
 クィーロに出来ることはただ一つ。聞くことだけだ。
「なんだろう、な……今まで避け続けたツケ、ってわけじゃないんだろうけどさ……」
 遠回しに、語り始めたのは相棒の心の奥深く。柔らかいところを裂いて、裂かれたまま膿んでしまった傷の話。
 想像はしていた。予想もしていた。
 それでもここまで弱り切ってしまった誠一を見たのは、初めてだった。
 何を怖がっているのか。何に怯えているのか。
 自分は誠一にとって何なのか。それを忘れたわけではないだろう。
 考えて、あぁそうか、とクィーロは気づく。
 きっと相棒が今から語ろうとしているそれは――誠一にとってだけでなく、クィーロにとっても、辛いものになるのかもしれない、と。
 だからこそ心優しい相棒は、切り出せないのかもしれない、と。
 ならば自分が今、出来ることはひとつ。
「誠一、大丈夫。僕には怖がらないで。君の重荷を、僕にも持たせて欲しい」
 過去をなくした自分を誠一が受け入れてくれたように。
『お前はお前だ』と肯定してくれたように。
 自分もまた、誠一を受け入れたい。受け入れてみせる。
 否。受け入れられるに決まってるのだから。
「その荷が重いなら。一人で抱えきれないなら、二人で持てばいいんだからさ」
 大丈夫。何があったってクィーロが大切な相棒を見捨てることなんてない。
 安心して、その荷を下ろしてしまえばいい。自分に分けてくれればいい。

 ――今まで築き上げた信頼は、強固なものなのだから。


 柔らかい雨のようだ。心凪ぐ風のようだ。
 クィーロの言葉に、誠一は固く、きつく袖を握り締める。
 どこかで誰かが、なんて様だと自分を嗤っている気がした。
 何が怖いのか。相棒に嫌われる事か。離れてしまうかもしれない事か。
 違う、そんなはずはないと思っている。思えていた。信じているから。信じていたから。
 ――本当に?
 誠一は知っている。斬り裂かれる痛みと共に、よく知っている。
 どんなに大切に想っていても。どんなに手放したくないと思っていても。
 離れていくものはある。失ってしまうものはある。
 誰のせいか。誰かだけのせいか。違う。誰のせいでも、誰かだけのせいでもない。分かっている。
 分かっている。理解している。していた。嫌というほど。させられた。

 それでも。
 クィーロは。今傍にいる相棒は、自分の背を押してくれる。
 ただ自分の傍にいて、共にそれを背負うと言ってくれる。
 背負わせるには重すぎて、暗すぎて、澱みすぎたこの荷物を。

 吸う息すら、自分を裂いているのではと錯覚してしまうほど自身が弱り切っていると、誠一は理解する。
 それでも、どうしても失いたくないのなら。
 隠したまま、どこか一線を引いて、心から笑い合うことが出来ないそれが、嫌だと強く思うなら。
 踏み出すのは。さらけ出すのは。
 今しか、ないのだ。
「ク、、ロ。ご、めん。助けて――」
 血と共に吐き出されたような、悲痛な音が。自分の喉から落ちる日が来るなんて。
 誠一自身、想像もしていなかった。

「……分からないんだ。俺が一番、俺を認められないのに」
 あまりにも真っ直ぐに、皆が自分を認めてしまうから。
 何度も手を伸ばしたことがある。待ち続けた過去がある。
 真っ直ぐただ真摯に向き合って、今日は駄目でも明日は。明後日は。一週間後は。一か月後は。
 ……いつか、は。
 そうやって信じて、信じて信じて。その末に待っていたものは。
 胸を抉る記憶。届かない言葉と想いが、今もまだ誠一を締め付けている。
「みんな、俺みたいなやつに、言葉を。想いをくれるのに……俺はどうやったって、何も、返せてない気がして」
 与えられるだけを返したい。そう思っているのに。
「なんで……俺みたいなやつ、あんな言葉かけてもらう価値なんてない。俺が信じられない俺を、信じられるんだよ」
 なんでこんな自分を。
 自己嫌悪の沼に足を取られ、身を沈ませ。抱えた荷物が重すぎて、立ち上がることも出来ない。
 息苦しくて空しくて。周りだけが前に進んでいくのに。
 自分だけが取り残されて。
 温かい仲間たちの仲に、自分がいいていいのか。なんて。そんな事すら考えて。
 頭を抱え、身を小さくして自分を守るしか。出来なくて。


(あぁ、そうか。誠一、君は――)
 語られる言葉は、恐らく誰が聞いたって理路整然となんてしていない。
 けれどそれでもクィーロは気づくのだ。
 それは何故か。

 ――クィーロは誠一の相棒だからだ。

 息を吸うように覚醒し、今、自分から相棒への想いを。
「ッハハ!そんなことで悩んでんのか、誠一!」
 決して相手を挑発するものではない。
 その笑いはまさしく、彼の相棒の悩みを、重みを跳ね飛ばす、吹き飛ばす風のようなものだ。
「お前がお前を否定しようがどう思おうが、俺には全く関係ないな」
 何故なら。
「他の誰でもない俺が。俺自身がお前を認めてんだ」
 誠一は怒るだろうか。呆れるだろうか。
 クィーロは嬉しいのだ。これが喜ばずにいられるだろうか。
 いつも精神的には、自分の方が支えられていた。ずっとずっとそう思っていた。
 けれど今。誠一は他の誰でもない自分を。
 クィーロ・ヴェリルという個を、頼ってくれているのだ。
 浮かぶ笑顔は許してほしい。とはいえきっと誠一は分かってくれるだろうけれど。
「誠一。お前が此処まで俺を信用して、信頼して打ち明けてくれたことが嬉しくて嬉しくて仕方ねぇんだ」
 クィーロの言葉に、体を小さく丸めていた誠一がゆっくりと力を抜いていく。
「なぁ誠一」
 今、クィーロは相棒に沢山の『ありがとう』を伝えたくてしようがない。

 ――ありがとう、打ち明けてくれて。
 ――ありがとう、俺を選んでくれて。
 ――ありがとう、俺を信頼してくれて。

 「ありがとう、俺を相棒と認めてくれて」
 こんなに嬉しいことは、ない。
「大丈夫だ、誠一。お前は何も変わってないよ」
 貰ってばかりだと誠一は言った。
 けれど、そうじゃないのだと自分は知っている。
「貰う前に、お前は色んな人に沢山のものを与えてきたんだよ」
「……俺が?」
「あぁ。沢山沢山……それこそお前自身が気づかないことも含めて、多くのことをな」
 与えられたのはクィーロだけではない。
 恐らく、今回この話をするに至った切欠となった人も。
 与えられたからこそ、誠一に惹かれたのだろうから。
「だからさ、誠一。お前はここにいていい。『此処』に、いていいんだ」
 もしも誰かが後ろ指を指したなら、その指くらい跳ねのけてやる。
 それが出来なくて何が相棒だ。
 今まで誠一が自分に与えてくれたことを、今度は自分が与えるのだ。
 誠一が顔を伏せ肩を震わせる。
 そんな彼の背を。今度は、自分が。
「神代誠一。お前は、みんなに愛されてるんだよ」


 信じてくれる。自分を認めてくれる。大丈夫だと言ってくれる。
 自信が持てない自分の代わりに、己に価値を。意味を見出してくれる人がいる。
 背を押してくれる大切な相棒がいる。
 見守ってくれる大事な仲間がいる。
 寄添おうとしてくれる『彼女』がいる。

 溢れるこの想いは何だろう。
 注がれる温かなこの気持ちは、どこから来るのだろう。
 伏せた目の、その奥に。
 木漏れ日の森が浮かんだ。
 淡い空色。揺れる飴色。
 優しく見守られている、そんな空気が少しくすぐったかったのを思い出す。
 寄せられる想いは、誠一の心に痛みを齎したものとよく似ているのに。
 そこに燈った、確かな感情がある。
(「それじゃあ私は――」)
 今も耳に残る、言葉がある。
 強張った手を、何度も開いては閉じる。
 まだどこか動きが鈍いけれど。それでも確かに、動いている。
 ――動けるならば……前に、進める。
 ぐっと、今度は意志をもって拳を握る。
 まだ完全に。とはいかない。それでも。
(信じよう。向けられる言葉に、想いに。浮かぶ気持ちに、素直になろう)
 誠一だってまだ、前に進みたいのだ。相棒と、仲間と。
 『誰か』と。


「……サンキュな、クィーろいってえ!」
 顔を上げ、どこか照れくさそうに笑みを溢した誠一に、クィーロは満足そうに笑う。
 バシバシと背を叩き、そこに乗っていただろう重い荷物も一緒に叩き落してやろうなんて。
「あったりまえじゃねぇか!素直になっていいんだぜ!お前は幸せになっていい!」
「い゛っで!?い゛ってえ!っちょ、おま手加減しろ!覚醒して人の背中殴るな!」
 弱りに弱ったタヌキになにしやがる!
 痛みで目に涙を浮かべながらも笑う誠一の背中はきっと、真っ赤に腫れあがっているだろうけれど。
「ハッ!次弱ってみろ。弱った狸は鷹が掻っ攫わねぇとな!」
 笑いと共に、吹き飛ばしてしまえばいい。
 重い荷物だって辛い記憶だって、黙って抱えてしまえば身動きが取れなくなるのだから。
 だからこうして、いつだって腹を割って。ぶつけ合って。

 ――そうして分け合って並び立ってこそ、相棒ってもんだろう。


END

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《ka4122/クィーロ・ヴェリル/25歳/背を押す片翼》
《ka2086/神代 誠一/32歳/踏み出す片翼》
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2018年07月25日

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