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『幸願う光 』
カイン・シュミートka6967)&リーベ・ヴァチンka7144

 その森は美しく、綺麗な鳥が歌を唄う。
 ずっと人に愛され、人の手で大切にされてきた、優しく、長閑な森。
 ――そして、その森にカイン・シュミート(ka6967)が蓮華の種を蒔こうと思ったのは、とある兄妹との出逢いがあったからだった。

「そういう事でしたら、私達愛護団体が花の世話をしましょう。私達は毎日、この森の様子を窺いに来ますので」
 花の種を蒔こうとしていたカインにそんな提案をしたのは、鳥達を守っている愛護団体の代表――白鬚を蓄えた優しい老人だった。
「いいのか? それは助かるが……」
 カインが少し申し訳無さそうに言うと、老人は微笑む。
「いいんですよ」
 そしてどこか悲しんでいるような、切ないような……そんな表情を浮かべつつ、ぽつりと呟いた。
「あの娘さんには、恩があります。大事なお兄さんかもしれない歪虚のことを、言わない事だってできた筈なのに、教えてくれました。歪虚は……留まるだけでも、周囲を汚染してしまうような存在――けれどその事を分かって教えてくれたからこそ――鳥達も、森も、歪虚の影響を受ける事なく被害もありませんでした。だから、感謝しているんです。彼女に出来る事があるなら、私は協力したい」
 老人は娘の境遇を知り、胸を痛ませている様子だった。
 娘は二度、兄の死を受け止めなけれなならなかっただろう。
 一度目は、犯罪者から身を挺して守られた時に。
 二度目は、犯罪者から救ってくれた存在の情報を、伝えた時に。
 そして胸を痛ませていたのは、老人だけではなく。
 ――カインも、同じだった。
「……ありがとう」
 カインは老人に礼を伝えた後、黙々と種を蒔き続けた。
 花の為、出来る限りのことを施して。
 すると、その時。
 小さな何かが、カインの肩にちょこんと留まった。
「おや、珍しい」
 老人は目を丸くした。
「この子達は警戒心の強い子達なので、滅多に人にも近付かないのですが……」
 肩に止まったのは、青色の小鳥。
 その鳥は、可愛らしい声で歌を紡いだ。

 それはそれは、美しい歌だった。

 すると、老人は何かを察したように表情を緩め、微笑みを浮かべる。
「あぁ、きっと……。貴方の心優しさが、この子にも伝わったのでしょう。この子は青の唄鳥と呼ばれている小鳥です。とてもとても…綺麗な唄を歌います」
 驚いていたカインは――
 どこか胸の痛みが安らぎ、目を細めた。
 そして小鳥を指先で優しく撫でながら、近くの木の枝先に結ばれたリボンを見る。


 そのリボンは、いつか、彼女が訪れた時、目印となるように――。
 同行した仲間が娘から譲り受け、そして木の枝先へと結んだ水色のリボンだ。
 カインは見つめながら、秘めて想う。


 苦しみを和らげ癒しを
 困難な今を乗り越え 幸福を


 切に祈り、そして、綺麗に咲きますようにと願いを込め――
 そっと目を閉じるのだった。









 長雨が続く季節。
 しかし本日は晴天に恵まれ、庭の花々は太陽の光を浴び、生き生きと咲いている。
 其の日、カインは下宿人であるリーベ・ヴァチン(ka7144)と共に、亡き祖母の旧友が経営するガーデンレストランへと訪れていた。
 なんでも祖母の旧友は、方々と連携し、ブライダルフェアというものを企画するらしく――その宣伝広告に載せる為の写真で、是非、新郎役モデルとして協力をお願いしたい、と――そう頼まれていたからだ。
 そのような事情から、真っ白なタキシード衣装を身に纏うカインは、庭の花を眺めながら暇を潰していた。
 すると、女性の黄色い声が耳に届く。
 カインがその方向へと視線を遣ると……。
 そこには同じ新郎役としてモデルを頼まれていたリーベが、華やかな純白のタキシードを着こなし、女性達を虜にしている光景が広がっていた。
「凄ぇ。モテモテだな……」
 カインは思わず、感嘆の声を漏らした。
 なぜだろう。女性達に囲まれているリーベの醸し出す雰囲気が。オーラが。眩しい位にキラキラしているように見えるのは――。
 カインは、まるで騎士様みたいっ!と騒いでいる女性達に、内心密かに同意していた。

「カイン。そこに居たのか」
「おう。随分時間が掛かったな、リーベ」
「そうだな。衣装選びに時間が掛かったというか……スタッフ達に、あれもこれもとリクエストされて、色々試着していた。どうだろう、似合っているか?」
「あぁ、似合ってる。いや、似合いすぎだろ」
「はは。ありがとう。カインもよく似合っているぞ」
「……それはどうも」
 リーベはこの場にいる女性達を夢中にさせる男前だった。
 しかし、彼女は女性である。
 顔立ちは男性的で、更に今日はスタイルが判り難い男性的な服を着ていた事も相俟って、初対面のスタッフ達は男性だと勘違いしていたようだが――。
 どうやらその勘違いは、すぐに払拭されたらしい。
 衣装合わせの際、リーベが女性である事にスタッフが気付いたからだ。
 そして、そんなスタッフとのやりとりがあった後。
 リーベには新たな依頼が申し込まれていた。

「次はウェンディングドレスの撮影だって?」
「試着中に依頼されてな。断る理由も無かったので、引き受けた」
「そうか。なら俺の撮影の方が早く終わるだろうな。俺は後姿だけだから」
 カインがそう言うと、リーベは驚いた。
「なんだって? 後ろ姿だけなのか?」
「おう」
「何故?」
「まぁ、何でもいいだろ」
「カインさん! そろそろ撮影に入ります!」
「あ。呼ばれたから行ってくるわ。それじゃあ、また後でな」
「……あぁ」
 リーベはカメラマンの元へと向かうカインの背中を見つめながら、小声で零す。
「後ろ姿だけだなんて勿体ない。きっと良い画が撮れるだろうに……」
 ――と。

 カインは、そう彼女が呟いた事には気付かなかった。
 斯くして、彼は深呼吸を一つしてから。
 ぽかぽかと温かい陽気の中で、撮影が始まったのだった。











「ありがとうございました! カインさんの撮影は、これで終了です」
「お疲れ様でした、カインさん!」

 カインは最後の一枚を撮り終え、カメラマンから『OK』を貰うと、肩の荷が下りたように一息ついた。
 そして撮影陣は彼を囲んで、感謝と労いの言葉を掛ける。
 そんな温かい雰囲気にカインは和みつつ、ふと、周囲を見渡してみると――リーベの姿が見当たらない。
 どうやら、ウェディングドレスの衣装に着替えに行っているらしい。
 ならば、
「適当に暇つぶしとくか……」
 ――と、カインは現場の片隅で、のんびり待つことにした。

 見上げた空は蒼く、雄大で。
 広い青空の下で、少し物思いに耽る。

 思い出すのは
 儚く風に舞う カランコエ
 
 憂いを帯びて彷徨う彼と、彼の心を表現するような花が舞う光景に、想いを馳せていると――
 カインは驚いて目を丸めながら、瞬きした。
 なぜなら可愛らしい猫達に、いつの間にか囲まれていたからだ。
 彼女達の事はよく知っている。
 みんな可愛い、カインのペット達である。
 
「まさか……家からついて来てたのか?」
「にゃ〜ん♪」

 まるでカインに返事をするように猫は鳴いた。
 そして、戯れるように足元へ頭を擦りつける。
「おいおい、これは借り物衣装だから……」
 そう言いながら笑って。
 甘えている猫達を見つめ、目を細めた。
 カインにとって、彼女達は、いい女達。
 気付くとカインは、心癒されていた。
「仕方ねぇな。もう少しで撮影が終わるから、待っててくれよ?」
「にゃんっ」
 最愛の人であるカインからのお願いに承諾するように、猫が鳴く。
「ん、ありがとな……」
 そしてカインは優しい表情でずっと、淑女に接するように丁寧に撫で続けていた。
 その一方で、彼らの様子を遠くから見守っていたのは、リーベとカメラマン達。
「すごい……、猫達にあんな懐かれて……。カインさんって、あんな表情もするんですね」
 カメラマンが思わず見惚れながら零すと、リーベもカインを見つめながら心の中で呟く。
(あいつ鈍い…彼女らの目ハートだろ)
 元々強面で表情作るのは苦手につきモデルも後姿のみの彼だったが、猫達には自然体だった。
 ――どうやら当人は、気付いていないようだが。
 その時、リーベは良い事を想いついて、カメラマンにそっと耳打ちする。
「あぁ、とても画になるだろう? そう想うなら、今のカインを撮影してはどうだろう。シャッターチャンスだと思うのだが?」
「……」
 するとカメラマンはカメラマン魂に火がついたようで、静かにカメラを構えた。
 リーベは微笑を浮かべつつ、リーベにとって実質小姑こと――ヒロイン軍団から剣呑な視線を向けられているのは、気にしない事にして。

 そして、こっそり。
 パシャリ――、とシャッターを切る音が静かに響くのだった。








 無事に撮影を終えた帰り。
 カインとリーベは、とある家族達がレストランに入っていくのを見ていた。
 若い男女二人と、共に居るのはお互いの両親達だろう。
 みんな幸せそうなで、若い男女二人を祝福しているようだった。

「…結婚する二人なのだろうか?」
 リーベが呟くと、
「そうだろうな」
 と、カインが返す。
 そうして新たな家族となる彼らを見ていたカインは、ふと、リーベに家族のことを聞いた。
「私の家族か? 人間の両親と、3歳下の――龍人の双子の弟達がいる。図体のでかい弟達だが、私にとっては可愛い弟達だ。カインは?」
「俺は……両親と、10歳下の人間の弟がいる」
 そう答えつつ。
 カインは少し、俯いた。
 図体はでかいが可愛いと話すリーベを見て、先日の依頼を思い出したのだ。
(今はカランコエの季節じゃねぇな)
 ――とか。
(来年蓮華が咲くかな)
 ――とか。
(あんな風に紹介したり、されたかったりしただろうな)
 ――とか。
 きっと妹を想い、消滅していった歪虚のこと。
 そして大切な兄を喪ってしまった娘のことが、頭から離れなかった。
 幸せになって欲しかった。
 そう思ってならなかった、そんな出逢いだったから。
 想い出の指輪に触れながら、カインの胸を締め付ける。
「……。何か、あったのか?」
 リーベは気付いていた。
 少し黙ったカインの横顔が、何か心を痛めているのではという事に。
 間合いは慎重で、はっきり言う性格だが。彼は人が傷付くような言葉は言わない上、人に気遣わせる内容も表に出さない。
 ――そんな、相手の事を想ってしまう彼を見つめながら、リーベは眉を下げながら微笑んだ。
「存外気を遣う男だ。あまり溜め込むな」
 リーベはカインの頭を撫でて労った。
 するとカインはリーベの言葉に驚いて、そして、嬉しそうに笑った。
「騎士様やべー、今ときめいたわ」
 気付かれた事が、とても嬉しくて。
 カインの心はきっと、リーベによって少し救われたのだろう。
 そしてリーベはというと、予想以上に彼が嬉しそうに笑うから――発言への制裁は手加減して。
「帰ろう、私達の暮らす処に」
 リーベは空を見上げ、紡いだ。
 ――ヒロイン軍団の反応は、見ない振りをして。
 するとカインは頷き、
 心で感謝しながら、
「……あぁ」
 彼女と彼女達と共に、前を向いて歩きだす。




 後日、隠し撮りした写真が広告にしっかり使われていた為、カインが羞恥で膝から崩れ落ち――その瞬間阿鼻叫喚になり小姑?問題が激化した。
 というのは、それはまた別のお話。













 待てども待てども、兄は帰らなかった。
 故に、娘の心は悲しみに暮れていた。
 娘が失ったのは、かけがえのない人だった。
 ――ずっと一緒に居たかった。
 そんな、大事な、大切な人。
 あなたのいない世界なんて、意味がないと嘆いてしまいそうな程に。
 けれど、優しい龍人の青年が掛けてくれた言葉が、その気持ちを引き止める。


“セリの兄ちゃんは、いい兄ちゃんだな”


 そう。
 この命は、そんな兄が身を挺し守り、死して尚救った命。
 故に、娘は生きていく。
 歩んでいく。


 この世界の、どこかで。
 






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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6967/カイン・シュミート/男性/20/幸願う光】
【ka7144/リーベ・ヴァチン/女性/20/光の女騎士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、瑞木雫です。
制作時間を沢山頂きまして、ありがとうございます。
そして、大変お待たせ致しました…!
その分丁寧に、心を込めて、執筆しております。

シナリオ「カランコエ」に絡めたシナリオということで、称号である『幸願う光』を題にしつつ、カインさんの優しさや温かさ、カインさんを支えるリーベさんや猫さん達にもときめきながら、愛を込めて書いておりました。
そしてカインさんの視点からの後日談を書く機会を頂けて、とてもとても嬉しかったです!

もしも内容の中に不適切な点等御座いましたら、是非、遠慮なく仰って頂けるととても有り難いですっ。
ご発注ありがとうございました!
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2018年07月25日

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