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『フュージリア 』
緋打石jb5225




 孤独には、慣れたと思っていた。



 雲一つない蒼天を背に、真白の翼が力強く風を打つ。
 真紅の槍を握る手が、汗で滑りそうになる。
「くッ!! 逃がすか!」
 少年堕天使ラシャは歯を食いしばり、急降下と同時に槍を旋回させた。生み出す風は、周囲の敵を一斉に吹き飛ばす。
「よくやった、ラシャ殿! あとは任せよ」
 敵勢の背後にある森から物質透過で地中をすり抜けた緋打石は、すぐさま火車を走らせる。
 セブンス・チャリオット。曰く、罪人を運ぶ地獄の火車。
「反体制組織が、口ほどにもないのう」
 背面からの奇襲を受け完全に昏倒した3人組を見下ろして、彼女は大鷲の如き翼を畳んだ。ふわりと、紫銀の髪が背へ落ちる。
「あとは役人に任せ、自分たちは寄り道をして帰ろうぞ。この暑さじゃ、アイスクリームを食べに行くぞ!!」




 世界の命運を賭けた戦いが終わったのは、1年ほど前。
 かつて天魔へ抗う力を持つ人間は、ごくごく一握りだった。
 現在は『力』を持って生まれるこどもが徐々にだが増えているのだという。
 いつか、この世界は天界・魔界と名実ともに対等な『力』を持つようになるだろう。
 とはいっても、人々が抗う以外に力を行使したのなら?

 正しく行使されない力は、ゆがみを生み出す。
 そも、ただしき力、とは。
 石は学園を卒業後、平穏な世界の裏側で悪さを働くモノを自由気ままに取り押さえる『万屋トルメンタ』を開業した。
 ドタバタするうちに1年近く経とうとしている。




 小一時間後、とある河原にて肩を並べてアイスクリームを食べる姿が2つ。

「戦い後のアイスは格別じゃ。ラシャ殿、そちらは如何か?」
「イチゴとレアチーズのダブル! 美味いな。外で食べてるからっていうのもあるのカナ?」
 ビターチョコレートと赤ワインとバニラのトリプルを満喫している石が話を振ると、ラシャはニッと笑う。
 今回の騒動は、ラシャが石へ持ち込んだ依頼だった。 
 正確には、斡旋所の依頼に対しラシャが個人的な案件を『万屋トルメンタ』へ依頼した。
「……センセイ、喜んでくれるかな」
「恐らくな」
 先生。ラシャがそう呼ぶのは久遠ヶ原の事務員で、かつて天界から逃れてきた瀕死状態のラシャを保護した男性だ。
 帰省した先で、とある反体制組織によるテロが勃発した。
 小さな街は火の海に包まれ、引退撃退士でもある彼は逃げ惑う人々の避難誘導をしながら学園へ連絡を入れた。
 それきり、音信は途絶えた。
 そこで、ラシャは彼と家族の生存確認・保護を、石へ依頼したのだ。
 己の身内に等しい者だけを優先して助けたいだなんて、エゴだ。わかっているから、表立っては言い出せない。
 ゆえに石は快諾した。
 なにものにも縛られず、嵐の如きスピードで荒事へ首を突っ込むのがトルメンタだから。

 結果を言えば、助けられなかった。
 到着した時には、先生も家族も瓦礫の下敷きとなり息絶えていた。最後まで人々を守ろうとしていた。
 ひとは、ひとの命を奪うことができる。こんなにも、容易く。
 そして、ひとの命を救うことができる。己の命を懸けて。
 ――人間は弱いから強い
 石の価値観に影響を与えた、とある悪魔の言葉。
 『人間を大好きな悪魔』の真意を知ろうと思った。それが久遠ヶ原へ来た理由の一つだった。

 絶望から始まった戦いに、ラシャは心を押しつぶされず最後まで立ち続けた。
 石は、それを見届けた。
「強くなったのう」
「…………そう、カナ」
 甘くて冷たいアイスが、少しずつ少しずつ戦場の高揚から現実へ引き戻していく。
 やわらかな金髪をフカフカ撫でて、石はラシャをねぎらう。
 数年前。新入生歓迎会イベントの時期に、2人は出会った。
 窮地にあったラシャと友人たちを助ける任務で。人界へ来て日の浅い堕天使は、戦うことにも慣れていないようだった。
「自分は、もとより戦うことが好きじゃった。じゃがの、両親が消えてからは……不思議と心が渇いたままになってな」
 人界の言葉で、石の本名は『戦列歩兵』を意味するという。『火打石兵』とも訳され、名の通り最前線で火花を散らす歩兵連隊だ。
 戦って、戦って、戦っても、彼女の心が満たされるのは一瞬のみ。
「渇いて、戦って……誰かに助けを求められることはあっても、誰かを頼ることは無かったのう」
「ヒダは強いから?」
「いーや。弱かったんじゃ。弱音の吐き方も知らんかった。ゆえに、久遠ヶ原へ来てからは……」
 救いの日々だった。
 小さく、石は声にした。
 戦う以外の、交流を知った。
 頼ること。頼られること。自ら助けたいと思うこと。世界の広さを知った。知識を得ることに没頭した。
「ラシャ殿。土手の下を見てみろ。曼珠沙華が見ごろじゃぞ」
「……? あ、ヒダの髪の花!」
「うむ。彼岸の時期に咲くものじゃが、最近は夏に咲く品種もあってな。ラシャ殿に見せたかったのじゃ」
 身を乗り出すと、ぼうっと空を見つめていて気付かなかったが、下方に赤く繊細な花が咲き誇っていた。
「花言葉は『追想』『独立』『深い思いやりの心』……色によって様々じゃが、生きていくための想いを秘めてるように思わぬか?」
「生きていく……」
「自分もラシャ殿も、命は長い。この世界で生きていく中で、新たな経験が幾多もあるはずじゃ」
 石が、そうであったように。
 ラシャは良い級友と巡り合い楽しく過ごしているけれど、いつしか別れの時が来るだろう。
 アイスを食べ終えた石が立ち上がった。釣られてラシャも並ぶ。
 ぬるい風が、心にぽっかり空いた穴に吹きこむ。
「悲しい時は、悲しんでいいんじゃよ。ラシャ殿」
「……そんなヒマ、くれなかったくせに」
 残党狩りにアイスクリームショップに。連れ回しまくって、感傷に浸らせてくれなかったのに。
 ラシャは泣き崩れそうな表情で、それでも笑って、やっぱり泣いた。

 ラシャを人界へ導いてくれた手は、もうない。
 それでも、縋らずに歩いて行けるように、なった。
 間に合わなくて。護れなくて。恩を返せなくて。
 悲しい、苦しい、辛い感情の隣に、石が居てくれる。
 石の肩に顔をうずめ、ひとしきり泣いて。震える背が落ちついたところで、ラシャが呟いた。
「石は、オレを置いて行かないか?」
「……ラシャ殿次第じゃのう。自分へついてこれるか?」
「むう」
 幼子のような問いへ、意地悪く答える。少年堕天使は、唇を尖らせた。涙は、晴れていた。

「先は長い。互いに、のんびり生きようぞ」




 孤独には、慣れたと思っていた。
 誰かに頼らずとも生きて行けると思っていた。

 石は人界で大切な人々と出会ったことで『否』と知る。
 会えてよかった。
 出会ってくれて、ありがとう。
 種族を越えた交友に、そんな言葉しか出てこないし、そんな言葉を口にするのは照れくさい。
「トルメンタの一員として、ラシャ殿には頼みたいことが山ほどあるしな。まずは変化の術をしっかり覚えてもらうぞ」
 今年の秋は、多治見のワインフェスタで堂々と飲酒じゃ!
「ソレはトルメンタの仕事じゃないだろ?」
「仕事として必要になった時に覚えるのでは遅いのじゃよ」
「かなわないナー」
「ふっ……。自分に勝とうなど、100年早いぞ」
「むう。それじゃ、競争は? 先に久遠ヶ原へ着いた方の勝ち!」
 言うなり、ラシャは白翼を広げる。
「フライングは卑怯じゃ!」
「それも勝負だって、ヒダ言ってた!!」
「言ったか? ……言ったかもしれんな?」
 遅れを取ってたまるかと、石も地を蹴る。


 風を切り、風を生み、2者は空を駆けた。
 肩を並べて勇ましく、戦列歩兵のようにどこまでも。




【フュージリア 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb5225 /  緋打石  / 女 / 12歳 / 万屋トルメンタ 】
【jz0324 /  ラシャ  / 男 / 14歳 / 久遠ヶ原の撃退士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございました。
色々なことがあって、今日という日を迎えたこと。嬉しさと寂しさとがないまぜです。
この世界の先を、これからも2人は悠々と過ごしていくのだろうと、願いを込めてお届けいたします。
楽しんでいただけましたら幸いです。
イベントノベル(パーティ) -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年07月31日

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