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『対巨大蜂奮闘記 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)


 シリューナ・リュクテイア(3785)が行った魔法実験、それが今回の騒動のそもそもの切っ掛けだった。
 シリューナは一見すると艶やかな黒髪を有する美女だが、その正体は別世界から来た紫翼を有する竜族であり、現在は魔法薬屋を営んで暮らしている。その魔法薬屋の一室……普段は魔法実験のために特殊な異空間を作ってある部屋を、実験も兼ねて特殊な絵本と組み合わせ、絵本の中の世界を異空間で再現させようと試みたのだ。
「お姉様っ! 私、入ってみてもいいですか?」
 そこに飛び込んできたのがシリューナの弟子にして妹分のファルス・ティレイラ(3733)。彼女もまた別世界から転移してきた竜族であり、非常に好奇心旺盛である。もっともその好奇心故にトラブルに巻き込まれる事も多いが、めげずに何事にも挑戦するのは彼女の美徳(かもしれない)。
「ええ、いいわよ」
 シリューナは微笑んで了承し、ティレイラは「やった!」と拳を上げた。そして師匠と同族である証の翼を広げると、好奇心を隠しもせずに異空間へ飛び込んだ。
 

「うっわー広い! すごい! 楽しーい!」
 数分後、ティレイラは歓声を上げながらあちらこちらを見回っていた。異空間の中にあるもの自体はほとんどが見知った物。だがその全てが通常の何倍にも巨大化していた。家も、家具も、森も道も何もかもが全部大きい。さながら小人にでもなって冒険しているような気分。
 もっともティレイラの正体はシリューナと同じく竜なので、小人ではなく小竜と表するべきかもしれないが、とにかく見るもの全てがビックサイズな異空間を、興味津々おめめキラキラで自由気ままに飛翔する。
「ん? なんか……いいにおーい」
 と、甘く上品な香りがふわっと風に乗ってきて、ティレイラは誘われるように香りの先へと向かっていった。例に漏れず巨大化した木の軒に、巨大蜂が特殊な蜜蝋で作り上げた巨大な巣が下がっている。どうやら中から漂う甘い香りがティレイラの鼻をくすぐったらしい。
「ちょっとぐらい……いいよね?」
 誰もいないのに尋ねるや、ティレイラは香りに惹かれ巣の中へと入っていった。巣の道はティレイラでも通れる程に十分広く、より強い香りを求めて奥へ奥へと進んでいく。幸いと言うべきか巣の住人……つまり蜂に出くわす事なく、数分後ティレイラは蜂蜜貯蔵庫に辿り着いた。
 ティレイラが両手を広げても足りない程の大きさの部屋。それが寄り集まってさらに大きな一角を作り、部屋の一つ一つには黄金の輝きが詰まっている。見れば宝石、舐めればスイート、充満しているとろりとした蜜。これに目を奪われずにどこに奪われろと言うのか。
「誰もいないよね……よし、それじゃあちょっと……いっただきまーす」
 申し訳程度に周囲をきょろきょろ見回した後、ティレイラは蜜に指を突っ込みさっそくとばかりにぺろりと舐めた。おいしい! 濃厚な蜂蜜の甘味にもうちょっとと指を伸ばし、舐めてはまたちょっとと指を伸ばす。そうこうしている内にどんどん手が止まらなくなり、結局お腹いっぱいになるまで蜂蜜を食べ続けた。
「あーおいしかった! でもちょっと口の中が甘いなあ……そうだ。一度お姉様の所でお茶にして、それからまた戻ってこようっと!」
 どうせなら今度はお姉様と来てもいいかも、なんて事を思いつつ、ティレイラはうきうきしながら巣の外に出ようとした。だが飛べども飛べども似たような景色……正確には巣の内部……が続くばかり。
 もしかして、迷った?
 道を思い出そうにもここには匂いを頼りに来ただけ。道なんてちっとも覚えていない。どれも似たような外見で自分が何処にいるかもわからない。とりあえず蜂蜜貯蔵庫に戻って、そこを拠点に道を探そうかな、そう思った矢先だった。
 自分と同じサイズの巨大蜂に出くわしたのは。
「…………」
「…………」
 ティレイラは硬直した。巨大蜂は大きな顎をカチカチと鳴らし始めた。これが人間であれば「侵入者ー! であえであえ!」とか言っていたかもしれないが、蜂は言葉は発しなかった。なんせ蜂ですので。
 だが蜂には言葉はなくともフェロモンがある。ティレイラを発見した蜂はフェロモンを流し始め、異常を察知した蜂達がぞろぞろ姿を見せ始める。
「(やばい!)」
 ティレイラは踵を返し反対方向に逃げ出した。この蜂が何蜂なのか種類まではわからないが、蜂の巣の中で蜂に見つかってタダで済むはずがない。だが逃げれば逃げる程背後で羽音が増えていき、ついには前後左右、全ての道が巨大蜂で埋め尽くされた。
「……ええーい、こうなったら!」
 ティレイラは意を決し、火炎球を召喚して蜂の群れへと叩きつけた。炎に包まれる巨大蜂。だが焼け焦げた仲間を踏み越えて、蜂は後から後から際限なくやってくる。何度も何度も炎の魔法を放ちまくるも、突破口が開けそうな様子は一切見られない。
 こうなったら本気で強行突破! ティレイラは人間の姿から、本来の竜族の姿に戻り盛大に尻尾を振り回した。紫色の翼を鳴らし、紫色の肢体で多数の蜂を薙ぎ倒し、力任せで突破する。しかしティレイラの進撃を上回る勢いで蜂は次々現れる。
「邪魔しないで! 邪魔しないでくれたらすぐにここを出て……むぐ!」
 通じないとは思いつつ、ティレイラは蜂達に説得の声を上げてみたが、膨大な数の巨大蜂が波となって襲い掛かった。本気の強行突破を試みたティレイラと同じように、彼らも本格的に侵入者排除に乗り出したらしい。あっという間に壁際まで押し込められ、何かがばしゃりと全身に掛かった。最初とろりとしていたそれは、一瞬にして固まってティレイラの全身を拘束する。
「え? な、なにこれ!」
 それは巨大蜂達が使う特殊な蜜蝋だった。もがくより先にさらに蜜蝋を浴びせられ、翼や尻尾が蜜蝋の壁に貼り付いて固まりだす。そこにさらに蜜蝋追加。掛けられた蝋が固まって、追加分がまた固まって、ティレイラは巣を構成する部品の一つとなりつつある。
「う、動けない! や、やめて! ごめんなさい! もうしませんから……うぅ……」
 抜け出そうともがいたが、既に肢体も蜜蝋にほぼ覆われ固まっていた。嘆き声を上げる顔も蜜蝋に覆われて……かくしてティレイラは大量の蜜蝋に固められ、完全に巨大蜂の巣の一部と成り果てた。


「なかなか出てこないわね」
 ティレイラが異空間に飛び込み半日ぐらい経った所で、シリューナはようやくティーカップを置き異空間を覗き込んだ。好奇心旺盛な弟子にしたっていくらなんでも遅すぎる。
 異空間の中に入ってティレイラの魔力の痕跡を追う。あっちをふらふらこっちをふらふらしていたようで、一応覗いてみては空振りという結果を何度も繰り返す。この労力は弟子が帰ってきたらなんらかの形で払ってもらおう。
 さてどんな「お支払い」がいいかしら、と考えながら飛んでいると、かなり奥まった森にある巨大蜂の巣に辿り着いた。巣の周囲をぐるりと回ったが、あるのは入った痕跡だけで出て行った痕跡の方はない。
「この中に入って……何かトラブルがあったのかしら」
 ない、とは言い切れないのが弟子にして妹分である。持ち前の好奇心を如何なく発揮して、結果トラブルに巻き込まれるのはティレイラの十八番と言ってもいい。
 もっとも、そのトラブルの要因にはシリューナも含まれているのだが。
 とりあえず様子を見ようと巣の中へ入ってみる。巨大蜂に見つからないよう、魔法で気配を消しておく事も忘れない。巣の外にいた時もいい匂いがしていたが……恐らく蜂蜜の匂いだろう……蜂の巣に侵入した場合の当然として、より濃厚な匂いがシリューナの鼻をくすぐった。
「この匂いにつられて迷い込んじゃった、とかだったりして」
 弟子の行動を推理しつつ奥へ奥へと入っていく。ここに来るまでと同じく、魔力の痕跡を追っていけばティレイラの元に到着するはず。外に出るには逆を辿っていけばいい。ただその前にティレイラを発見しなければ。
 そしてシリューナはようやくティレイラを発見した。蜜蝋で固められ、巣の壁面と一体化しているティレイラを。
 精巧な竜のレリーフと、事情を知らない者が見たら勘違いしたに違いない。実際は生きた竜がそのまま固まったものなので精巧なのは当然なのだが、シリューナはそれを見てほうと小さく息を漏らした。弟子を見舞った悲劇に同情してのものではない。どう聞いたとしても素晴らしさに漏れた感嘆の息である。
 壁に接着された翼は今にも動き出しそうで、蜜蝋で覆われた四肢は力強くも優美である。竜の姿がレリーフのように壁に浮かび上がっている。中々上出来なオブジェの造形にシリューナが頬に手を添える。
 シリューナは普段は落ち着いた性格で優しい物腰で接してくれるが、美術品や装飾品を好み、時にティレイラに呪術等をかけ反応を楽しんで、最終的にオブジェ鑑賞の餌食にしたりなんかしている。先程述べた「トラブルの要因にはシリューナも含まれている」がこれである。
 ティレイラから貰おうと考えていた「お支払い」もつまりはそういう事なのだが、今のティレイラは「お支払い」に十分相当するものだった。切り取って薬屋に持って帰ってしばらく飾りたい気もするが、巣に取り込まれてレリーフになっている姿も捨て難い。とりあえずここは心ゆくまで鑑賞しようそうしよう。
 シリューナは手を伸ばし、ティレイラの固まりきった横顔に優しく触れた。今にも嘆き声が聞こえそうな、蜜蝋作りのレリーフを慈愛を込めてゆっくり撫でる。
 弟子を見つめるシリューナから、自然に笑みが零れていた。

「ふ、ふふ、うふふ……」
「(……ああ、またか……)」
 蜜蝋の中でティレイラは肩を落とした。実際は肩も固まっているのであくまで比喩的な意味であるが、シリューナは美術品や装飾品を眺め出すと時間を忘れる事がある。時間を忘れて鑑賞に浸り、時間を忘れて感触を楽しむ。存分に堪能するまで時間を思い出さないだろう。
 シリューナはさすがティレイラと、感心するように固まった弟子の横顔を撫でまくる。これが魔法で褒められているならすごく嬉しかったに違いないが。
「ふふ、うふふ、うふふふ……」
 シリューナは一人笑い声を零し続け、ティレイラはああと心で嘆く。ティレイラがいつ助けられるか、それは誰にもわからない。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3785/シリューナ・リュクテイア/女/212/魔法薬屋】
【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2018年07月31日

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