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『『少年、青年……その先』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

「今日はクッキーを焼いてきたぞ」
 孤児院に訪れた長い銀色の髪の女性が、手作りクッキーの入った袋を取りだした。
「ちゃんと人数分あるからな」
 ちょうだい、ちょうだいと手を伸ばす子ども達ひとりひとりに、彼女は笑顔でクッキーを手渡していく。
「これで、最後だな。……む?」
 予定していた数がなくなり、全員に配り終えたと思ったその時。
 彼女の目に、部屋の隅にいる幼い男の子の姿が映った。
 お菓子は子供たちの人数分、持ってきていた。
 だけれど、その子の分は残っていない。
「……だれか2個貰った子はいないか?」
 子ども達に尋ねたけれど、皆首を左右にふるだけだった。
「そうか、それなら食べていいぞ。食堂に飲み物も用意してある」
 女性は子ども達にそう言って、子ども達を食堂へ向かわせてから、部屋の隅で一人、つまらなそうな顔をしている男の子に近づいた。
「すまない。数を間違えたようだ」
「違う。猫の分を誰かとったんだ。最近、野良猫が食いモンを貰いに来てる」
「そうか……動物を可愛がるのな良い事だ、がな」
 苦笑しながら、女性は持っていたカバンを開いた。
「実は持っているんだ。予備をな」
 鞄の中から予備として持ってきたクッキーを取りだして、少年に差し出す。

 ふと、女性は思う。
 この子はそれを知っていて、他の子が猫の分をもらえるよう、クッキーを取りに来なかったのではないかと。
 ホントは自分も猫にクッキーをあげたいと思っている、優しい子なのではないか、と。

 少年は思う。
 利用価値のない動物にエサをあげる意味などない。
 だから他の子も利用価値のない自分のことを考えもしない。

「……いらない」
「クッキー嫌いか?」
 女性の言葉に、少年は激しく首を横に振る。
「みんなと同じものなんていらないんだ」
 少年は、彼女の――慕っている女性の目を見た。
 彼女の優しい目は、皆に向けられているものと同じで。
 差し出されたお菓子も、皆と同じもの。同じ数。
 特別がほしい。それは我が儘だと解っているけれど。
 自分は、特別に。他の皆とは違う気持ちでこの女性のことが、大好きだから。この気持ちだけは、誰にも絶対に負けない。
「ねえ、どうしたら特別なものがもらえる? どうしたら、俺だけにくれる?」
「特別なものがほしいのなら……そうだな、努力して勝ち取るというのはどうだ」
 勉学に勤しみ、自分の力でほしいものを手に入れられるような大人になれ。そのために力を貸す……そんな彼女の話は、少年の耳に入らない。
 違う、違うんだ。
 ただただ、首を左右に振り、少年は膝を抱えていく。
 努力しても、手に入らないものがある。
 お金で買えないものがある。
「何が欲しいんだ?」
 困ったような顔で、女性が尋ねてきた。
「……お母さんが、俺だけにくれるものなら、なんでも」
 少年にとって、この女性は母だった。
 だけれど、彼女は自分だけの母ではなく、この施設の子供達全員の母なのだ。
「ねえ、俺だけ好きだと言って。他の皆なんかいらないって」
「それは……」
「嫌だ。聞きたくない」
 少年は両手で自分の耳を塞いで、目をぎゅっと閉じた。


 自室のベッドの上で目を覚ましたディラ・ビラジスは、両手で自分の顔を覆った。
 今、見ていたその夢が、自分の潜在意識――願望だと解り、頭を掻きむしりたい衝動に駆られた。
「……いや、俺はガキじゃないし、ほしいのは母親じゃない」
 求めて無理やり貰う愛や、同情や憐みの情で愛されても。
 虚しく、寂しいだろう。
 彼女の――みんなの母親として夢の中に現れた、アレスディア・ヴォルフリートの最後の返事は、夢の中でさえ聞きたくない言葉だった。
『それは、できない』
 夢の中であっても、聞くに堪えない言葉。
 だからその言葉を言われないために、ディラは感情を押しとどめている。
「俺は、あんなガキじゃない……けど、今よりもっと大人になれば」
 心は、落ち着くはずだ。
 今、自分が彼女に抱いてしまっているのは『恋』という感情。
 彼女には無い感情。
 『恋』は、いずれは『愛』に変わるもの、らしい。
 年をとれば、感情は落ち着くもの、らしい。
 それまで、自分は彼女の側に、いられるだろうか。
 彼女は、今のままでいるのだろうか。その身を犠牲にしてでも、誰かを護っていくのだろうか……護り続けられる状態だろうか。

 未来が見えなかった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸です。
こちらから先に納品させていただきます。
先にご依頼いただきました彼の2度目の誕生日のお話も近日お届け出来ると思います。
いつも本当にありがとうございます。
イベントノベル(パーティ) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年07月31日

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