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『生きるもの、存在する意義 』
海原・みなも1252

●お馬みーっけ!
 海原・みなもは妖精を蹴り飛ばしてしまった。
 妖精がみなもを白馬にした理由に憤りやらあきれを覚えた結果だった。
(王子の愛馬を探すのに時間がかかりそうでごまかすために、呪いをかけたということらしいのです)
 しかし、みなもは妖精を蹴ったため、戻る手段に困る羽目になった。呪いのアイテムだと思われる轡を外せばいいが、馬の姿では難しかった。ヒトに頼むにしても声は馬の鳴き声しか出ない。
 ふと、視界を走り抜ける小さなものに気づく。目を凝らすと、後ろ足で歩く小さなタヌキだった。
「ひ、ひーん(あれは、子タヌキさんです)」
 歓喜の声をあげた。化け学を受講する子タヌキの一匹だ。化け学はその名の通り「妖怪のための人間に化ける為の講座」である。
「ひ、ひーん! だって、あはは」
 子タヌキはみなもの回りを走りながら笑う。
「このお馬、妖精の落とし物? ケーサツに届ける? それともボクがもらってもいい?」
(妖精の物と断言しています?)
 みなもの混乱していた頭がすっと冷えていく。
「ひーん(お話を聞きたいのです)」
「ひーん、あははははー」
 子タヌキは真似するのが楽しいらしく、馬に変化した。子タヌキサイズの白い馬はどこかいびつで可愛らしい。
「小童、里から出て何やってる」
 道路を、置物のタヌキがやってきた。
「わー、センセーだ。ボク、お馬をケーサツに届ける? イチワリもらえる?」
 子タヌキが元の姿になり問う。
(一割っ!? それより、この大きな置物みたいなタヌキは、講師の百一郎さんです!)
 みなもは何とか意思疎通をしたいと考えた。百一郎はこの近辺で一目置かれた存在であると思われる。
「これ、ひろったのボク!」
 子タヌキが自己主張する。
「それは、人間だぞ」
「ひ、ひーん(そうです)」
「うん」
 子タヌキの返答にみなもは何とも言えない顔になった。
「知り合いのような気もするが……」
「ヒーン(みなもです)」
「わからん」
 百一郎は少し考えた後「好きでその格好をしているのか?」と問いかけた。
 みなもは首を横に振る。
「罰か」
 みなもは首を横に振るが「素直にハイという輩はいないな」と自己完結された。
「戻りたいか」
 みなもは大きく首を縦に振った。
「わかった、一旦、こちら側に行こう」
「?」
「ボク、のるー」
 子タヌキは誰の返事も待たず、みなもによじ登り手綱を取った。

●役割
 満月に近い光に照らされた里は森の中だった。タヌキの生態からすれば想像はできることである。
 日本の昔話に出てきそうな木と藁ぶきでできた家が建っていた。百一郎は庄屋の家ぽい家の前で足を止めた。
「ほれ、下りろ」
 子タヌキは落ちると、手を振って帰って行った。
「あんたは、土間に入っていろ」
 馬みなもは問題なく入れた。
「戻すのは明日の晩だ」
「ヒッ」
「妖精がやったことなら妖精にやらせれば即刻戻れるだろう。手順を知っているからな。しかし、原因がわからんからな、強引にやるなら満月だ」
 みなもは理解した。そのため、轡が原因と伝えたかった。
「ヒヒワイーン」
「何か言っているのだろうがわからん。よし、他の意見も聞くか、待ってろ」
 百一郎は誰かを呼びに行き、タヌキにしてはすっきりした体型の若そうなタヌキを連れて戻ってきた。
「会話の内容を推測しろ」
 無理難題に動じた様子もなく、若そうなタヌキはみなもを観察した。
「この匂い、嗅ぎ覚えあるんですが。海のような水のような……」
 そこで百一郎はピンと来たようだ。
「海原か」
「ぶひーん」
「じゃ、化けられるな」
「ですね。では私が海原さん代わりに、明日一日人間生活を送ってくればよろしいですね」
 みなもは激しく首を横に振る。
「冗談はさておき、、原因わかっています?」
 みなもはうなずき、轡だと告げるがやはり怪しい。
「字数と人間にない余分でしょうか?」
 みなもは首を縦に振る。そして、青年は二択の質問に変えた。
「一字、二字、三字、なるほど、しっぽ、手綱、轡」
「でかした」
 みなもがうなずくのを確認し、百一郎は轡を取ろうとしたが、痛みが走り一旦手を離した。
「轡が拒否しおったな」
 二人がかりで呪文付きで何とか外す。
 みなもは大きく息を吐き、新鮮な空気で肺を満たす。みなもは百一郎と青年を見て、安堵して目が潤んでくる。
「ありがとうございます。馬にされた原因があまりもひどくて、思わず妖精を蹴ってしまったのです」
 そして、みなもは経緯を語る。二人は「そういうこともあるな」という顔で聞いている。
「わしらも人間に近いところに生きているからな、遊んでやることはあるが、これに比べれば可愛いもだよな」
「狐は馬糞食わせてましたね」
 二人は笑う。
(あれ? タヌキがおばあさんを……)
 みなもは何か思い出したが、言葉にはしなかった。
「そろそろ薄御前(すすきごぜん)の季節も来ますね」
「いや、別に季節ごとに来るわけではないだろう。あそこは面倒だからな」
 みなもが「どういうことですか」と問うと「特殊な世界で入り込むと狐にされる」と答えが返ってきた。
 みなもは心当たりはあった。キツネになりかかったことがある。
「妖精どもに限らず、我らのことも人間中心に考えると嫌な物になるからなー」
「仕事手伝ってくれる、という輩もいますね」
「それはいい奴になる。生気を吸って創作する力を授けるものもいるな」
 みなもは彼らが人間のことも、異界の他の住人のことも詳しく知っていることに気づいた。
「あの、妖精とも交流があるのですか?」
「頻繁にはないが、行き来はしているからやり取りはあるからな」
「一匹の妖精が来ると子タヌキが五匹分は騒がしさになりますね」
 妖精と子タヌキは馬が合い、遊び始めるとひどくにぎやかだそうだ。みなもとしては見てみたい気もするが、巻き込まれると非常にひどい目に合うのだろうと想像した。
「靴つくり職人が来た時は面白かったですね」
「あいつらは草履の作り方覚えて帰っていったな」
 妖精の職人が技術を覚えて帰るという話に、みなもは興味を抱いた。異界の日常を垣間見たようだ。
「なんか不思議です」
 みなもは呟いた。二匹にどういうことかと問われ、色々な種族が交流することについて驚いたと素直に告げた。
「まあ、問題が勃発することもあるがな」
 人間も同じだ、互いの利害があり、考えがあるからぶつかることはあるのだ。
 百一郎が言うと若いタヌキがうなずいた。
「さて、明日学校だろう? もう、帰らんとまずいだろう?」
 百一郎が促す。
「あ、そうですね。今日はありがとうございました」
 みなもは礼を述べる。
「送っていきますね」
「あ、でも」
「遠慮はいりません。真っ直ぐ案内しますよ」
 青年タヌキが提灯を取り出して言う。
「非日常から日常に戻る時間だ、わしらもあんたも」
 異界の住人にしてみれば、人間がいることが非日常なのだろうか。
「では、失礼します」
 みなもはずんずん道を行く青年を追いかけた。歩く道はゆがんで見え、青年を見失わないようについていく。
 青年タヌキがお辞儀をした直後、みなもは独り家の前に立っていた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1252/海原・みなも/女/13/女学生
???/百一郎/オス/おじさん/タヌキ

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 異界の日常って意外と人間たちの交流と変わらない気もしました。
 その結果、鎖国している日本とやってくるオランダを想像しつつ書きました。
 発注ありがとうございました。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年07月31日

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