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『『2度目の誕生日』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 8月15日。この国の終戦記念日。
 今年もその日がやってきた。
 ディラ・ビラジスにとって、生まれて2度目の誕生日――誕生日とした日だ。
 昨年と同じように、夕方、アレスディア・ヴォルフリートとディラはスーパーに行き、パンとケーキ、飲み物を購入した。それから2人は買い物袋を手にアレスディアの部屋へと向かった。
 はたから見た2人の関係は、お家デートをする恋人同士そのものだった。
 当人たち、いやアレスディアの方はまるで意識することもなく、友であるディラを1人で暮らす部屋に招き入れる。

 部屋に入り、キッチンに立って少しして、アレスディアは後ろを振り返る。
 ディラはソファーに腰かけて、買ってきた麦茶を飲みながら料理を待っていた。
「……今年も、着るのか?」
 そうアレスディアが尋ねると、ディラはくすりと笑みを浮かべた。
「嫌なのか?」
「いや……確認、しただけだ……」
 視線を逸らしながら、アレスディアは去年彼から貰ったエプロンドレスを着用する。
 フリルつきの可憐なエプロンドレス。色はピンク。アレスディアは自分には似合わないと思っていたが、何故かディラはこのエプロンドレスを着たアレスディアの姿を好むのだ。
 恥ずかしさで僅かに高鳴る鼓動を、体にぐっと力を入れて落ち着かせて、アレスディアはいつもの調子で料理を始める。
 この姿を長く晒したくなかったからではないが、試作は勿論、下ごしらえも既に済ませてある。
 まな板と包丁を取り出して、玉葱をスライス、パプリカを乱切りにする。
 続いて、缶切りでトマト缶とマッシュルームの缶を開けて、鍋に水とトマト缶、調味料を入れる。
 それから、マッシュルームと玉葱、パプリカを入れていく。
 次に、冷蔵庫から、ヨーグルトに漬け込んだ鶏むね肉を取り出して、沸騰した鍋の中に入れていき、煮込んでいる間にサラダを作っていく。
(視線を感じる……)
 本でも読んでいてくれと言ったのだが、ディラはほぼこちらを見ているようで。
 アレスディアは背後に感じる視線を意識しながら、調理を進めていた。
 彼の視線に、どんな反応をすればいいのか……わからない。
 自分が恥ずかしがる姿を、喜んでいるようにも思えたけれど。誕生日なのだし、喜んでほしいのだが、なんだか癪に障るというか。
(悪戯好きな子供のようだ)
 と、アレスディアは思うことにした。
 男性が女性が恥ずかしがる姿を好むということを、アレスディアは良く解っていない。
 レタス、キュウリ、キャベツに、水菜。
 ツナに、コーンを乗せて、トマトと茹でたブロッコリーで周りを飾り、サラダを完成させて、パンと共にテーブルに運び。
 冷蔵庫から取り出したスープを、スープボウルへと注ぎ、最後にトマト煮込みを盛る。
「美味そうだ」
 並べられていく料理を、ディラは嬉しそうに眺めていた。
 昨年の彼の言葉……『飢えている』という言葉がアレスディアの脳裏に蘇り、ふとアレスディアはこう尋ねてみた。
「準備出来たものから食べるか?」
「いや、もちろんアレスと一緒に」
 そう答えて自分を見る彼は、ただただ嬉しそうで。
 やはり食べ物に飢えているというわけではないと、アレスディアは感じ取る。
 食事の準備が整うと、アレスディアはエプロンドレスを抜いて、ディラの隣に腰かけた。
 並んで一緒に、手作りの夕食を食べていく。
「……これ、何で出来てるんだ?」
 冷製スープを飲んだディラが、不思議そうに問う。
「ジャガイモだ。ホエーを使っている」
「ほえぇ?」
 ディラの間の抜けた発音に、アレスディアは思わず笑みをこぼす。
「良くわかんねーけど、栄養が沢山入ってる気がする」
 うんうんと頷きながら、一口一口、美味しそうにディラは料理を口に運んでいった。
「やっぱり……」
 トマト煮込みを食べながら、ディラは幸せそうな笑みを浮かべる。
「アレスの料理は、心に沁みる美味さだ」
 そんな彼の言葉に「ほめ過ぎだ」と、アレスディアは軽く照れながら答えた。

 食事後、ケーキと紅茶を楽しみながら、アレスディアは用意しておいたものを取り出した。
「誕生日にする話でもないが……良い機会だ」
 言って、彼女がテーブルの上に置いたものは、鍵だった。
「合鍵を渡しておきたい。何かあった際に、互いに行き来できた方が良いだろう。受け取ってくれるか?」
 ディラは驚きを露にした表情で、鍵を見詰める。
「ええと……アンタ、俺のことそんなに信用していいのか?」
「この街で、唯一、合鍵を託せる相手だと思っているが」
「そうか……サンキュー……」
 ディラが広げた手をアレスディアに向け、彼の大きな掌の上に、アレスディアは合鍵を乗せた。
 その後。何故かアレスディアは表情に気恥ずかしさを混ぜながら、居住まいを正した。
「う、む……その……去年、言えなかったな、と思って……」
「何だ?」
 何度か口を開けては閉じるアレスディアのことを、ディラは訝しげに見詰めていた。
 一つ、息をついて。彼の方に体を向けて、向き合い。
「誕生日、おめでとう……ディラ」
 アレスディアはディラにそう言った。続きはない。
 ディラはじっと彼女を見つめ続けている。
「い、や、あの、あくまで、普段は、『殿』で呼ぶからな?」
 赤くなって、早口でアレスディアはそう言い。
「つまり、その……二人、だけのときなら……『殿』なしで、呼んでも、いい……」
 ゆっくりと、どもりながら言葉を続けた。
 ディラの手が、アレスディアへと伸びる。
 彼の真剣な瞳と、アレスディアの恥ずかしげな眼が絡み合う。
 伸ばされた手は、彼女の肩の上で止まり、少しの間をおいて彼女の肩をポンと叩いた。
「ありが、とう」
 声を詰まらせた彼に、アレスディアは恥ずかしげに頷いてみせる。
「あの、さ。今晩、このまま泊っていってもいいか?」
 突然の彼のそんな言葉。
 アレスディアは戸惑いを隠せなかった。
「ね、寝るところがないぞ。何を言っている」
「寝るところがないんなら、アレスはどこで寝てるんだよ」
「私のベッドを使う気か? ならば私の寝る場所がなくなる」
 この2シーターのソファーでは、女性のアレスディアでも寝るには小さすぎる。
「寝床は1つでいいんだが」
 そんな彼の言葉の意味は、アレスディアには理解できず、ただ、怪訝そうな顔で彼を見るばかりだった。
 ははははと、声を上げてディラは笑い、立ち上がる。
「今年も、ありがとう。凄く美味かった。アンタの信頼も、預かっておく」
 アレスディアから受け取った合鍵を、とても大切そうにしまい、ディラは玄関に向かった。
「俺の部屋は、アレスのことは大家に話してあるから、言えば開けてもらえるし、何かの時は窓ぶち破って入ればいい」
 笑いながらそう言い、彼は自分が借りている部屋へと帰っていった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもありがとうございます。
ライターの川岸です。
合鍵を託してくださり、そして呼び捨てで呼んでいただき、ありがとうございます。
感動で抱き締めたくなったけれど、なんとか理性で堪えた……ようです。
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年08月02日

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