▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『『肩に刻まれた記憶』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 連日、夏日が続いている。
 こんな夏ならば、勿論。海水浴場は大賑わい。
 それならば、この女性――アレスディア・ヴォルフリートが訪れないわけもなく。
 当然、警備の仕事だが!

 というわけで、今年もディラ・ビラジスはアレスディアと共に、海水浴場で仕事に勤しみ、健康的に焼けていた。
 アレスディアの方は今年も露出度の低い服装。ディラを視覚的に楽しませてはくれなかった。
 それでも、何か理由があるということはもう良く解っていたので、ディラから彼女の格好について口を出すことはなかった。

 仕事の最終日。
「花火大会があるそうだから見物して帰るか?」
 浜辺での勤務を終えた後、今年はアレスディアの方からディラにそう問いかけた。
「ああ、観に行こうぜ」
 花火よりも、ディラには観たいものがある。
「今年も、着るだろ?」
「ん、ああ。借りてはある」
 それは、アレスディアの浴衣姿。
「で……その……」
 軽く、視線を逸らして。おずおずといった感じで、アレスディアは続ける。
「ディラ、ちょっといいか?」
 言って、彼女はディラを寮の自室へと招いた。
 彼女が、自分の名に殿をつけずに呼んだ。
 それは2人だけの時限定の呼び方。
 2人のプライベートな時間の始まりを感じ、ディラの鼓動が楽しげなリズムを刻む。

 アレスディアは部屋に入ると明かりをつけ、ディラを中に入れてドアを閉めた。
 彼女の雰囲気は楽しげではなく、ディラは不思議に思いながら「どうかしたか?」と尋ねた。
 少しの迷いを見せた後。
 アレスディアは心を決めたように向き直り、ディラをまっすぐ見つめた。
「先日、見られたくない傷があるなら、と言っていたな」
「……ああ」
 彼女がこんな場所を訪れた時でもいつでも、肘や膝近くまで丈のある露出度の低い服を纏っていることに疑問を覚え、理由を尋ねたことがあった。
「……ご明察だ」
 そう言うと、アレスディアは羽織っていた上着を脱いだ。
 ラッシュガードの下は、袖のないタンクトップ1枚。彼女の肩も、首も、胸元も全て露になっていた。
 日焼けをしていない、彼女の白い肌――左肩一面に広がる、大きな傷にディラの眉がピクリと揺れた。
「……私が故郷を失ったきっかけは話したな。これは、そのときの傷だ」
 アレスディアは右手を肩の傷跡に添えながら話す。
「誰かを護っての傷ならば、むしろ誇りだ。でも、この傷は……私の、過ちの痕、だから」
 彼女の眉が、僅かに苦しげに寄っていく。
「……護られた命を粗末にすることは、護ってくれた想いも粗末にすることだ。そんなことも言われたが……私は、私を完全には、許せない」
 目を伏せて、アレスディアは穏やかに首を左右に振った。
「この傷を平穏な心で受け入れることは、今はまだ、できそうにない。それが……私が肌を隠す理由、だ」
 再び、アレスディアは真っ直ぐ、ディラを見る。
 真っ直ぐ向けられた瞳。だけれど、いつもの揺るぎない瞳ではなく。
 彼女の中に存在する、苦しみ、嘆きの感情が潜む目だった。
 その傷跡を、自分自身で見るたびに、彼女は自分を苦しめてはいないか?
 誰かの目にさらされ、誰かがその傷を見るたびに、その視線に気付くたびに彼女の記憶は蘇り、心に新たな傷を刻んでいくのではないか。
 軽々しく聞くべきではなかった。
 自分が興味を示してから、彼女は随分と悩んだのではないか。
 そう思い、ディラは自嘲的な笑みを浮かべた。
「悪かった」
「謝らないでくれ」
 アレスディアはすぐに、そう返した。
「私が……ディラに、知ってほしかったんだ。誰彼構わず晒すことのできる傷ではないが……ディラにまで、隠すのは……何か違うと、思って」
 その言葉を受けたディラの表情が、穏やかな微笑へと変わっていった。
「俺は、その傷を持つアンタと出会って、その経験を経たアンタに惹かれて、今、一緒にいる。傷も、他の何かも隠さなくていい。見せてくれてありがとう」
「こちらこそ見てくれて、ありがとう。……む、そうこうしているうちに時間だな。ほら、着替える故、外で待っていてくれ」
 アレスディアは突然ドアを開くと、照れ隠しのようにディラを外へと追い立てた。
 彼が出て行き、ドアを閉めて。
 そのドアに背を預けながら、アレスディアは吐息をついた。
 しばらく、そうしていたら。
「花火、始まっちまうぞ。それとも部屋の窓から見るか? 2人きりで。可愛いビキニ姿で構わないぞ」
 軽い口調のディラの声が響いてきた。
「持っていない。いや、そういう問題じゃなく……。すぐ着替える」
 ほのかに赤くなりながら、アレスディアは浴衣に手を伸ばした。

 今年の彼女は白地に、青い花柄の浴衣姿だった。
 アレスディアの女性らしく、美しい姿にディラは目を奪われる。
 会場は大変な賑わいで、良い場所は残っていなかったが。
「綺麗だな」
 そう、見上げる彼女の首筋に、ディラは視線を走らせる。
「ああ」
 そして今年も、アレスディアの隣という特等席で、花火と彼女の浴衣姿を堪能したのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

ライターの川岸満里亜です。
ご依頼ありがとうございました。
肩の傷について、明かしてくださりありがとうございました。
より、アレスディアさんを知れたこと、そして今年もアレスディアさんの美しい姿を観ることができ、ディラはとても幸せでした。
イベントノベル(パーティ) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年08月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.