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『残酷な彼と、勝手な彼と 』
アーク・フォーサイスka6568


 約束の時間に、アーク・フォーサイス(ka6568)が転移門を潜り龍園を訪れると、そこには既に友人の姿があった。
 夏らしく薄手のシャツ姿のシャンカラ(kz0226)は、アークを認めると軽く片手を上げる。

「いらっしゃい、アークさん」

 その様子にアークはかすかな違和感を覚えた。

(何だろう……? ここまで迎えに来てくれたのが初めてだから、かな?)

 そう考えて流し、

「今日も時間を取ってくれてありがとう。……いつも忙しいのに、申し訳なく思うけど……でもすごく、嬉しい」

 何だか独り占めしているみたいで。その言葉を飲み込み彼を仰ぐと、彼は転移門の方を見ていた。

「今日はお一人ですか?」
「そうだけど……?」

 アークの返答に、シャンカラは束の間考え込む素振りをする。

「では、少し付き合ってもらえませんか?」
「何に?」
「ほら、去年の夏に氷原の小川へ行ったでしょう? あそこで飛龍を水浴びさせてあげたいんです」

 快く承諾し、彼の後をついて行く。
 けれど流したはずの違和感は、胸の奥につっかえたままだった。




 そうして彼の飛龍を龍舎から引き出し、龍園そばの氷原へやって来た。
 夏とはいえ大部分を雪と氷に覆われた大地。そこへ流れる一筋の清流。夏の間だけ現れる、雪解け水の小川だ。
 ここへ連れ立って来るまでの間に、アークの違和感はますます強くなっていた。

「去年はここでスイカをいただきましたよね」
「そう、だね」

 いつもと同じように言葉を交わしているのに、シャンカラはほとんど目を合わそうとしないのだ。アークへ語りかけながらも、彼の眼差しは大方飛龍へ向けられている。

(今までに来た時は、室内にいて向かい合って座ったりしていたから、話している間中目が合っていたけれど……。外だから? 大事な飛龍が気になるから? それにしたって……)

「どうしました?」

 考えに没頭しすぎていたらしい。彼が心配そうにこちらを覗き込んでいた。やっと交わった視線に、

「ごめん。何でもないよ」

 ホッとしたのも束の間、「そうですか」と微笑んだ彼を見て、違和感の正体に気付きハッとなる。
 今見せた笑顔は、近頃アークが親しんできた『友人』の笑顔ではなかった。
 知り合って間もない頃のような、『ハンター』と『龍騎士』として接する時のような、大人びてどこか本心の見えない『他所行き』の笑み。時間を共有する内に見せるようになった、実年齢相応の快活な笑みとは明らかに違う。
 先程出迎えてくれた時もそうだった。前に龍園を訪れたアークを見つけた時には、それは嬉しそうな顔をして駆けてきてくれたのに――

(何故? 急に壁ができたみたいだ。珍しく外に連れ出したのは、もしかして……俺と顔を突き合わせていなくて済むから……?)

 もやもやを抱えたアークをよそに、飛龍は嬉しそうに小川に踏み込んでいく。蹴立てた雫が、夏の日差しと氷原からの反射光を浴び、宝玉のように煌めいて散る。そんな美しい光景にもアークの心は少しも動かない。
 シャンカラは靴を脱ぐと、

「僕、ちょっと行ってきますね」

 飛龍を洗うブラシを手に、せせらぎへ足をひたした。

「それなら俺も、」
「いえ、雪解け水はとても冷たいので、慣れていないとすぐしもやけになってしまうんです。少し待っていてください」

 言いおいて微笑んだ顔は、また他所行きのそれで。背を向け、一歩一歩遠ざかって行く。
 このまま心まで離れて行ってしまう気がして、アークは堪らずブーツのまま小川に駆け込んだ。驚き振り向いた彼の腕をぎゅっと掴む。

「さっきから、一体何?」

 碧い瞳が揺らぐ。けれどすぐに笑みで隠して、

「何がです? それよりアークさん、ブーツが」

 はぐらかし岸へ戻そうとする。それを振り切り、アークは真剣な眼差しでシャンカラの双眸を射抜いた。逸らそうとする瞳を自分へ縫い止めるように。

「今日のシャンカラ、何だか……おかしい。嫌われるようなことをしてしまったのなら、きちんと謝りたいから言って欲しいな」
「別に何も」
「なくはない、よね? ……俺、きみの時間もらい過ぎてしまった?」
「そんなことは、」
「なら依頼でのこと? それとも、この間のドレスが似合わなくて幻滅した……?」

 その言葉に、シャンカラは堪らなくなったように額を押さえ、指に触れた髪をくしゃりと握った。

「そんなはず、ないじゃありませんか……ただ、以前のように戻ろうとしているだけです」
「……?」

 彼の飛躍しがちな言動に慣れてきたアークでも、これは見当もつかない。
 ブーツに水が沁み込み、爪先が痛いほど冷たくなってくる。けれどそれ以上に、これから彼が何を言うのかと思うと、心の底が凍っていくようだった。
 じっと待っていると、シャンカラはややあって絞り出すように呟く。

「……アークさんは残酷です……」

 思ってもみなかった言葉に息を飲む。シャンカラは自嘲に歪めた唇から苦しげに言葉を吐き出す。

「もしも僕に傷が残ってお嫁さんが出来なかったら、嫁ぎに来ようか、と……そう仰ってくださったすぐ後に、あんなに可愛らしい方を連れて来られるなんて。……アークさんにとっては、僕を慰めるための冗談に過ぎなかったのでしょうが」
「あの子は幼馴染だよ。家族みたいな、きょうだいみたいなもので」
「……ドレスを着た彼女が僕の隣に立った時、アークさんは淋しげな目をしていたでしょう? 彼女の方も……だから、」
「だからあの後、俺を花婿に仕立ててあの子の隣へ立たせたの?」

 半ば咎めるように尋ねると、彼は力なく頷いた。それから顔を上げ疲れたように微笑む。

「おふたり、本当によくお似合いでした。『もしも』なんて考えられないくらいに。叶いもしない約束なら、約束をする前に……いえ、僕がアークさんに馬鹿なことを申し出る以前の関係に戻りませんと」

 そうでしょう? と同意を求めてくる彼に、アークは深く長い溜息をついた。言いたいことがいくつも喉元に迫り上げてくる。どれから告げるべきか考えないとと思うのに、頭の芯が熱く痺れてうまくいかない。

「……俺が残酷なら、きみは勝手だよ」

 纏まらないままの感情が、声になって零れる。

「勝手に勘違いして、そんな風に決め込んで。あの時は、多分……嫉妬してた、と思う。あの子が嫁ぎにいってしまうようで寂しかったのはあるけど……シャンカラの隣に立って、絵になっていて、ずるいなって」
「ずるい?」

 探るように覗き込んでくる碧い目には、まだ疑念の色が残っている。

(もう……誤解されたまま距離を置かれるくらいなら、いっそ……)

 アークは観念してもう一歩踏み出すと、彼の胸へコツンと額を寄せた。

「本当は、シャンカラの胸の傷跡が残ってしまえばいいのにと思ってる。……酷いよね。でも、そうしたら……」
「アークさん……?」
「――……なんでもない」

(困らせるのも、嫌われるのも、いやだけど……勘違いされたままよりは、ずっと良い)

 思っていることを全部告げてしまって、小ざっぱりした気持ちで彼の顔を仰いだ。……と、

「……ッ」

 彼は今までで一番赤い頬をしていて。その反応から、普段は鈍感な彼がボカした部分を察したのだと知り、アークも真っ赤になって俯いた。

 俯き、火照った両者の頬を、清らな水がしらしら照らして流れ行く。
 放ったらかされた飛龍が物言いたげに一鳴きしたが、ふたりの耳には届かなかった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6568/アーク・フォーサイス/男性/17歳/誰が為に花は咲く】
ゲストNPC
【kz0226/シャンカラ/男性/25歳/龍騎士隊隊長】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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夏の日差しの許、冷たいせせらぎの中で、思いを吐露し合うアークさんとシャンカラのお話をお届けします。
前回お届けしましたイベントノベルの中で、所々挙動不審だったシャンカラの心情、うまくお伝えできたでしょうか。
大人びているのは容姿ばかりで、恋愛方面は発展途上な溜め込み型隊長ですみません。
ご面倒をおかけします……もしこの先もお付き合いいただけるのであれば更にだと思います。すみません。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。

この度はご用命下さりありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2018年08月09日

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