『消える色 』

シルヴィア・エインズワース（ja4157）

　静かな寝室の中に口づけの音だけが小さく鳴っている。
　黒の女王の足元に跪き足や脚にその唇を寄せるのは、彼女の姫、シルヴィア・エインズワース（ja4157）。
　差し出された指先にもキスの雨を降らせうっとりとした表情で微笑む彼女は、真紅の女王などに見せる気丈で凛とした姫の姿とは違いとても艶っぽく扇情的だ。

　黒の女王はクスクスっと喉を鳴らすとシルヴィアの唇にそっと自分の唇を触れさせる。
　それだけで小さく声を漏らす姫に

「今日の姫はずいぶん可愛いのね」

「そ、そんなことは……」

　揶揄するように笑う女王にシルヴィアは申し訳なさそうな声を出しながら俯く。
　白銀の髪の間から見える赤く染まった耳を見れば、俯いたのは恥ずかしさの為だということは一目瞭然だった。

「ごめんなさい。今日の、じゃなくて今日もだったわね。そうやって恥ずかしがる貴女も可愛くて素敵だわ」

「女王様……」

　一瞬とも長い時間とも感じられる唇の触れ合う時間がシルヴィアはとても好きだ。
　女王からのキスは愛の交感が始まる合図のように感じられるからだ。
　口付けの快感に流されないようにしながら豪奢なドレスに指を滑らせれば布がこすれる音と共に女王の笑みが深くなった。

　これも女王のから教わったもの。
　先程の奉仕も、今交わしている口付けも、それ以外の行為も、全て黒の女王の姫となる中でシルヴィアの中に浸み込んだものだ。
　女王からもたらされる全てが悦びであり、女王の快楽が悦び。
　彼女に仕え奉仕できることは姫として誇らしいことだと確信している。
　これから永遠にこの方の姫として仕えていけるのだと思うだけで喜びが湧き上がる。

　　＊＊＊

「……？」

　互いの愛を注ぎ合い交り合わせていると甘くスパイシーな香りがシルヴィアの鼻をくすぐった。

「どうかしたの？」

「部屋の香りが……変わった気がして……」

　浅い呼吸を繰り返しながら答える。
　さっきまでこんな香ろではなかったはず、そうシルヴィアは言うが女王は微笑みを深くしただけで何も言わない。

（気のせいかしら……この香りどこかで）

　記憶を手繰るが、快楽のせいかぼんやりとした頭ではそれがいつどこでだったのかは分からなかった。

「素晴らしい、完璧な姫になったわね」

　シルヴィアの白銀の髪を撫で、キスを落としながら女王がそう囁く。

「ありがとうございます」

　喜びと満足感が多分に含まれたその声に喜びと悦びが姫の中に満ちていく。

（……？完璧な姫……？女王様に以前同じことを言われた気が……）

　朧げな記憶、以前言われた時もこの香りがしていたような気がする。
　が、女王の手によって与えられる快楽のせいか、この香りのせいか、はたまた両方の影響なのか頭が回らない。

「女王……様？」

　目の前が少しづつ霞んで女王様の顔が上手く見えない。
　どうしたのだろう、と不安になって声と共に伸ばした手。
　答えはなかったが握り返してくれた手に安心する。

（女王様……）

　酒に酔ったかの様に女王の顔も、声も、そのドレスの色も何もかもが曖昧になっていく。
　その代わりだろうか、女王から注がれた愛と心から奉仕した記憶が鮮明に蘇っては快楽の波を大きくしていく。
　誰も触れていない、それは分かっている。
　ただ、快楽の記憶が再生されているだけ。
　それなのに、今自分の身に起こっているかのようだ。
　頭が焼き切れるかと思う程の快楽が体中を駆け巡る。

（そうだ。この愛も快楽も女王様から受けたもの。女王様への永遠の愛と忠誠を。愛の営みの中で何度も心にそう誓った……私は女王様の物……）

　『女王様』との営みの記憶の中で、そう思い至った直後、快楽が頂点に達し姫は意識を手放した。

「次にされる口づけで貴女の色が決まるわ。それまでゆっくりお休みなさい」

　眠る姫の傍ら、その両手を組ませ黒の女王が微笑んだ。
　そして、何かを期待するように、これから起こるだろう面白いことへ心躍らせるようにくすりと女王は笑うと

「真紅の女王を呼んでこようかしら」

　そう呟いて寝室を後にした。

　残されたシルヴィアはただ眠り続ける。
　モノトーンだったはずの彼女のドレスはいつの間にか自分の色に染めてくれる誰かを待つ花嫁の様に純白になっていた。



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【　ja4157　／　シルヴィア・エインズワース　／　女性　／　23歳　／　色のない姫　】

シングルノベル

龍川　那月

エリュシオン

2018年08月10日