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『海に行こうよ 』
シエル・ユークレースka6648)&ソレル・ユークレースka1693


「えー海? ヤだよぉ、暑いじゃん」
「えーっ!? 暑いから海なんだよ!?」

 辺境ハンターオフィスに、朝も早よから甲高い少年達の声が響いた。
 カウンターの内側で書類にペンを走らせているのは、オフィスに『お手伝い』として居座っている香藤 玲(kz0220)。
 外側から身を乗り出しているのは、涼し気な薄手のパーカー姿のシエル・ユークレース(ka6648)だった。

「おそとを見て玲くんっ。あついね、晴れてるね。そう……こういう日は海に行きたくなるよねっ! なるでしょっ? だから玲くんも一緒に海行こ♪」
「暑いからこそ外出たくないんだってば」

 玲は書類に目を落としたまま取り合わない。シエルはふくれて唇をつき出した。

「そんなぁ……だめ? だって、せっかく水着買ったし、玲くんにも見てほしいなって」
「水着?」

 その単語にぴくりと反応する玲。シエルが同性だと承知している玲ではあるが、不純な興味を惹かれたらしい。
 シエルの見目はどこからどう見ても可憐な美少女だし、常に自分の魅せ方を心得た服装をしている。玲も思春期、むべなるかな。
 そんなこととは知ってか知らずか、シエルはおもむろにパーカーのファスナーを下げた。中から現れたのは大きなフリルを幾重にも重ねたビキニと、白く滑らかなおなか。
 突如肌を顕にした(見た目)美少女に、居合わせた人々がざわつく。

「じゃーん☆ 見て見てーっ、今年の新作水着♪」
「うわあぁっ!!」

 玲はガタッと立ち上がり、ファスナーをマッハで上まで引き上げた。

「ダメだよこんなトコで!」
「えっ、もしかして似合ってない? 可愛くないっ?」
「可愛いけどね!? 皆見てるじゃんよ、もー!」
「水着だよ? 見られてもよくない?」

 すれ違いまくる両者の主張。このまま平行線を辿るかに思われたが、そこへ仲裁者が現れた。シエルの隣へやって来た小麦色の肌の美丈夫に、玲は目を瞬く。
 誰このイケメン? 玲がシエルに尋ねるより早く、青年は大人びた笑みで言う。

「玲、だったな。シエルがいつも楽しそうに話してる。うちのと仲良くしてくれてありがとうな」
「『うちの』? え? もしかしてシエルのこ、恋人さん的な?」

 玲がおずおず尋ねると、シエルは「やっだぁ!」と玲の背中をばちんッ。

「お兄ちゃんだよー、カッコイイでしょ?」
「そうか、よく話に聞いてたからはじめましてな気がしなかったが……ソレル・ユークレースだ」
「おにいさん!? ……あー、前に話してたね。ユークレース家のイケメンの多様性ハンパなさすぎでしょ……」

 差し出された大きな手を握り返し、玲は呆けたように呟いた。
 挨拶が済むと、ソレルは改めて切り出す。

「兄と言っても、故郷を出てから兄らしいことっつーのはあんまりしてやれてなくてな。たまにはシエルに付き合ってもいいかと思ったんだが……どうしても『玲くんと一緒がいい!』って言い張るもんでな」
「でも僕泳げないし、」
「うきわ持ってきたよ♪」
「でも仕事が……」

 玲がごにょごにょと行けない理由を並べていると、女性職員が寄って来た。

「は? アンタ自分の部屋よりここの方が涼しいから入り浸ってるだけでしょ? 行って夏季休暇消化してこいっ、辺境オフィスがブラックだと思われたらこっちが困るのよ!」

 そうして玲を強引にカウンターの外へ追いやる。

「…………」

 途方に暮れてきょうだいを見やる玲。
 かくして、海へ行くことになった。




 転移門でひとっ飛びした3人は、程なくして海水浴場にやって来た。
 燦々と降り注ぐ真夏の日差し、白い砂浜、青い海。これぞ夏と言わんばかりの眺めが広がっている。浜にはあちこちにパラソルの花が咲き、海の家や軽食を扱う出店などもあった。

「さて、と」

 ソレルは比較的空いている場所を見つけると、担いできたパラソルを砂地に突き立てた。それからてきぱきと大判のシートを広げ、各々の荷物を重し代わりに四隅へ設置。あまりの手際の良さに、玲はただ突っ立って見ているしかなかった。

「おにいさんすごーい」
「ボクの自慢のお兄ちゃんだからねっ♪ さ、玲くん! 早く泳ぎに行こーよっ」

 得意げに言うシエルは、すっかり水着姿になって準備万端。玲は目のやり場に困って俯いた。
 大きなフリルがふっくらと広がったフラウンスのビキニは、シエルの身体にないはずの丸みを演出し、より少女らしく見せているのだ。ほっそりした柳腰に、形良く伸びた手足。思春期の少年としては直視するのが憚られるような気になってしまうのだ。
 そうして目を泳がせた先では、ソレルの方も水着になっていて。こちらはダークカラーの落ち着いた男性用の水着だが、くっきりと割れた腹筋に厚みのある胸板が目を引く。肌の露出が増えたことで大人の男らしさがぐっと増していた。
 玲は自分の貧相な腕を見てげんなりする。

「ほらほら早くー♪」

 そんなことはお構いなしで、シエルは後ろからがばっと玲のシャツを剥ぐと、右手に玲の腕を、左手に浮き輪を抱え、

「いざ、波打ち際へとつげーき♪」

 パラソルの下から飛び出そうとした。が、

「っと、シエル、日焼け止め塗ったか?」

 ソレルが素早く引き留めた。

「昔真っ赤に腫れてただろ。塗ってやろうか」
「だいじょーぶだよ。昔ほど肌弱くなくなったもん……多分」

 むくれて振り返るシエル。玲はおろおろとふたりを見やる。

「もし腫れちゃったら大変だよシエル。ね?」
「むー……やっぱり、塗ってもらおうかな」

 シエルはすごすごとパラソルの下に戻って座り、塗りやすいよう両手で髪を持ち上げる。大人しく言うことを聞き入れた弟に目を細め、ソレルは手のひらに出した日焼け止めを白い素肌へ塗り拡げていく。うなじから肩、ほっそりとした背中へと。
 その様子を見るともなしに見ていた玲だったが、やっぱり直視できなくなり目を逸らす。

「何だろう、この美男美女感は」
「え、なにー?」
「別にぃ」

 きょうだいはきょとんと顔を見合わせた。そうして丁寧に塗り終えると、ソレルは持参した保冷バッグから缶ビールを取り出し、ゆったりと足を投げ出し座り直した。アルコール片手の寛いだ姿はそれだけで絵になっている。
 大人の余裕というのだろうか。同じ男でも、10年後に自分がこういう貫禄ある風情になれるとはこれっぽっちも思えない玲だった。

「じゃあ俺はゆっくりしてるから遊びに行っていいぞ」
「はーい! 行こっ、玲くん♪」
「うん」

 そうしてシエルと玲は、浮き輪を抱え波打ち際へと駆け出した。




「シエル、絶対手ぇ離さないでね!?」
「だいじょーぶだよぉ」

 玲をすっぽり座らせた浮き輪に腕をもたせかけ、シエルはちゃぷちゃぷ波を蹴る。波が来るたび浮き輪は上下に揺られ、一緒になって浮いているシエルもぷかぷか、ふわふわ。心地よい浮遊感に身を預け、海水の冷たさと眩い陽射しを全身で楽しむ。

「どう? むり言って一緒に来てもらっちゃったけど……楽しくない?」
「んー」

 上目遣いに尋ねてみると、玲はしばし真っ青な空を仰いで考え込む。それからちょっとバツが悪そうにボソリと。

「悪くない、かな」
「へへー、よかった♪ どうしても一緒に来たかったんだぁ」

 はにかんで言うと、玲は怪訝そうに首を捻る。

「シエルは変わってるよね。僕といて楽しい?」
「うんっ」
「そう? なら良いけど……」

 そうして波に揺られていると、ビーチボートに乗った少女達が傍を行き過ぎた。色とりどりの水着を着た彼女達は、熱帯魚のように華やかで。
 シエルが玲に視線を戻すと、玲も彼女達の方を眺めていた。

(やっぱり、ちゃんとしたおんなのこのほうが玲くんもいいんだろうなあ)

 もやもやする胸に手を当て、ぺったんこな感触に肩を落とした。

(せめて胸くらい詰めたほうがよかったかな……)

 うまく体型をカバーしてくれる水着を選んだものの。自分の薄い胸と、彼女達の曲線的なボディラインを見比べてひっそり息をつく。すると玲が笑って頬をつついてきた。

「なーにシエル、女の子達見て。来年の水着の参考?」
「ふふふーよく分かったね☆ 来年も可愛い水着買ったら一緒に海来てくれる? って、あ! あそこにお兄ちゃんが見える!」

 浜辺にパラソルとソレルの姿を見つけ、ぶんぶん手を振った。兄はすぐに気付いて手を振り返してくれる。きちんと見守ってくれているんだと知れて、嬉しい半分照れくさい半分。

「お兄ちゃんもちゃーんと付いてきてくれたし、他のこと気にせず遊ばなきゃね♪」
「うん? ってかホントおにいさんと仲良いんだね」

 玲の言葉に、シエルは思う所があって小首を傾げる。

「仲良しだけどー……お兄ちゃんって心配性というか、ボクに対して過保護? というか……お兄ちゃんの中のボクって、多分昔のままなんだろうなあ」
「きっとシエルが可愛くて仕方ないんだよ」
「そっかなぁ。もう、あの頃みたいに何も知らないままじゃなくなっちゃったけど……」

 思わずぽつり零してしまうと、玲は何のことか気になった風だったが尋ねてこなかった。シエルはもう一度兄を振り返る。目許までは見えないものの、相変わらず顔がこちらを向いていることに頬が緩む。

「まーでも、あれこれ言われるのホントは嫌じゃないっていうか、くすぐったいけどちょっと嬉しいよねっ」
「僕一人っ子だから憧れるなぁ」
「ホント? じゃあ今日は玲くんもお兄ちゃん同伴気分ってことでっ。安心してもーちょっと沖の方いってみよっか♪」

 悪戯っぽく微笑んで、シエルは沖へと泳ぎだす。勿論玲を乗せた浮き輪を押して。

「ちょっ、あんまり深いトコ行かないでね!?」
「ボクとっくに足ついてないよ?」
「はぁ!? 浮き輪ひっくりかえったら僕死ぬんだけど!?」
「お兄ちゃんもボクもいるから絶対へーき♪ もうちょっと行ったらお魚とか見られるかもっ?」
「ヤだ! 魚見なくていいっ、浜に帰るうぅーっ!!」

 喚く玲を連れ、シエルは水面を軽やかに蹴って進む。浜から少しずつ遠ざかっているにもかかわらず、シエルの楽しげな笑い声と玲の絶叫は、始終ソレルの許まで届いていた。




 小一時間ほどしてふたりが戻ってきた。ソレルは用意しておいたタオルをふたりに手渡し、申し訳なく思いつつ玲を見やる。

「大丈夫か? 悪い、シエルが無茶させたな」
「だい、じょぶ……」

 叫び通しだった玲は泳いでもないのに疲れた顔をして、ぐったりとシートへ身を投げだした。シエルはゴメンと可愛らしく手を合わせ、

「ボク海の家で冷たい飲み物買ってくるねっ」

 言うなり小銭を掴んで駆け出そうとする。と、

「一緒に行かなくて平気か?」
「ひとりで? 僕も行くよ」

 ソレルと玲とがハモった。驚いて顔を見合わせている間に、「だいじょーぶだってばー!」と言い残しシエルは走って行ってしまった。
 玲とふたり取り残され、ソレルは改めて弟の"ともだち"を眺める。見た目通り体力には難があるようだが、あれだけ振り回されても機嫌を損ねた様子はない。今日初めて会った自分とふたりきりになっても物怖じするでもない。

(ふーん。聞いてた通りだな)

 それだけ玲の話を聞かされていたのだと気付く。今日のために張り切って水着を選んでいたシエルを思い出すと、ついニヤけてしまいそうになる。
 ソレルはくたびれた背を叩き、

「まあ、自由なヤツだが、これからも見捨てないでやってくれると助かる」
「?」

 玲はぽかんと口を開けた。
 そして、買い物に行ったシエルを目で探してみると――やっぱり一緒に行くんだったと、ソレルは眉を寄せた。美少女にしか見えないシエルが、ひとり水着でうろつけばどうなるか。ふたり連れの軽薄そうな若者に声をかけられている所だった。

「ったく……」

 迎えに行くかと腰を上げかけた時、今の今まで屍状態だった玲が跳ね起きるや駆け出した。

「もー、だから僕も行くって言ったじゃーんっ!」

 今までのダラさ加減がウソのような機敏さですっ飛んでいく玲を、ソレルは呆気に取られて見送った。そうして玲に手を引かれ、つつがなく連れ戻された弟を見て堪らず吹き出す。

「ま、仲良くやんな」
「え?」
「なーに?」
「何でもねーよ」
「ねぇ、ジュース飲んだら今度はお兄ちゃんも一緒にビーチボールで遊ぼ♪」
「俺もか」
「うへぇ、お手柔らかにお願いしたいなぁ」
「うへぇって何だよ」

 賑やかなパラソルの上遥かでは、太陽がまだ真南にある。夏の日はまだまだ長い。
 冷えた飲み物で一息入れつつ、3人は長い午后をどう遊び倒すか計画を練り始めるのだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6648/シエル・ユークレース/男性/15歳/はじめての『ともだち』】
【ka1693/ソレル・ユークレース/男性/25歳/White Wolf】
ゲストNPC
【kz0220/香藤 玲/男性/15歳/甘味中毒駄ハンター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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夏の日に、海辺で過ごすシエルさんとソレルさん、玲のお話をお届けします。
シエルさんもソレルさんも、とても海が似合いそうだなぁなどと思いながら楽しく書かせていただきました。
最初は嫌がっていた玲ですが、しっかり海を満喫させていただいたようです。お招きありがとうございました。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。

この度はご用命下さりありがとうございました!
イベントノベル(パーティ) -
鮎川 渓 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年08月14日

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