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『雨の休日はホラー映画と共に』
ガラナ=スネイクaa3292)&リヴァイアサンaa3292hero001)&ディアaa3292hero002


 天気は人の都合など構ってはくれない。

 ガラナ=スネイク(aa3292)は、たまの休みを狙ったように雨を降らせてくる灰色の空を窓越しに見上げ、止みそうもないなと小さく呟いた。
「天気予報を見なかったのかい? 今日は一日中ずっと雨だよ」
 声に振り向いたガラナの目に、ソファに寝そべったディア(aa3292hero002)の姿が映る。
「何か出かける予定でもあったのかな?」
「そうじゃねぇけどよ……」
 特に予定はなくても、休日はスカッと晴れた気持ちのいい日であってほしい。
 自ら望んでインドアで過ごすのと、雨に降り込められて外に出られない状況とは、似て非なるものなのだ。
 たとえ最初から外に出る気がなかったとしても。
「ガラナ君も、なかなかに面倒な性分だね」
 ディアは笑いながら体を起こす。
「けれども、そうして空ばかり眺めて休日を終えるつもりはないのだろう? ならばひとつ……」
 そう言いながら、クッションの後ろから何かを取り出した。
「退屈しのぎにこれでもどうかな?」
 それは近所のレンタル店の袋だ。
「そろそろ返却せねばならぬのだけれど、なかなか見る機会がなかったのだよ」
「ふむ……」
 ディアの手にあるそれをまじまじと見て、ガラナは真顔で言い放った。
「AVか?」

 ぶーーーーーっ!!

 その途端、ドアの向こうで何やら物音がした。
 続いてゲホゲホと咳き込むような音。
 しかしそれには構わず、二人は何事もなかったように会話を続ける。

「いやはやその発言は然しもの僕も予想外だよ、どういうつもりで言ったのか僕は深く思考するべきなのかい?」
 苦笑まじりに首を振りながら、ディアは答えた。
「そもそもきみは、僕がそんなものを借りてくると本気で考えているのかな?」
 外見年齢9歳の少女に対して、レンタル店はその全貌を見せようとはしない。
 たかが薄い布切れ一枚が、そこでは鉄の扉よりも強固な防壁として立ちはだかるのだ。
「僕にはとても、あのヴェールに閉ざされた神秘の世界に足を踏み入れる勇気はないよ。ちらりと覗く程度でさえ憚られるね」
 しかし彼女は知っている。
 そのヴェールの向こうに消えていく者達が、何を求めているのかを。
「こんな事を僕の口から言うべきかは迷う事ではあるけど、もしかして溜まっているのかな?」

 がたがっしゃん!!

 今度は先ほどよりも明確な物音がした。
 ややあって、部屋のドアが遠慮の欠片もない勢いで開かれる。

「アンタ等どういう会話してんのよ!?」


 リヴァイアサン(aa3292hero001)は、冷蔵庫から出してきたばかりの冷たい麦茶を飲みながら自室に戻る途中だった。
「はぁー、生き返るーーー」
 外は雨だが気温は高く、肌にベタつく重たい空気が鬱陶しい。
 冷たい麦茶は、喉を通り過ぎる際にその鬱陶しさも一緒に流し去ってくれるようだった。
 と、その時。
 傍のドアの向こうから耳を疑う台詞が聞こえた。

「AVか?」

 リヴァイアサンは口に含んだ麦茶を盛大に噴き出した。
 はずみで気管にも入り込み、盛大にむせる。
「ちょ……げほっ、何のはな……げほごほっ」
 床にこぼれた麦茶をモップで拭いている所に、更なる追い討ちがかけられる。

「もしかして溜まっているのかな?」

 モップが宙を舞い、リヴァイアサン自身も重力に逆らうように体を投げ出す。
 要するに、コケた。

 会話が漏れ聞こえたドアを睨み付け、ノックもせずに開け放つ。


「アンタ等どういう会話してんのよ!?」
 その声に、きょとんと丸くなった4つの目玉が向けられた。
「どういう、とは、どんな会話のことを指しているのかな?」
「それは、あの、だから……」
 首を傾げたディアに問われ、言葉に詰まったリヴァイアサンは頬を赤く染め、視線を彷徨わせた。
 その様子に肩を震わせながら、ディアはしれっとした様子で言う。
「なに、健全なる成人男子の生理現象に関して、少々の考察を行っていただけだよ」
 その台詞が外見年齢9歳女児の口から出ることに問題がありそうな気がしないでもないが、見た目の年齢などただの飾りだ。
「いや、すまなかったね。揶揄うのはこれくらいにしておこう。さもないと、純情なジョシコーセーが爆発してしまいそうだからね」
 もちろんそれも、見た目がそうであるというだけの話ではあるけれど。
「で、結局は何なんだ?」
 ガラナに問われ、ディアは袋の中身を取り出して見せた。
 ディスクに書かれたタイトルをリヴァイアサンが読み上げる。
「……スリーピーホラー?」
「とびきり恐ろしいホラー映画という解説が付いていたよ」
「ああ、少し前に評判になってたっけな」
 なんでも映画館では卒倒する観客が相次いだとか。
 そんなに恐ろしいなら年齢制限があってしかるべきだが、なんとその映画は全年齢フリーだった。
「近頃は子供に敢えて怖い思いさせようと、怪談を聞かせることも多いのだそうだよ。怖いもの知らずというのは、確かに危ないことであるからね」
「で、リヴは平気か? ホラーとか」
「え? ああ、うん、所詮作り物でしょ? それなら余裕よ!」
 ガラナの問いに、リヴァイアサンは胸を張ってみせる。
 声の調子が多少普段と違っていた気もするが、気付かれていない……多分。

 かくして、カーテンを締め切り明かりを消した部屋で、ホラー映画の鑑賞会が始まった。
 テレビの前に置かれたソファにガラナとリヴァイアサンが並んで座り、ディアはガラナの膝の上に何食わぬ顔で足を組み、ちんまりと収まる。
 ソファとテレビの間のローテーブルには、スナック菓子と飲み物が置かれていた。

 映画のあらすじは、ざっと次のようなところだ。
 時は19世紀、所はヨーロッパの片田舎。
 その地には、夜な夜な墓場から蘇り生者の首を刈っていく「首なしゾンビ」の伝説があった。
 首なしゾンビは、かつて首を切られて体だけが埋葬された罪人。
 彼は失われた首を求めて、新月の晩に生者を襲うのだ。
 そして今夜も、犠牲者の首が闇に転がる――

「ふぅん?」
 序盤の説明くさい展開を見ながら、リヴァイアサンは菓子を口に運ぶ。
「でもゾンビって確か、首を切られたら動かなくなるんじゃなかったっけ?」
「大抵の映画やゲームじゃ、そういうことになってんな」
 テレビの画面を見つめたまま、ガラナが答えた。
「だったらこれ、ゾンビじゃなくない?」
「リヴ君、もっと本質を見たらどうかな。この映画で重要な点は、そこではないと思うのだよ」
 ガラナの膝で寛いだ様子のディアもまた、菓子に手を伸ばす。
「要はこの怪物が、自分の頭を取り戻すために無関係な人々の首を次々に切り落としていく、というところが見せ場なのだろう?」
「むしろそれ以外に見せ場がないとも言うな」
 ガラナも頷いて、のんびりと飲み物を手に取った。

 しかし、そんなふうに茶化したりツッコミを入れたりする余裕があったのは、最初のうちだけだった。
 物語が進行するにつれて口数は減り、テーブルの菓子と飲み物は減らなくなる。
 やがて最初の犠牲者が出る場面で――

「きゃあぁぁぁっ!!」

 リヴァイアサンは脳天から突き抜けるような悲鳴を上げて、ガラナの腕にしがみついた。
「リヴ君、こんなものはまだ序の口だよ? なにしろこの映画には44回もの首切りシーンがあるそうだからね」
 ホラー耐性には自信がある(つもりの)ディアは、余裕の表情でリヴァイアサンを見やる。
「ほら、また転がったよ」
「きゃーーーっ!」
 ディアの指摘通りに首が転がると、リヴァイアサンは再びガラナの腕にしがみついた。
「つまり、これが少なくともあと42回は続くのか」
 ガラナが嬉しいような困ったような、微妙な表情で隣を見る。
 絡んだ腕と、密着した身体。
 主に胸のあたりの圧力が、いい感じに腕を包み込む。
 それはいいのだが……
「きゃーーーっ!」
 ぎゅうぅぅぅっ!
「きゃーーーっ!」
 ぎりぎりぎり!
「胸押し付けられるのはいいが……オレの腕折る気かコイツ?」
 万力で締め上げるような、と言うのはこういう状態を言うのだろうかと、ガラナは思う。
 頑張れオレの腕、ついでに鼓膜。
 あと、彼女の顔を見るにタオルとティッシュも用意すべきだったか。
 一方のディアは、膝の上で平然と画面に見入っていた。
 いや、時折わずかにビクついているところを見ると、硬直しているだけかもしれない。

 やがて映画はクライマックスに突入、44体の首なしゾンビが群れをなしてゆらゆらと歩き始める。
 そう、ゾンビに首を切られた者は自らもゾンビとなってしまうのだ。
 そこから先は生き残りをかけたサバイバルアクションホラー、ついでにスプラッタの様相を呈していく。
 画面いっぱいに飛び散る赤黒い飛沫。
 主に隣から聞こえる、耳をつんざく悲鳴。
 容赦なく締め上げられる腕。
 しかしリヴァイアサンは散々泣き喚きながらも画面から目を逸らさなかった。
 そこは偉いと褒め称えるべきだろうか。
「ま、多分意地になってんだろうけどな……」

 そしてエンドロール。
 全てが終わるまでは席を立たないのが映画鑑賞のマナーである――たとえそこが自宅の居間であろうとも。
 しかし三人は、機器が自動的に再生を止めてからも、その場を動こうとはしなかった。
「ふ、ふん……た、大したことなかったわね……!」
 ガラナの腕にしがみついたまま、リヴァイアサンが鼻を鳴らす。
 しかし泣きはらした目と震える声で言われても、説得力はまるでなかった。
「はは、あそこまで反応してくれるのなら製作者の皆さんも大いに満足している事だろうね」
 ガラナの膝の上で、ディアが揶揄うようにリヴァイアサンを見る。
「それに良かったねガラナ君」
「何がだ?」
「それは随分な役得じゃないかな?」
「感覚が残ってるなら、そうかもしれねぇな」
 ぎゅうぎゅうに締め上げられ、ガラナの腕は完全に痺れていた。
 叩いてもつねっても、何の感覚もない。
 ましてや柔らかな胸のデリケートな感触など伝わるはずもない。
「ほら、カーテン開けるぞ」
 動く方の手をついて、ガラナはソファから立ち上がろうとする。
 が、膝の上のディアはまるで石になったように動かない。
「どうした?」
「最近のテレビはとても高性能に出来ているのだね」
「は?」
「ガラナ君は何ともなかったのかい? 僕はあそこから放たれた怪電波のおかげで、何かの呪いを受けてしまったようだよ」
 そう、多分それは石化の呪い。
「つまり……腰が抜けて動けねぇ、ってことか」
「そうとも、言うかもしれないね」
 隣のリヴァイアサンも、余韻に浸るようにしがみついたまま動かない。
 つまり、ガラナもある種の呪いを受けた格好だ。
「ったく、メンドクセェなお前等……」
 ソファに固定されたまま、ガラナは盛大な溜息をつく。
 この行動不能状態は、いつまで続くのだろうか。


 夜、さすがに行動不能は解除されたが、ガラナの片腕はまだ感覚が戻らなかった。
「ま、寝て起きた頃にはさすがに治ってんだろ……」
 そう呟いてベッドに潜り込もうとした、その時。
 ドアを叩く音がした。
「腕の具合はどうかな、ガラナ君?」
 そんな台詞と共に部屋に入ったディアの腕には、マイ枕がしっかりと抱えられている。
「なに、往生しているなら少し手助けをしてやろうと考えたまでだよ」
「そりゃまたご親切にどうも」
 全く本気にしていない口調でガラナが答えたその時、再びノックの音が響く。
 今度の来訪者もまた、腕に枕を抱えていた。
 その来訪者、リヴァイアサンは部屋の中にディアの姿を認めると、僅かに視線を彷徨わせつつ訊かれてもいない訪問の理由を語り出す。
「勘違いしないでよ! 私が怖いわけじゃなくて、ディアが怖がって一緒に寝ようとしてたから……ガラナが変な事しない様に見張りに来ただけなんだから!」
 つまり、二人とも怖くて眠れない、というわけだ。
「ったく、しょーがねぇな……」
 ぶつくさ言いながらも、ガラナは二人を手招きする。
 川の字で寝るにはベッドは少々手狭だが、一晩くらいは何とかなるだろう。
 ここで「オレはソファで寝るから」という逃げが通じるとは思えない。
 まな板の鯉になった気分で体をピンと伸ばし、ガラナはベッドの真ん中に横になった。
 ディアが自分の枕を放り出し、痺れた方の腕を枕に抱き付いてくる。
 反対側ではリヴァイアサンが、無事だった方の腕を枕に体を密着させてきた。
「へ、変なことしようとしたらぶん殴るわよ!!」
「するかよ」
 両方から羽交い締めにされて仰向けに寝転がったまま、ガラナは返す。
「文字通り痺れて使い物にならねぇんだよ、手なんざ出せるか」

 予言しよう。
 明日の朝は両腕が痺れて動かない。
 そうなったらこの二人は、朝食を「あーん」で食べさせてくれたり、するのだろうか……。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa3292/ガラナ=スネイク/男性/外見年齢25歳/役得とは苦行と見つけたり】
【aa3292hero001/リヴァイアサン/女性/外見年齢17歳/絶叫上映の花形】
【aa3292hero002/ディア/女性/外見年齢9歳/これはただの呪い、ホラーなんて怖くない】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました、お楽しみいただければ幸いです。

なお口調や設定等、齟齬がありましたらご遠慮なくリテイクをお申し付けください。
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2018年08月15日

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