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『餞別 』
ソフィア =リリィホルムka2383)&エアルドフリスka1856

 心から祝福している、本当だぜ?
 でもちょっとした寂しさもあるのも――まぁ、仕方ない事で。
 わがままで、大人気ないと思うか? ……はは、自分でわかってるとも。
 ちゃんと分はわきまえてる、だから絡み酒として、少しばかり付き合ってくれ。

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 ライトを反射する少し濃いめの茶色は、度数の高いお酒の色。
 大人の付き合いは嫌いじゃない、相手に深入りせず、素性も詮索する事なく、表面的な利益で仮初めの好意を交わす。
 意識すれば少しだけ空虚だけど、それがお互い傷つかない賢い方法だとはわかっていた。

 刹那的な快楽で空虚な中身を糊塗する。
 欺瞞、逃避、多いに結構。夜の街に吸い込まれるのなんてどうせ似たもの同士だ、寄って来るのが同性だろうと構いやしない。端金を対価に暫し無聊を慰めて、ソフィアはまた一人になる。

「……おや」
 入った店で、見知った顔を見つけた。
 表面だけ見れば精悍な美丈夫、店の子だろう女の子に顔を近づけて、エアルドフリスは腹立つまでの美声で彼女に何かを囁いている。
 女の子が恥じらう素振りを見せるだけでエアは満足げだ。

 ――今更誤魔化すような空虚もないだろうに。
 潤いか? 知ってるとも。
 満ち足りてる奴に遠慮する理由などなく、いたぶるネズミを見つけたとばかりに、ソフィアは鷹揚に声をかけた。

「――浮気かい? 先生」
「げ」
 空気を読んで退席しようとする女の子を引き止め、招き寄せると代わりに自分の方に抱く。
 注文する酒を伝え、先程まで口説いてた子を取り上げられる気分はどうだとばかりに、エアの前で頬ずりして見せた。
「そうか、浮気か。六月、よりによってジューンブライドの季節にねぇ……ふふ」
「いや、その……違うんです」
 降参とばかりにエアがへりくだったので、ソフィアは言い訳を聞いてやる事にした。
 曰く、この店にいたのは旧い友人との待ち合わせのためだと。

「へぇ、旧い知人。この子がそうだとはとても思えないけど?」
「いやその、酒は旨いし女の子は綺麗だしだと思って……つい?」
「へぇ〜〜〜〜」
 嫌疑としてはそれなりの線を行ってると思うが、ソフィアは口元を笑みに歪ませながら一旦棚上げする事にした。
 別に追求したい訳ではない、エアを突っついて遊ぶつもりなのだから、向こうが抱える積荷は多い方が愉快さも増す。

「で、やらないのかい? ジューンブライド」
 表通りに行けばその手のビラは掃いて捨てるほどあるだろう。
 白く精緻なドレス、それを彩る華美な装飾、乙女ならおよそ憧れは持つだろうし、その意味が持つ特別さに思うところがない訳でもないだろう。
 ……いや、別に押し付けるつもりはない、その辺を含めて、こいつはどう思ってるのかちょっと聞いて見たかったのだ。

「結婚なぁ……」
 予想に違わず、反応は鈍い。
「気が進まないかい?」
「そういう訳じゃ」
 だが逸らされる視線は明らかに腰が引けているそれで、じゃあ遠慮してるのかこいつ、とソフィアは内心で呆れのため息をついた。
「なんだよー」
 問い詰めても口を噤むだけだとわかっているから、口を尖らせて、物分りの悪い子供のように、不満を込めた視線で見つめてやる。
 暫しの根比べ。酒をあおりながら待つと、たっぷりと考え込んだエアが、ついに口を開いた。
「そうする意味が、ない」
 ちょっと殴っていいかこいつ。
 次で殴ろう、そう思って飲み干したグラスを置き、お代わりを要求しながら、務めて冷静な――低い声で尋ね返した。
「――ない事はないだろう?」
 どんな意味を見出すかは人の勝手だが、つまる所あの儀式は祝福であり、共に生きる誓約でもあるのだろう。
 だから、こいつはまだ言葉を隠している。色んな理由の中からソフィアが納得して引き下がるだろう理由を探して、そのチョイスは残念ながら最悪だった。
「式を挙げて、結婚して。……その先を、俺はあいつにくれてあげる事が出来ない」
 ……うわめんどくさっ、って少し思ってしまったのは余人だからという事で勘弁して欲しい。
 いやまるっきりわからない訳じゃないんだ、でも挙げる前からその後の心配とか、気を回しすぎだろう?
 でもこいつなりに真剣なのはわかってる。わかってるから、馬鹿にはしない。
 で、それで終わりという事はないだろう。先生のめんどくさい性分だから、もっと考えて、先があるんだよな?

「息子さんをください、って言えない。違う、信用してない訳じゃない、でも……向こうは、普通の、幸せそうな家で」
 向こうの実家には行ったんだな、と密かに会心する。
 気まずかったのだろうか、居場所がなくて、だからこいつはこんなに及び腰になってるのか?
「……なのに、受け入れて貰えて、驚いたんだ。驚いて……凄く有難くて」
 受け入れてもらえたんかい。
 だから遠慮がある、と言われてもあーはいはいと聞き流す気分だった。
 何悩んでるんだこいつ、と二度思って次の酒を開けるように要求する。何があったかの思い出語りに突入したが適当に聞き流して一人ヤケ酒大会を始める事にした、女の子が苦笑しながら酒を注いでくれる、一部特異な会話があったはずだが何も口を挟まなかったあたり優秀な子である。
「イイオウチダナー」
「だろう?」
 棒読みだよわかれ。あ、この酒高いけど美味しそう、これ持ってきてこれ。
「――花嫁衣装着てとっとと嫁入りしろ」
「出来るか!?」
「幸せルートとしては割とありだと思うけど?」
 嫁入りなのか婿入りなのかは兎も角として。

 また暫し、黙り込む時間が流れた。
 考えているのか、まだ話していない事があるのか。逡巡する彼が口にしたのは、「《使命》がある」という一言だった。
「巡り、流れるのが使命だ。だから出来ない」
「ふーん……」
 会話が終わった、というかそれに関しては特に言う事はない。
 だってそれがあって困る事項なんて一つしかなくて。
「ルディ先生は嫁入りしたいんだ?」
「……出来ないんだよ」
「だからそれがしたいって事だろう? 向こうが望むなら選ぶのは向こうだけど、今選ぼうとしてるのはルディ先生だ」
 つまり。

「――少しでも憧れたんだね、あの家族に」
 くしゃっとした、なんとも言えなさそうな顔をされた。
 いいねぇ、若さって感じだ。

「《使命》を、教えを守っているのは、もう俺一人なんだ」
「そうだねぇ」
 だから何、って言えるほど軽いものじゃないのはわかっている。
 その重さを承知しながら、決定を下す必要があるのだろう。もう存在しない、答えをくれない相手に対して。

 ――大切なものがいっぱいあるんだね。
 そうエアに知られないように、ソフィアは呟いた。

「ま、ゆっくり考えるといい。急いで結論を出す話でもないだろう?」
 お会計よろしく、そう言って会計メモを突き出すと、中身に目を通したエアが「げ」と言った顔になった。
「あの……ソフィアさん、これ、割り勘って訳には……?」
「えー? バーで女の子に払わせる男ってかっこわるーい」
 けらけらと笑いながら、つつと指先でエアの胸板をなぞる。
「――わたしの酒が進んだのは、あんたが理由だろう?」
 低い声で囁きかけると、ぐ、とエアが黙り込んだ。
「それとも――ここにいたこと、バラしてみる?」
「喜んで払わせて頂きます!」
 くつくつ、と笑ってそれでいいのだと背を向けて手を振る。

「君は大丈夫だよ。――いっぱい幸せに包まれてるから」
 ダメだった時は――蹴り起こすか、蹴り戻すくらいはしてやるとも。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2383/ソフィア =リリィホルム/女性/14/機導師(アルケミスト)】
【ka1856/エアルドフリス/男性/30/魔術師(マギステル)】
イベントノベル(パーティ) -
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2018年08月15日

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