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『可愛い子は石像にせよ? 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

●本日の修行
 シリューナ・リュクテイアは妹のようにかわいがるファルス・ティレイラの魔法の修行について思案する。
「何か面白……ではなくて、有意義なものはないかしら?」
 まじめに考える。
 部屋の片隅にある置物が目に留まる。
 それは、ノートルダム寺院を守るガーゴイルを模したもので、作り手のアレンジも加わっているものだ。しかし、そのアレンジがシリューナの琴線に触れる。翼の角度、なめらかさの中にある力強さがある。
「これが動いていたら、さぞかし素晴らしいわよね。この筋肉の動き、この目の動き……まるで、本物がいて、それを閉じ込めたような……」
 置物を観察しつつ、シリューナはあれこれ考えていた。無名の芸術家に思いをはせ、像を眺めていた。
 魔法の修行から考えが逸れたが、ひらめきが下りてきた。
「そうね! これよ、これを使えば!」
 置物の頭から背を撫でる。
「行けるわね! ティレ! 修行の時間よ!」
 家のどこかにいるティレイラに声をかけながら像と近くにあったワンドを掴むと、修行に使う部屋に向かった。

 ティレイラは仕事の一環ということで、部屋の掃除をしていたが、姉の様に慕い、魔法の師匠とあおぐシリューナの声を聞いた。
 掃除する手を止めて、急いで修行場に向かう。途中で、洗面所に寄り、掃除道具の片づけを忘れない。一分一秒でもシリューナを待たせたくはないが、掃除道具を片付けないのも何か落ち着かない。
「はい、お姉さま、ただいま参ります」
 大きな声で返事をしながら、掃除道具と手を洗う。
「今日はどんなことをするのかな。うまくいくといいな」
 ティレイラは楽しみな反面、できなかったときのこれまであったお仕置きを考えると、身震いする。
 成功すればいいことなのだが、難しいことをするのはやはり、成功しにくいことである。
 急いで部屋に入ると、シリューナが結界を張った。外に魔法の影響がでないようにという配慮である。
「遅いわよ」
「お姉さま、すみません。部屋の掃除は終わりました」
 報告されるとシリューナは怒ったふりから、ねぎらうように表情をやわらげた。
「仕方がないわね。さあ、今日の訓練はこれよ!」
 シリューナが持つワンドが床に置かれたガーゴイルの像に向けられる。その像を軽く二度たたくと、魔力が動き始め、ザッという音がして魔法が発動する。それは一瞬の出来ごとであり、彼女たちの前で一体の像が動き始める。
「はぅ……お姉さまの魔法はすごいです」
「感心している場合ではないわよ」
 そのワンドをティレイラに持たせる。
「え?」
「そのガーゴイルとそのワンドは一体化しているの」
「は、はい」
「そのガーゴイルを倒すには、その杖を通してあなたの魔法を叩き込まないと駄目なの。それも系統を排除した……火や水などの関係のない無色透明の力よ」
「え、ええと?」
 ティレイラは首をかしげる。頭の中では魔法についての基礎知識が展開され、シリューナの言った意味を理解しようとしていた。
「つまり、そのワンドがその像を動かすスイッチね。だから、そのワンドを通して、特定の形、特定の強さにした魔力をぶつけると切れるのよ。その上、そのワンドを持っているヒトを攻撃するように動くの」
「はい、理解できました……え?」
 ティレイラはシリューナからガーゴイルを経由してワンドに視線を動かす。実は条件が一つ追加されているのだが気づいていない。
「つつつつつまり、その、ガーゴイルは、今、私を攻撃しよう、と考えているわけですね」
「その通りよ。まあ、考えているのではなく、反射だけどね?」
「きゃああ」
 シリューナの言葉の最後の方はガーゴイルの攻撃から避けるティレイラの悲鳴でかき消されたのだった。

●やるしかない
 シリューナは部屋の隅にあるソファに座る。課題を与えてしまうと、見ているだけになってしまう。
(まあ、初見でどうこうできれば素晴らしいわね。あら? 先ほどあれほど褒めたのに、もし、ティレが成功すると、その像壊れちゃうわね)
 今更だが気づいた。それはそれだとゆったりと構えてシリューナは見物する。

 ティレイラは一通りガーゴイルから逃げたところで、決心が固まったらしく、逃げ回るのをやめた。ワンドを構え、ガーゴイルに対峙した。
「頑張りますっ!」
 普段とは違う魔法の修行に対し、興味は湧いた。ガーゴイルに急に攻撃されたからあわてたに過ぎない。
「それでこそ、ティレね」
 褒められたところでティレイラは一段とやる気になる。
 ワンドに意識を集中し、魔力を動かし、ガーゴイルに向かって放った。その軌跡が若干赤く見えたかもしれない。
「やったっ!」
 ガーゴイルには命中し、叩き落した。
「先ほど言ったわよね? 特定の魔法の力と強さが必要って」
「え?」
「無色透明な力と、魔力の幅は強すぎず弱すぎない適度なところ」
「うっ」
 得意な系統ならば力の加減などはしやすい。得意ではない魔力の調整をして放つのは実に難しい。
 だからこその修行なのだ。
 ガーゴイルは床に転がっていたがむくりと起きると翼を動かし浮かぶ。
「そ、その、範囲ってわかるんですか?」
「それを考えるのも修行の一つよ」
 シリューナはにこりと微笑む。
「そうですね、修行ですね! 力の加減をするということは様々な術に関連しているのですね」
 ティレイラが理解したとうなずく。
 この修行の肝は、無色透明の力を生み出し、力の強さを加減するということ。二つあるが、力のコントロールということで根底は同じだ。
 強い魔法ばかり放てばいいわけではないのだ、戦うときに。
 再度頑張ることを決意したティレイラにガーゴイルが向かってくる。鋭いかぎ爪のある足でティレイラを蹴りつける。
 ティレイラはステップを踏み避け、ワンドに軽く意識し、魔力を放った。
 力の塊はガーゴイルに当たるが、全く効いた様子はない。そのままティレイラは距離を取り、先ほどよりは魔力を込め、放った。
 しかし、ガーゴイルは避けてしまう。そのまま、突進するように一直線にティレイラに飛んでくる。
「うっ」
 少しかすられただけですんだが、痛みを覚える。距離が近いところで、先ほど回避されたくらいの魔力を意識し、魔法を放った。
「当たりました」
 ガーゴイルは揺らぐが、すぐに体勢を整え、ティレイラに向かってきた。
「えっ! あ、これは足りないの? きゃああ」
 しゅと爪がティレイラの髪を掠った。
「ええと、力のバランスは何とかできるようにはなってきました。あとは、強弱ですね。程よいのは強すぎず弱すぎないですね?」
 ティレイラは回避しながらシリューナに確認を取る。シリューナは「さあ」と肩をすくめるだけでとどめる。そうしないと修行の意味がない。
 ティレイラは逃げてばかりではいけないと、再度立ち向かう。先ほどよりは魔力を込め、強めに放つ。それは当たるが、ガーゴイルは倒れない。
「……もう少し強く?」
 魔力を放つが、ガーゴイルが回避をした。
「……もう少し……はぁあ、はあ……え、ええと……」
 ガーゴイルの攻撃を避けるに足元がふらつき始める。
(魔力の使い過ぎです。戻ると思いますが……休めば……!)
 ガーゴイルが休ませてくれるわけはない。
 一方のガーゴイルには疲労がない。
「もう一回……」
 中くらいより少な目に放ってみた。
 慣れてきた力の使い方の精度が落ちてくる。疲労により集中が切れているのだ。
(このままでは失敗してしまう! お姉さまに申し訳がないのです)
 普段の状況を考えると、失敗してもシリューナは特に気にしないどころか喜んでいるような気がした。
(そんなことはありません)
 自分を奮い立たたせたティレイラは力の限り、安定した量の力で放った。
 魔力が当たると、ガーゴイルは倒れる。倒れたが、また浮かび始めた。
「え、はあ、はあ……もう、えええと!」
「もう、終わりかしら? 辛そうね、ティレ」
「そ、そんなことはっ!」
「じゃあ、休憩にしましょう?」
「え?」
 シリューナはにこりと微笑む。優しい笑顔ではなく、何かたくらむ暗い笑顔に見える。
「もももももう少し頑張れます」
 ティレイラはワンドを振るうが、思ったほど力が出なかった。直後ガーゴイルに体当たりされ、床に倒れた。
「きゃああ」
 カランカランとワンドが床に落ちた。
「ほら、お休み」
 シリューナはワンドを手に取ると、つぶやきながらワンドでガーゴイルを指し、次にティレイラを指した。
「え?」
 立ち上がりかけたティレイラは近づいてきたガーゴイルに両肩を掴まれる。
「あ、爪が食い込んで痛いです」
「大丈夫よ、それ以上は掴まないから」
「え?」
 ティレイラはシリューナを見た。シリューナはワンドを抱きしめ、何かワクワクして待っているように見える。
「あ、あああ、まさかっ」
 ティレイラは魔力が注ぎ込まれることに気づいた。
「お、お姉さまあああ」
 ティレイラは動く手でガーゴイルをどうにかしたかったが、肩を抑え込まれうまく手が動かなかった。
「あ、え、あああ、いや、いやああ、お姉さまああ」
 肩から徐々に石と化していく。涙目になってシリューナを見つめるしかなかった。
「ふええ、今日こそ、こうならないようにと頑張ったのに……私、まだまだなのですね……」
 ティレイラはしょんぼりとしたところで、すべて石化したのだった。
「ティレ……なかなか魔法が上達しないわね」
 本当は上達していても、修行は徐々にハードになっている。その結果、失敗してお仕置きをされることは付きまとうのは仕方がなかった。
 そのことをティレイラが知っていたとしても、お仕置きがやってくるのは変わりなく、どうしようもないのだった。それでもまあ、成長はしているということではある。
 シリューナが教えてあげれば、ということだが教えたところで何が変わるか不明だ。

●堪能開始
 さて、ティレイラが硬直し、おろおろと涙をこぼしたあと悟り、そのまま石化したのを見て、ただひたすら愛らしいと思いながらシリューナは見ていた。
「やる気はあるのも、頑張っているのも認めるわ」
 でも、成功しなかったことは事実。
 感慨にふけっていたが、そろそろ、じっくり鑑賞したい。
 ガーゴイルから魔力を抜き、部屋の隅にやる。そしてワンドも離す。しばらくの間これは用がない。
 目の前にあるのは可愛いティレイラの嘆きながらも美しく、愛らしく石化したのだから、観察・鑑賞しなくてはお仕置きしたかいがない。一定時間で解けることは解けるのだから、短い時間を堪能しなくてはならない。
「ああ、ティレ……可愛いわねぇえ。今日はこの辺りのひだが大変美しいわ。ああ、この髪の毛の動きも最高だわ」
 うっとり見つめるシリューナ。美しい曲線、直線を指でツッとなぞる。熱がなくひやりとした感触が伝わる。
「ああ、この涙もこうなってしまうと、ぬぐうことはできないわね」
 頬を伝う涙を人差し指で拭うように触れる。
「ああ、成長して一人前の魔法使いとなってほしいわ。でも、このようにお仕置きができないのもつまらないわ」
 贅沢な悩みだわ、とため息を漏らす。
「それにしても、ほめたたえたところで、ティレには聞こえていないのは残念ね」
 ふと、思い出した。そのあと、たっぷり美しい像について褒めておく。ティレイラの能力についてではないあたりが、もし聞こえたとしても複雑な思いをいだくかもしれない。
 
 ティレイラはただただ反省の上、次はどうすればいいのか考えつつ、石化が解けるのが先か、疲労から眠るのが先かと言う状況になっている。
 シリューナの様子はわからないが、美術品を見ているときの様に喜んでくれるならいいなとぼんやりと考えていた。
 ティレイラが気づいたときには、ベッドの上に転がっていた。無事、お仕置きは終了したらしかった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
3785/シリューナ・リュクテイア/女/212/魔法薬屋
3733/ファルス・ティレイラ/15/女/配達屋さん(なんでも屋さん)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 発注ありがとうございます。
 ティレイラさん、頑張れと思いながら書きました。
 シリューナさんの愛は複雑だなと思いました。
 いかがでしたでしょうか? 
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2018年08月17日

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