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『悪魔的な鯛焼きを求めて 』
不知火藤忠jc2194)&不知火あけびjc1857

●今日は藤忠のターン
「いいか、あけびに仙寿之介。どれだけ俺が頑張ったと思ってる?」
 久遠ヶ原学園大学部のテラスに集まった不知火藤忠(jc2194)と不知火あけび(jc1857)、仙寿之介(ゲストNPC)。藤忠はあけびの左手に光る婚約指輪を指差す。二人の距離はほぼ零距離だったが、結婚の約束を取り付けたのは最近になっての事だった。
「雨にも負けず、風にも負けず、付き合う時にはその背中を押してやり、恋人の扱い方が分からないというから桜デートを提案し、婚約指輪を用意する時もデザイン案などで協力してやった。俺が居なかったらお前達は青春の大事な時間をフイにするところだったぞ」
 ぺらぺらと饒舌に語ってのけた藤忠は、役者ぶって両腕を広げた。
「ここまでやり遂げた俺に感謝する気持ちは無いか? あるよな?」
 挑発的に微笑む。こうすると、不知火(旧姓:御子神)凛月(jz0373)はムキになったりテレまくったり何かと可愛い。だが今目の前に居るのはあけびに仙寿之介だ。
「確かに……藤忠が色々アドバイスしてくれなければ、俺は右も左も分からなかった」
「もちろんだよ。何かお礼しなきゃって、二人で相談してたんだよね」
 二人は即答してくる。藤忠は思わず仰け反ってしまった。
「そうか。即答か……」
「まあ要するに、俺達に頼みたい事があるのだな」
「そうだ。最近聞いた事がないか? 久遠ヶ原学園の敷地内のあちこちで、不思議なたい焼き屋の屋台が出てるって」
「確かに聞いたな。見てはいないが」
「噂によれば……作ってるのは悪魔族の女子で、その味は悪魔的らしい。一口食べたが最後、何度も食べたくなって仕方がなくなるそうだ」
「見つけた友達がいたよ。店主の女の子がシャイだから、買おうとしたら一瞬で屋台を畳んで飛び去っちゃったって言ってた。まだ誰も買えた人がいなくて……だから食べた人は願いが叶うかもなんて話にもなってるよね」
 あけびはぱんと手を叩く。最初はコーヒー片手に二人の話を聞いていた仙寿之介だったが、やがて眉を顰める。
「……ん? 矛盾していないか?」
「久遠ヶ原なら仕方なし!」
「そういうものか」
 仙寿之介も天然天然と言われて久しいが、そんな彼としても久遠ヶ原の変人率の高さは不思議でならない。藤忠はテーブルへ身を乗り出すと、二人の顔を交互に覗き込む。
「凛月はたい焼きが好きだ。後は言わなくても分かるな?」
「……よし! 探すよー!」
 あけびは真っ先に駆け出した。
「ふむ……」
 言葉は少なくても以心伝心。そんな二人を見て、仙寿之介は彼らの血の繋がりを改めて感じるのだった。

●捜索ファイル「たい焼き屋」
「まずは聞き込み! ……というわけで」
 メインストリートにやってきたあけびは、道行く学生目掛けて走り出す。いかにもとっぽい雰囲気だが、あけびはそんなの気にしない。
「すみません! 学園に居るっていう悪魔のたい焼き屋の噂、聞いた事ありません?」
「たい焼き屋? 知らねーよ。そんな事より俺はモテる秘訣を知りてーな!」
「は?」
 あけびは思わずとぼけた声を発してしまう。青年はやや長めの髪を掻き上げながら、べらべらと言葉を捲し立て始める。
「俺聞いたわけよー。撃退士になったらモテモテだって、だから俺必死に修業したわけよ。エロ本断ちして数週間? 山の中に篭ってずっと瞑想。そしたらなんか光がぱーんって来てさ、気付いたら俺も撃退士になってたんだよ! 夢のハーレム生活スタートぉ……って思ったら全然女の子寄ってこないんだけど! どういう事なんですかお姉さん?」
「え、ええ……だ、大丈夫だよ。うん。十分、格好いいよ! うん」
 大抵の人間には気さくに当たれるあけびも、ここまで拗らせた撃退士にはたじたじだった。青年はあけびの頭の天辺から爪先までさっと見渡し、ずいと近寄る。
「じゃ俺と付き合ってくれる?」
「ご、ごめんなさい! 私こういうものでして!」
 身の危険を感じなくもなかったあけびは、咄嗟に左手を突き出す。その薬指には美しく彫りが入った指輪が。それを見た瞬間、青年は銃で撃たれたように仰け反った。
「かぁーっ! これだよ! ここの女はどいつもこいつもツバついてやんの! クソ……」
 ぶーたれながら立ち去る青年。それを遠くで見送っていた野郎二人は、したり顔で頷き合う。
(ああ、これは悪くないな)
(だろう?)
 藤忠の前で、親友は晴れやかな顔をしていた。あけびと彼との間で結ばれた絆の強さを改めて確かめた仙寿之介は、どこか誇らしげにも見える。
「全然だめだったよ……」
 ややあって、しょげた顔してあけびが戻ってくる。姫叔父はからっと笑うと、その肩を叩いた。
「まあ、そんな事もあるだろうさ。次いくぞ!」

 おやつの時間も近い頃、色々と情報を掻き集めた三人組は中等部校舎の裏であちこちに潜んでいた。どうやら、この時間になると悪魔の女の子がこの辺りをうろうろし始めるらしいのだ。
『こちらあけび。そちらにターゲットは見えますか、どーぞ』
『いや、見えないな』
 無線からあけびや仙寿之介の声が飛んで来た。屋上から下を見ていた藤忠は、無線をそっと手に取る。彼の視線の彼方に、やたらとデカイ唐草模様の風呂敷包みを背負った何者かがやってくるのが見えたのだ。
「こっちからは見えたぞ。……注意しろ」
 藤忠は双眼鏡で人影を覗く。背中に小さな羽根が生えている。間違いなく悪魔だ。その顔は長い前髪で殆ど隠れてしまっている。
『私からも見えたよ! どうする?』
『どうするって、まだあの悪魔の娘がたい焼き屋だと決まったわけではないだろう。そもそも、どうしてこんな人気のないところで屋台を……』
 三人がひそひそ話している間に、校舎裏へやってきた少女は風呂敷を開いた。小さな木製の箱。少女が何やら操作すると、いきなり箱が展開して小さな屋台になった。藤忠は眼を丸くする。
「カラクリ仕掛けか」
『見て! 女の子が何か始めてる!』
『台の上に鉄板を載せたようだ』
 藤忠はきつく双眼鏡を目に押し当てた。屋台の上に乗った鉄板は、間違いなくたい焼き用のそれである。藤忠は一人頷くと、双眼鏡を袂に仕舞った。
「よし、まずは平和的アプローチだ。穏便に行こう……仙寿之介、頼む」
『あいわかった。……ただたい焼きを買うだけなんだがな……』
 仙寿之介は校舎の影からゆらりと姿を現す。懐から和柄の財布を取り出して、武士のように悠然と歩み寄っていく。手元で何かを掻き混ぜている少女は、天使が近づいている事に気が付かないようだ。藤忠は手すりを強く握り締め、口を堅く結んだ。
 緊張の一瞬。
「すまない。たい焼きを四つ」
 仙寿之介は静かに尋ねる。その声で初めて仙寿之介に気付いた少女は、急に眼を丸くする。
「あ、あひゃあっ!」
 妙な叫びと共に、少女は抱えていたボウルを仙寿之介に向かって放り投げた。咄嗟に仙寿之介は透過能力を発揮してボウルを躱す。からんと高い音がして、白い生地が道路にばら撒かれた。
「……あの、俺はなぜ、こんな……」
 彼が思わず尋ねかけた時、屋台を畳んだ少女は慌てて走り出す。それを見たあけびは、咄嗟に茂みから飛び出した。行く手に立ちはだかり、彼女は少女に尋ねる。
「待って! 何で逃げちゃうの?」
「や、そ、その!」
 少女は翼を広げて一気に高く跳び上がる。壁走りの能力を発揮したあけびは、校舎の壁を素早く駆け登っていく。屋上に立っている藤忠に向かって手を伸ばすと、あけびは叫んだ。
「姫叔父、技借りるね!」
 忍法・鏡傀儡。藤忠の持つ韋駄天の力を真似て仙寿之介へと与える。仙寿之介は翼を広げると、少女を追って一気に飛び上がった。
「わ、わわわ」
 振り返った拍子にバランスを崩し、少女は屋上にふらりと墜落してしまう。藤忠は素早く駆け寄り、少女の風呂敷包みをその手で押さえた。
「……捕まえたぞ、幻のたい焼き屋」
「は、はひぃ……」
 少女は口をわなわなと震わせている。屋上へふわりと降り立った仙寿之介は、二人に向かってそっと手を差し伸べた。
「とりあえず、双方落ち着け。まずはゆっくり話をしよう」

「たい焼き屋さん見て……自分でもやりたくなって……でも、まだ上手く作れないから……お店で作る練習してただけなんです」
 幻のたい焼き屋はとつとつと供述する。藤忠は肩を竦める。
「なるほどな。誰も食べた事が無くて噂に尾ひれがついていたのか」
「だから、別に美味しいたい焼きなんて……」
 あけびは首を振る。にっこり微笑んで、彼女は藤忠達を見渡す。
「いいよいいよ! この子に作ってもらおう? それでいいよね、姫叔父」
「そうだな。一人で作ってても中々上達しないだろ。後で感想も伝えに来るから、俺達に四つくらい包んでくれないか? ちゃんと金も出すぞ」
 顔を赤くして俯いていたたい焼き屋だったが、やがて小さく頷いた。
「わかりました。……やってみます」

●皆で仲良く
 昼下がりの骨董品屋。凛月は脚立に登り、外から嵌め殺し窓を拭いていた。ふと彼女は手ぬぐいを取って、額に浮かんだ汗を拭きながら空を見上げる。鷹が翼を広げて悠然と飛んでいるのが見える。否、鷹のように見えるが、どうにも形が変だ。
 だんだん鷹が此方へと近づいてくる。目をさらに凝らして、凛月はようやく気付いた。
「仙寿之すけ――」
 しかしその時、ぐらりと脚立が揺らぐ。仙寿之介に注意を向けすぎ、バランスを崩してしまったのだ。
「いけない」
 彼女も御子神家の人間。うっかりはしても咄嗟に受け身の態勢を取った。固い地面が近づき、彼女は丸めた体を強か打ち付ける……かに見えたが、彼女を迎えたのは、ふわりと柔らかい感触だった。
「美しい天使を前にしたら月も落っこちるのか?」
 丁度横抱きのような形で、藤忠は凛月を抱えていた。凛月は頬を染めると、ふいとその眼を逸らした。
「ばか。来るなら来るって言ってよ。そしたらこんな恥ずかしいところ……」
「わーお! ラブラブ!」
 妹分のあけびが門の前に立ち、両手でカメラを作っている。凛月はいよいよ耳まで真っ赤になり、いつまでも彼女を抱えている藤忠の胸元をぽかぽか叩く。
「ちょっと! 早く下ろして!」
「その前に何か言う事があるんじゃないのか?」
「……ありがとう。愛してる。だから……」
「いいだろう、合格だ」
 藤忠は傍に凛月を下ろした。小脇に包みを抱えた仙寿が、ちょうど下まで降りてくる。
「なるほどな。これが世にいうバカップルか」
「……」
 凛月は仙寿之介に何も言い返せないのだった。

 前庭に折り畳みの机と椅子を広げ、四人はちょっと遅めのティータイムを始めた。悪魔のたい焼きに、彼らは早速手を伸ばす。
「……ふうん。だからちょっと尾っぽが焦げたりしてるのね」
 たい焼きをしげしげと眺めて凛月は呟く。そのまま口へ運んでみると、少し甘みの強い餡が口に広がる。
「確かに餡も要改善ね。でも、見様見真似で作ったにしては随分上手じゃないかしら?」
「たい焼きにうるさい奴がそう言うなら、そのうち普通に人気の店になるだろうな」
「そうなったら、幻じゃなくなっちゃうね」
 さっさとたい焼きを食べ終えたあけびは、ついでに買ったコーヒーゼリーに手を伸ばす。
「コーヒー味のゼリーは美味しいのか?」
「美味しいよ! 仙寿様も食べる?」
 さりげないノリであけびは一口掬って仙寿之介に食べさせている。これまたさりげなく受け容れる彼。昔では考えられなかった光景だ。藤忠は思わず頬を緩める。
「……人間らしくなったよな」
「む?」
 仙寿之介は首を傾げる。その仕草には、格好良いながらもどこだか愛嬌がある。昔の飄々としながらも張り詰めた雰囲気を思い出しながら、彼は呟く。
「お前は憧れだったんだ。手合わせでは歯が立たないほど強いし、どこか浮世離れした雰囲気を持っていて……サムライと言われても納得した。あけびと兄妹のように仲が良かったのも、姉と俺を比べて羨ましくもなった」
 奥手で天然な親友に向けて、藤忠は猪口を傾けるような仕草をした。
「今度飲まないか? 色々、積もる話がある」
「そうだな。俺にも話したい事がある」
 二人の様子を頬杖ついて眺め、凛月は微笑んだ。
「いいわね。男同士の友情って感じで」
 照れを隠すように肩を竦めた藤忠は、いきなり凛月の口元へ指を伸ばす。
「餡がついてるぞ」
「え?」

 かくして、今日も不知火家の平和な日々が過ぎゆくのであった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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不知火あけび(jc1857)
不知火藤忠(jc2194)
御子神 凛月(jz0373)
日暮仙寿之介(ゲストNPC)


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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どうも、影絵 企我です。この度は発注いただきありがとうございました。
モブキャラの描写に割と遠慮が無くなってしまったせいで突っ込まない二人と突っ込んでしまう天使様みたいな構図になってます。この辺りはご了承を……
凛月さんとのあまあま演出はどちらかというとアメリカンなノリになってる気がしますが影絵のインプットはややそっち寄りなのでこれもご了承を。何かありましたらリテイクをお願いします。
ともあれ、楽しんでいただければ幸いです……

ではまた、御縁がありましたら。


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エリュシオン
2018年08月20日

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