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『願い語り 』
アルヴィン = オールドリッチka2378)&ユリアン・クレティエka1664

 ユリアンにとって、極薄くでも、緊張がない訳ではなかった。
 関心とでも言うべきなのか、世話を焼くかのように、関わりが深めな人達は大体『その話』を聞いてくる。
 今日は遊びがてら土産話を聞きたいとの事だが、その話題に触れる機会も、あるかもしれない。

 旅の話はあるがままを伝えようと思うけど、その話についてはどうしたものか考える。
 気の利いた答えが出来ないのははじめからわかっていたけれど、いい加減な答え方を厭うのは、自分の数少ない執着だろうか。
 どう伝えたものかという困惑と、上手く応えられないと先にわかってしまう申し訳なさ。
 まだ聞かれてもいないのだから結論なんて出るはずもなく、諦めたようにユリアンは思考を打ち切る。

 釣りとハイキングの道具を背負い、足を向けると待ち合わせ相手が大きく手を振って来た。
「イクヨー!」
 ……ああ、でも。この人なら、自分がどんな答えを出しても、頷いてくれる気がするのだ。

 +

 緑に覆われた道を、アルヴィンとの二人で歩く。
 日差しは強く、木漏れ日がきらめいて足元に強いコントラストを作っている。それでも頭上にある枝葉の密集度が勝つのか、港町であるリゼリオに比べれば遥かに過ごしやすい気はしていた。

 暫し無言で歩いて、渓流沿いに出る。
 日差しを受けにくい場所を見繕って、平坦な場所にシートと荷物を置いて行く。
 外套など元から最小限だが、荷物を置くだけで開放感が増した気がした。
 水に手を突っ込んで、暫し浸れば体から余分な熱が抜けていく。気力が戻って来たところで水辺に腰掛け、ユリアンは荷物を広げて釣りの準備を始めていた。

 風は苔の匂いを帯びて、幾分か湿ってるように思えたが、暫しすれば慣れて気にならなくなる。
 日差しに目を向ければ、やはり目を細めたくなるくらい眩かったが、吹いてくる風が熱されていないせいか、そこそこ涼む事が出来ていた。
 釣り糸を垂らすユリアンの横で、アルヴィンは広げたシートの上に寝転がっている。特に何も口にする事なく、静かな時間を楽しんでる様子すらあったから、ユリアンも来る前の気負いを卸して、沈黙に身を任せる事にした。

 …………。

 ちゃぽんと、魚が釣り上げられた水音が響く。
 釣った魚をバケツの中に放し、収穫を数えたユリアンはもう少しかな、と再び餌をつけて釣り糸を垂らす。
 アルヴィンは自分の腕を枕にして寝転がる方向を変えている。暫しの時間で沈黙は十分堪能したのか、興味深そうにユリアンを観察する方に移行したようだった。

 それほど長い時間没頭してしまっていたのか、そう自覚すると気恥ずかしい気持ちが湧く。
 静かに待つ時間はそれほど苦ではなく、手応えを逃さないように、タイミングを見切って引き寄せる緊張は思いの外ユリアンを夢中にさせていた。
 どう取り繕ったものかと思考を巡らせる、やはり釈明からだろうかと、竿を握ったまま、昔は良くやってたのだと言葉をかけた。

「ソッカァ、スゴク手慣れてるナって、思ってたンダヨ」
 放っといてごめん、そう恥ずかしげに口にすると、それなりに楽しかったヨ? と屈託のない笑顔が返る。
 遠慮ではないだろう、遠慮だったらフォローになってないフォローが飛んできたはず。
 埋め合わせには話の続きが喜んでもらえるだろうか、そう考えて、ユリアンは幼少の際に森や泉が遊び場だったのだと語った。

 子供に世界はとても大きく映る、森はどこまでも広がり、川は留めなく流れていく。
 子供の足ではとても歩き切れず、追いつけない。果てがあるはずだと夢見て、いつしか心は遠くへと向いていた。
「アルヴィンさんはどうだった?」
 彼の子供時代に世界はどう映ったのだろうかと、気軽な気持ちで尋ねた。

「僕はネ――」
 アルヴィンは、『求められる子供』だった。
 隙のない振る舞いを求められ、誰かの望みを満たす事を求められ、自分を律する事を求められた。
 自分はそれに応える事が出来たと、アルヴィンは言う。
「ドウ映るのかってハナシだったね」
 ――生きるのに必死な人たちがイッパイいる世界カナ、そう慈しみさえ滲む口調で答えた。
 子供が持って然るべきな期待、楽しみや希望はその語りの中にない、あるのは本人だけが持つ、際限ない優しさだけ。

 ごめん、そう思わず口にするユリアンに、アルヴィンは首を横に振った。
「キミが僕に謝るコトなんてナイと思うナ」
 それだけは真剣な口ぶりだった。
 たまたま自分の形がこれだったというだけで、そこにいいも悪いもない、謝られる筋合いなどないのだとアルヴィンは告げる。
「ソレニ、彼らに応えるコトは、僕の望みだったカラ」
 子供視点に、思うところがなかったと言えば嘘になる、それをアルヴィンは黙した。どちらも本当なのだ、そしてどちらが強かったかといえばユリアンに語った方になる。
 だから残った気持ちは秘したままでいい、もう自分でもよくわからなくなってしまったモノなのだから。

 暫くの沈黙を挟んで、ユリアンはそれ以上を言わなかった。代わりに口にしたのは、旅先でも多くの人たちに助けられた、そんな受け取った助けに対する感謝の気持ちだった。
 一人で旅に出たのに、一人で何時しか生を手放すのだと思っていたのに、気がつけば人と関わり、助けられていた。
 触れ合いは決して嫌じゃなくて、少しの引け目に戸惑いがあって、結局は優しさに甘え、生きていくための次を教えられている。

「……少しハ考えられるヨウにナッタ?」
 以前、まだ考えられないと言っていた、皆が関心を持つ誰かとの話だ。
 答えなければ、アルヴィンはきっと見逃してくれる。そういう待ってくれる人だから。
 少しの間、自分に問いかける。何も答えないのは不誠実な気がして、考えている事があるんだと、切り出した。

 +

 お魚を釣り上げ、それを最後にして引き上げる。
 用意するのは焚き火と鉄串、火を熾すのはアルヴィンが引き受けてくれたから、自分は魚を捌いて焼ける状態にして行く。

 作業をしながら、ユリアンは思考を口にして行く。相変わらず自分には生に執着がなくて、死に抗う自信もなくて、ちゃんと戻ってくる保証さえ渡す事が出来ない。
 こんな不確かな自分で、彼女に手を伸ばすのは躊躇われる、なのに放してやる事も出来ない。そんな自分がずるくて、下を向いてしまう。
 自分はいつか何かに負けて、いなくなってしまうかもしれない。
 負けたら意味がない、失敗したら何も残らない。なのに、手を伸ばす意味はあるのかと、ユリアンは眉間を歪めて呟いた。

 彼女は『ある』と言う、自分は『あって欲しい』と思っている。
 祈りを重ねるように、日々に手を添える、それらが失われないように、或いは許しを請うように。

「コレは僕の見解ダケド――」
 意味があるかないかで言うなら、あるんじゃないか、とアルヴィンは語りを返した。
 勿論、自分が勝手に思っているだけだとアルヴィンは付け足す。でも、意味ってのはそんなものだと、緊張をほぐすように笑った。

 失われたら、何も残らないのか、意味はないのか。
「――そんなコトはナイって、僕は思っタヨ」
 アルヴィンは、かつての遺された側だった。
 遺されて、もう誰も答えを返してくれなくなった。だから、全て自分で考えて、答えを出す必要があった。
 一人では生きていけない、だから彼らがくれた思い出に縋った。
 勝手に意味を見出して、それを希望として、自分を支えきった。
「本当はネ、彼らが何ヲ考えてたかナンテ、これっぽっちもわかってナイんダ」
 可笑しいでしょう? とばかりに笑みを零し、首を竦める。
「――でもネ、コレでイイんだヨ」
 彼らはいなくなった後でも、アルヴィンの生きる理由になってくれたから。
 だから、意味はある、それは、遺された側が一方的に見出したものだけど。
 遺された側が勝手なら、遺した側も勝手、それでちょうどいい、誰も誰に申し訳なくなんてないのだから。

「ソレに、アルかナイかより、シタイかどうかじゃないカナ」
 意味を他人に与えるコトは出来ない。
 差し出す事は出来る、でも受け取れるかどうかは相手次第だとアルヴィンは最後に語った。差し出す側に出来るのは、それがよいものであると願うだけ。
「君は、君の望みに従うとイイ」
 旅に出ようとした、あの時みたいに。

「…………」
 話は途切れた、アルヴィンの語りは耳に届いた。
 これを受け取るかどうかも、やはり自分次第だというのか。そうなのかもしれない、アルヴィンは決めてくれない人だから。

 彼女があると語った時は、受け止めきれなかった。何かが足りないって、そう思ったのだ。
 時間が必要だろうか、それとも語り合いか。

「……焦げてる」
 焼く向きを変えた魚は不格好に、少し焦げ目がついていた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男性/26/聖導士(クルセイダー)】
【ka1664/ユリアン/男性/19/疾影士(ストライダー)】
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2018年08月20日

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