▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『負けられない戦い2018 』
神代 誠一ka2086)&クィーロ・ヴェリルka4122

 楽し気な笑い声、人波を縫って走る子供の歓声、高い笛の音、腹に響く太鼓、賑やかな音がいくつも重なり混ざり浮かれた音楽を奏でている。
 焼けるソースの匂いは食欲を誘い、艶やかな飴に包まれた果実は見た目にも鮮やかだ。
 祭りの空気はどこか人を浮かれさせる。
 神代とクィーロも例外ではない。揃いの模様の色違いの浴衣。涼し気な灰の神代、きりっと締まった紺地のクィーロ。二人とも祭りを楽しむ気満々の出で立ち。
 カラン、コロン……わざと下駄を鳴らすクィーロの綻んだ口元。
「夜にも来てみたいな」
 道の両脇、風に揺れる提灯をクィーロが見上げた。明かりが灯ったらきっと綺麗だよ、と声が弾んでいる。
「皆も誘って花火大会でも……っと」
 ひょいっと神代がクィーロの手に乗せた皿からたこ焼きを一個浚う。
「いいね。……ってそれ最後の一つ!」
 ふふん、と何故か勝ち誇る神代をジト目を向けていたクィーロが流れるような動作で距離を詰め、その手にした串焼きからがぶりと肉を奪い取った。
「おまっ、たこ焼き一個と肉じゃ釣り合わねぇだろーがっ」
「ゴチソウサマデシタ」
 神代の言葉は右から左に涼しい顔で口元のソースを拭う。
 大人二人少し騒いだところでさして目立たないのが祭りというものだ。
 屋台をひやかしてみたり、大道芸に拍手を送ったりそぞろ歩く二人の足が不意に止まった。
「キンキンに冷えたエールだよ!」
 威勢の良い呼び込み。言葉にせずとも二人の気持ちは同じ。祭りで食べ歩きながら飲むエールは美味いに違いない。
「どうせなら……」
 だがつい遊び心が首をもたげた神代が近くの金魚すくいを指さす。
「負けた方が飲み代奢るってことで、どうだ?」
「面白そうだね。受けて立つよ」
 記憶を失う前はわからないがクィーロとして金魚すくいは初めての経験。だがやるからには負けない、と不敵に笑う。
 ほぼ同時に二人は浴衣の袖をたくし上げた。
「こう金魚の横から滑らせて……」
 最初のうちこそ慣れないクィーロに面倒見の良さも手伝いコツなどを教えていた神代だが
「わぁ、掬えた。 よし、もう一匹……」
 思いのほかコツを掴むのが速いクィーロに負けず嫌いが顔をのぞかせた。
「俺の本気を見せてやろーじゃねぇかっ」
「それ負けフラグだよね?」
「言ってろ。……ここだっ」
 気合一閃、掬い上げる金魚。
 さあ反撃の始まりだ、と次の獲物を求め視線を走らせた矢先

 パシャン

 跳ねた水が頬を濡らす。クィーロが大物を掬い上げた。
「ポイをもう一つくれ。あと紐も」
 エールを奢るとか奢らないとかではない。これは男と男の勝負だ――神代の纏っていた気配が変わる。
 紐でぐるっと袖をたすき掛け目を閉じる。
 「えぇ、ずるい!」クィーロの抗議も耳には届かない。
 神代は今無音の空間にいる。スポーツでいうところのゾーン。
 深く、深く、より深く――両手に構えたポイ。

 アイツだけには……

 殺気だつ空気に水面が波立ち、金魚が泳ぐのを止めた。

 負けるるかっ……

 瑞々しい緑が神代の体を包み、ふわと黒髪が躍る。腕に生まれた光を放つ蔓はポイへと……。
 開眼。
 両手のポイがバターの如く水面を切った。
 煌めく飛沫と共に宙に舞う赤の琉金、黒の出目金。

 覚醒――?!次々と掬い上げられる金魚にクィーロは目を瞠った。
「はっ、面白ぇ」
 だが次の瞬間、黒髪は銀に燃え、双眸は緋に染まる。隣から感じる殺気に唇を舐めた。
 こうでなくっちゃ戦いは面白くない。
 クィーロが立つのは戦場。常ならば頼もしい相棒は今強敵として立ちはだかっている。
 相手として不足なし。
 そちらがその気ならこちらも攻めるまで。守りは捨てた。金魚が暴れる間もなく掬いあげれば問題ない。
 必要なのは速度と威力……。
 深く息を吸う。浴衣の袷から除く鳥が一層輝きを増す。
 必殺の一撃を叩き込むかのごとくクィーロは全身に力を漲らせ、指先に意識を集中させる。
 遅れをとってたまるか、無意識のうちにポイに力が籠っていた。
「負ける訳にはいかねぇんだよ!」
 吠えると同時にポイを振るう。唸りを上げたポイがありえないしなりをみせた。
「え。っちょ、馬鹿!それは――!!!」
 只ならぬ気迫に我に返った神代の静止は間に合わない。
 一陣の暴風となったポイから放たれた強力な一撃。
 大気は震え水が割れる――ッ。

 ドッッ!!

 そして、水槽も真っ二つに割れた……。
 激しい音を立て水柱が立つ。
 宙を躍る色とりどりの金魚。二人は慌てて金魚を器で受け止めていく。
「こンの悪ガキどもがっ!! 図体ばかりでかくなりやがって」
 響き渡る親爺の怒声。
 無事に金魚を回収できたのは不幸中の幸いだろう。眼前で仁王立ちする親爺の迫力に二人ともそう思う。もしも金魚に被害が出ていたらどうなっていたことか。
 どうしてこうなった……。
 炎天下、続く説教を聞きながら神代は心の中でぼやく。
 軽く頭を下げて一見殊勝なポーズをとっているが「どうして俺までも」と表情が語っている。
 そもそもこの事態を引き起こしたのは……。恨みがましい視線を横に向ければ、クィーロも同じ視線をこちらに寄こしていた。
「お前なぁ――」
「最初に……」
「ゴホンッ!!」
 親爺の咳払いに「あ、はい、聞いています」再び拝聴の姿勢。
 「大人が怒られている。変なの」無邪気な子供の声が二人に突き刺さる。
 祭りの賑わいも流石にこの二人を隠すことはできなかったのだ。

 やっとのことで説教から解放された二人はぐったりと帰途に着く。
 少しだけ先を行く神代の背にクィーロは視線を向ける。
 あの後「金魚すくいしたかったな」としょんぼりしていた子供には申し訳ないことをしたと思うのだが……。

 たとえ遊びでもあいつの隣に立つなら負けるわけにはいかねぇし……

 そっぽを向いて唇を尖らせる。我ながら子供っぽいと思わなくもない。でも背を預けられる相手だからこそ常に対等でいたい、意地にも似た思いがある。
「あのなぁ」
 徐に神代が口を開く。聊か呆れた様子でくしゃりと自分の髪を掻き回しながら。
「あの程度の攻撃で壊れる水槽がやわなんだよ!」
 まだ何も言われてないのだが大人げなかったと思っていたところに図星を刺されたような気がしつい言い返してしまう。
「限度ってもんがあるだろ限度ってもんが!」
「ていうか誠一が覚醒すんのがいけねぇんだろ!」
「はぁ? 俺悪くねぇし!」
「ぬけぬけとどの口が言いやがるっ」
「勝負事でお前相手に手ぇ抜くわけないだろ!」
「当たり前だ。手ぇ抜いてみろ叩き潰すぞ」
 睨み合う二人。間もなく見えてきた神代宅の玄関。
 二人の視界の端に玄関横に並んだ水鉄砲が入った。
 どちらともなくかつて一緒に戦った相棒に手を伸ばす。
「……やるか。水鉄砲バトル、2018」
 神代の体を再び緑の風が包み込んだ。
「……ハン、返り討ちにしてやるよ」
 まずは給水。湖畔へのダッシュは神代が速い。

 背後を走っていたはずのクィーロが唐突に消えると同時に風を切る音。足元目掛けた鋭い蹴り。慌てて前に飛び、そのまま受け身を取った神代をクィーロが追い抜いていく。
「上等だ」
 すぐさま起き上がり走り始める。
 先手は水を詰め終えたクィーロ。
 神代の手元を狙っての連射。
 神代は十分とは言えない給水で切り上げることを余儀なくされた。
 互いの距離を目測する。一気に詰めれる距離ではない。
 ならば……。
 拾い上げた小石をクィーロへ投げつける。
 だが小石はあっさり避けられ背後へ。
 正面から投げた小石にぶつかるクィーロではないのは先刻承知。
 小石に紐づけたマテリアルが神代を一気に引く。加速する瞬間を狙い湖底を蹴り上げた。弧を描きクィーロの頭上を越える。
 重なる二つの視線。
 逆さで宙を舞いながら立て続けに引き金を引く。
 クィーロも同時に宙に浮いた神代向けて引き金を引いた。
 射線がぶつかり合い弾けて散る。
 着地後勢いを利用した前転宙返りで距離を取る神代。再度水を詰める。
「なんでもあり。いいな、悪くねぇ」
 背負った水鉄砲で肩を叩くクィーロが浮かべる凶暴な笑み。油断してそうにみえて隙がない。
 ならば作るまで――神代が動く。
 突如神代の姿がぼんやりと滲み周囲に溶け込む。
 マテリアルによる迷彩――手の内を知っているクィーロならばすぐにそれと気づき、水を蹴り走る音で神代の場所を掴むであろう。
 案の定クィーロの放つ水は神代を正確に追ってくる。だがそれでいい。
 距離は詰めずにわざとサイドに回り込み神代は足を止める。構えるより先にクィーロの銃口が神代を捉えた。
 クィーロの指が引き金を引く瞬間、神代は体を倒す。神代の背後から現れる真夏の太陽。
 真っ白い陽光がクィーロの目を焼く。思わず顔を背けたクィーロ向けて神代が一気に駆け抜けた。狙うは顔。視界を徹底的に奪う。

 わざと大きく立てられた水音が神代の居場所を不鮮明にする。その間にも容赦なく水はクィーロを撃つ。
 割と痛い。こいつスキルを乗せてやがるな、ということがわかるくらいには。
 そういえば以前眼鏡を狙って視界を奪ったのは俺だった、などと懐かしんでいる間はない。
 自らの生命力を拳に乗せて水面を叩く。
 金魚すくいの比ではない水柱が上がった。水柱の直撃を受けた神代がむせ返っているのを無視して庭へと向かう。
 背後から迫る神代の気配。立ち直りが早い。それでこそ倒しがいがあるというものだ。
 急停止から反転。クィーロが飛ぶ。
「いつから銃が遠距離武器だと錯覚してやがった!」
 勢いがついたまま止まれない神代に振り下ろす水鉄砲。
 ガッ!!鈍い音を立てて互いの銃身がぶつかり合う。割れないのが奇跡だ。
「その言葉そっくり返してやらぁっ」
 神代の水鉄砲が若芽の柔らかい緑に染まる。クィーロはその正体を知っている。警戒し後ろに飛ぶクィーロはしてやったりと神代が浮かべた笑みに気付いた。
「フェイント……」
 向けられた銃口からは水鉄砲ではありえない勢いで弾丸を発射される。

 フェイントを使い不意をついての一射。これで止めた――と言わんばかりに現時点で出せる最大火力。それが仇となった。
 反動に耐え切れず水鉄砲の銃口が跳ねる。
「しまっ……」
 水の弾丸はクィーロの頭を掠め――……
 自宅の壁を容赦なく穿つ。
「あ……」
「オラァ! ガラ空きだぜ!」
 神代が呆気にとられた隙を狙いクィーロが背後に回る。どうやら壁の穴に気づいていないらしい。
 いつの間にかクィーロの手には二丁の水鉄砲。
「二刀流……っ」
 仲間が持ち寄ったのだろういつの間にか増えていた水鉄砲のうちの一つ。だから最初のダッシュで遅れていたのか……などと冷静に考えている場合ではない。
「まて、まて、まて――!!」
「今更命乞いか。ざまぁねぇな」
「ちがっ、壁! 壁が……」
「あぁ?!」
 漸く背後の壁に気付いたクィーロ。だが時は既に遅し。二つの銃口が火を噴いた。
 神代があけた穴の近くにもう一つ穴を作る。
 そして追撃で放たれた三発目が二つの穴を繋げ……。
「あ……」
 大きな穴の爆誕だ。

 いくら見つめたところで穴は塞がらない。
「え……えっと、僕はもうこれでお暇させてもらおうかな?」
 黒髪に戻ったクィーロがそそくさと立ち去ろうとする。その浴衣を神代はがしっと掴んだ。
 逃がさないぞ、満面の笑みがそう言っている。
「負けた方が責任を負うべきじゃないかなぁ」
「いつ俺が負けたんだ」
「だってびしょ濡れじゃないか」
 紺地の浴衣に比べ神代の灰の浴衣は確かに濡れて色が変わっているのが目立つ。
「いいや、これは冷汗だ」
 力強く言い切る瞳に迷いはない。
 そうこれは冷汗。今から起こるであろう仲間からの説教に対する冷汗である。
 それでいいのか、という相棒の視線は無視だ。
 情けなさと相棒との勝負の行方ならば後者を取る。
 それにクィーロだって同じくらい濡れている。二人の足元にできた水溜りをさす。
「誠一は水柱で全身濡れただろう。僕は全身濡れたわけじゃないし」
「水鉄砲じゃないからノーカンだ、ノーカン」
 どうしようもない言い争いは聞こえてくる足音に止んだ。
「ここはひとまず逃げ……」
 どちらともなく回れ右して抜き足差し……グイっと引っ掴まれる襟首。
「ひぃっ」
 背後から感じる怒気に情けない悲鳴が重なった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka2086 / 神代 誠一     】
【ka4122 / クィーロ・ヴェリル 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご依頼ありがとうございます。桐崎です。
この度は納期を遅延したうえ、お手数をおかけしてまことに申し訳ございませんでした。

相棒であるお二人のバトル再び……!
いかがだったでしょうか?
ただひたすら全力ではしゃぐ、そんなイメージで楽しく書かせていただきました。

話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。

それでは失礼させて頂きます(礼)。
パーティノベル この商品を注文する
桐崎ふみお クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年08月23日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.