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『それは雨宿りから始まった』
笹山平介aa0342)&ユエリャン・李aa0076hero002)&ガルー・A・Aaa0076hero001)&紫 征四郎aa0076)&柳京香aa0342hero001)&ゼム ロバートaa0342hero002


 その日、突然の雨に降られたゼム ロバート(aa0342hero002)は、通り沿いの民家の軒下でじっと空を見つめていた。
 手にした買い物袋には、彼の能力者であり同居人でもある笹山平介(aa0342)に頼まれたおつかいの品と共に、お釣りで買ったちょっと良い酒が入っている。
 帰ったらそれで一杯やろうと楽しみにしていたのだが――
 と、その視界に見覚えのある姿がちらりと映った。
(「あれは……」)
 花見の席で知り合った紅一点、ユエリャン・李(aa0076hero002)ではないか。
 彼女は予期せぬ雨にもかかわらず、きちんと傘をさして通りの向こう側を足取りも軽く歩いていた。
 少し重そうな袋を提げた様子から見て、やはり買い物帰りなのだろう。
 と、そこに一台の真っ赤な車が通りかかる。

 ざばしゃーーーっ!

 ユエリャンの足元で、茶色い水が盛大に跳ね上がった。
 束の間、呆然とその場に立ち尽くしたユエリャンは、猛スピードで去りゆく車に向かって呟いた。
「水たまりは避けるか徐行、免許を取る時に習うはずであるがな」
 足の先から頭のてっぺんまで泥を被ったユエリャンは、あまりに派手にやられすぎて怒る気力も萎えたといった風情だった。
 化粧が落ちかけたその顔は、ホラー映画のポスター一歩手前といった絵面になっている。
 慌てて傘で顔を隠し、とりあえずの処置として持っていたマスクで鼻から下を覆った。
「さて、どうしたものであるかな……」
 このまま傘とマスクで顔を隠し、家までの道を強行突破するか。
 思案するその耳に、聞き覚えのある声が届いた。
「おい、そこの……」
 顔を上げたユエリャンは声の出どころを探す。
「そこの、赤い髪……」
「おお、誰かと思えばロバート殿ではないか」
 どうやら彼は、傘がなくて困っている様子――


「あぁ? 10分以内に来いだ?」
 ユエリャンからの突然の電話に、ガルー・A・A(aa0076hero001)は眉間に思い切りシワを寄せる。
 傍で少し心配そうな表情を向けてくる紫 征四郎(aa0076)に頷き返し、ガルーは「わかった」と短く言って通話を切った。
「行くぞ、征四郎」
「ほあ、お出かけです?」
 話が読めないと首を傾げる征四郎に、ガルーは軽く肩をすくめて見せた。
「ユエちゃん、なんかずぶ濡れになったから平介ちゃんちまで着替え持って来いだとよ」
「ヘースケのおうち、です?」
 ユエリャンは確か、晩酌の酒を買ってくると言っていた。
 近所の買い物にも折り畳み傘とコスメセットは忘れない彼が、何故にそんな事態に陥っているのか。
 しかもこれから飲み会ってどういうこと?
「ったく手間かけさせやがって……まぁいつものことか。ユエなら連絡あるだけマシだ」
 ガルーは食卓に出されていた鶏の唐揚げに目を落とす。
「よその家に厄介になるんだ、差し入れのひとつも持ってってやらねぇとな」
 夕食のために準備したものだが、手土産に出来そうなものは他に見当たらなかった。
「ユエもどうせ遅くなるんだろうし、夕飯はどっか外で食うか」
 外食と聞いて、征四郎は目を輝かせる。
「征四郎はファミレスがいいのです!」
「ああ、そうすっかな……道順は聞いといた。行くぞ」
「はい! 征四郎はヘースケのうちに行くのはじめてなのです!」
「あ、そう言や俺様も初めてだったわ」
 玄関先に大小ふたつの傘の花が開く。
 大きい傘はゆっくりと、小さい傘はひょこひょこ揺れながら、雨の中へと歩き出した。

「家が近いからタオルくらい貸してやる……ついてこい」
「すまない、正直助かる」
 そんなやりとりの後、ユエリャンはゼムが平介や柳京香(aa0342hero001)と共に暮らす3LDKのマンションに転がり込んでいた。
「ほら、あなたも濡れていますよ?」
 ユエリャンが使うシャワーの音を聞きながら、平介はニコニコ笑顔でゼムにもタオルを差し出した。
「……ああ、すまん……」
 濡れた髪を無造作に拭いて、ゼムは独り言のように呟く。
「俺はただ、タオルを貸すだけのつもりだったんだが……」
「構いませんよ。ひどい汚れでしたし、これから飲むならさっぱりしてもらった方が良いでしょうしね」
 こくりと頷き、ゼムはテーブルに置かれた二本の酒瓶に目をやる。
 片方はゼムが、もう一方はユエリャンが買ってきた、銘柄は違うがいずれも「ちょっと良い」部類の酒だ。
「着替えは、家の者が届けに来るらしい……」
「では、お二人の分も何か作っておきましょうね」
 そう言ってキッチンに向かいかけた平介は、ふと足を止める。
(「あれ、ユエさんとガルーさんが征四郎さんの英雄だって、ゼムには話してなかった……?」)
 いやあ、うっかりうっかり。
「実はね――」
 しかし言いかけた平介の口は、キッチンから顔を覗かせた京香の一言で塞がれた。
「大丈夫よ、私がとびっきりの美味しいお菓子作ったから。しかも新作♪」
 その言葉に、二人は「今から闇鍋するから」と聞かされたような表情で動きを止める。
「何よ二人とも?」
「京香、俺は出かける前に言ったはずだが……やめておけ、と……」
「私も言ったはずよね、やめる気はないって」
 そうだった。
「これは挑戦なのよ、自分が今料理本を見ないでどこまで出来るかっていう」
 それは料理本を見て上手く出来る人が言う台詞であって、見ながら作っても見本とは似ても似つかない代物を作り上げる(ある種の)才能を持つ人が言う台詞ではない。
 などと言っても、聞く耳はどこか遠くに置き去りにしてきた模様。
「それに平介が言ったんだもの、何事も経験だから好きにやっていいって」
「……、…………」
 ゼムが無言で平介を見る。
 その瞳には心なしか非難の色が滲んでいる気がした。
「確かにそうは言いましたが、それはあくまで試作品ですから、お客様には――」

 ピンポーン♪

 玄関で鳴らされるチャイムの音に、平介はまたも口を塞がれる。
 その妨害がなかったとしても、結果は変わらなかっただろうけれど。
「いらっしゃいませ、お待ちしていましたよ」
 平介がドアを開けると、そこには予想した通りの二人が立っていた。
「悪いな平介ちゃん、うちのユエちゃんが邪魔してるって? ……あ、これ酒の肴にでもどうかと思ってな」
 ガルーが差し出した包みは、まだほんのりと温かかった。
「気を使っていただいてすみません」
 差し入れをありがたく受け取ると、平介は征四郎とガルーを部屋の奥へと招き入れる。
「さ、どうぞ上がってください」
「いいえ、征四郎たちは服をとどけにきただけなのですよ」
 征四郎が着替えの入った紙袋を手渡そうとするが、平介は首を降った。
「これから飲み会をするそうですから。そういうことは人数が多い方が楽しいでしょう?」
「でも征四郎はおさけ飲めないのですよ?」
「ええ、征四郎さんにはジュースで――おや、もう雨も上がっていますね」
 二人の間から空を見上げると、平介は靴を履き始めた。
「私はちょっと買い出しに行ってきますね」
 来客があるとは思ってもみなかったし、冷蔵庫の中身は恐らく京香が使ってしまっているだろう――バターや牛乳、フルーツはもちろん、お菓子作りには使わないはずの食材まで。
「すぐに戻りますから、お二人は中で待っていてください、ね?」
 有無を言わせず背中を押すと、平介は入れ違いに雨上がりの路上に飛び出して行った。

「おじゃまします、ですよ」
 きちんと挨拶をして部屋に上がった征四郎は、キッチンから漂う甘い匂いにヒクヒクと鼻を動かした。
「だれか、おりょうりしてるのですね」
 キッチンを覗いてみると、ちょうど良いタイミングで京香がくるりと振り向いた。
「あら征四郎、いらっしゃい♪」
「キョーカ、おりょうりできたのです……?」
 驚いて目を丸くする征四郎に、京香はふふんと鼻を鳴らす。
「そう、実は出来ちゃったのよ」
 そんな京香に、征四郎は尊敬の眼差しを向けた。
「さすがオトナのジョセーなのです! 征四郎はまだまだれんしゅう中なのですよ」
「じゃ、一緒に作る? と言ってもほとんど出来ちゃってるけど……そうだ、カップケーキの飾り付け、お願いしてもいいかしら?」
「はい! 征四郎におまかせなのですよ!」
 京香のエプロンを借りて袖をまくり、征四郎は作業台の前に立った。
 その前に並ぶ、小さな紙のカップに入った黒い物体。
「チョコレート……です?」
 甘い香りは漂ってくるが、その中にカカオの成分はない。
 けれど焦げて黒くなったわけでもなさそうだから、これはきっとチョコケーキなのだろう。
「きっとチョコのかおりを中にとじこめておく、マホウのようなワザがあるのですね」
 ひと口食べたら途端にチョコの香りが溢れてくるに違いない。
「やっぱりキョーカはすごいのですね」
 そのスゴいケーキに、征四郎はひとつずつ異なるデコレーションを加えていく。
 ホイップクリームを絞ってドライフルーツを載せたもの。
 白のチョコペンで模様を描いて、カラフルなアラザンをまぶしたもの。
 ハートや星の形が浮き出るように型抜きをして、粉砂糖をまぶしたもの、等々。
「あら、上手じゃない征四郎。とっても可愛くなったわ」
「むふん、それほどでもあるのですよ」
 京香に手放しで褒められ、征四郎は得意満面。
 確かにそれは、どこに出しても恥ずかしくない出来栄えだった――見た目と香りだけは。
「それじゃ、居間のテーブルに並べてくれる?」
「はいです!」
 征四郎がトレイを持ってキッチンを出て行くと、京香は冷蔵庫の扉を開ける。
 そこにはちょうどいい具合に冷えて固まったゼリーが入っている、はずだった。
「あら、おかしいわね?」
 カップを少し斜めにしただけで、粘性も弾力もないただのスープのような液体が流れ出る。
「どうして固まらないのかしら? あ、もしかしてゼリーって凍らせて作るものだった?」
 なるほどね、それじゃ冷蔵庫で固まらないわけだわ、うん。
「食後のデザートの頃にはちょうど良くなってるわよね、きっと♪」
 自称ゼリーを冷凍庫に入れ、京香は意気揚々とキッチンを後にするのだった。

 その少し前。
「9分25秒、ギリギリ合格であるな」
 バスルームの前に立つガルーの気配に気付いたのか、声をかけるまでもなくドアが細く開き、中から細いが骨格のしっかりした腕が伸びてきた。
 紙袋がひったくるように中に引き込まれ、ドアがぴしゃりと閉まる。
 が、その直後。
「犬、何だこれは」
 再びドアが開き、紙袋の中身を引っ掴んだ手が外に突き出された。
「何って、言われた通りに持って来てやったんでしょーが、10分以内に」
 何か文句があるかとばかりに言い返すガルーの目の前で、ユエリャンの拳がぷるぷると震える。
「確かにそうではある。そうではあるが、よりにもよって何故これを選んだのだ」
「何故って、そりゃ手近なとこに畳んであったし?」
 急ぎと言われれば、あれこれ見繕う間も惜しんで飛んで来るのは当然のこと。
「希望があるならきっちり伝えるべし。伝える努力を惜しんどいて文句たれてんじゃねぇって話だ」
「む……」
 服を握りしめた手がドアの向こうにそっと引っ込んだ。
「……確かに、具体的にどれを持って来いと指示しなかった、我輩の落ち度であるな」
 そのまま、ドアが閉ざされる。
 礼の一言もないそんな仕打ちにもかかわらず、ガルーは特に気分を害した様子も見せずにバスルームを後にした。
 それを見たゼムの目に、尊敬とも驚愕ともつかない光が宿る。
(「……二人とも、あの小さいやつの英雄だったのか……それにしても、こいつは……」)
 ゼムは身をもって知っている――女は怖いと。
 なのに、この男は恐れもせずに平然と言い返し、しかも黙らせてしまった。
 そればかりか女に囲まれた生活を送っているはずなのに、疲れた様子も何かを諦めた様子もない。
 何故だ。
(「……そうか……今ここでの姿を見る限り、こいつは女を黙らせるのが上手いんだ……」)
 だから平気でいられるのだ。
 ゼムはそう結論付けるに至った。
(「どうすれば、上手く黙らせることが出来るのか……」)
 これは恥を忍んで訊くしかない。
 幸い、今はこの場に二人きり――チャンスだ。
「……お前、男一人……能力者と赤髪……女二人が一緒で、よく平気で暮らしていられるな……」
「ああ? ユエちゃんはおt――」
 げしっ!
「ってぇっ!?」
「……どうした」
「なんか今、後ろから蹴られたんですけど!?」
 しかし振り向いても誰もいない。
 バスルームのドアに、赤い髪の先が挟まっているだけで。
(「ユエちゃん、何その電光石火の早業……!?」)
 あまりに速すぎて、ゼムは何も気付かなかったようだ。
「いや、ちょっと持病の神経痛がね?」
 大丈夫だからと言われ、ゼムは再び口を開く。
「……お前を出来る男と見込んで……女を黙らせる方法を、教えてもらいたいんだが……」
「黙らせる方法、ねぇ」
 暫し考え、ガルーは厳かに言った。
「良いところを褒めて優しく微笑む。貴女はヴィーナス、その心を映したかの如く美しい! ……これで大概のレディはイチコロだな」
 自分の台詞に感じ入ったように、ドヤ顔で頷くガルー。
 しかしゼムは微妙な顔つきでガルーを見返していた。
(「俺は喧嘩的な意味で訊いたんだが……」)
 だがレディに優しくというのは母親の教え、そんなガルーが喧嘩的な解釈をするはずもなかった。
「女より男の方が一般的に強いのだから、守らなければならない、だろ?」
「それは、理解しているが……俺の周りは世界が違う気がする……」
 とは言え、試してみる価値はありそうだ。
「良い所を褒める事は出来そうだが……その後のセリフは何だ……」
 ナンパ指南か。
(「あとで京香で試すか……」)
 いや、彼女をナンパする気はないけれど。

 暫くすると、キッチンからカップケーキを持った征四郎が姿を現した。
「カップケーキ、できたのですよ!」
 それに呼ばれるように、着替えを終えたユエリャンもバスルームから出て来る。
「ロバート殿、おかげでさっぱりしたであるよ。礼を言わせてもらおう」
「困っている女を見捨てるわけにはいかん……それだけの、こ……と……?」
 返事の途中で、ゼムは喉に何かが引っかかったように言葉を詰まらせた。
 その目はじっと、一点に注がれている。
 視線の先には、ラフな男物のTシャツに綿パンを身に付けたユエリャンの姿があった。
 化粧はしているが、その姿はどう見ても――
「……お……、おと、お、と……!?」
「ああ、バレてしまったな。化粧をすれば、彼氏の部屋着を借りた風に見えるかとも思ったのであるが」
 体型が露骨に出る薄手のシャツでは、それも無理な話だった。
「でもお肌も綺麗だし、きっちり着込めばわからないわよね」
 ちょっと羨ましいと、キッチンから顔を出した京香が苦笑い。
 暫し魂が抜けたように呆然とあらぬかたを見つめるゼム、しかし次の声でハッと我に返る。
「あら、平介は出てるのね? ちょうどよかった♪」
 何がちょうどいいのか。
「待ってる間によかったらどうぞ?」
 そう言って勧められたカップケーキは、かなり出来が良さそうに見えた。
 見えるだけ、とも言うけれど。
「こんなに人がいるならいろんな意見が聞けると思うのよね? 良かったら、味見してもらえないかしら……?」
「自分で味見したんだろうな……?」
 ゼムの問いに、京香はあっけらかんと笑って返す。
「してないわよ? でも見た目は完ぺきでしょ?」
「さいごのかざりは征四郎がおてつだいしたのです!」
「そうか、そいつは是非ともご馳走にならねぇとな」
 ガルーは征四郎にそう言うと、京香に軽く会釈をしてケーキを口に運んだ。
「悪いことは言わん、やめておけ……」
 ゼムの声が聞こえたが、とりあえず聞こえないふりをして――
「いただきます、京香さん」
 しかし歯を立てた瞬間、ガルーの自己防衛本能がけたたましく警報を鳴らし始めた。
「俺は言ったからな……?」
 ゼムがぼそりと呟く。
 だが、だがしかし! 男たるものレディに恥をかかせるわけにはいかないのだ!
「どう? おいしいかしら……」
 恐る恐る訊ねる京香に、ガルーは笑顔を返した。
「美味しいですよ、何味なんでしょうね……今までに食べたことがない感じで」
「そう? 良かった♪ まだあるから遠慮しないでね♪」
 鳴り響く警報、しかしそれをおくびにも出さず、追い討ちをかけられてもなお、ガルーは美味い美味いと平らげる。
「我輩甘いものはあまり得意でないのでな」
 そう言って押し付けられたユエリャンの分も、征四郎の分までも。
 それにつられてゼムも恐る恐る手を伸ばしてみた。
(「美味いだと? 奇跡でも起きたのか……?」)
 しかし、奇跡などなかった。
「……」
 セメントのように硬い何かが、ゼムの歯を攻撃してくる。
 それでも何とか噛み砕いて、飲み込んで……味などわからない。
「……帰りに平介から胃薬もらえ……」
 ガルーの耳元で、ゼムが小声で囁く。
 悲痛な叫びが上がったのは、その時だった。
「カップケーキ、征四郎の分がない……!」
 それは子供に食べさせるには危険すぎると判断したガルーの相棒心なのだが、そうとは知らない征四郎はガルーの袖を引っ張ってゆさゆさと揺さぶる。
 しかし、そこにタイミングよく平介が帰って来た。
「征四郎さん、美味しいフルーツゼリーはいかがですか?」
 プリンにケーキ、タルトもありますよー。
「フルーツゼリー! 征四郎はフルーツゼリーだいすきなのです!」
 好物を前に、ころりと機嫌を直す10歳児。
「平介、私の作ったカップケーキ、美味しいってガルーさんに褒められちゃった♪」
「そうですか、それは良かったですね」
 言いながら、何となく事態を察した平介は心の中でガルーに手を合わせた。
 ありがとうガルーさん、なんて優しくて心の広い紳士なんだ!
 そんなこととはつゆ知らず、京香はご機嫌だった。
「あの人にも、いつか食べさせてあげようかな」
「あの人、です?」
「うん、なんて言うか……彼氏、みたいな?」
 それを聞いて、征四郎が興味津々の様子で目を輝かせる。
「彼氏さんってどんな方です? きっとカッコ良いのでしょうね……!」
「年下なんだけどね……その、今じゃ歳の差なんて関係ないと思えるんだけど」
 恋バナは女子の大好物、惚気はリア充の特権。
 ほんのりと頬を染めた京香は、夢見るような口調で語る。
「手を握るだけでまだドキドキするというか、もちろんかっこよくて……色んな表情も見たいし、もっと喜ばせてあげたいし……」
 そこでハッと気が付いた。
 やだ思いっきりノロケてた!?
「せ、征四郎はどう? 好きな人はいる?」
 照れ隠しに話を振ってみると、征四郎は可愛らしく頬を染めて、しかし揺るぎない口調で答えた。
「征四郎の好きな人、かっこ良くてとてもやさしい、です。でもすごく大人の人だから。征四郎も早く、キョーカみたいに大人のレディーになりたいです」
「なれるわよ! なれるなれる!」
 きゃっきゃと言い合う二人の声を背に、平介はキッチンへと向かう。
「私は何かおつまみでも作って来ますので、皆さん先にやっていてください」
 せっかくだから、夕飯もみんなで。

 酒盛りが始まって、暫く後。
「ヘースケ! ちゃんと飲んでますか! つぎますよ!」
「ありがたく頂戴いたします……おっとっとぉ!」
 オレンジジュースで酔っ払った征四郎が、ジュースのペットボトルを抱えてお酌に回っていた。
 平介はわざとグラスを揺らしておどけて見せるサービスも忘れない。
「ガルーも……はゃ? グラスがないのです」
 さては注がれるまいと隠したか。
「まー、征四郎のジュースが飲めないというのですかガルー!」
 ぷんすか怒る征四郎に、しかしガルーは知らん顔。
 だがここで意外と言うべきか、ゼムが助け舟を出した。
「レディには優しく、ではなかったのか……?」
 見た目はちょっと怖いけど、ゼムは優しいお兄さん。征四郎覚えた。
「ガルーはおさけ弱いのですから、そろそろジュースでちょうどいいのですよ」
「弱くねぇだろ、強くねぇだけで」
「それを弱いというのですよ」
「いーや違うね、つーかそういうの屁理屈って言わねぇ?」
「ヘリクツはガルーなのですよ」
 既に酔いが回っているのか、ガルーはいつになくテンション高く征四郎とやりあっている。
 その隣では、ユエリャンが着々と杯を重ねつつ料理に手を伸ばしていた。
「これは笹山殿が作ったのであるか。なかなかに美味であるな」
「そうそう、平介ちゃんこんな良い腕してるとは思わなかったよね!」
「これ犬よ。いきなり人の話に割り込んでくるものでは……もう聞いておらぬか」
 やはり酔いが回っているのかと苦笑するユエリャンに平介が話しかける。
「ユエさん、今日はゼムに付き合って下さってありがとうございます」
「いやいや、感謝するのは我輩の方であるよ」
 一人酒も良いが、こうして大勢で騒ぐのもまた良い。
 ゼムにバレてしまったのは惜しい気もするが、カミングアウトにはちょうど良い頃合いだったのだろう。
「ゼム、お友達が増えて良かったですね♪」
 平介に軽く頷き返したゼムは、先のショックもすっかり抜けた様子でガルーと話し込んでいる。
「着物は良いな……俺もそれは好きだ……」
 昔を思い出すような、けれど記憶はぼんやりと霞んだままで。
 その歯痒さに、また酒が進む。

「あら、寝ちゃったわね」
 はしゃいだせいで疲れたのだろうと、京香は征四郎にタオルをかけて、実の妹にするようにその肩口をぽふぽふと叩く。
 そして自分用に残しておいたカップケーキを口に運び――初めて気が付いた。
 これは、ヤバい。
「……ちゃんと平介や友達、本に教わらないとダメね、ガルーさんはお腹大丈夫かしら……」
 そこにすかさず、平介がフォローを入れる。
「まあまあ、やる気があるんですから、京香はもっと上手くなりますよ♪ それにほら、シャーベットは征四郎さんも美味しいと――」
「あれはゼリーよ」
 ありゃ。
 その様子を見ていたゼムは、決意した。
 今こそあのガルー直伝・女を黙らせる、もとい褒めて持ち上げる台詞を使う時!

 しかし――

「言う相手は選びなさいよ……?」
 返って来たのは身も凍るような冷たい視線だった。

 おかしい、どこで間違えたのか――


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0342/笹山平介/男性/外見年齢25歳/ニコニコ潤滑油】
【aa0342hero001/柳京香/女性/外見年齢24歳/料理の道も一歩から】
【aa0342hero002/ゼム ロバート/男性/外見年齢26歳/知ってしまった】
【aa0076/紫 征四郎/女性/外見年齢10歳/素敵なレディになるのです】
【aa0076hero001/ガルー・A・A/男性/外見年齢33歳/めっちゃ紳士】
【aa0076hero002/ユエリャン・李/?/外見年齢28歳/バレてしまった】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました、お楽しみいただければ幸いです。

誤字脱字、口調や設定等の齟齬がありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。


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STANZA クリエイターズルームへ
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2018年08月24日

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