▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『『はじまり』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 彼女が十を少し過ぎた頃。
 彼女の父と故郷の男性たちは戦場へ駆り出された。
 残された人々は隷従といえる扱いを受けながらも、皆が帰る日を思いながら日々を耐えていた。
 そうして数年が過ぎた頃。
 彼女たちは、戦場に向かった者たちの無残な最期を知った。
 彼女は――アレスディア・ヴォルフリートは自分を抑えられなかった。搾取に耐え切れず、政府の軍人に詰め寄り歯向かった彼女は、返り討ちに遭い地に伏した。
 死を待つだけだった彼女を救ったのは、彼女が護るべき村人たちだった。
「早く、彼女を」
「誰か、アレスを……!」
 軍人が繰り出す刃が、無残に無力な人々の身体を引き裂いていく。
 怒声が、悲鳴が響き渡る。
「任せておけ……っ」
 長年、アレスディアの家に仕えていた老人が、体を赤く染めた彼女を抱え上げた。
 老人は走った。人々の思いと体を盾にして、動かないアレスディアをきつく抱きしめて、歯を食いしばり、振り返らずに。

「ここは……」
 アレスディアは、テントの中で目を覚ました。
 視界がぼやけていて、酷く気分が悪く、体は自由に動かなかった。
「気付いたのですね、よかった」
 傍らに女性の姿があった。心配そうにアレスディアを見詰めている。
「私は……」
「数日前に、あなたは瀕死の状態でここに運び込まれました」
 頭の中に靄がかかっており、自分誰なのかさえ良く解らないまま、アレスディアは女性の言葉を聞いていた。
 彼女たちは、戦地の慰問に訪れていた聖職者の一団だった。
 初老の男性に抱えられ、運び込まれたアレスディアを手当てをし、看病してくれたのだという。
(この傷は……私は……)
 アレスディアの脳が次第にはっきりとしていく。
 意識を失う前の、映像が頭に浮かびあがった。
 自分を抱えて、ここに運び込んだ人の姿も――。
「私を、ここに連れてきた人は? 皆は!?」
 そんなアレスディアの言葉に、女性は静かに首を左右に振るだけだった。
 起き上がろうとするアレスディアを、女性はそっと押しとどめた。抵抗出来るだけの力は、アレスディアにはなかった。
「食べ物を持ってきます。安静にしていてください」
 アレスディアは返事もせずに、きつく目を閉じていた。
 蘇っていく、記憶。大切な人々の姿と悲痛な声。

 明け方。付き添いの女性が眠ったその時に。
 アレスディアは這って、静かにそのテントを出た。
 体の痛みはもう感じない。激情だけに突き動かされ、立ち上がり彼女は一人故郷へ戻っていった。
 雨が体を濡らし、傷口から血が滲み、薄いピンク色の液体が流れ落ちていく。
 朝の光が、辺りを照らしていく。
 見知った村がある筈の場所を。
 だけれど、見慣れた風景は無く。
 いっぽ、いっぽ、近づいても、故郷の村の姿はそこにはなく。

 あったのは、焼け野原。
 近づけば、更に見えてくる。
 数々の――屍の姿。
 アレスディアは絶叫した。いや、声は出ていない。
 屍の女性が……大切な、隣人が手にしていた鉈を掴んで、探す。
 討つべき相手を。滅ぼした者を。
 既にこの場にはいない。ならば中央に行ってでも、敵を――。
 目を血走らせ、血をしたたらせて歩く彼女の腕をつかむ者があった。
「どこへ行く気だ」
 追ってきた聖職者の男性だった。
 アレスディアに付き添っていた女性の姿も、後方にあった。
「敵を討ちに」
「辿り着けはしない」
「ならば私も皆のもとへ。私の……せいなんだ、私が歯向かったから……皆、私を庇って……」
 アレスディアは刃を自分へと向けた。
 切っ先が彼女の首に触れた瞬間。
「失われた命を無駄にするつもりか」
 男性の強い叱咤の声が響いた。
「この者達は、お前を庇って死んだのだろう? お前が死んだら無駄死にではないのか」
「う……っ」
 アレスディアの手から、刃が落ちた。
 流れ落ちるのは、涙なのか、雨なのか、血なのかわからなかった。
 ただ、自分の全身から、何もかもが流れ落ちていき、彼女は崩れ落ちた。

 再び聖職者たちに助けられた彼女は、傷が癒えたあとも命を無駄にするようなことはなかった。それは、できなかっただけで、生きる意味はなくしたままだった。
 死ねないから生きているだけ。
 自分が死ねば、自分を生かすための盾となった人々の死を無駄にしてしまうから。皆が生きた証を奪ってしまうから。
 そんな毎日を過ごしていたある日。

「助けて!」
「誰かーッ! 子どもがーーッ!!」
 山道を歩いていたアレスディアの耳に、叫び声が届いた。
 振り向いたその先に、魔物に襲われる人々の姿を見た。
 武装していない、一般人の旅の一行だった。
 傷ついた男性が、子どもを必死に庇おうとしている。
 鋭い牙と爪を持つ魔物が、飛び掛かろうとしたその時。
 アレスディアの体が、勝手に動いた。
 魔物が振り下ろした爪を、盾で受け止めていた。
 そのまま盾を思い切り振るい、魔物を叩き落とす。
 地に体を打ち付けた魔物は、キャンキャン声を上げて逃げていった。
「あなた!」
「大丈夫だ。怪我はないか」
 男性の妻と思われる女性が駆け寄り、男性が子どもに声をかける。
 子どもは泣きながら、両親にしがみついた……。
 人々が喜び合う姿に、アレスディアの心がすっと軽くなった。
 彼女はこれまで、重い塊を心と体に背負っている感覚を、いつも受けていた。
 だけれどこの瞬間に、塊が少し溶けたのだった。
「ああ、そうか。誰かに護られた命なのだから、誰かを護るために使い果たそう」
 彼女は微笑みを浮かべていた。
 その微笑みは、どこか虚ろだったけれど。誰も、彼女自身も気付くことはなく。
 そっと、その場を後にした。

 それが、彼女が命を賭して『護る』理由。
 それだけが、死んでもいい理由だと心の中でルールが作られた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

お世話になっております、ライターの川岸満里亜です。
アレスディアさんの過去の出来事のご依頼、ありがとうございました。
理由を知ることができ、アレスディアさんの心の状態が解ってきまして嬉しいです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
イベントノベル(パーティ) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年08月24日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.