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『紅の女王と黒薔薇の姫 』
シルヴィア・エインズワースja4157)&天谷悠里ja0115

 女王の口付けは花嫁を黒に染めた。

『女王』への絶対の忠誠と愛はそのまま黒の女王へと向けられることとなったのだ。

  ***

 シルヴィア・エインズワース(ja4157)が目覚めるとそこは黒の女王の寝室だった。

 紅の君、天谷悠里(ja0115)との愛の記憶とその時感じていた愛と忠誠の喜びが蘇っていることに気がつく。

(夢でも見たのかしら)

 ずっと忘れていた記憶を夢の中で取り戻したのだろうか、そう一瞬考えたがすぐにそれもどうでも良いことだと思えてしまう。

 それは過ぎ去った過去のことだ。
 その時は確かに彼女が愛しくその愛に溺れていたが、他の女王として外から見てみれば神聖な誓いを淫らに汚す淫乱。
 服従の誓いも捧げた素晴らしい黒の女王に比べれば彼女のなんと浅ましいことか。

「我が女王様はどこにいらっしゃるのかしら」

 愛しい己が主人を求め彼女はベッドを降りた。

  ***

 幾ばくかの日が過ぎたある夜、シルヴィアは黒の女王に言われ紅の君の部屋を訪れていた。

「失礼致します」

「あら、どうしたの?」

「実は、お話があり参りました。この部屋を出るまでのひと時は以前の……紅の君の姫として振る舞うことを許されております。今お時間いいでしょうか」

 黒いロングヴェールを下ろしたその表情は夜の闇に溶け見えない。

「そう……昔のことを思い出したの。あの頃の貴女は情熱的だったわね」

(私の姫として……黒の女王の計らいね)

 話の内容には察しをつく。
 悠里もとい美紅は愛の思い出を口にする。

「はい、すべて覚えています。私に忠誠と服従の喜びを教えて下さったのは美紅様ですから」

 美紅はシルヴィアに手を伸ばしヴェール越しに触れ口付ける。
 が、シルヴィアからは声ひとつ、身じろぎひとつ返ってこない。

「そう。じゃあ、昔に戻って愛し合ってみないこと?」

「そのことは本当に感謝しております。ですが、そのようなことはいけません」

「いいじゃない。今は私の姫として振る舞うのでしょう?」

 からかうような、試すような物言いにもシルヴィアの声は揺るがない。
 敬意を払いながらも冷え切ったその言葉に美紅はゾクゾクするような快楽を覚えた。

(あぁ、私の理想の姫になったのね)

 あの時口づけをしなかったのはこれが見たかったからだ。
 漆黒の道を歩む彼女は二度と手に入らない、それだからこそ良い。
 だからこそ愛おしい。

「私は黒の女王に使える姫として、黒の姫として生きていくことを自分で決めました。近々正式に花嫁にして下さると女王様からもお言葉を頂いています」

「それで?」

(何が楽しいのだろう)

 愉しそうに応える美紅と対面している今もシルヴィアの心は失望と軽蔑で冷えていく。

 自分には女王がいる。
 彼女には花嫁がいる。
 それなのに自分に懸想し誘惑する美紅の思考がシルヴィアには分からないし、分かりたいとも思わない。

 義理や礼儀を重んじていなければ、思い出に礼など言うこともなかっただろう。
 だが、それを守らないことは騎士としての彼女自身が許さない。

「今日はお別れを伝えに来たのです」

「お別れ?」

「はい。私が美紅様をこのように呼ぶことはもうありませんし、2人でお会いすることもないかと思います。これからはどうか黒の女王の花嫁として末長いお付き合いをして頂ければ嬉しく思います」

 ヴェールをあげることもなく、口づけを返すこともないまま用件は済んだとばかりにシルヴィアは恭しく頭を下げると踵を返した。

「送るわ。と言っても扉の向こうまでだけれど」

「ありがとうございます。美紅様」

「ねぇ、シルヴィア」

 美紅がこの部屋でシルヴィアの名を呼んだのは初めてだった。それは昔のような情愛の念がこもった声だった。

「何でしょうか?」

 それでもシルヴィアの声は依然として冷たい。
 いや、まるで名前を呼ばれることすら嫌悪するかのような今までで一番冷たい声だった。

「私は貴女も愛しているのよ。本当に」

「ありがとうございます」

 美紅の本音をシルヴィアは社交辞令的に返した。
 その言葉の意味を聞く気も起きないといった様子だ。

 そのままシルヴィアは扉を開ける。

「では、また。おやすみなさいませ、紅の君」

「ええ。黒の女王によろしく伝えて頂戴。……黒の姫もよい夜をね」

 シルヴィアと呼ばないことを確認すると、シルヴィアは振り返らず去っていった。

「楽しくなりそうね」

 その姿を見ながら無意識的に出た呟きにすれ違うようにやってきた白の姫が小首を傾げる。

「おかえりなさい。それで、黒の女王はなんと?」

「はい……それで構わないと」

 抱きしめ淫らに唇を重ねながらお使いの成果を尋ねる。

『ここに永遠に残り共に生きたい』

 それすらも可能にする黒の女王に感謝しながら白の姫の肌に後を残していく。

  ***

(白の姫も黒の姫も私のもの)

 妖艶で淫蕩な真紅の女王・美紅として白の姫を傍らに侍らせ、黒の姫を理想の姫をして愛でる。
 さらには黒の女王とも愛を交わす。
 全ては美紅の望むまま。

 ここで続く永遠にも続くかと思われるような甘く廃退的な生。
 そんな未来を考えるだけで官能の悦びに体の芯が熱くなる。

「本当に。楽しくなりそうだわ……」

 薔薇の饗宴はその花が枯れるまで永遠に終わらない。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja4157 / シルヴィア・エインズワース / 女性 / 23歳 / 黒薔薇の姫 】

【 ja0115 / 天谷 悠里 / 女性 / 18歳 / 紅の女王 】
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年08月24日

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