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『挑め! 忍城! 』
日暮仙寿aa4519)&世良 杏奈aa3447)&ルナaa3447hero001)&不知火あけびaa4519hero001)&美空aa4136)&小鉄aa0213)&R.A.Yaa4136hero002)&稲穂aa0213hero001)&GーYAaa2289)&まほらまaa2289hero001

「サムライガールなニンジャガールと?」
「忍ばないNINJAの?」
「「忍城攻略大作戦ー」」
 いえー。不知火あけびと小鉄がハイタッチを決めたわけだが。
「侍なのか忍なのかは置いておくとしてもだ。もうそろそろガールはどうかと思うんだけどな」
 日暮仙寿が渋い顔であけびに言い。
「こーちゃんはちゃんと忍びなさい。ドレッドノートのスキル確かめにいったエージェントから『参考画像、なに見てもニンジャが出てくるんだけど』っていうとまどいの声が寄せられてるんだからね」
 稲穂が小鉄にお説教をかます。
「十月までガールだから! 未成年だから!」
「いやいや! たとえ忍ばずとて心は刃! 押して忍ぶが拙者の忍道でござるゆえニンニン!」
 ふたりの言い訳はさておき。
「忍者屋敷ってあたし初めて! すっごく楽しみね、杏奈」
「ええ、ほんとに楽しみね♪ ……私の空手、どこまで通じるかしら?」
 無邪気に声をあげるルナの後ろ、なんだか鬼気を垂れ流す世良 杏奈である。
「ニンジャとかヤシキとかマジかったりー。俺ちょっぱやで押し入れとか探すわー。そんでしまっちゃわれるわー。押し入れなかったらミサイルでみんな星になりゃいいわー」
 だらだら言い張るR.A.Yの脚を美空がゆっさゆさ。
「R.A.Yちゃん、ミサイルで解決できる問題なんて世界にはあんまりないのでありますよー」
「でもほんと楽しみだな。子どものころになりたかった職業ナンバーワンって“最強の忍者”だったし」
 目の前の城を見上げるGーYA。
 病院へ閉じ込められていた彼の楽しみは、ベッドの上で本を読む程度のものだった。その中に十勇士の物語があって。
 難攻不落の城を前に、GーYAは強く拳を握り締めずにいられないのだった。

 忍城。ちなみに石田三成の水攻めに耐え抜いたことで有名な忍城(おしじょう)ではない。忍城(にんじょう)である。
 H.O.P.E.と提携する企業のひとつに鉄道会社があるのだが、そこが運営している遊園地で夏休み企画が開催されることになったのだ。
 曰く、H.O.P.E.監修による安全安心設計な超本格派忍者屋敷!
 企画を持ち込まれたH.O.P.E.東京海上支部広報課はおののいたものだ。うちシャドウルーカーいるけど忍者いねぇっすよ!?
 しかし。残念ながらいたんである。忍なのに侍を志すガールとか、忍ぶより殴るほうが得意なNINJAとかが……
 かくて一応は自称じゃない忍者たちの監修とH.O.P.E.のムダな技術力とフットワークが生かされ抜いた結果、わずか二週間で遊園地内に城型の忍者屋敷が打ち建てられて――忍者はひと晩で建たなかったことにブーイング――アトラクションは無事好評を得たのだった。
 だがしかし。話はここで終わらない。
 開催期間を終えた忍城を前に、エージェントたちが申し出たのだ。
 撤去前に自分たちも挑戦したい!
 広報課は悩んだ。一般人用のアトラクションをリンカー用にするとなれば、それは仕様を調整しなければならなくなる。ガチ殺す系でありながらギリギリ死なない系にだ。
「試験運用ということで、まずは数組のエージェントに挑戦していただくのはどうでござろう? その上で調整すればいいでござるよ」
「そういうことなら私、なにがあっても大丈夫な人たち知ってますから!」
 かくて東京海上支部が誇るハイレベルリンカーたる杏奈とGーYA、もうひと組にあけびからの吸盤矢文が飛んだのだが……狙いを外した一本を頭に突き立て、あほ毛といっしょにびよびよ揺らす美空がやってきたりしつつ、現在に至る。

「今のジーヤはその夢にどれくらい近づいてるのかしらねぇ」
 艶然と薄笑むまほらま。
 GーYAは言葉を返そうとして、口ごもる。
 ガキっぽいて思われたかな。って、なんで俺、こんなこと気にするんだよ。
 今さら気取るような相手じゃない。気取りたい相手でもない。でも。自分へ向けられるまほらまの笑みがなにを意味するのか、なぜか気になって――
「どうした?」
 仙寿に「なんでもないです!」、あわてて応えてGーYAはごまかし笑い。
「――では、そろそろ始めようでござる」
 ぽんぽん、手を打って一同の目を引きつけた小鉄が言い。
「私と小鉄さんは運営側だから参加しないけど、みんなは天守閣目ざしてね」
 あけびが添えて、忍者ふたりは一同を迎え討つべく城へ向けて踏み出した。
「ちょっと待て。リンカー用ってことは共鳴しないと危ないんじゃないのか? それよりも招待したみんなが楽しめるように考えているんだろうな?」
 言い募る仙寿にあけびは生真面目な顔を振り向けて。
「私と小鉄さんのメインテーマは忍の無情と無慈悲だから」
「おまえ――まさか安全面を全部犠牲にしてないだろうな!?」
「ふふ、気づいちゃいけないことに気づいちゃったね仙寿様……退散!」
「待てあけび!」
 仙寿が止めるよりも早く、ぼん。あけびは煙玉の白煙に紛れて小鉄と共に消えた。
「危ないと思うから危ないのであります。危なくないと思い込めば“危な”くらいですむものなのですよ」
 やけに達観した顔を美空がうなずかせるが、“危”の字が丸っと残っている以上はがんばって思い込んだところで普通に危ないんじゃないだろうか?
 と、R.A.Yが仙寿の肩を叩き。
「外で寝てれば危ねーとか関係ねーぜ?」
 いや、「どーよ」みたいな笑顔で言われても……
「大丈夫! 仙寿さんも空手の力を信じて!」
「なにが来たってあたしがぶっとばしちゃうんだから!」
 腰の入った中段突きを見せる杏奈と、ビンタの素振りを繰り返して角度を確かめるルナ。
 おかしいおかしい。ルナはとにかく、杏奈はもっとこう、淑やか系じゃなかったか? そもそも仙寿は剣士だし。
「こーちゃんとあけびちゃんがやらかしたら叱ってあげる」
 忍者たちのお目付役として参加している稲穂が請け負った。
 なにせ小鉄とあけびはふたりそろうと実に無茶なニンジャっぷりを連携させる。そこでの仙寿の苦労を見ているだけに、稲穂としては積極的にツッコんでいこうと決めていた。
 仙寿にしても、頼みの綱は小柄でかわいらしいオカンだけというのはまちがいない。
「頼む」

 なにはともあれ、忍城攻略スタートです。


 一同を最初に待ち受けていたのは城へ続く階段なのだが……まわりが石垣なのに木枠で組まれた段には障子が張られていて、違和感どころの騒ぎではなかった。
「……さすがにおかしくないか?」
 仙寿の言葉にGーYAがうなずき。
「っていうか、見えてますよね」
 障子の向こうに、忍ばないNINJAの黒い影が。
「ふふふ。なにも知らずに上がってきた敵を裏からぶすーっでござる!」
 しかも本人からの解説つき!
「敗因は距離感、でしょうか?」
 小首を傾げる杏奈の横を、美空がすたたーっと駆け抜ける。
 その腕にはカチューシャMRLから引っこ抜いてきたミサイルがランスよろしく抱えられていて。
「まずい! みんな下が」
 仙寿の警告が、爆音にかき消され、爆風に吹き飛ばされた……
「槍でぶすーっされる前にぷすーっと行くのであります。先手必勝!」
 空色の髪を黒アフロに変えた美空がしたり顔で言い、「こらっ、爆発はだめよ」、稲穂に叱られる中。
 逃げるのが面倒だったせいで、美空と同じく黒アフロと化したR.A.Yは静かにかぶりを振った。
 このときの心情を後に彼女は語ったものだ。『なんかこう、めんどくせーとか言ってらんねーなって思い知ったわけよ……』。
 こうしてR.A.Yのやる気が出たところで、一同はさっきまで階段だった大穴を跳び越え、城内へと進む。

「不知火殿ぉ! 敵はやる気どころか殺る気でござるよぉぉぉぉ!」
 天守閣へ過剰な忍者アクション(前転とか宙返り)で跳び込んできた小鉄がガクリ、力尽きた。
「さっきまですごく元気でしたよね?」
「確かに」
 待機していたあけびに指摘され、すっくと立ち上がった小鉄は、口元を隠す覆面の角度を正す。ちゃんと隠れているものを隠しなおすのは、小鉄ならではのこだわりなのだろう。
「それにしても力技で突破されましたねー」
 最初の明かり取り階段は小手調べ。それをどうエージェントが突破してくるかを計るためのものに過ぎなかった。まさか小鉄さんがあんなに忍ばないとか思わなかったけど……。
「でも。向こうがやる気なら私たちも思いっきりお相手しましょう!」
 にっと笑ってサムズアップするあけびに、こちらは笑っているのか知れない小鉄もサムズアップを返し。
「潤沢な予算で造りまくったびっくりどっきりからくりの数々、披露するでござる!」


 廊下は当然のごとく鶯張りである。
「確かにケキョケキョって聞こえますねぇ」
 ルナの手を取り、おそるおそる足を進める杏奈が息をついた。
「あたしより杏奈のほうが音大きくてずるい!」
 ルナはジャンプして床を鳴らしてみるが、ギョッ、ギッ、詰まった音が鳴るばかりである。
「む〜、つまんない」
 ――こちらの廊下、床板とそれを支える根太との間に隙間がある。その隙間を維持している金具が“目かすがい”で、人が踏むことで床ごと下がり、根太側に自らを固定する釘とこすれ合って音を立てるのだ。
「静かに歩くほうが音、響くのよ」
 稲穂がほっこりルナに言う。
「ほんと?」
 そっと踏み出したルナの足元で、ケキョ。床が鳴いた。
「鳴いたよ!」
 その姿をあたたかく見守る杏奈である。
「こっそりしてもあんまり音しないのでありますよ?」
 小さくキッキッと鳴るばかりの床を解せぬ顔でながめる美空と。
「俺んとこなんかやべー音すんだけど」
 ゲギギグギ、床に濁った悲鳴をあげさせるR.A.Y。
 軽すぎる能力者と重すぎる英雄の、本人以外には理由丸わかりな謎であった。
「俺たちのいる場所、もう忍に察知されてるってことだよな。襲撃とかあるのかな?」
 わくわくと辺りに眼線をはしらせるGーYAにまほらまはうなずきを返し。
「落とし穴、釣り天井、怪物の殺到、いろいろあるわよねぇ。共鳴しておく?」
「まだだ」
 GーYAは強く言い返し。
「できるだけ自分の力で挑んでみたい。不知火さんも小鉄さんも共鳴してないんだから」
「その心意気やよし!」
 天井からする〜っと顔を出したあけびがびしり、親指を立てる。
「敵襲であります! 突撃突貫!」
「待てって! さっき怒られたばっかだろ! つかミサイルで解決できる問題なんざそうそうねーんじゃなかったか!?」
 ミサイルを引き抜こうとする美空を押し止めるR.A.Y。
 あけびはそんなR.A.Yからどこか遠くを見るような目をそむけた。
 なんだろう、すごくなつかしいような気がするのは。
 そしてそれは自分だけじゃなく、R.A.Yも感じていることだと思う。いや、思うなんてあいまいなことじゃなく、確信している。
 試験運用に招く三組を決める際、経験では少々劣るR.A.Yを招いたのはあけびの独断だ。矢文の狙いが逸れて美空に当たったのはイレギュラーだけど。
 ……と、浸っている場合じゃない。こほんと咳払いして。
「侵入者が発見されましたってシチュエーションだからね。一般公開のときはカラーボールが飛んでくる仕様だったんだけど、リンカーは当然、それじゃすまないよー」
 あけびの顔が引っ込んですぐに仙寿は気づく。
「天井が普通より低い。得物を振り上げると身動きがとれなくなるぞ」
 下にばかり気を取られていて気づかなかった――と後悔する間もなく、向こうの壁がどんでん返し、内から現われたピッチングマシーンがなにかを撃ち出した。
「十字手裏剣だ!」
 とっさにドローミチェーンで打ち払ったものを確かめ、GーYAが告げた。さすがこのあたりは憧れていただけにくわしい。
「これは棒手裏剣か」
 鞘から半ば引き出した守護刀「小烏丸」で弾いた手裏剣に仙寿がコメント。
「リンカー用ったって、これ刺さったら普通にやべーぜ」
 今だに突貫しようともがく美空を抱えて手裏剣をかわしつつ、R.A.Yは舌打ちを打った。
「ルナ、流れ手裏剣に注意してね!」
 畳んだ膝を持ち上げ、手裏剣を外へいなしておいて踏み込み、続く一本をその脚を伸ばして下から蹴り上げる杏奈。さっそく空手が大活躍である。
「床がふわふわしてて動きづらいー!」
 キュキョキョキョ、逃げるルナの足を追うように鶯張りが鳴り響く。
 構造上、しっかりと固定されていない床は動きを微妙に阻害する上、低い天井は跳躍も許さない。幅も狭いから、カチューシャを展開するどころか大きめのAGWを振り回すことも封じている。実にいやらしい仕様だった。
「そういえば家にもこんなのあったわねぇ」
 腰に据えた重心を上下させず、足捌きだけでかわしていく稲穂がしみじみと。
「思いだすならあれの止めかたにしてくれ」
 苦い顔を振り向けた仙寿に、稲穂ははたと手を打って。
「スイッチがあるはずよ? お客様が来たとき危ないもの」

「まほらま、大丈夫か?」
 前に立ってかばったまほらまに背中越し、GーYAが問う。
「あたしは大丈夫よぉ。でもだんだん手裏剣が飛んでくる間隔、短くなってないかしら?」
 十字、棒、三方、五方、八方、菱、火車剣……バラエティ豊かな手裏剣が次々襲い来る。最初はぼちぼちだった間隔が、まほらまの言うとおりどんどん短くなっているのだ。
「あれを止めなきゃだな」
 稲穂曰く、あれにはスイッチがあるらしい。たどりつきさえすればなんとかなる。そしてチームに道を拓くのは前衛の仕事。
 ツヴァイハンダー・アスガルに換装したGーYAが目線で合図を飛ばせば、心得た他のエージェントがその後ろへついた。そして。
「行きます!」
 大剣の腹を盾としたGーYAを先頭に突撃。
 直前まで着いたところで仙寿と稲穂が代わって手裏剣を払い。
 杏奈が右から、ルナが左から機械に取り付いてスイッチを探し当てて停止。
 突貫を目論んだ美空をR.A.Yが押さえ。
 先陣を務めたGーYAは、自分の肩や腕に突き立っていた手裏剣を、他の面々から見えぬよう捨てた。
 その様を見届けたまほらまは笑み。
 いい感じだったわよぉ、ジーヤ。
 胸中で賛辞を送ったのは、今はまだ自信がなかったから。そう、GーYAに誰かの顔や行動を重ねていない自信が。
 面影から解き放たれたらあたし……なんて、今考えてもわからないことだから。
 そのときが来たときにあらためて考えよう。こうしてGーYAを見守りながら、ゆっくりと。

「あっさり突破されました! やっぱりマシンの数増やさないとですね。上からも後ろからも飛んでくるようにしたいです!」
 天守閣へ戻ってきたあけびが小鉄に結果と希望を述べた。
「それでは本当に大変なことになって稲穂に怒られるでござる……」
「あ、そうですね。稲穂に叱られるのは怖いです」
 ふたりはしみじみうなずきあって、気を取りなおした。
「マシンを増やすのは検討するとして、ほかの罠でがんばりましょう!」
「承知。なにせ庭には、我ら忍の黒き歴史のすべてを詰め込んだアレがあるでござるしな」
 力ない笑みを交わし、ふたりはそっと涙を拭う。


『この先は行き止まりであります。そして美空は穴の底なのであります。竹槍がちくちくするのでありますよ』
 敬礼してるんだろうなという感じで、美空からの連絡、その最後の『よ』が揺れた。
『なんで罠全部きっちり引っかかんだよ……。俺は美空回収して追っかけるからよ。先行っててくれ』
 こちらは絶望感まんまんなR.A.Yの連絡である。
「と、いうことらしい。とにかく迂回路を探さないとな」
 仙寿がため息をついてスマホをしまい、横を見た。
 そこにあるものは、見事な回遊式庭園。大きな池を中心に据え、築山や小島、名石等々で再現した名勝を巡り楽しむ日本庭園である。
 ただし、この庭に路や橋はない。一般用に公開されていたときには休憩所としての役割もしていたのだが、リンカー用に改築するにあたって撤去されていた。
「あの池泳げってこと?」
 ルナの疑問に杏奈がかぶりを振り振り。
「道具は用意してあるみたいよ」

 忍者+水と言えばあれである。そう、足につけるタイプの水蜘蛛。
「右足が転ぶ前にひだっ」
 左足を出す前にバランスを崩し、杏奈は池に没する。足に浮きがついているせいで上体を引き上げることができない。
 それでもなんとかがぼぼべばぼっ! なんとか顔だけ引き上げて息をついた。
「ALブーツ持ってくるんだった……!」
「杏奈、弱気はだめよ! 気合とか根性とばぼべぶぶ」
 ルナもあっさりひっくり返って、池の水を激しく泡立てる。
「やばい! これ、ぜんぜん歩けない!」
 逆さまになった状態から、なんとか顔だけ水上へ突き出したGーYAがわめく。
「普通に泳ぐほうがいいんじゃない?」
「それは負けた気がするからいやだ!」
 小さく苦笑し、その横を平泳ぎで去っていくまほらまだった。
「ちなみに舟タイプの大きな水蜘蛛を漕いで渡ったというのが最近の説でござるがな」
 仁王立ち、ただし完璧に逆さまとなった小鉄が、水中で解説する。声の出どころは謎だ。
「こーちゃん?」
 彼が右足につけた水蜘蛛の上、同じく水蜘蛛を履いた足をちょこんと乗せてかがみ込んだ稲穂が問いかける。
「……なんでござる? 拙者少しずつ沈んでいくばかりか腹ぺこな鯉どもに餌ではないと気づかれ、キレられているのでござるが」
「この池、攻略のしようがないわよね? どうしてそのままにしといたの?」
「忍の怨嗟でござる!」
 くわっ。水中で小鉄が決め顔。その間にも怒れる鯉にかじられて超痛い。
「忍が不可能を知りつつ長年挑み続けてきた水蜘蛛での水上歩行、その理不尽と無念をぜひとも味わえでござる!」
「八つ当たりはやめろ」
 水蜘蛛につかまって泳いでいた仙寿が渋い顔で言う。
「次はもう少しきちんと楽しめるアトラクションにしてくれよ」
 そして小烏丸の切っ先で小鉄の左足の水蜘蛛に穴を開けた。
「次もこんなのだったらお説教だからね?」
 苦無「極」の先で右のほうにも穴を開けた稲穂は、水蜘蛛をパージして古式泳法。仙寿と共に沈み行く小鉄を残して去って行った。
「え、無理なんですか!? じゃあここまでの私の苦労は――」
「ゆるさない! 忍者絶対ゆるさない!」
「……」
 忍の真実に打ちのめされた杏奈とGーYAがヘイトを滾らせる中、逆さまになったままどうにもできなくなったルナは静かに息絶えるのだった。まあ、もろもろの事情ですぐ生き返ったけれども。

「忍の恨み辛みを思い知らせてやったでござるよ!」
「イメージ悪くしただけのような……」
 三度天守閣で顔を合わせる濡れ鼠の小鉄と苦い顔のあけび。
「しかしながら、ちゃんとした忍者屋敷っぽいのを出さないとガチでやばいでござる」
「抜かりなしです。古式ゆかしい王道のを用意してありますから! 今度こそ全員血祭りです!」
「血祭り、でござるか?」
「えっと、はい。血祭りです、けど? ……あれ?」

 一方の美空はR.A.Yをお供に、仲間と合流すべく別ルートを探索中だ。
「行き止まりと思わせて隠し階段があったりするのでありますよ」
 美空は義腕状態を取らせたヌアザの銀腕で、ごんごんと行き止まりの壁を叩いていく。
 こん。鈍かった音が唐突にかるく響き、その裏に空洞があることを示した。
「ここでありますね」
「俺さ、なんかすげーやな予感すんだけど」
 R.A.Yの言葉に美空がきょとんとした瞬間、かちり。ちんまいつま先が踏んだ床からいい音がした。
 果たして迫り上がった「ここ=壁」の先、蝋で磨かれた急勾配が現われて――ゴッ!! 上から転がり落ちてくる巨石!
「うわー、すごー」
「すごーじゃねー! 逃げんぞ!」
「あ、落とし穴であります」
「またかよ! 跳べ! 見つけといてまっすぐ落ちんなおいー!」
「怪しげな掛け軸であります」
「普通にめくんな! そんで裏の穴に入んな!」
「釣り網であります」
「だーから! 普通にさらわれんなよ!」
「矢の追い撃ちであります」
「全部刺さってんじゃねーか! それよかなんでノーダメージなんだよ!?」
「痛くないと思えば“痛”で済むものなのでありますよ?」
「肝心なとこ全部残ってんじゃねーかよー!」


「おーちーるーっ!」
 唐突に坂と化した階段をつるんと滑ったルナ。下には当然のように落とし穴が口を開けていたりして。
「ルナ!」
 しかけこそなかなか事前に発見はできなかったが、常に備えを怠らずにきた杏奈。体を横にして摩擦を減らし、一気に坂を滑り落ちて落とし穴を塞いでおいて、転がってきたルナをキャッチ。
「杏奈ありがと!」
 杏奈は見かけからは想像できない腹筋と背筋の強さで身を起こし、しかけを解除してくれた稲穂に手を振ってにっこり。
「ルナが無事でよかったわ。でも忍者屋敷って本当にしかけだらけなのね。でも、そろそろ目に見える相手が出てきてくれないかしら?」
 コッ。杏奈は笑顔のまま短く息吹く。
 あー、忍者逃げてー。出てきちゃったら杏奈もう止まんないから。杏奈の空手モードの凄まじさを知るルナは願わずにいられなかった。

 こうしていくつかのしかけをクリアした一同は、とある部屋の前にいる。
「見た感じ普通っぽいですけど……」
 なにかが飛び出してくるような事態に備えて先頭に位置取るGーYAはがとなりの仙寿に振る。
「ああ。あけびや小鉄が潜んでいる様子もないし、入ってみるしかないな」
 観の眼で室内の気配を探っていた仙寿もうなずいた。
 一同は一歩、二歩、進む。
「おかしいところなんてないのに、なんだかおかしいですね」
 杏奈はくらくらしている。ただ立っているだけなのに、たまらなく気持ち悪い。
「この部屋、傾いてないか?」
 目をすがめた仙寿の指摘。
 転がせるものがないので確定はできないが、そう言われてみれば床が傾いでいるような……
「壁の造りでごまかしてるみたいだけど、斜めになってるわねぇ」
 まほらまが壁に指をついて測り、うなずいた。この部屋の床、奥に向かって傾斜している。
「目の錯覚を利用したトラップなのであります!」
 なにやら真っ黒な美空がげんなりと顔をしかめるR.A.Yを伴って部屋へわーっと突入。
「中に入ったら戸はちゃんと閉めとかないとであります」
 ぴしゃりカチリ。
「……おい、これってまさか」
 R.A.Yが引き戸を引き開けようとしたが、木と紙で作られているだけなはずの襖はまるで動かない。
「閉じ込められてんじゃねーかー!!」
 内に対ライヴスコーティングされた金属板でも仕込まれているのか、殴りつけた拳が襖に跳ね返された。
 と。壁の一部がどんでん返し、裏に貼りついていたあけびの笑顔が現われる。
「入ったら最後、絶対出られないしかけ部屋! みんなの命もここで終わりだよ!」
 キリキリキリキリ。上から迫り落ちてくる釣り天井。いつの間にか突き出した無数のトゲトゲが実に恐ろしい。
「泣いてあやまったらゆるしてあげるかもよー? ゆるさないけどねー」
 ふははー。悪い顔で高笑いするあけびが、くるりくるり、回転。
「たとえあけびちゃんでも、忍者は、必殺……」
 震える手で杏奈がどんでんを回していた。
「ちょ、杏奈さん! それだめ!」
「忍者必殺!」
 ひとりだけまったく平気な様子のルナが杏奈を手伝い、加速、加速、加速。
 あーれー。目を回すあけびに稲穂がやれやれ。
「あけびちゃん? やり過ぎはダメって言ったでしょ? 後でお説教だからね」
「必殺のしかけ部屋は忍の真髄っていうか浪漫なのにー!」
 悲鳴をあげるあけびをなんともいえない顔で見ていた仙寿はため息をつき。
「どんでんから抜けて出るぞ」
 すると杏奈が青白い顔を上げて。
「仙寿さん……その前に」
 しかけ部屋の思い出に、みんなで記念撮影するんであった。

「みんなもうすぐ天守閣まで来ちゃいます!」
 なんとか天守閣まで逃げてきたあけびが小鉄に報告すると。
「不知火殿写真に混ざってうっきうきでござったな……ともあれ、簡単にはやらせぬでござるよ」
「え? まだなにかしかけとかあるんですか?」
 小鉄は強くうなずいた。
「拙者と不知火殿という最強の壁が!」
「あー、最後のしかけ、人力なんですね……」


 かくて天守閣下の大広間。
「よくぞここまで来たでござるな! さすが東京海上支部が手練れでござる!」
「でも! 私たちがいるかぎり、この上の天守閣には行かせないよ!」
 背中合わせでポーズを決める小鉄とあけびに、稲穂がうーんと困った顔を向けた。
「こーちゃんとあけびちゃんだけじゃ無理なんじゃない? だって数の差あるもの」
「実は拙者もそこはかとなく悟っていた次第でござる!」
「小鉄さんあきらめ早すぎですってば!」
「とにかく行くぞ」
 小烏丸を抜き放った仙寿が、観念した小鉄を揺さぶるあけびへ斬りかかった。
「わ! 仙寿様いきなり狙ってくるのずるい!」
 とっさに返した畳で刃を受けたあけびは後ろへ跳び、間合を開く。
「あけびになら心配なく斬り込める。小鉄とはそこまで呼吸が合わせられないけどな」
 ふわりと畳の縁につま先で跳び乗り、小烏丸をあけびへ放る仙寿。その顔はやさしく笑んでいた。
「そういうのもずるいから!」
 うれしさを腹立ちに紛れさせて骸切を仙寿へ投げつけて。あけびは愛剣を手に仙寿へと跳んだ。

「あけびちゃんは仙寿さんの疑似ターゲットドロウで釘づけですから……」
「……邪魔はできませんよね」
 杏奈とGーYAがうなずきあって。
「右足はあたしが潰しちゃう」
「美空は左足に突撃であります」
 ルナと美空がよーいの構えを決め。
「そうなるとあたしは右腕かしら?」
「小鉄って機械なんだろ? じゃ、左手さくっともいじまうか」
 まほらまはうふふ、R.A.Yはぎちり、それぞれ笑みを形作り。
「ちょっと待たれよでござる。拙者ひとりに六人はちとやばくないでござるか?」
 後じさる小鉄の背中を稲穂が押し戻してかぶりを振った。
「あたしもいるから七人よ?」
「酷すぎるでござる!! ――かくなる上は、出でよ我が分身!」
 小鉄の手がばんばん畳をめくり上げると、裏に貼りついていたものが起動し、立ち上がった。それは小鉄を三頭身にディフォルメした、言うなれば小鉄ロボたちである。
「くくく、女子はかわいらしいのに弱いでござろう? それを見越して完成させた高性能殺人マシ」
 ンまで言い切れぬ内に、ルナのビンタがロボの首をすっ飛ばした。
「大きさちょうどいいからフルスイングできたわ!」
 胸を張るルナの横では杏奈がロボの喉元へ三日月蹴りを打ち込み、その反動に乗せて蹴り足を巡らせ、後ろ回し蹴りでもう一体をしとめてみせる。
「ロボットさん、せめてあと二回くらいは攻撃に耐えてくれるとよかったんですけど……」
「なんでござるかその攻撃力ぅ!?」

「ジーヤ、そっちに寄せるわよぉ?」
 チェーンを自在に繰り、ロボの行き場を制限するまほらま。ロボたちはいつしかひとつところへ寄せられ、そして。
「引き受けた!」
 GーYAの大剣による薙ぎ払いで、一気に両断されて爆ぜた。

「おらおらおらおら、37564だぜぇ!!」
 マシンガンから弾をばらまき、ロボたちを文字どおりの鉄くずへ変えていくR.A.Y。そう、目を離したのが運の尽きだった。
「火が美空を呼んでるのであります! タイガー・ファイヤー・ジャージャーであります!」
「あ、バカ――」
 ミサイルを両脇に抱えた美空が止める間もなく突撃し、自分とR.A.Yもろともロボたちをぶっ飛ばした。

 かくてあっさりロボたちを失い、じりじり追い詰められる小鉄。
「ここまででござるか。しかしやらせはせぬぞでござるぅ!」
 するする降りてきた怪しげな紐をぐいーっ。
 果たして――巨大なタライが天井を突き破って落ちてくる。
「オチだけはつけさせていただくでござる……SAYONARA!」
 エージェントも忍者も区別なく、タライは大広間に静寂をもたらしたのだった。


「まったくもう。八時にもなってないのにあんなオチつけちゃだめでしょ」
 天守閣では試験運営の終了を祝してのささやかな打ち上げが行われているのだが。
 隅っこで正座させられた小鉄の膝に重石を追加しつつ、稲穂がお説教する。
「キャストが足りなかったでござるな。β版では姫など配置し、ところどころに小鉄ロボを登場させて盛り上げるでござるよ」
「あ、こーちゃん痛覚切ってるでしょ! えい」
「ぎゃーでござるぅ!!」
 稲穂に痛覚を強制起動させられ、悶絶する小鉄である。
「そうですね。ギミックとギミックの間を埋めてくれるものがあるといいかもしれません」
 アンケート用紙に『次のギミックへ到着する間に、暗殺者やアメリカン忍者の襲撃があればもっと楽しいと思います』と書き込む杏奈に、ルナも大きくうなずいた。
「お部屋とお部屋繋げて迷路みたいにするのもおもしろいよね。せっかくいろいろしかけあるんだし、それだったら普通の人もいっしょに挑戦できるでしょ? みんな楽しいほうがいいわよね!」
 壁にだらだら寄りかかってこれを聞いていたR.A.Yは、ついにごろりと転がって。
「ってか、エレベーターつけてくれよ直通のやつ。それか時間来るまで寝てていい押し入れ」
 料理に自前の青のりをばっさばっさふりかける美空がくいっと振り向いて。
「美空はもっと開けたりめくったりしたいのであります。忍者屋敷の謎、丸裸にしたいのであります」
「あれだけ自由にやらかしておいてまだ足りないのか……」
 自分で見たものと美空やR.A.Yから聞いたことを合わせてげんなり、仙寿は美空から目を離した。その先には、皆からのアンケートや話をまとめるあけびがいて、あちらはあちらでまだまだやる気なのだとまたげんなりしかけて、ふと笑んだ。
「楽しそうだからあれはあれでいいか」
 と、彼の様子を見ていたGーYAが近づき、声を低くして。
「日暮さん、不知火さんと付き合ってるんですか?」
「ああ」
 あまりにも普通に肯定されて、GーYAのほうがうろたえた。
「そ、そうなんですね」
 仙寿は部屋の内を見据えたまま口の端をかすかに上げる。
「これまでいろいろあったんだけどな。でも、そんなことはどうでもいいと思える今があるから、あれでいいと思うだけさ」
 仙寿のなんとも大人びた表情に、やはり少しだけとまどった。日暮さんと俺、歳なんかほとんど変わらないはずなのに。
 頭を振って、GーYAは余計なものを振り落とした。
 俺はまだ「いろいろ」も「そんなこと」もわからないけど、いつかの今には同じように思えるのかな。
 背に感じるまほらまの笑み。そのぬくもりが、造りものの心臓を加速させる。
 そんな日が来るにしても、きっとまだまだ先なんだろうな……
「なにやら怪しい気配がするのであります! 突撃からの殲滅を具申するのであります!」
「H.O.P.E.の掲示板にageちまおーぜー」
 不穏すぎる美空・R.A.Yコンビをどうどう。杏奈はなだめて。
「まだお料理たくさんありますから、私たちはそっちに集中しましょう。ルナもみんなに配るのお手伝いしてくれる?」
「うん、わかった」
 大恋愛の果てに確かな愛を見いだした杏奈だからこそ、まだ形になっていない“予感”は大事にしたいと思うのだ。
「それにつつくんだったら……あけびちゃんのほうじゃないですか?」
「え!?」
 杏奈から唐突にご指名を受けたあけびがびくんと跳ねる。
「仙寿さんと、始まったのよね? お付き合いとかいろいろ」
「あらあら、それは初耳だわぁ。あたし興味津々なのだけれどぉ?」
 さくっとまほらまが乗って。
「俺のことこんなめんどくせー目に合わせといてらぶらぶとかゆるさねーだろ」
「突貫でありますか? それとも尋問でありますか?」
 R.A.Yと美空にまで参加されて、あけびは思わず仙寿の影に隠れてしまう。
「こんなときこそ煙玉だろうに」
「もう種切れ! 仙寿様のせいなんだからなんとかしてよ!」
 どん。開け放したままになっていた火灯窓の向こう――夜空に見事な光の大輪が咲いた。そういえば遊園地は通常営業中で、この城以外のアトラクションは一般公開されている。これは夜のパレードを飾る花火というわけだ。
「綺麗ねぇ」
 皆といっしょに、色とりどりの尾を引いて消える“牡丹”や拡がって散る“菊”の美しさを愛でる稲穂。
 独り取り残され、石抱きの刑を受け続ける小鉄は、皆の背を見ながらぽつり。
「β版のテーマはアベックの殲滅でござる!」
 ロマンスなどカケラも与えてやるものか! NINJAの逆襲はここより始まるのだ!
「こーちゃん、それじゃ足りなかったみたいね?」
 ……逆襲はここに打ち砕かれて、一同は彩に飾られた今日の思い出を語り合いつつ、笑みを交わす。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【日暮仙寿(aa4519) / 男性 / 18歳 / 守護者の光】
【不知火あけび(aa4519hero001) / 女性 / 19歳 / 誰かを救う刃であれ】
【世良 杏奈(aa3447) / 女性 / 27歳 / 真紅の切り札】
【ルナ(aa3447hero001) / 女性 / 7歳 / 魔法少女L・ローズ】
【美空(aa4136) / 女性 / 10歳 / 「トイレどこですか」】
【R.A.Y(aa4136hero002) / 女性 / 18歳 / 悪の暗黒頭巾】
【GーYA(aa2289) / 男性 / 17歳 / 明日を刻む剣】
【まほらま(aa2289hero001) / 女性 / 17歳 / 見守る瞳】
【小鉄(aa0213) / 男性 / 24歳 / 忍ばないNINJA】
【稲穂(aa0213hero001) / 女性 / 14歳 / サポートお姉さん】
イベントノベル(パーティ) -
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2018年08月27日

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