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『果樹園へ… 』
鞍馬 真ka5819

 乗合馬車は賑やかだった。
「梨と一緒にいい男も取れないかしら?」
「やだー。梨狩りじゃなく男狩りがお目当て〜?」
「きゃーっ、ジーナったら大胆」
 年頃の女性三人がきゃいきゃい。
「なあ、なんで木刀なんて持ってきてるんだよ!」
「高い場所の梨を叩き落とすのにいいし、馬車が襲われたらこれでを守れるだろ? ほかの客に男はいないし」
「そんなオモチャで戦えるのかよ」
「本物だよ! ハンターなんかも使うんだぞ!」
「うっそだー」
「はいはい、梨は叩いちゃダメ。明日は交代で孤児院の他のみんなも来るんだから悪い評判は立てないでね」
 鼻息が荒いのは孤児院の男の子たち。引率の女性がたしなめているが落ち着かないようで。
「まあまあ、賑やかですねぇ……娘さん、おひとついかが?」
 そんな子供たちを見てにこにこしているおばあさんもいる。
 小さな包みを膝の上に広げ焼き菓子を出すと、隣に座る人物におすそ分けをした。
 隣に座っていたのは……。
「え?」
 鞍馬 真(ka5819)だった。
 黒い細身の上着に、紺色のスリムスタイルデニム。長い黒髪はややだらしなく頬にかかり、黒いフレームの眼鏡は少しずり落ち気味だった。
「あら、ごめんなさい。寝ていらっしゃいましたか?」
「いえ、起きてますよ……」
「じゃあおひとつどうぞ」
 真、あまりにぼんやりしていたので勘違いされた。
「……いただきます」
 さすがに眼鏡のずれ直し髪を肩の後ろに戻してから焼き菓子を受け取った。
(こういうのも旅の醍醐味、か……)
 ぽり、とかじりながら外の風景に目をやる。
 目的地の観光果樹園が近いのだろう、森に入っていた。
 鳥のさえずりに木々の緑。馬車馬をせかす御者の掛け声。
 のんびりした雰囲気である。
(たまにはハンター仕事を休みにしたが……来てよかった)
 ふっと微笑した時だった!

(ん?)
 流れる森の風景の中、違和感を覚えた。背中の方ではおばあさんが子どもたちに焼き菓子を配っているようで歓声が上がっている。
 同時に前から異変の音が。
 ――ひひーん!
「わっ! なんだ……人……いや。ゆ、幽霊?」
「まずい。囲まれる」
 真、御者の声を聞くなり立ち上がると客室の中を突っ切った。
「きゃっ!」
「何、おねーさんどうしたの?」
 女性や子供が不審がる中、急いで後部扉から飛び出した。
 同時に、森の中からふわふわとフード付きマントの人影が浮いて出て馬車を取り囲んでいた。その数、六体。手には錆びた細い剣を手にしている。
 そのいずれもが異様なオーラを纏っていた。
 呟くと同時に背後から顔を覗かせた女性たちのきゃーっという悲鳴が響く。
「あのおねーさん、武器もないのに……」
 孤児たちも覗いていた。怖がりつつも真が丸腰なのを気にしている。
「武器は……」
 真、上着に半分隠れた腰から氷のような棒を取り出した。いや、鍔がついている。
 それをまるで剣のように構えると、武器らしい武器もないままだっと敵に向かって踏み込んだ。
「ある!」
 ――がきぃ、ん!
 言うと同時に鍔の部分から霧氷を纏った煌めく氷の刃が現れ、敵の振りかぶっていた剣に斬り付けた。敵の剣が宙に舞い地に落ちる。
「うわっ。カッコいい!」
「さっきまでのんびり居眠りしてたのに……」
 のんびりした様子からいきなり戦士の顔つきになった真に驚く孤児たち。
 この間にも真は踊るように身をひねっていた。
 なびき円を描く黒髪。
 その陰から青い瞳が鋭く狙いを定め氷の刃が風となる!
 ――ばさっ。
「……次」
 敵を切り裂くがすでにそこにはいない。
 まずは御者と馬の救助が先ととにかく前に。次のゴーストも切り伏せ前進!
「うわっ!」
「とにかく中へ。馬の方は運に賭けるしかないな」
 襲われていた御者を自ら来た方へ逃がし、馬車を引いていた馬は急いで放ってやった。暴れて馬車が暴走しとん挫するのが怖い。何より馬だけなら逃げ切る可能性が高い。
「よし。後は……」
 馬を襲っていた敵も自らに引き付け剣を叩き落として時間稼ぎ。その隙に御者も馬車の中に避難完了。
「馬車を守りつつ本格的に倒すのみだな」
 きっ、と顔を上げる。
 その鋭い視線がとらえたのは、自らに向かってくる敵ととにかく馬車に斬り付けている敵。
「もう時間稼ぎは必要ない」
 再度踏み込み横薙ぎで右手から迫る敵を斬った。
 その奥からさらにもう一匹。ちょうど陰になっていたがすんでのところで気付き身を屈める。
 ――ぶんっ!
 敵の横薙ぎは空を切る。
 いや。
 すぐに敵は刃を返そうとマントの肘を立て、振って来た!
 ――ばさっ!
「……結構、邪魔になるもんだよ?」
 真、敵の剣より早く自らの剣を敵の右ひじたもとにえぐり込ませた。
 結果、なびくマントが巻き込まれて敵の動きを封じた。その姿勢、隙だらけ。
「これでいい」
 まっすぐ引き抜いた剣でその敵をダウンスイング。
 続いて別の敵が斬り込んできたがギリギリかわす。真の服装はタイトな衣装。袖や裾が切られることもない。流れるように回り込んでぶった切る。
 が、マントは切れボロボロになっても落ちることはなく浮き続けている。それまでに斬った敵も剣を手にして浮いている。
「いいだろう。いつまで浮いていられるか……」
 背中越しに敵を眼光鋭く見やった真、再度振りかぶりつつ言い切る!
「勝負!」
 ばさっ、ばさっ!
 渾身の二連撃。斬り込みの間に鋭いステップで敵の攻撃をかわしつつの連撃だ。切り刻まれる敵の服。
「もう一つ」
 背後からの止めでようやくマントはボロボロになって地に舞い落ちた。錆びた剣もからんと落ちる。
 ここで悲鳴が響く。

「おねーさん! 馬車、壊されそう!」
 残りの幽霊が寄ってたかって馬車を斬り付けていた。孤児たちが真を呼んでいる。
「くっ!」
 真、先の敵の剣を拾い二刀流で守りに入った。
 しかし!
 ――かきん!
「ダメか?」
 敵の錆びた剣はオーラを纏っていたので耐久性があった様子。真が使うと敵の攻撃を一度受けただけで真っ二つになった。このままでは敵の同時攻撃を防ぐことができない。いくら早く片付けても馬車は大穴が開くだろう。
 その時だった!
「おねーさん、使って!」
「よし!」
 車窓から手渡されて木刀を手に真が前に出て敵の左右からの攻撃を同時に止める。
 ――ばしっ、どかっ!
 幽霊どもは改めて真を狙ったが、むしろ好都合とばかりに返り討ちにする。
「きゃーっ!」
 ここで背後から悲鳴。
 振り返ると馬車の上から最後の一匹が一番壊れた部分に斬り付け大穴を開けているではないかッ!
(……あ)
 次の瞬間、真は斬られていた。
 反射的に敵の武器を弾いて侵入を阻止したところ返す刃を食らっていた。
 ただし、それは攻撃のため。
 ――ずばっ。
 ほぼ同時に繰り出した自らの一撃で敵を屠っていた。
 戦闘、終了。氷の刃が消え、柄だけに戻った。
(斬られたか……まだまだだな)
 真はぎりぎり斬られた衣装を残念がっている。胸の素肌に傷はない。
「おね……おにーちゃんだったんだ」
「ありがとう。これ、本物だね」
 孤児に借りていた木刀を返し、くしゃっと頭を撫でてやった。
 わあっ、と歓声。御者の感謝の声も響く。
「あのっ。お名前、なんておっしゃるんです?」
「あーっ、ジーナ抜け駆け〜っ」
「え? ええと……」
 年頃の娘に詰め寄られたときは、ふにゃっと困惑の表情に戻ったが。
 ――ひひーん。
 どこからか、逃げていた馬も戻って来た。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka5819/鞍馬 真/男/22/人間:闘狩人

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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鞍馬 真 様

 いつもお世話様になっております。
 真さん、今の時期は梨狩りですよ。今回の休日は梨狩りでのんびりしましょう!
 ということで観光農園にご案内。敵に襲われて現地の楽しみは描写できませんでしたが(ぁ

 戦闘描写にもうちょっと字数を振るため馬車に同乗するNPCの描写を削ろうかとも思いましたが、このままで。今回のシチュエーションでは守るための戦闘に価値があるのですから。
 この後?
 ええと、馬車の中で女の子と子どもたちにモテモテになっちゃって困る真さん。
 でも、おばあさんが「疲れてるんだろうから休ませてあげて」と、真さんののんびりした時間を守ってくれます。
 よし!
 これでおばあさんの光る場面もできた。
 後は御者だけど……。
 目的地について馬車から降り際、真さんに「これ、食ってくれ」とパンの入った包みを投げて渡して真さんが受け取る、ってもいい感じですね。
 真さんだからこそ周りがそう動く、ということで。

 この度はご発注、ありがとうございました。
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2018年08月27日

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